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寝酒は、睡眠じゃない

    ビール2本。

    「このくらいなら、眠りには響かない」と思っていないだろうか。

    深酒でなくても、レム睡眠は減っていた¹⁾。

    健康な成人を対象とした27研究をまとめた2025年のメタ解析で、この変化が確かめられた¹⁾。

    自分もかつて寝酒をしていた。仕事が終わらない日、頭が止まらない夜。ビール1本で頭がぼんやりして、そのまま布団に入るとスッと落ちる。

    あれを「睡眠」だと思っていた。

    眠りにつけることと、よく眠ることは同じではない。寝酒の問題は、寝ついた後にもある。

    寝つきが早くなる効果は、確かにある

    アルコールは、脳の活動を抑えるGABAの働きを強め、興奮に関わるグルタミン酸の働きを抑える。脳のブレーキを強め、アクセルを緩めるような状態だ。この作用が眠気に関わっている¹⁾。

    健康な若い成人を対象にした実験がある。飲む量は体重や性別に応じて調整された。体重65kgなら、度数5%の350ml缶ビール約5〜6本分が目安だ。参加者には20時半から22時に飲んでもらい、23時から翌朝7時までの睡眠を調べた³⁾。

    比較用の飲料を飲んだ夜と比べると、寝つくまでの時間は平均1.4分短かった³⁾。

    27研究をまとめた解析でも、寝つきが有意に早くなったのは高用量の飲酒だった¹⁾。

    寝つきはよくても、レム睡眠は減る

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    睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠があり、一晩のなかで繰り返される。レム睡眠では、まぶたの下で眼球が素早く動き、脳も活発に働いている。夜の後半ほど多くなる睡眠だ⁴⁾。

    レム睡眠は、ノンレム睡眠とともに、学んだことを記憶として残す働きを支えている。気分を調整する役割もあると考えられている¹¹⁾。

    先ほどの実験では、寝つきは早くなった。だが、眠りについてから最初のレム睡眠に入るまでの時間は約30分長くなっていた。睡眠全体に占めるレム睡眠の割合も減っていた³⁾。

    しかも、レム睡眠への影響は深酒に限らない。27研究のメタ解析では、少ない量の飲酒でも最初のレム睡眠が遅れて始まり、一晩を通したレム睡眠の合計時間も減った。飲む量が増えるほど、どちらの変化も大きくなった¹⁾。

    ビールに置き換えると、体重65kgなら度数5%の350ml缶で2本強までが、この解析の「少ない量」に当たる。

    このくらいの量でも、貴重なレム睡眠が減ってしまう¹⁾。

    深酒すると、夜中に目が覚め、翌朝の注意力も落ちる

    同じ深酒の実験で、夜の前後半を比較できた92人のデータがある。飲酒した夜の前半は途中で目覚める回数も時間も減っていたが、後半になるとどちらも増えていた³⁾。

    この研究では、若い成人95人を対象に翌朝の検査も行っている。23時から7時まで寝床で過ごす時間を確保していても、飲酒後は注意を保ちながら素早く反応する2つの課題で反応に時間がかかっていた⁵⁾。レム睡眠の減少が、この遅れを引き起こしたと示されたわけではない。

    外来で「最近判断が鈍い」「集中力が続かない」と訴える患者さんがいた。睡眠時間は7時間以上取れている。だが、毎晩ビールを2〜3本飲んでいた。飲酒を週2回に減らした後、「頭のクリアさが全然違う」と言われたことがある。

    睡眠時間は変えていない。それでも、本人が感じる翌朝の調子は変わっていた。何時間寝たかだけを聞いていては、拾えない変化だった。

    筋トレ後の深酒は、筋肉の合成を妨げる

    筋トレをしている人なら、筋肉への影響も気になるところだろう。

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    運動習慣のある男性8人に、筋トレと有酸素運動をしてもらった実験がある。運動の1時間後から3時間かけて、体重あたり1.5g/kgのアルコールを飲んだ。体重65kgなら、度数5%の350ml缶ビール約7本分だ⁶⁾。

    運動直後と4時間後には、ホエイプロテインを25gずつ摂っている。それでも、同じプロテインを摂って飲酒しなかった条件と比べて、運動後2〜8時間の筋原線維タンパク合成率は24%低かった⁶⁾。

