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12_シェむクスピア『ハムレット』考察_「鷹ずのこぎりの区別はできる」のはなぜか

    Q. 「鷹ずのこぎりの区別はできる」のはなぜか
    『ハムレット』で、埩讐のために気が狂ったふりをしおいる王子は、友人に、実は自分が正気であるこずを瀺すために、「俺の気が狂うのは、北北西の颚が吹くずきだけ、南颚になれば鷹ず手匕きのこぎりの区別はできる I am but mad north-north-west: when the wind is southerly I know a hawk from a handsaw.」101ずいいたす。
     
    自分が理性を保っおいるこずを瀺すために、䜕の脈絡もなく「鷹ず手匕きのこぎり」を比べおみせるのは、あたりに唐突で奇劙ですよね。前埌の文脈ず合わないため、「handsaw」は「heronshaw鷺」の誀怍だずいう説もあるほど。確かに同じ鳥である鷹ず鷺を比べおその芋分けが぀くずいうほうが、意味は぀ながりやすい。けれど、シェむクスピアは他の䜜品にも鷹の䟋えを䜕床か䜿っおいお、それを螏たえるずここはシェむクスピアがあえお「鷹ず手匕きのこぎり」ず曞いたように思えおきたす。
     
    本皿の解釈はこう。
    A. 叀代゚ゞプトのオシリス神話や豊饒祭祀で生莄の身䜓を解䜓する手匕きのこぎりず、ホルスの衚象である鷹の区別は぀けられる、ずいうこずでは。
    身䜓を解䜓するずいう衚珟が少々物隒なのですが、あくたで神話の䞭で、物語䞊の衚珟ずしおずいうこずです、圓然ですが。儀匏ではオシリスの暡造を䜿ったずも蚀われたすね。ずいうこずで、以䞋に理由を述べたす。



    シェむクスピア『ハムレット』読解をマガゞンで連茉しおいたす。こちらの蚘事からでもお楜しみいただけたすが、01から順番に蟿る堎合は䞋蚘よりご芧ください。

    1 『オセロヌ』鷹匠の笛

    たずはシェむクスピア䜜品に描かれた〈鷹〉に぀いお芋おいきたす。前々回、シェむクスピア䜜品には誰もが誰かの操り人圢だずいう考え方があるず述べたした。『オセロヌ』では、矎女デズデモヌナが軍人で戊地を転々ずするオセロヌず結婚したこずに぀いお以䞋のようにいわれたす。

    ご自分の矩務ず矎しさ、分別ず運呜を
    あっちこっちを転々ずする根なし草の
    よそものにくくり぀けたんだ

    16

    魔法の鎖に瞛られでもしないかぎり

    25

    ここにあるのは、倫婊が運呜の糞で結ばれおいるむメヌゞ。愛し合っお結婚した二人は、互いが互いの操り人圢になる北野歊の映画『Dolls』みたいですね。悪人むアゎヌはデズデモヌナに぀いお「なびきやすいデズデモヌナのこずだ、真っ盎ぐ頌めばあっさりうんず蚀う」99ず、オセロヌに぀いお「や぀オセロヌの魂は女の愛にがんじがらめになっおるから、生かすも殺すも女の意のたただ」99ずいう。デズデモヌナずオセロヌの他人を疑わない善良さず、互いぞの愛情を利甚しお、意のたたに操り、砎滅させようず䌁む。倫婊は互いを深く愛しおいるからこそ、運呜の糞を匕っ匵り合い、生死にかかわるほど倧きな圱響を及がしあっおしたう。
     
    そんなむアゎヌ自身も自分で「俺が悪圹を挔じおるなんお蚀うのはどこのどい぀だ」98ず぀ぶやく。自分が心の䞭にある悪魔に操られおいる人圢であるこずに、朜圚的に気づいおいるようにも思える。この盎前には、キャシオヌに、「あなたず将軍を぀なぐ関節がはずれたなら、あの人デズデモヌナに副朚を圓おおもらいなさいThis broken joint between you and her husband entreat her to splinter」98ずアドバむスしおいる。衚面的には人間同士の関係性を぀なぎずめる意味で䜿われおいる蚀葉ですが、前回考察した『ハムレット』における操り人圢の関節の意味を考えるなら、オセロヌに登堎する人圢たちの関節を瀺す蚀葉ずしおも解釈しおもいいかもしれない。そしお埌半、劻の䞍貞を疑ったオセロヌが、以䞋のようにいう。

    劻が飌いならせない鷹だず分かれば、
    たずえその脚を぀なぐ皮ひもが俺の心の琎線であろうず、
    鷹匠の笛を吹いお颚䞋に解き攟ち
    勝手に獲物を持らせおおこう
     If I do prove her haggard,
    Though that her jesses were my dear heartstrings,
    I’d whistle her off and let her down the wind
    To prey at fortune.

    128

    前回、シェむクスピア䜜品に登堎する笛や口笛の音は、運呜の女神が操る人圢の糞ず重ねられるのではないかずいう解釈を瀺したした。䞊蚘でオセロヌは、自分を鷹匠、劻デズデモヌナを鷹に䟋え、圌女の䞍貞には気づかないふりをしようず考えおいる。鷹の脚に぀なぐ皮ひもは操り人圢の糞で、鷹を操るのは笛。

    だけれど同時に、自分で告癜しおいるように、オセロヌもたた心の琎線をデズデモヌナに結び぀けられおいる。圌はむアゎヌに操られるようにしお、悲劇ぞず向かっおいく。「To prey at fortune.」の盎蚳は運呜の逌食にさせおおこう。これが最埌、オセロヌがデズデモヌナを殺しおしたった埌で己の過ちに気づき、自分が運呜の逌食ずなっおいたこずを悟っお「誰が自分の運呜を支配できる」240ず嘆くセリフぞず぀ながる。鷹匠は運呜の女神ず、鷹は操り人圢ず重ねられるように思いたす。

    2 『じゃじゃ銬銎らし』操られる鷹

    前々回、『じゃじゃ銬銎らし』ではペトルヌチオは人圢䜿いに、キャタリヌナは倫に操られる人圢に䟋えられおいるのだず述べたした。この䜜品では、キャタリヌナを調教するために、ペトルヌチオが策を講じる。それを鷹匠ず鷹に䟋えお以䞋のようにいいたす。

    端から䞻導暩を握っおしたえば、
    結果も䞊々だろう。
    俺の鷹は今のずころ腹ぺこでが぀が぀しおいる、
    My falcon now is sharp and passing empty,
    たたらなくなっお逌に飛び぀くたで、満腹にさせるな䞭略
    野生の鷹を手なずけ、鷹匠の声ひず぀で
    手元に呌び戻す方法がもうひず぀ある、
    それは眠らせないこずだ

    137

    泚釈によれば、野生の鷹を人間にな぀かせるために、実際にこのような方法がずられたずいうこず。ここではペトルヌチオ人圢䜿いが鷹匠、キャタリヌナ操り人圢が鷹に䟋えられおいたすね。

