
カーボンリムーバル総研⑨ 2026年前半、CDR/DAC市場に起きた3つの巨大な構造変化― AI需要・EU ETS改正提案・そして「実納入」
こんにちは!Planet Saversの池上です。
世界のCO2除去技術の最新情報をお届けする「カーボンリムーバル総研」、今回は少し趣向を変えて、2026年前半のCDR(Carbon Dioxide Removal=CO2除去)市場そのものを扱います。
というのも、この半年は本当に濃かったのです。4月にはこの業界の最大の買い手であるMicrosoftの購買一時停止が報じられて「やはりCDR/DAC市場はボラティリティが高いのでは」という空気が流れ、6月には北米で初めて認証済みのDACクレジットが実際に納入され、そして7月には欧州委員会がEU排出量取引制度(EU ETS)の改正案を出して、恒久的なCO2除去に2.5億トン規模の公的な購入枠を設けるという設計を示しました。
ひとつひとつはニュースとして報じられていますが、並べて眺めると同じ絵の一部だということが見えてきます。この記事では、それを3つの構造変化として整理してみます。
1. 需要の主体が変わった ― 「善意の1社」から、AI産業という派生需要へ
2. 需要の根拠が変わりはじめた ― 自主的な公約から、法律が作る需要へ(EU ETS改正提案)
3. 業界が証明すべきものが変わった ― 「約束」から「納入実績」へ
最後に、これが日本とPlanet Saversにとって何を意味するのかを書きます。少し長めですが、2026年前半の全体像をつかむ地図として読んでいただければうれしいです。
1. まず「幻滅期の底」で何が起きていたのか
昨年6月の記事「Direct Air Captureの現在地 - 幻滅期を越えて行け」で、DACはハイプ・サイクルの幻滅期に入りつつあると書きました。2026年前半は、その幻滅期の「底」にあたる時期でした。
「Microsoftショック」の実像
2026年4月10日、米メディアのHeatmap Newsが「Microsoftが炭素除去クレジットの購買を一時停止すると取引先に通知した」と報じました。同社は恒久除去(durable CDR)の累計購買量の約78.5%を1社で占める、文字どおり市場の大黒柱です。業界はざわつきました。

ただ、その後の展開を追うと、起きたのは撤退ではなくペース調整でした。
• Microsoft自身の説明は「プログラムは終了していない。ペースや量は調整しうる」
• 5月、デンマークのBioCircとBECCS(バイオマス発電+CCS)最大65万トン・7年の新規契約を結び購買を再開
• 6月11日、インドのAlt Carbonと強化風化(ERW)36,920トンを契約
そしてもっと重要なのは、「Microsoft依存が露呈した当の四半期に、Microsoft以外の買い手が過半を占めた」という事実です。
数字で見ると、市場は縮んでいなかった
• 2026年Q1の恒久除去契約量は約230万トンで、第1四半期としては過去最大(CDR.fyi)
• Q2も月次レポートからの当社集計で約300万トン
• 非Microsoft比率はQ1・Q2ともおよそ57%で、2四半期続いた
新規契約に占めるMicrosoftのシェアはQ1で43%まで下がっています。累計78.5%という数字は「これまでの積み上げ」であって、いま起きている契約の姿ではないわけです。

図1|買い手の一極集中と、契約と引渡の乖離。出典:CDR.fyi(2026-07-18閲覧)・CDR.fyi Demand Structure Snapshot 2026-04
買い手のカテゴリーが増えた
底打ち感の背景は、買い手の顔ぶれが一気に多層化したことだと思います。
• 自治体:ストックホルム市がStockholm ExergiからBECCS 75万トン・15年を契約(Q2最大の単一案件)
• 金融:JPMorgan、TD Bank、RBCが購買。三井住友銀行(SMBC)はカナダのDeep Skyへ邦銀初の戦略出資
• 航空・通信:Boeing、Lufthansa、Deutsche Telekomが月次の上位バイヤーに
• 地理的拡大:シンガポールで買い手連合ARCが発足(Tencent・三菱商事・大阪ガス・CATL等が参加、2030年までに1,000万トンの調達目標)
2026年6月の単月上位5社を見ると、Microsoftは3位。金融と通信が名を連ねています。1社の判断で市場の8割が消える構造は、少しずつほどけはじめています。
2. 変化その1:需要の主体は「AI産業」になった
ここからが本題です。2026年前半で最も構造的だった変化は、恒久除去の需要がAIの計算能力の拡大に伴う「派生需要」になったことだと考えています。

