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「百人一首を旅しよう!」短歌と写真で今と繋がる〜第五十回●前大僧正行尊●〜

     折り返しの五十回を迎えました。いつもお読みいただき本当にありがとうございます。今回と次回は「花」に関する歌を紹介します。

     一人目の今日は前大僧正行尊(1055〜1135)。前大僧正と言えば慈円(第三十六回)がおり、両者とも高貴な出自・天台座主という共通点をいくつも持っていますが慈円は己の職責に対する矜持を高らかに、行尊は己の心の内の風景をそっと置くように詠みました。

     もろともに あはれと思へ 山桜
     花よりほかに 知る人もなし

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     意味)私がおまえを愛しく思うように、お前もそう思っておくれ、山桜よ。花以外に私の気持ちを分かってくれる人はいないのだから。

     行尊は三条院(第三十五回)の曾孫にあたり、父を亡くした後17歳頃に出家してから18年間、熊野・葛城山などで山岳修行を重ね密教を学び、修験者として名を馳せました。そうした体験を和歌に詠み、中古三十六歌仙にも撰ばれています。また白河・鳥羽・崇徳天皇(第六回・崇徳院)のもと「護持僧」として活躍しました。

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     この歌からは、孤独で過酷な修行に励んでいた行尊が、ハッと見つけた山桜にひととき心の慰めを見出した美しい瞬間が感じられます。

     百人一首歌人・西行は行尊を尊敬していて、吉野山で行尊の名が刻まれた卒塔婆を見つけたときこんな歌を詠みました。

    あはれとも 花見し峰に名をとめて
    紅葉ぞ今日はともに散りける
    意味)花の美しさに感動した大峯に行尊は不朽の名声を残したが、その名の刻まれた卒塔婆に今日は美しい紅葉が散りかかる。この紅葉も有名になるだろう。

    山家集
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    フォト短歌

     行尊はその後、園城寺長吏・熊野三山検校などを務め天皇の護持僧として加持祈祷で霊験を現したと言われています。1123年に天台座主に就任したものの延暦寺と園城寺との対立によりわずか6日で退任。が、1125年には大僧正となり衰退していた園城寺の復興に尽力しました。

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    フォト短歌

     ちなみに護持僧の主な役割としては、
    一. 天皇の体の健康・延命を祈願する 二. 病気や異変が起きた際には徹夜で邪や怨霊を祓うための特別な祈祷を行う 三. 日常的に天皇の寝室のすぐ隣に伺候し修法を実施する

     といったものがあります。主に天台宗や真言宗の高僧から選ばれ、当初は天皇個人を対象としていましたが、後に公家や武家にも置かれるようになりました。いずれにせよ貴人の側近くに仕えることから、非常に重要な役職です。

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     しかしここで、ひねくれた現代人である私は疑問を抱かざるを得ません。
     「護持僧の祈祷に効き目がない」と判断されたらどうなるの?と。

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     いろいろ調べてみました。とても勉強になりました。祈祷という一見非合理的に見える儀式にも、きちんと合理的選択肢が含まれていました。効き目がない=僧侶の力不足ではなくむしろ、

     一. もののけ、怨霊、邪気の力が僧侶の法力を上回っている 二. 天皇(または貴人)の宿業が深い 三. 祈祷の方法や本尊の選択が合っていない

     といった理由で説明されることが多かったようです。それゆえ実際に取られた対応としてはこちら。

     一. 祈祷の強化・増員。さらに厳しい祈祷を夜通しで続けるほか、別の高僧を追加で呼び寄せる。複数人による交代制が行われ、すぐ辞任にはならない 二. 別の手段との併用。神祇への祈願など仏教以外の方法を併用 

     そして最悪のケースはこちら。
     一. 僧侶の交代・更迭。長期にわたって効果が出ない、天皇の容態が悪化し続けた場合は護持僧の信任が低下して別の僧に替わる 二. 評判を落とした有験の僧は宮中への出入りが減り役職を解かれる 三. 僧侶個人の地位だけでなく所属する寺院(延暦寺・園城寺など)の勢力にも影響。成功すれば権威が上がり、失敗続きだと批判材料となる

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     尤も、当時は「効かない場合もある」ことが前提であり、超自然的な力をさらに求めるスタイルが標準対応。生老病死が現代より皮膚感覚で極めて近かった時代、人々はこころのどこかで私たちよりも遥かに、そして手探りながらも深く、精一杯長く生きたいと願っていたように感じます。

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    フォト短歌

     では畏れながら最後にもりやま作を。

     知る人もなき淵の瀬に佇めば
     見ゆる花には ほかに友なき

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     今回は以上です。お読みいただきありがとうございました!次回も「花」の歌を取り上げます。どうぞお楽しみに。

     崇徳院(第六回)、三条院(第三十五回)、前大僧正慈円(第三十六回)は下記よりご覧いただけます⤵︎

     
     
    ⚫︎旅と写真(カメラ)を愛する歴史オタク⚫︎ピアノ・バイオリン・フルートなど楽器も弾く⚫︎音楽全般好き⚫︎好きな言葉は距離感・連続性⚫︎多趣味で無鉄砲な早稲田大学英文科卒⚫︎国内外一人旅派⚫︎短歌・俳句を詠む⚫︎主にCanon EOS90D愛用⚫︎英語イタリア語フランス語ドイツ語少々⚫︎イラスト少々

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