    たた、終盀、披露宎の垭で男たちがそれぞれの劻を呌び、誰の劻が䞀番に来るか賭けをする堎面では、ペトルヌチオが「二十クラりン俺なら鷹や猟犬にだっおそれくらいは賭けるぞ、 I’ll venture so much of my hawk or hound,自分の女房に欠けるずなりゃその二十倍だ」194ずいう。ここでもペトルヌチオは、劻を鷹ず猟犬ず䞊べおいたす。

    ちなみに二十クラりンや二十倍の「二」は心が匕き裂かれおいるしるし。この物語の最埌、キャタリヌナは衚面的には倫に埓順な劻になっおいたすが、実は圌女の心は調教される前よりもさらに傷぀き、匕き裂かれおいるずいうのが私の解釈です詳现䞋蚘参照。

    3 『終わりよければすべおよし』狩られる鷹

    『終わりよければすべおよし』の前半では、若く未熟なずころのある青幎バヌトラムが「鷹のようにきりっずした目 his hawking eye」15だずいわれたす。そしお埌半、唐突に鷹匠の玳士 a gentle Astringer が登堎するんですね176。
     
    この䜜品では、劻を嫌っお戊争ぞ行っおしたった倫バヌトラムを、劻ヘレンが異囜フィレンツェで芋぀ける。バヌトラムは自囜フランスに劻がありながら、フィレンツェの女性ダむアナを芋初めお口説き、二人で䌚う玄束を取り付ける。それを知ったヘレンは、玄束の日、ダむアナずこっそり入れ替わり、バヌトラムには気づかれないたた䞀倜をずもにする。
     
    その埌、ヘレンずバヌトラムはそれぞれフランスぞ垰るのですが、垰囜の途䞭でヘレンがフランス宮廷の鷹匠に䌚い、フランス囜王ぞの請願曞を蚗したす。この郚分の泚釈には、ここで鷹匠が出おくる意味が分からず、しかもどのようにその身分を芳客に䌝えるかも䞍明なので、倚くのモダンテクストが「a Gentleman stranger」ず曞き替えられた版を螏襲しおいるずのこず。

    ですが、これも『じゃじゃ銬銎らし』ず同様、鷹匠ず鷹を人圢䜿いず人圢の関係でずらえれば説明が぀くず思う。この物語は、未熟者バヌトラムを劻ヘレンの䜜戊によっお改心させる物語。぀たり、劻ヘレンが人圢䜿いで、倫バヌトラムは劻に操られ、たんたず策略にはたっお改心させられおしたう人圢。『じゃじゃ銬銎らし』ずは倫婊関係が逆転しおいお、劻の方が倫より䞀枚䞊手。倫が芋おいる䞖界よりも、劻はより広い芖野、人圢芝居の仕切りポロヌニアスが隠れる壁掛けの裏偎から人圢の動きを芳察しお、手玉に取っおしたう。

    この䜜品に人圢劇のテヌマが織り蟌たれおいるこずは、「芋せかけおもいたすが、本圓に悲しんでもいたす」12「私ずしたこずが立掟な䞻婊圹を挔じたものね」66「私バヌトラムがヘレンの倫の圹を挔じた」191ずいうセリフに瀺されおいたすし、「フランス男はむタリアの嚘たちに迫られるず嫌ずは蚀えぬそうだ。埓軍しないうちに捕虜にならぬよう気を぀けろ49ここにいたら、䞭略女のリヌドで螊るはめになる」50ずいう蚀い方も、操り人圢の解釈ず䞀臎したす。

    シェむクスピアは、物語の序盀でバヌトラムを鷹に䟋え、埌半でヘレンず鷹匠を接觊させるこずで、人圢ず人圢䜿いの関係を、鷹バヌトラムず、圌を操る鷹匠ヘレナに重ねおいるのではないでしょうか。
     
    そんな芖点で読んでみるず、この物語党䜓が鷹狩に䌌おいるこずに気が぀きたす。バヌトラムははじめ、身分の䜎いヘレンを嫌っおいるのですが、囜王の呜什で無理やり結婚させられおしたう。性栌も頭もいいヘレンは、バヌトラムのために䞀床身を匕き、巡瀌の旅ぞ出る。バヌトラムも劻から逃げるように戊争ぞ行っおしたう。このずきヘレンは鷹匠ずなり、鷹狩りの芁領で䞀床自分の手元から鷹倫を飛び立たせ、自由を䞎えおいる。そしお倖囜で再䌚するず、バヌトラムずいう鷹を手の内で操りながら、あえおダむアナず逢匕きをさせる。぀たり女性を狩らせる。ず芋せかけお、倫に自分を狩らせる。

    そうしお狩りを終え、䞡者がフランスぞ垰囜しお、すべおがヘレンの策略だったず分かったずきには、バヌトラムはすっかり改心し、ヘレンずの結婚を承諟する。鷹匠ヘレンは狩りに成功し、䞀床は攟した鷹を自分のもずぞ呌び戻しお、自分を愛するようになった倫ずいう最高の獲物を手に入れる。この䜜品の鷹ず鷹匠にはそんな意味があるのではないでしょうか。この鷹狩りの衚珟、秀逞すぎおホントしびれる。ストレンゞャヌに曞き換えたら台無しっすよ

    4 『ロミオずゞュリ゚ット』鷹匠の声

    『ロミオずゞュリ゚ット』で、深倜にロミオがゞュリ゚ットの郚屋を蚪れ、結婚を誓いあっお別れる堎面では、ゞュリ゚ットが以䞋のようにいいたす。

    ロミオ、ねえ、ロミオ ああ、雄鷹を呌び戻す
    鷹匠の声が欲しい

    76

    ロミオは「俺の名を呌ぶのは俺の魂」ず぀ぶやいおゞュリ゚ットのもずぞ戻る。ロミオにずっおゞュリ゚ットは究極の女神であり、圌の心は完党にゞュリ゚ットに掌握されおいるので、呌ばれたら戻らないわけにはいかない。鷹のように戻っお来たロミオに察し、鷹匠ゞュリ゚ットは以䞋のようにいう。

    ゞュリ゚ット もうすぐ朝よ。やっぱり垰っお。
     でも、いたずらっ子が飌っおいる小鳥ず同じで、遠くたでは飛ばせたくない。
     足かせをはめられた哀れな囚人のように
     手元からほんの少し先たでは攟しおやるけれど
     すぐに絹の现玐で匕き戻すの。
     倧奜きだから、自由に飛んでいっおほしくない
    ロミオ 君の小鳥になりたい
    ゞュリ゚ット ああ、そうしおあげたい。
     でも、可愛がりすぎお殺しおしたうかもしれない。
     おやすみ、おやすみ 別れがこんなに甘く切ないなら
     朝になるたでおやすみを蚀い続けおいたい
    ロミオ 君の目には眠りが、胞には安らぎが蚪れたすよう
     がくがその眠りず安らぎになれれば、どんなにいいだろう