①AIが伸びると、電力が伸びる
IEAの報告書「Energy and AI」(2025年4月)のベースケースでは、世界のデータセンターの電力消費は2024年の約415TWh(世界の電力消費の約1.5%)から、2030年に約945TWhへ拡大します。6年で2.3倍。IEA自身がこれを「今日の日本の総電力消費をやや上回る」と表現しています。日本一国分の電力需要が、新しく世界に出現するイメージです。
しかもその大半は24時間365日止められない負荷です。再生可能エネルギーの間欠性とは構造的に相性が悪く、再エネを大量に調達しても時間帯のミスマッチ分の排出はどうしても残ります。
②その結果、ネットゼロ公約と正面衝突している
ここが最重要のファクトです。ハイパースケーラー各社のネットゼロ公約には期限があり、公開されているため、撤回コストも大きい。一方で、実績の排出量はAI投資によって増えています。

(各社で報告年・算定境界が異なります。Googleは2025年報告書から算定境界を変更、Amazonは年次で遡及改定、Metaはマーケット/ロケーション両基準を公表しています。単純合算は概算です。)
この「公約と実績のワニの口」が、除去需要の源泉です。彼らの選択肢は3つしかありません。
• (a) 公約を撤回する → レピュテーション・訴訟・規制リスク
• (b) AI投資を減速する → 事業上あり得ない
• (c) 除去を大量に買う
各社は現に(c)を選び続けています。
③削減だけでは埋められない排出が残る
データセンターの残余排出は、建設の埋込炭素(コンクリート・鉄鋼)、半導体製造のScope3、24/7電力ギャップといったカテゴリーに集中します。ここは「排出しない」努力の限界領域で、閉じる手段は定義上、除去しかありません。
④しかも「安いオフセット」には逃げられない
2026年6月11日に公開されたSBTi(Science Based Targets initiative)の企業ネットゼロ基準V2.0は、2035年以降、大企業に継続排出の最低1%を適格な除去でカバーすることを求め、ネットゼロ目標年に100%まで段階的に引き上げる設計になっています。除去が「規格に書き込まれた」わけです。
さらにCDR.fyi×OPISの調査(2026年5月)では、買い手のコア要件は100年超の永続性・供給者の透明性・実績。森林系クレジットの品質問題を法務・広報リスクとして経験してきた企業が求めているのは「監査に耐える除去」です。低耐久のクレジットは、そもそも土俵に乗らなくなってきています。
⑤そしてDACの比重が増す
恒久除去のなかでも、いま主力なのはバイオ炭です(100年級の耐久性を持ち、直近四半期の契約量の9割超)。ただ、バイオ炭とBECCSは持続可能なバイオマス原料と土地が律速で、ギガトンの需要を単独では満たせません。ERWは面積・散布ロジスティクス・MRVの難度が課題です。
DACは原料が大気そのものなので、土地・原料の制約を相対的に受けにくい。残る制約はエネルギー・貯留・許認可・コストです。そしてコストは装置の量産化と工学的改善によって下げる余地があります。
Mt級を毎年、数十年買い続ける必要がある買い手にとって、DACは長期・大量調達の最終的な受け皿になり得る。だから彼らは、いま高くてもDACを名指しで買っています。
• Microsoft × 1PointFive:DACクレジット50万トン・6年(2024年7月)
• Amazon × 1PointFive:25万トン・10年(2023年9月)
• Google × Holocene:10万トン・100ドル/t(2024年9月)
Googleの100ドル/t契約は「価格を将来に固定して、量とリスクを先に引き受ける」先渡し型です。ハイパースケーラーがDACのコストダウン曲線そのものに投資していることの表れだと読んでいます。

そして2026年、これが「AI産業の構造的な需要」として現れた
この四半期に、論理が事実によって裏付けられました。
• 6月17日、Frontierの第2フェーズで9.15億ドルを追加。Stripe・Google・Shopify・Salesforce等による先進市場コミットメント(AMC)の累計コミットメントが約18億ドルへ倍増しました。
• Anthropicが加盟。クラウド事業の一環ではなく「AIモデル開発が本業」の企業が、自らのコミットメントとして需要側に立ちました(報道ベースでは、AIスタートアップとして初)。
Anthropicは2026年2月に、自社データセンターの電力系統への接続に必要な増強費用を100%負担し、新規電源の確保が間に合わない場合には電力需要の増加に伴う価格への影響を推計してカバーする方針も発表しています。「自社の外部性を内部化して、成長の社会的受容を買う」という行動様式が、4か月後のFrontier参画と同じ形で再現されたわけです。CSRというより、計算能力を拡大するための構造的な支出項目に見えます。
つまり、「AIに強気であること」と「DACに強気であること」は、同じマクロポジションの表と裏です。AIの成長に賭ける資金は世界に溢れていますが、AIの成長が必然的に生み出す負債(残余排出)を解消する側に張っている資金はまだ僅かです。
3. 変化その2:EU ETS改正提案という「法令に基づく需要/制度的な需要」の登場
2026年7月17日、欧州委員会がEU ETS指令の改正提案(COM(2026) 616 final)を公表しました。CDR業界にとっては、この半年でもっとも大きなニュースだったと思います。