    筋肉をつくる働きは運動後に高まるが、深酒でその一部が打ち消されてしまうようだ⁶⁾。

    調べたのは運動後数時間の変化で、ビール1本の影響や長期的な筋肉の増え方までは分からない。

    自分はトレーニングした日は基本飲まない。17年間の筋トレ人生で学んだ、たぶん最もコスパのいいルールがこれ。

    プロテインのタイミングや量についての考え方は、「トレ後30分以内にプロテイン」はもう古いで別途書いた。

    顔が赤くなる人は、無理に飲まない

    ちなみに自分も、ビール1杯で顔が赤くなるフラッシャーだ。

    アルコールの分解途中にできるアセトアルデヒドを処理する酵素が、ALDH2だ。その働きが弱い体質の人は、少量でも顔が赤くなり、動悸や吐き気が出やすい。こうした反応が出る人は、無理に飲まないでほしい⁷⁾。

    酒を飲まない期間をどれくらい取るか、飲む量をどう減らすかについては、Q&A第3回の飲酒の質問でも扱っている。記事はメンバー限定だが、この飲酒の回答は無料で読める。

    眠るための一杯を、習慣にしない

    「ビール1本くらいなら大丈夫でしょ?」

    これが一番多い質問。度数5%の350ml缶1本は、純アルコール約14gになる。ただ、27研究のメタ解析から一人ひとりの「安全な本数」は決められない。眠るために飲むなら、その1本もすすめない。厚生労働省の睡眠ガイドでも、寝酒を避けるよう勧めている¹⁾²⁾。

    自分もお酒はゼロじゃないし、付き合いもある。おいしい酒もある。それでも、眠るために飲む習慣は見直したい。

    毎日多量に飲んでいる人や、減らすと手の震え、汗、動悸、強い不眠が出る人は、自己判断で急に断酒せず、医療機関に相談してほしい²⁾⁸⁾。

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    飲む前に量を決め、早めに切り上げる

    その日に飲む量を先に決める。寝る直前まで飲み続けず、早めに切り上げる²⁾⁷⁾¹⁰⁾。

    飲む曜日を決める

    外来では「火曜と金曜だけ」のように、飲む曜日を決めてもらうことが多い。決めないと、ズルズル毎日になる。

    飲まない日を作り、1週間の総量を減らす。休んだ分のまとめ飲みは避けたい⁷⁾。

    酒の合間に水を挟む

    水やノンアルコール飲料を挟んで、飲む量とペースを抑える。厚生労働省の飲酒ガイドラインでも勧められている工夫だ⁷⁾。

    翌朝の目覚めを記録する

    飲んだ量と飲み終えた時刻を記録する。夜中に目が覚めたか、翌朝しっかり休めた感覚があるか、日中の眠気も簡単にメモしておく。飲まなかった日も記録してみる。

    スマートウォッチやリングの記録は、補助として使う。推定された睡眠段階やスコアだけで、飲酒の影響や不眠の原因を決めつけない。眠れない日が続くなら、記録を持って医師に相談してほしい²⁾⁹⁾。

    自分がビール1本でスッと寝ついていたことと、その眠りがよかったかどうかは、別のことだった。眠れた時間だけで安心せず、飲んだ量と翌朝の調子まで確かめたい。

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    参考文献

    1) Gardiner C, et al. The effect of alcohol on subsequent sleep in healthy adults: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2025;80:102030. 原著

    2) 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023. 公式資料

    3) Arnedt JT, et al. Sleep Following Alcohol Intoxication in Healthy, Young Adults: Effects of Sex and Family History of Alcoholism. Alcohol Clin Exp Res. 2011;35:870–878. 原著全文

    4) NHLBI. How Sleep Works: Sleep Phases and Stages. 2022年3月24日更新. 公式資料

    5) Rohsenow DJ, et al. Intoxication with bourbon versus vodka: effects on hangover, sleep, and next-day neurocognitive performance in young adults. Alcohol Clin Exp Res. 2010. 原著

    6) Parr EB, et al. Alcohol Ingestion Impairs Maximal Post-Exercise Rates of Myofibrillar Protein Synthesis following a Single Bout of Concurrent Training. PLoS One. 2014;9:e88384. 原著

    7) 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン. 2024年2月. 公式資料

    8) NIAAA. Alcohol Use Disorder: From Risk to Diagnosis to Recovery. 公式資料

    9) AASM. Consumer Sleep Technology. 2018年の公式声明. 公式資料

    10) CDC/NIOSH. Prepare for Sleep. 公式資料

    11) NICHD. What happens during sleep? 2019年4月29日最終レビュー. 公式資料

    ※本記事は一般的な健康・医学情報です。個別の診断や治療を行うものではありません。眠れない状態が続く場合や、飲酒を自分では減らせない場合は、医療機関に相談してください。

     
     
    東大医学部卒の総合内科・呼吸器専門医。医学博士。経営者のパーソナルドクター。NewsPicks公式の健康番組にレギュラー出演。HALEO最高科学・医療顧問。外来では話しきれない健康の話を、論文だけでなく自分でも試して、失敗まで書いています。深掘りはDr.もさりラボで。

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