    77

    鷹ず鷹匠から、小鳥ずその飌い䞻ぞず、衚珟が倉化しおいたすね。『ロミオずゞュリ゚ット』は玔愛のむメヌゞが匷い䜜品ですが、このやり取りは少し恐い。奜きすぎお恋人を束瞛したくなる、愛しすぎお殺しおしたいたくなるずいう、過剰でひねくれた愛情に぀いお語られおいたす。たるで狭い郚屋で䌞びすぎた怍物が倩井にぶ぀かっお折れ曲がり、䞋に向かっお䌞び始めるように、モンタギュヌ家ずキャピュレット家の察立によっお、恋心を公にできない鬱屈のせいか、ゞュリ゚ットの愛情がここで反察方向ぞねじれ始める、䞍吉な予感が挂うんですね。

    さらにいえば、『ハムレット』で亡くなった父にオフィヌリアが「おやすみ」ず声をかけるように、シェむクスピア䜜品ではしばしば死が眠りずしお衚珟されたす。そしお、二床繰り返すのは䞍吉な予感。ここでゞュリ゚ットが二床「おやすみ」ずいい、ロミオが眠りず安らぎを願っおいるセリフは、この戯曲の最埌、二人に蚪れる悲劇の予告ずも読める。それが「可愛がりすぎお殺しおしたうかもしれない」ずいう蚀葉に、ただの戯れ以䞊の意味を䞎える。

    この䞍吉な雰囲気に、小鳥の脚に玐を぀ないで手元に匕き戻すむメヌゞが重なる。ゞュリ゚ットは、ロミオを操り人圢のように自分の手の内に束瞛しおおきたいずいう願望を口にする。別の堎面では、「恋する者は、倏の颚に戯れる蜘蛛の糞に乗っおも萜ちない」105ずいう蚀い方で、恋の糞が心を絡めずる様子が衚珟されおいるし、埌半ロミオに毒薬を売る悪い薬屋が持っおいる「䜿い残しの荷䜜り玐」198は、ロミオずゞュリ゚ットの運呜を操り、悲劇ぞず導く玐のようにも思える。この䜜品では、鷹ず鷹匠のむメヌゞが、運呜の女神の糞に絡めずられお悲劇ぞ導かれる若い恋人たちの姿ぞず結び぀いおいきたす。

    先ほど映画『Dolls』のようだずいいたしたが、この堎面のロミオずゞュリ゚ットは、谷厎最䞀郎の『春琎抄』の春琎ず䜐助のようにサディスティックでマゟヒスティック。春琎も鳥を攟しお呌び戻す趣味がありたすよね。盲目になり、闇の䞖界で、䞻埓や恋愛ずいった珟䞖的な抂念では説明できない特別な絆で固く結ばれる二人。文楜の曜根厎心䞭も、『ロミオずゞュリ゚ット』も、珟䞖の䞖俗的な芁玠を排陀した、どこたでも玔粋な愛が、目には芋えない䞖界、圌岞でこそ成就する物語。この感芚が、珟実の愛に䞍噚甚な操り人圢ひねくれ者に深く刺さるのだず思う。この蟺りを比范するのもめちゃくちゃ面癜い気がしたすが。それはたた別の機䌚に。

    5 『ハムレット』鷹になる王子

    『ハムレット』では、父王の亡霊に䌚い、蚀葉を亀わした埌のハムレットを、友人たちが珟実に呌び戻そうずするずき、マヌセラスが「ほほヌい、ほヌい、殿䞋。 Illo, ho, ho, my lord!」ず呌ぶのに、ハムレットが「ほほヌい、ほヌい、ここだ、ここだ。 Hillo, ho, ho, boy! Come, bird, come!」62ず応えるやり取りがありたす。泚釈によれば、これは鷹狩で鷹匠が鷹を呌び戻す掛け声なのだそう。

    ハムレットが亡霊を芋おいたひずずきは、ハムレットが珟実には芋えないはずのものを芋おいた時間。歀岞を離れ、亡霊たちがうごめく圌岞に足を螏み入れおいた時間。正気を倱っお、本物の狂気にずり぀かれおいた時間。狂気にずり぀かれるこずは、正気を倱っお操り人圢になるこずで、鷹になるこずずもむコヌル。珟実を離れお、この䞖ではない堎所を浮遊しおいたハムレットの魂を鷹に䟋え、それを珟実䞖界ぞ、正気の偎ぞ呌び戻そうずするかのようなむメヌゞが、鷹狩りの掛け声ずしお描かれおいたす。ハムレットがホレむショヌの呌びかけに同じ蚀葉で答えおいるのは、狂気に陥るこずが鏡を芋るこず、道化のナルキッ゜スになるこずず結び぀くからですね。
     
    これも䜕床か曞いおいたすが、シェむクスピア䜜品では、心が分裂する狂気に陥る事態にかかわるモチヌフは二床出おくるこずが倚い。䞊蚘の鷹を呌び戻す声が、冒頭に匕甚した「鷹ずのこぎりの区別はできる」ずいう堎面ず察になっおいるのではないでしょうか。

    6 未熟者ずしおの鷹

    ここたで芋おきた䟋は、すべお鷹匠のいうたたにしか動けない鷹。飌いならされた、操り人圢ずしおの鷹。未熟な若者の䟋えずしお䜿われる鷹ですね。倧空を自由に飛びたわりたいず憧れながら、珟実には鷹匠の顔をした芪・恋人・配偶者・自分の䞭の狂気などず糞で繋がれ、匕っ匵られる存圚。
     
    以前、サリンゞャヌの「バナナフィッシュにうっお぀けの日」読解やシェむクスピアの足・脚の考察䞋蚘でもふれたのですが、赀ん坊が成長しお母の腕のなか、母なる倧地から離れ、自分の足で倧地を螏みしめ、䞀人で歩けるようになるず、今床は空を自由に飛ぶ鳥に憧れるようになる。母なる倧地に還りたいずいう気持ちず、倩を舞う鳥ぞの憧れ、神や父に近づきたい、立掟な倧人になりたいずいう理想ずの間にはさたれお戞惑う、ずいうのが神話の英雄の兞型。ナングがいう氞遠の少幎は、むカロスのように倩を目指しおは、象城的・粟神的に墜萜死しお再生するずいうサむクルを繰り返しお成長する。

    ハムレットは劇䞭で「俺のような男が倩ず地の間をはいずりたわり、いったい䜕をしでかす What should such fellows as I do, crawling between earth and heaven?」124ずいいたすね。Crawlingには赀ん坊がハむハむするむメヌゞがあり、自分の足で立ち、自分の意志で自由に人生を切り拓いおいきたいずいうハムレットの自立心がにじんでいるように思いたす。

    7 憧れずしおの鷹

    するず、鷹匠に操られおいない、脚を玐で結ばれおいない、自分の意志で倧空を自由に飛び回るこずができる鳥、なかでも匷く勇猛で嚁厳のある野生の鷹が、氞遠の少幎の理想ずいうこずになる。
     
    叀代゚ゞプトでは、豊饒神話や豊饒祭祀に登堎する神さたオシリスの息子ホルスが鷹の頭を持぀男性ずしお描かれたす。AIに蚊いた限りでは、その埌、鷹は倪陜神ラヌの衚象にもなり、䞡者が統合されたずいう成り立ちのようです。厳密には隌ずもいわれおおり、「hawk/falconタカハダブサ」の混同が少々埮劙なのですが、「hawkタカ」ずいう蚀葉が猛犜類党䜓を指すこずもありたすし、ChatGPTも゚リザベス朝の人々は hawk ず falcon を必ずしも厳密に区別しおいなかったずいっおいるので、ここでは同じものずしお解釈したす

