
プロジェクトマネジメントは、ボス、トイレ、メシだ
プロジェクトマネジメントの本を、何冊読んだか覚えていない。
ガントチャート。
リスク管理。
ステークホルダー。
アジャイル。
ウォーターフォール。
どれも正しかった。
どれも役に立った。
でも、本を閉じて現場に入ると、最初に気になるのは、そういうことではなかった。
新しいプロジェクトに入る。
そこで私が最初に探すのは、もっとくだらないことだ。
ボスは誰か。
トイレはどこか。
メシは何時か。
初めて聞く人は、だいたい笑う。
「それ、プロジェクトマネジメントですか?」
私は真顔で答える。
「そうです」
ボスは誰か
最初に見るのは、誰が本当に決めているのか。
組織図を見れば、役職はわかる。
でも、それだけではわからない。
肩書きが一番上の人が、いつも一番強いとは限らない。
会議で一番話す人が、中心とも限らない。
むしろ、静かな人のことがある。
誰かが話す。
すると、何人かがその人を見る。
小さく頷く。
眉が少し動く。
それだけで、話の向きが変わる。
本人は何も言っていない。
でも、みんなが見ている。
そういう人がいる。
新しい現場に入ると、私はそこを見る。
誰が誰に確認するのか。
話が止まったとき、誰を見るのか。
最後に「では、これでいきましょう」と言うのは誰なのか。
組織図より、会議を見たほうが早いことがある。
もちろん、本人に「あなたがボスですか」とは聞かない。
そんなことを聞いたら、話がややこしくなる。
トイレはどこか
次に、トイレを探す。
もちろん、本物のトイレだ。
初めて行った建物で、場所がわからないと落ち着かない。
でも、私が探しているのは、それだけではない。
プロジェクトにも、トイレがある。
困ったときに駆け込める場所。
わからないことを聞ける人。
過去の経緯を知っている人。
資料には残っていない話を覚えている人。
以前、仕様について議論が止まったことがあった。
資料を読み直しても、わからない。
会議をしても、同じところを回る。
数日、動かなかった。
そのとき、ある事務担当の人に何気なく聞いてみた。
「ああ、それなら昔も同じことがありましたよ」
その人は、管理職ではなかった。
プロジェクトの中心でもない。
会議にも、ほとんど出ていなかった。
でも、知っていた。
なぜ、その仕様になったのか。
誰が何を考えていたのか。
どこで一度、話が止まったのか。
その人の話を聞いて、数日止まっていた議論が動き始めた。
組織には、文書になっていない地図を持っている人がいる。
私は、そういう人を早く見つけたい。
だから、トイレを探す。
困ったとき、どこへ行けばいいのか。
メシは何時か
そして、メシは何時か。
これは、その組織の時間を知るためだ。
時計は、どこへ行っても同じように進む。
でも、人が動く時間は違う。
朝から元気な会社もある。
午後になって、ようやく動き始める部署もある。
月曜日は慎重で、金曜日の夕方には、もう新しい仕事を増やしたくない。
月末になると、判断まで固くなることもある。
そういう時間は、ガントチャートには出てこない。
以前、金曜日の夕方に、重要な意思決定をお願いしたことがあった。
資料はできていた。
説明もした。
論点も整理した。
準備としては、問題なかった。
それでも返ってきたのは、
「来週、もう一度考えましょう」
だった。
そのとき思った。
失敗したのは、資料ではない。
時間だった。
正しいことを言えば、人は動くと思っていた。
でも、人には人のリズムがある。
組織にも、その組織の時間がある。
同じ話でも、通る日と、通らない日がある。
だから、メシは何時か。
いつなら、少し落ち着いて話せるのか。
いつなら、話を受け止めてもらえるのか。
私は、その組織の時間を見る。
それから、計画表を見る
ボスは誰か。
トイレはどこか。
メシは何時か。
プロジェクトマネジメントの本には、たぶん載っていない。
でも、現場に長くいると、この3つが妙につながっている。
誰が決めるのか。
困ったとき、どこへ行けばいいのか。
いつなら、話が動くのか。
結局、プロジェクトは人が動かしている。
計画どおりに進まないのも、人がいるからだ。
新しいプロジェクトに入ると、私はまず3つを探す。
ボスは誰か。
トイレはどこか。
メシは何時か。
それがわかってくると、少しずつ、そのプロジェクトの輪郭が見えてくる。
そこまでわかってから、私はようやく計画表を見る。
まだ読めそうでしたら
マガジンの玄関はこちらです
よろしければ、ここから全体の流れをご覧ください。
全体の玄関はこちらです
ほかのテーマやシリーズへの入口を、ここにまとめています。