
正直薬
嘘をつけなくなる薬が開発された。
説明書には、こう書かれていた。
「服用すると、嘘をつくことができなくなります。人間関係が純粋になります」
最初に試したのは、恋人たちだった。
「私のこと、好き?」
「好きだよ」
「どのくらい?」
「前の人ほどではない」
2人は、その日のうちに別れた。
次に、ある会社が全社員に薬を配った。
会議では、こんな発言が飛び交った。
「このプロジェクトは失敗すると思います」
「部長は資料を読んでいません」
「課長の話は長すぎます」
「私は定時まで寝ていたいです」
会社は混乱した。
しかし、無駄な会議が減り、業績は上がった。
政府も薬を全国民に配布した。
テレビの司会者が言った。
「これで、嘘のない美しい国になりますね」
コメンテーターは答えた。
「そうは思いません」
政治家たちも、正直になった。
「選挙のために言っています」
「公約を守れるとは限りません」
「責任は取りたくありません」
支持率は下がった。
しかし、どの政治家も同じことを言うので、誰を選んでも変わらないことがわかった。
家庭でも変化が起きた。
親は子に言った。
「お前のためと言っているが、半分は私の見栄だ」
子は答えた。
「ありがとう。でも、うっとうしいです」
店では、客が尋ねた。
「この料理、おいしいですか?」
店主は答えた。
「普通です」
「おすすめは?」
「利益率の高い商品です」
店は次々と閉店した。
占い師たちは、商売にならなくなった。
人々は、嘘をつかない方法ではなく、何も言わない方法を覚えた。
挨拶は短くなった。
笑い声が減った。
口論も減った。
親切も減った。
本当の気持ちなど、誰も聞きたくなかった。
やがて、薬を開発した医師が表彰された。
「人類は、嘘から解放されました」
記者が尋ねた。
「先生ご自身は、満足されていますか?」
医師は答えた。
「いいえ。もっと売れると思っていました」
翌日、医師は新しい薬を発売した。
今度は、聞きたくない真実が耳に入らなくなる薬だった。
飛ぶように売れた。
正直薬の100倍売れた。
国は、再び明るさを取り戻した。
恋人たちは愛を語り、企業は夢を語り、政治家たちは未来を語った。
人々は笑った。
誰も、嘘をつけるようになったわけではなかった。
ただ、誰も聞いていなかった。
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