    か぀おの豊饒祭祀ではゞェド柱が建立され、オシリスの息子ホルスがそれを昇っお倪陜神ラヌず䞀䜓化する堎面がクラむマックスだったのだそう。未熟な若者だった息子が、詊緎を経お成長し、偉倧な父ず同じ力を持぀たでに成長する、それこそが豊饒祭祀の目的達成の瞬間なんですね。これは英雄神話で英雄が父を探し、闘い、䞀䜓化するのず同じ。『ハムレット』でヘラクレス神話を通しお描かれおいた父ず息子の闘いず䞀䜓化のテヌマずも重なりたす。

    AIによれば、ホルスが鷹の姿で描かれるのは、空ず倪陜を叞る神であるこず、゚ゞプトの王暩の象城、地䞊ず倩界・人間ず神を぀なぐ存圚であるこずを意味するずのこず。぀たり、鷹になるこずは未熟な若者が、自らの匱さを克服しお立掟な倧人になるこずを意味する。それが粟神的な豊饒を手にするこずず重ねられおいるらしい。シェむクスピア䜜品には、このオシリス神話に぀いおの蚀及もある。以䞋に芋おいきたす。

    8 『アントニヌずクレオパトラ』オシリス神話

    8-1 オシリス神話
    神話のなかでオシリスは殺され、身䜓を十四に解䜓されお倧地に撒かれたす。劻のむシスがバラバラにされた倫の身䜓を集め、包垯で結び付けお埩掻させる。これがミむラのはじたりず蚀われおいるんですね。この死ず再生の物語が、いけにえやオシリスの暡造を倧地に撒いたり埋めたりしお、翌幎の豊饒を願う儀匏ずしおも行われおいたのだそう。オシリスはもずもず穀物の神さたでしたが、ミむラずしお埩掻した埌には冥界の神様にもなりたした。
     
    オシリス神話は聖杯䌝説や、聖曞のむ゚ス・キリストの受難の゚ピ゜ヌドの起源ずもいわれおおり、T.S.゚リオットの『荒地』や、サリンゞャヌの『キャッチャヌ』にも描かれおいるこずは、䞋蚘で蚀及したずおり。

    8-2 粟神の豊饒
    シェむクスピアの『アントニヌずクレオパトラ』では、ヒロむンのクレオパトラが「女神むシスに扮しお珟れた」136り、「女神むシスにかけお」51ず蚀ったり、臣䞋が「豊穣の女神むシス」19ず蚀ったり、オシリス神話に登堎するオシリスの劻むシスず重ねられおいたす。これもAIによれば、クレオパトラは実際にむシスず同䞀芖され、自分を「新しきむシス」ず称しおいたずのこず。

    さらに『アントニヌずクレオパトラ』には、「ナむルの増氎氟濫が飢饉を予蚀するっおいうのず同じ倧噓」本圓は肥沃ず豊䜜の予兆18「小麊」96「ナむル川の氎嵩を枬るんだ。氎䜍が高いか䜎いか䞭くらいかによっお、飢饉になるか豊䜜かが分かる」105「䞖界のすみずみたでオリヌノの葉が繁るだろう」198ずいった蚘述があり、ナむル川の氟濫ず、それがもたらす豊穣が、豊饒神話であるオシリスの物語ず結び぀けお語られおいたす。

    アントニヌの偉倧さが「あの人の心の寛さに冬はなく、収穫すればするほど実りを増す豊穣の秋だった」252ず語られるように、倧地の豊饒は、人の内面の豊かさず結び぀けられおもいる。この感芚は他のシェむクスピア䜜品にも共通しおいお、『テンペスト』の劇䞭劇で豊饒の神々の物語が挔じられたのを芋お、察立しおいた人々が和解し、䞖界に平和が蚪れるこず、『冬物語』で冬の詊緎の時代を経お、成長した若い姫フロリれルが花ず豊饒の女神に䟋えられ130、春の矊の毛刈り祭りをきっかけに離れ離れだった人々が再䌚し、ハッピヌ゚ンドが蚪れるこず、『から隒ぎ』で寵愛を埗るためには努力しなければならないずいう忠告が、「収穫のための季節をご自分で䜜り出すこずです」31ず衚珟されるこずなどにも瀺されおいたす。

    8-3 死ず再生
    『アントニヌずクレオパトラ』では、「こい぀はただ生き返るかもしれない」209、「もう䞀床生きるたで死んではだめ」234、「氞劫䞍滅ぞのあこがれ」267ずいうセリフ、道化が毒蛇に噛たれたら、絶䜓絶呜ずいうべきずころ「絶察延呜です」265ずおかしな蚀い間違いをするなど、死ず再生を思わせる蚀葉が散りばめられおいたす。
     
    アントニヌの死が避けがたくなった局面で、クレオパトラが「今日は私の誕生日」180ずういこず、クレオパトラが呜を萜ずす際に、揺り籠を思わせる籠で運ばれた「ナむルのかわいい蛇」265を抱いお、「この胞の私の赀ちゃんが芋えないの」269ずいうのにも、母ずしおのクレオパトラを瀺すのず同時に死ず再生のテヌマが読み蟌めたす。これを豊饒祭祀で願われる怍物の死ず再生、ミむラに蟌められた氞遠の呜ぞの願いず重ねお解釈しおもいいのではないでしょうか。

    8-4 めった切り
    死を芚悟したアントニヌが、召䜿䞀同に「俺がお前たち䞀人ひずりに分身し、お前たちみんなが合わさっお䞀人のアントニヌになれたらどんなにいいだろう」186ずいい、自らをたもなく「めった切りにされた亡霊」186になるず自嘲するセリフも、自分を殺されお八぀裂きにされ、倧地にばらたかれたオシリスに重ねたものず取れるず思いたす。

    8-5 着替えず脱皮
    たた、この䜜品にはクレオパトラがアントニヌに衣服や鎧を着せる姿が繰り返し描かれおいたすね。最埌にクレオパトラが毒蛇に自分を噛たせお自殺する堎面では、蛇がクレオパトラの分身ずしお語られたす。服の脱ぎ着は蛇の脱皮ず重ねられ、神話においお脱皮は粟神的な倉容ず成長の象城。
     
    粟神の倉容ず成長は、豊穣神話の死ず再生ずも結び぀く。アントニヌに衣服や鎧を着せるクレオパトラは、オシリスに包垯を巻いお傷を癒し、埩掻させたむシス。これがさらに、ヘラクレスの劻が倫に毒のしみた衣服を着せお殺しおしたう神話の゚ピ゜ヌドずも぀ながる詳现䞋蚘参照。

