
今日は、7対3です
会議室の空気が、少しぬるかった。
机の上には、QCDの資料が並んでいる。
品質。
コスト。
納期。
どれも、落としていいものではない。
「で、どうしますか」
誰かが言った。
こういうとき、私は少し遅れる。
7の側にいる
方向としては、賛成だった。
7人がそちらを見ている。
私も、たぶんそちら側だ。
でも、3人分の引っかかりが残っている。
現場の負担は増えないか。
この条件で、品質を守れるか。
あとで戻れなくならないか。
どれも、今すぐ問題になる話ではない。
だから、言葉にしにくい。
「賛成です」
と言ってしまえば、会議は進む。
私も、そう言うことがある。
ただ、そのときも頭の片隅に3が残る。
3は、消えない
仕事では、最後に決めなければならない。
納期がある。
予算がある。
次の仕事も待っている。
だから、7の側で進むことはある。
私も、何度もそうしてきた。
ただ、そのとき、3まで消えてしまったことにしたくない。
「今回は、これで進める」
それでいい。
でも、
「この懸念は残っている」
も、一緒に置いておく。
会議が終われば、議事録には結論だけが残る。
A案で進める。
それで十分なことも多い。
けれど、私はときどき、その1行の横にあった言葉を覚えている。
「あの条件だと、少し怖いです」
「現場は大丈夫でしょうか」
「もう少し確認したほうがいいと思います」
その言葉が、あとになって効いてくることがある。
何も起きないこともある。
そのほうが多い。
それでも、覚えておく。
灰色のまま
灰色が好きなのかもしれない。
白黒をつけない、という意味ではない。
白を選んだあとにも、灰色が残る。
進める。
でも、気になる。
賛成する。
でも、覚えている。
決める。
でも、戻れるようにしておく。
きれいではない。
説明もしにくい。
けれど、仕事をしていると、そういうものが増えていく。
今日は、7対3です
会議が終わる。
椅子が引かれる。
資料が閉じられる。
「では、これで進めましょう」
誰かが言った。
私はうなずいた。
今日は、7対3だった。
7の側で進める。
それでいい。
ただ、3のことも忘れない。
何か起きたとき、あの懸念をもう一度取り出せるように。
会議室のドアが閉まる。
結論は、もう決まっている。
それでも帰り道、
3だけが、
少し後ろをついてくる。