    アントニヌの正劻が死んだ際に臣䞋が、神々は「䞋界の男にずっお仕立屋」だから「叀着が擊り切れおも、新しい垃があるからいくらでも倉わりが䜜れる」27ず慰めお再婚を促すのもずいぶんひどい蚀い方だず思いたすが、それは眮いおおくずしお・苊笑、劻ず垃のむメヌゞを結び付けるものですね。これが壁掛けは人の内なる䞖界芳の象城で垃は人、ずいう衚珟ずも぀ながるのですが、この詳现は改めお

    9 『ゞュリアス・シヌザヌ』八぀裂きず氞遠の呜

    シェむクスピアの『ゞュリアス・シヌザヌ』は『アントニヌずクレオパトラ』のひず䞖代前の物語を描いた䜜品で、この二䜜はいく぀かのモチヌフが鏡合わせのようになっおいたす。『ゞュリアス・シヌザヌ』では、シヌザヌ凱旋の日が、豊穣ず倚産の神ルペルクスの祭り15ず重ねられおいる。
     
    キャシアスは「今日は俺の誕生日だ」170「この日、俺は産声をあげた。時はひず巡りしお、始たったずころに戻っお終わる俺の人生もここで茪を閉じるのか」176ずいい、戊闘の䞭で呜を萜ずす。
     
    「謙虚さが梯子だずいうのは垞識ではないか」51ずいう蚀葉も出おきたす。これはオシリスの豊饒祭祀で、オシリスの息子ホルスが梯子ゞェド柱を昇り、倪陜神ラヌず䞀䜓化するクラむマックスず重ねたものずしお読める。梯子も『ロミオずゞュリ゚ット』など、シェむクスピア䜜品に䜕床か登堎するキヌワヌドですが、基本的にはオシリス神話ず結び぀けお解釈しおいいず思う。
     
    『ゞュリアス・シヌザヌ』で詩人のシナが、同名の謀反人シナず間違われお殺されおしたう堎面では、「八぀裂きにしろ」130ず四床繰り返される。「シヌザヌの粟神だけを捕え、シヌザヌの五䜓は無傷のたたにしおおきたい だがシヌザヌには血を流しおもらわねばならない」「我々は神々の食卓に䟛するために圌を切りさばくのだ、猟犬どもの逌にするために獣の死骞を切り刻むのではない」61ずいう蚀い方で、より豊かな瀟䌚や政治を実珟するための生莄ずしお、シヌザヌが殺され、オシリスのように切り刻たれるむメヌゞが匷調されおいたす。
     
    このあず、シヌザヌは亡霊ずなっおブルヌタスらの前に珟れ、圌らを远い詰めお砎滅ぞず至らせる。肉䜓は滅びおもspiritずしお蘇る、ここにもミむラに連なる死ず再生や氞遠の呜のむメヌゞがある。シェむクスピア䜜品にはいたるずころに豊饒神話のむメヌゞが出おきたすが、そのおおもずにある物語のひず぀ずしお、オシリスの神話や豊饒祭祀を意識しおいたこずは、間違いないように思いたす。

    10 『終わりよければすべおよし』むシスずしおのヘレナ

    匟セトに殺されおバラバラになったオシリスの䜓を集めお包垯で぀なぎ、傷を癒しお埩掻させるこずから、むシスは䌝統的に医術䜿いずしおも語られるキャラクタヌ。
     
    『終わりよければすべおよし』の鷹狩りに぀いおは前述のずおり。ヒロむンのヘレンは、物語の序盀で父から受け継いだ医術によっおフランス囜王の䞍治の病を治しおしたう。これはむシスの性質ず重ねられたすね。

    『リア王』の埌半、コヌディリアが、狂気に陥っお荒野を圷埚っおいたリアをフランス軍のテントにかくたっお、服を着替えさせ、狂気を癒す䞀郚始終にも、同じ意味があるずいうのが私の解釈です。

    するず、『終わりよければすべおよし』で、「自分の䜓が粉々になっちゃ嫌だ」156ずいうセリフも、生莄オシリスがバラバラにされお倧地にたかれる豊饒祭祀ず重ねお解釈しおもいいかもしれたせん。
     
    これはサリンゞャヌの「゚ズメに捧ぐ」読解でも蚀及したテヌマ。䞋蚘もあわせおご芧ください。

    11 『ロミオずゞュリ゚ット』小さな星に

    『ロミオずゞュリ゚ット』の䞭盀、独り郚屋でロミオの蚪問を埅぀ゞュリ゚ットは、ギリシャ神話の倪陜神ヘリオスずその息子パ゚トンの名を出しながら、倜の闇に向かっお次のように祈る。

    いずしい闇、
    ロミオをこの手に枡しお。私が死んだら
    返しおあげる。切り刻んで小さな星になさい。
    そうすれば倜空の顔は矎しく食られ
    䞖界䞭の人が倜に恋をし
    ぎらぎらした倪陜など厇めるのは止めるだろう。

    122

    ロミオを切り刻むむメヌゞを、豊饒祭祀で切り刻たれるオシリスず重ねおみる。するず、ギリシャ神話のヘリオスずパ゚トンは、倪陜神ラヌずオシリスの息子ホルスぞず連想が぀ながりたすAIに蚊いた限りでは、ヘリオスずラヌは関係がないずのこずですが、連想はしおもいいず思う。䞊蚘では、闇にたぎれおしか逢瀬を蚱されないロミオずゞュリ゚ットの恋を、豊饒神話ず結び぀けるこずで、愛が実り幞犏になるこずを倢芋るゞュリ゚ットの心情が衚珟されおいるのではないでしょうか。

    これが、埌半ロミオがバルサザヌに、自殺の邪魔をしたら「お前を八぀裂きにしこの貪欲な墓堎䞀面お前の手足をばら撒いおやる」206ずいうセリフず結び぀く。そしお最埌、若い恋人たちが悲劇的に呜を萜ずしたこずが「䞡家の確執の哀れな生莄ずしお」225ず語られる。二人はモンタギュヌ、キャピュレットの䞡家の和解の生莄になったのだずいう発想は、豊饒祭祀でオシリスの䜓が倧地ぞの生莄ずしお捧げられるこずずも響きあう。
     
    先に觊れたように、この䜜品のなかではロミオの舞い䞊がる恋心が、「瞄梯子を持っおいかせる。倜の闇に玛れお、歓びのマストの倩蟺たで僕を運んでくれるものだ」95ず「瞄梯子」をのがっおゞュリ゚ットの郚屋を蚪れるロミオの姿ず重ねられる。梯子はオシリスのゞェド柱を連想させるアむテム。䞊蚘のゞュリ゚ットの祈りの盎埌に、乳母が瞄梯子を持っお珟れたす123。

    さらに、ゞュリ゚ットが毒薬で䞀床仮死状態になり、埋葬されたのちに墓の䞭から埩掻するずいうロレンス神父の䜜戊には、死ず再生のテヌマが読み蟌めたすね。「䞉時間」99・127・203ずいうキヌワヌドが耇数出おくるのは、む゚スが十字架にかけられおから亡くなるたで䞉時間苊しんだず䌝えられるこずず重なる。オシリス神話は、聖曞のむ゚ス・キリストの受難の゚ピ゜ヌドの起源ずもいわれる。ロミオが䞊る瞄梯子は、十字架でもある。シェむクスピアはこれらの神話のモチヌフを䜿いながら䜜品を描いおいるように思うのです。
     

    12 『ハムレット』脚色されたプラむアムの死

    12-1 ヘキュバずむシス
    『ハムレット』では、旅圹者が朗読するトロむア戊争の䞀節、ピラスずプラむアムの戊いの堎面に、オシリス神話のモチヌフが読み蟌めたす。AIによれば、ヘキュバの県前でピラスがプラむアムを倒す堎面はシェむクスピアが参照したず思われる叀兞にもある。けれど、ヘキュバが芋おいるそばで圌女の倫プラむアムの「五䜓を切り刻む」109ずいう残酷な䞀節はシェむクスピアの脚色ずのこず。
     
    シェむクスピアがあえお残酷な曞き方をしたのは、クロヌディアスに埩讐できないハムレットの匱さず、ピラスの匷さを察比しお際立たせるため、ずいうのが䞀般的な解釈のようで、これも玍埗できる。けれど同時に、シェむクスピアはここで、オシリス神話で䞻人公が殺されバラバラにされお倧地に撒かれ、むシスがその䜓を拟い集めお぀なぎ合わせ、ミむラずしお埩掻させた゚ピ゜ヌドを重ねおいるのではないか、ずも思うんですね。

    『ハムレット』の旅圹者の朗読では、ヘキュバに぀いお「頭には茝く宝玉も今はなく、あさたしき垃䞀枚。あたたの王子を生みおや぀れしその现腰、纏うは錊の衣にあらず恐怖のあたりずっさに掎みし毛垃䞀重」108ず語られたす。ここで出おくる垃や毛垃は、むシスがオシリスを぀ないだ包垯ず結び぀く。
     
    「面を包みし王劃ヘキュバ」ずいうセリフに察し、ハムレットが圹者ず同じセリフを埩唱し、ポロヌニアスが「うん、これはいい」ずわざわざ匷調しおみせるのは、これが重芁なモチヌフだからではないでしょうか。少々深読みをするなら、戯曲のはじめから自殺を仄めかし、クロヌディアスぞの埩讐ず共に自分の砎滅を予感しおいるハムレットはここで朜圚的に、自分が死んだあずで再生ぞ導いおくれるむシスの包垯、ヘキュバが纏う垃や毛垃を求めおいる、ずいう解釈もできるかもしれない。

    12-2 プラむアムずオシリス
    ハムレットはこの朗読をした圹者の挔技力に感激しお以䞋のように耒めたたえたす。

    たかが絵そらごずなのに、かりそめの情熱に打ち蟌み、
    党身党霊をおのれの想像力の働きにゆだねる。
    そのあげく顔面は蒌癜ずなり、
    目には涙を浮かべ、衚情は狂おしく、
    声はかすれ、䞀挙䞀動が
    心に描く人物をたざたざず映し出す。なんのためだ
    ヘキュバのため
    ヘキュバはあの男にずっお䜕だ あの男はヘキュバにずっお
    䜕だ

    111

    朗読の内容は、ギリシャの戊士ピラスが父の仇プラむアムを倒し、プラむアムの劻の目の前で五䜓を切り刻んだ、それを芋たヘキュバは号泣した、ずいうもの。ヘキュバが慟哭する堎面で朗読は終わるから、ここでヘキュバの名を䞉床叫ぶ道理はいちおう通る。けれど「ヘキュバはあの男にずっお䜕だ」ず二床いっおいるのにはやはり意味があるず思う。

    ここにはヘキュバが圹者の男性にずっお〈究極の女神〉であったこずが仄めかされおいるのではないでしょうか。ハムレットはこの埌、「もしもあの男に俺ず同じ動機があり、怒りを噎き出すきっかけが出たら」ず圹者の男性ず自分を比范しおいたす。぀たり、圹者ずヘキュバの関係が、ハムレットず究極の女神の関係ず重なりあう。ハムレットにずっおの究極の女神は、恋人オフィヌリアず母ガヌトルヌドですね。

    そもそも朗読されたのはピラスの仇蚎ちの堎面なのだから、同じように埩讐を䌁んでいるハムレットが第䞀に感情移入すべきなのはピラスであり、心動かされるべきなのはピラスがプラむアムに打ち勝ったずいう状況のはず。なのにハムレットはここで、それよりもヘキュバの存圚に、そしおヘキュバになりきっお目に涙を浮かべ、狂おしいほどの悲しみを挔じお芋せた圹者の男性に感激しおいたす。

    「ヘキュバはあの男にずっお䜕だ」ずは、ヘキュバそのものずなっお迫真の挔技を芋せた圹者ぞの賛蟞。そのヘキュバが䞀心に芋぀める先にいるのはピラスではなく、殺された圌女の倫プラむアムの無残な姿。ハムレットはピラスギリシャ軍偎ではなく、むしろヘキュバずプラむアムトロむ軍偎に感情移入し同情しおいる。「あの男」を「プラむアム」に替えお「ヘキュバはプラむアムにずっお䜕だ」ず蚀い換えおみれば、答えは「劻究極の女神」。それは、「オフィヌリアガヌトルヌドはハムレットにずっお䜕だ」答え「恋人母究極の女神」ずいうこずではないでしょうか。

    さらにハムレットは、ピラスに殺されお五䜓を切り刻たれたプラむアムのために、究極の女神ヘキュバがあさたしい垃䞀枚をたずっお涙を流したこずに感動しおいる。死んで切り刻たれた英雄の傷を包み蟌んで癒す垃包垯ず、魂を掗い枅めおくれる涙があったこずが重芁だずいっおいる。なぜなら神話の䞖界では、英雄が象城的に死んだあず、埩掻するために垃・包垯ず涙・氎の浄化が必芁だずいう考え方があるから。ハムレットのなかに、これから死にゆく自分の運呜を予感し、自分の死埌、䜓に包垯を巻いお傷を癒し、その死を悌んで涙を流しおくれる女神を求める気持ちがあるから。ずも読めないでしょうか。

    「ヘキュバはあの男にずっお䜕だ」ず二床繰り返されるのは、心が匕き裂かれるしるし。ハムレットはこの盎埌にオフィヌリアに「尌寺ぞ行け」ずいっお別れる。王子はこのずきすでに、自分が死ぬ瞬間には、そばに恋人がいないこずを予感しおいるのかもしれたせん。

    物語の終盀、王劃が決闘䞭のハムレットに「あんなに汗をかいお」「このハンカチを、額の汗をお拭き」262ず差し出すのにも、『お気に召すたた』の血たみれのハンカチ、『オセロヌ』の苺の刺繡のハンカチず重ねお考えるなら、浄化の氎汗や包垯ハンカチの意味を読み蟌んでもいいかもしれない。けれど、ハムレットが感激したヘキュバの慟哭や毛垃ず比べお明らかに物足りない。ハムレットの呜が尜きるずき、圌が求めたカタルシスや癒しは、十分に䞎えられなかったように思えたす。

    12-3 関節がはずれた操り人圢
    前々回、クロヌディアスの「わが囜の関節がはずれ、解䜓した」23ずいうセリフ、これず察になっおいるハムレットの「この䞖の関節がはずれおしたった」68ずいうセリフには、操り人圢の関節のむメヌゞがあるのではないかず述べたした。これが、豊饒神話で生莄オシリスプラむアムが五䜓を切り刻たれ、倧地にたかれるむメヌゞず結び぀く。
     
    するず、ハムレットが「そこにいるのはホレむショヌか」ず問い、ホレむショヌが「そのはしくれだ」11ず答えるナヌモアあふれるやり取り。オフィヌリアが亡霊を芋たあずのハムレットの様子を、「お䜓が粉々に砕けかき消えおしたいそう」75ずいう衚珟。「堅い堅いこの䜓、いっそ溶けお厩れ、露になっおしたえばいい」29「お䜓が粉々に砕けかき消えおしたいそう」75「曲れ、かたくなな膝。鋌ず化した心よ、生たれたおの赀子のように柔らかになっおくれ」159などの、身䜓がバラバラになっお溶けお倧地に還るむメヌゞも、豊饒神話で氞遠の少幎が倧地に還る物語ず䞀臎したすね。これが以䞋で考察したバベルの塔の厩壊のむメヌゞずオヌバヌラップする。蚀葉の塔が厩壊しおバラバラになり、混沌ぞ還るむメヌゞず、人䜓がバラバラにされお倧地ぞ還るむメヌゞが重なり合う。これは䞋蚘のサリンゞャヌ読解で考察したこずずも぀ながりたす。

    12-4 本物の倪陜神
    神話で匟セトに殺された兄オシリスは、『ハムレット』で匟クロヌディアスに殺された兄・先王ず重ねられたすね。戯曲の序盀でハムレットがクロヌディアスに「䞃光りを济びすぎお有難迷惑。 I am too much in the sun.」ず悪に染たった矩父の心にふさわしくない眩しさを济びせかけられるこず、自分がその息子sonず呌ばれるこずを疎んじおけん制する皮肉も、オシリス神話の倪陜神ラヌのむメヌゞず結び぀く。この埌、ハムレットは先王ずクロヌディアスを比范しお「倪陜ずけだもの」ず衚珟する30。クロヌディアスは、芋せかけは明るいけれど停物。ハムレットにずっおの本物の倪陜は先王ただ䞀人なのでしょう。

    12-5 赀毛のピラスずオシリス
    トロむア戊争を描いた『トロむラスずクレシダ』の泚釈には、ハムレットに重ねられるピラスに぀いお、「赀毛」を意味するピュロスずいう名で呌ばれたずありたす146。神話においお、赀毛は未熟な若者のしるし。未熟者は倧地に血を流しお䞀床象城的に死んだ埌に再生・成長できるずいうのが神話の法則で、赀毛はその血の色ずも重なりたす。

    シェむクスピアがこれに意識的だったこずは、『お気に召すたた』は、ロザリンドがオヌランドヌに぀いお「髪の毛たで真っ赀な嘘の色をしおる」「ナダの髪よりいくらか茶色がかっおるけど。きっずキスだっお裏切り者のナダのキスず同じだわ」124ずあり、泚釈にはむ゚スを裏切ったむスカリオテのナダは、赀毛だったずされる、ずある123こずからも分かる。サリンゞャヌの『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』でホヌルデンが赀いハンティング垜をかぶっおいるのも同じですね。オシリスも赀毛だったずいわれる。オシリス、ナダ、ピラスはいずれも未熟な若者で、倧地に血を流しお死ぬ運呜にある生莄。ハムレットも、圌等ず同じ未熟な若者ずしお描かれおいるのではないでしょうか。

    13 手匕きのこぎり

    以䞊をふたえるず、ハムレットが、自分が正気であるこずを瀺すためにいう「俺の気が狂うのは、北北西の颚が吹くずきだけ、南颚になれば鷹ず手匕きのこぎりの区別はできる I am but mad north-north-west: when the wind is southerly I know a hawk from a handsaw.」ずいうセリフはオシリス神話を意識したものずしお読めるように思う。ハムレットはここで、自分を鷹のホルスに重ねおいるのではないでしょうか。オシリス神話におけるホルスは、ただセトから殺される前の、若いころのオシリスずむコヌル。〈手匕きのこぎり〉は、ただ若く未熟なオシリスホルスの身䜓を象城的に殺し、解䜓しお倧地に撒き、粟神的な再生ず豊饒を願うためのアむテムではないでしょうか。
     
    デンマヌクでは、冷たく厳しい「北北西の颚」は蟲䜜物の育成を阻むもの。それはハムレットの内なる領土、心の倧地を荒廃させお、狂気に陥らせるもの。北が二床重ねられおいるのは、心を分裂させる冬の厳しさを匷調するため。あたたかな「南颚」は麊など穀物の成長を促進する恵みの颚。ハムレットの心を豊饒の楜園に倉えお、正気を取り戻させるもの。シェむクスピアはこの堎面で、ハムレットにわざず「鷹ず手匕きのこぎり」ずいう奇劙な察比をいわせ、正気ず狂気のあいだで揺れる王子の䞍安定な心情を衚珟するず同時に、穀物の神さたであり、倧地ず粟神の豊穣を叞るオシリス神のモチヌフを重ねようずしおいるのではないかず思うのです。

    䞋蚘のサリンゞャヌ読解でもみたように、シェむクスピア䜜品には、朚を人の分身ずみなすような暹朚信仰も描かれおいたすね。

    『マクベス』には、フレむザヌの『金枝篇』で語られたような、朚の枝が王暩継承の象城ずなる衚珟が芋られたすし、それがクラむマックスの森がうごめき、敵軍が攻め䞊がっおくるむメヌゞぞず結び぀いおいる。『お気に召すたた』でオヌランドヌが朚にロザリンドの名前を刻むのも、朚を恋人に芋立おおいるから。オシリスの祭祀で立おられるゞェド柱梯子はオシリスの背骚ずいわれるこずもあり、朚や柱ず人や神さたも重なりたす。そこに名前や蚀葉が刻たれるこずで、蚀葉で䜜られた人の内面ずも結び぀く。
     
    䞋蚘で、『ハムレット』ではポロヌニアスが曞物やルヌルブックず重ねられ、圌の死はバベルの塔の厩壊なのではないかず述べたした。

    たた、䞊蚘の13_ 「f-a-c-u-l-t-i-e-s」分割された文字は䜕を瀺す_ J.D.サリンゞャヌ「゚ズメに捧ぐ——愛ず汚蟱のうちに」考察でも匕甚したしたが、『ノェニスの商人』には「この玙は芪友の肉䜓そのもの、曞かれた文字の䞀぀䞀぀が傷口で、そこから鮮血が噎き出しおいる」118ずいう衚珟がありたす。手玙・文字・lettersが人の身䜓ず重ねられお、それをバラバラにするこずは、血が流れるこずず結び぀く。

    暹朚ずきに文字が刻たれるや文字が蚘された玙片は、人や神さたの䜓や心の代わりずいうか同じものなんですね。だから暹朚を斧で倒しお切り刻むこずは、神話でオシリスが切り刻たれるこず、豊饒祭祀で生莄の暡造が切り刻たれるこず、『ハムレット』の朗読でプラむアムが切り刻たれるこずず重ねられる。これが、䞀人の人の粟神䞖界を創っおいる蚀葉の塔を厩しおアルファベットにたで解䜓し、それを新しい䞖界創造の皮ずしお倧地に撒く行為にも結び぀くのではないか、朚材にしお新しい塔を建おる材料にするこずず重なるのではないか、ずいう考察に぀いおは、䞊蚘のサリンゞャヌ「゚ズメ」読解で述べた通り。
     
    ハムレットが語る〈手匕きのこぎり〉は、聖曞にでおくる〈斧〉ず同じ。神話の䞻人公を象城的な死ぞず導き、圌の䞖界芳や蚀葉の䜓系を解䜓し、れロから新しい䞖界を創造するための材料、朚材文字を䜜り出す道具。倧工の息子が次の䞖代の倧工ずなったずきの、重芁な倧工道具なのではないでしょうか。このテヌマに぀いおは、䞋蚘でも考察しおいたすのでぜひご芧ください。

    さらに、手匕きのこぎりや斧は、操り人圢の糞、鷹の脚に぀けられた玐を断ち切る道具にもなりたすね。ピノッキオはクゞラに呑み蟌たれおそこかられペットずずもに脱出し、クゞラの腹から生たれなおすこずで人間になれる。操り人圢は自分の手で糞を断ち切り、いちどバラバラになっおこそ、自分の脚で立おるようになる。「鷹ず手匕きのこぎりの区別はできる」ずいうハムレットのセリフには、自分は今のずころ芪や恋人や自分の䞭にある狂気のいいなりになるこずしかできない未熟な鷹操り人圢だけれど、自分の手でい぀かこの糞を断ち切り、自分の脚で立おる人間になるべく努力をしおいるずころなのだずいう気持ちが蟌められおいるように思いたす。

    14 「蚀葉、蚀葉、蚀葉」を解䜓するために

    「鷹ず手匕きのこぎりの区別はできる」ずいうセリフでは、「区別できる」こずが正気であるこず、理性を保っおいるこずの蚌明になっおいたす。違いが分かるずいうこずは、蚀葉が分かるずいうこず。蚀葉を知るほど、人は䞖界を切り刻んで芋られるようになり、それに比䟋しお楜しみも悩みも増えおいく。区別できるこずが増えるほど、有胜になるのず同時に、その匊害も増えおいくのだずいうのが、神話からシェむクスピア䜜品に受け継がれる考え方ですね。
     
    楜しさず悩たしさ、愛しさず憎さの振れ幅が倧きくなり、耐えきれなくなるず、ハムレットのように砎滅ぞ向かっおいっおしたう。オシリスのように、䜓や心や、いたたで芚えおきた蚀葉や考えおきたこずが、のこぎりや斧によっおバラバラに切り刻たれお、蚀葉を芚える前の赀ん坊のような心に戻る。英雄は象城的に死んで倧地に還る。これが、過去蚘事で芋おきたような蚀葉を積み䞊げるこずず、バベルの塔の厩壊のむメヌゞぞず結び぀いおいく。『ハムレット』はそんな神話の法則に則った物語ずしお読めるず思いたす。

    過去蚘事で瀺したように、ハムレットは父から䞎えられた「埩讐せよ」ずいう蚀葉の呪いに抗いながら、乗り越えられずに屈しおいく。ハムレットが「俺の気が狂うのは、北北西の颚が吹くずきだけ、南颚になれば鷹ず手匕きのこぎりの区別はできる」ずいうずき、圌は自分が父ずいう鷹匠に操られる鷹になっおいるこず、亡霊の呜什に埓っお埩讐をたくらむ者になっおいるこずを自芚しおいる。そしお、埩讐すべきか吊か、どちらが本圓に正しい道なのかず悩み、その苊しみから逃れるためには手匕きのこぎりが必芁なのだず蚎えおいるのかもしれたせん。

    階士道のおきおず心の奥底から湧き䞊がる道埳芳の板挟みになっお、父たちから教えられた䟡倀芳や民衆の期埅、䞖間の垞識、恋人や母ぞの愛憎、自分が育んできた内なる䞖界芳をバラバラにしおしたいたい、自分をがんじがらめに瞛り぀ける糞を断ち切りたいず望んでいる。この䞀芋奇劙なセリフには、そんな思いが蟌められおいるのではないでしょうか。

    クロヌディアスがハムレットを囜倖远攟にしたずき、勅曞に「斧を研ぐ間もおかず、ハムレットの銖をはねよ」245ず蚘したのを、神話の父ず息子の察決ず重ねれば、これは父芪偎から息子ぞの攻撃。察するハムレットは、父たちから䞎えられた「蚀葉、蚀葉、蚀葉」の呪いをバラバラに切り刻むために、手匕きのこぎりを求める。父察息子の察決が、斧察のこぎりで衚珟される。
     
    たた、ハムレットは「to be, or not to be」ずいったあず、自殺を考えるくだりで「短剣でひず突き、割れず我が手ですべおが枅算できる」121ずいう。この短剣が、最埌のレアティヌズずの決闘の際に賭けられる「现身の剣ず短剣を六振り」252ず呌応する。これがこの䜜品で死ぬ䞻芁な登堎人物六人を刺すものだずいう解釈は、䞋蚘で述べたした。「手匕きのこぎり」は、ハムレットが自分自身に向ける短剣の蚀い換えだずいうこずもできるかもしれたせん。

    ◆最埌にちょっずだけサリンゞャヌ䜜品に぀いお
    『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』のいく぀かのモチヌフがオシリス神話ず重ねられおいるのではないか、ずいう解釈に぀いおは、研究者の竹内康浩先生がいく぀かのご著曞で述べられおいたすね。
     
    「シヌモア—序章—」には、「わたしバディは圌シヌモアのこずを鷹のように——今でもずきどき思うのだが、ほずんど文字通りに——芋匵っおいた I watched him—almost literally, I sometimes think—like a hawk.」136ずいう蚘述がありたす。これは兄シヌモアず匟バディが鷹匠ず鷹、倪陜神ラヌずホルス、象城的父ず息子になぞらえられおいるこずを瀺す䞀文だず思う。同じ䜜品に出おくる〈チェヌン゜ヌ〉ずいう蚀葉なども、シェむクスピアからの圱響があるかもしれたせん。
     
    今回の蚘事は、サリンゞャヌの「゚ズメに捧ぐ——愛ず汚蟱のうちに」読解ずあわせおお読みいただくず、より広くお楜しみいただけたす。䞋蚘もぜひご芧ください。


    『ハムレット』読解の続きはこちらから。ぜひご芧ください。


    J.D.サリンゞャヌ「バナナフィッシュにうっお぀けの日」読解0110のたずめはこちらから。ぜひご芧ください。

    J.D.サリンゞャヌ『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』読解0110のたずめはこちらから。ぜひご芧ください。


     
     
    文孊䜜品の新たな読み方を考える蚘事を曞いおいたす。サリンゞャヌ、シェむクスピア、村䞊春暹など。 yomikata.ken@gmail.com

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