何が提案されたのか(新第9c条)
• 量と期間:EU ETSのキャップに2.5億枠を上乗せして2031〜2040年にオークションし、その収入で同量のEU域内の恒久除去を購入する
• 買い方:欧州委員会が集中的な買い手となり、認証単位の引渡し時に支払う(payment on delivery)。可能な限り競争的な配分
• 対象:EUのCRCF(炭素除去認証枠組み)規則で認証されるBioCCSとDACCSのみ
• 軌道:2040年のオークション量4,800万枠に向けて段階的に増加
• 二重計上防止:除去1単位=枠1単位。購入済みの単位は取消
購入原資は排出枠のオークション収入です。EUA(EU排出枠。ETS対象企業が排出1トンにつき1単位を必要とする取引価格)を€80〜150/tと置くと総額€200〜380億規模になります(当社試算)。これは全世界・全期間の耐久CDR累計契約額(約124億ドル)の2〜3倍の資金が、単一の公的な買い手から10年間で投じられる計算です。
耐久CDRの需要が、少数企業の自主購買から法定財源を持つコンプライアンス需要へつながる入口が、はじめて具体的な条文の形で示されました。



「規制緩和」報道との関係 ― ここが誤読されやすい
この提案の一般報道は「規制緩和・企業負担の軽減」がメインタイトルでした(日本経済新聞「EU、排出量取引を緩和へ 温暖化ガス 企業負担の軽減優先」2026年7月18日など)。
CDR統合に触れない記事も多かったので、見出しだけ読むと「気候政策の後退=除去にも逆風」と映りかねません。
ですが、条文の構造は逆です。緩和と除去制度の創設は、同じ法案の中の交換条件になっています。

• 「緩和はDACにも逆風」への答え:逆です。グロス(総排出)の削減ペースを緩めるほど、同じネット目標の達成に必要な除去量は増えます。CDR購入は緩和を政治的・会計的に成立させる「対価」として同じ法案に組み込まれており、除去なしの緩和パッケージは成立しない構造です。
• 「ETSが緩めばEUAが下がって除去も売れない」への答え:除去の中央購入はEUAの市場価格とは切り離した公的オフテイクです。EUA価格の影響は「オークション収入=購入予算」の経路に限定されます(もちろん、この経路は注視が必要です)。
同時に、「品質による選別」が始まった
もうひとつ重要なのは、CDR一般に需要を開放したのではなく、初期の購入対象を地中貯留型のBioCCS・DACCSに絞った点です。
• バイオ炭:CRCFの恒久除去認証方法論(委任規則(EU) 2026/285、2026年2月採択)の対象ではあるものの、EU ETS中央購入の初期対象からは外れました
• ERW(強化風化):CRCFの恒久除去方法論に含まれておらず、現時点ではCRCF認証経路もEU ETS購入経路も確立していません
• 自然ベース除去:対象外。2034年末までの報告で追加を検討
つまり、「CRCFで認証できること」と「コンプライアンス需要にアクセスできること」は別問題になりました。永続性・測定可能性・責任主体・貯留記録を比較しやすい経路から制度を始める、という選択だと読めます。
DAC事業者にとっての含意は明確です。「安く回収できる」だけでは足りず、「地中貯留まで含む正味除去を、監査に耐える形で証明できる」ことが商品価値になる。CRCFのDACCS方法論は、捕集だけでなく電力・熱・資材・CO2処理・輸送等の関連排出を正味除去から差し引く設計なので、低炭素電力の調達と時系列データが、コストだけでなく認証価値そのものを左右します。
ただし、まだ「提案」です
ここは強調しておきたいところです。本件は欧州委員会の提案であり、欧州議会・理事会との通常立法手続きと、委任法令の策定が残っています。市場観測では、欧州議会環境委員会の審議が2026年後半、妥結は2027年頃という見方が多いようです。
数量だけでなく、技術別のポットを設けるか、契約期間、価格以外の評価軸、前払いの有無、保証・責任分担といった条件が、個別プロジェクトの銀行性(bankability)を左右します。「市場創設の方向性」と「個別案件の売上確度」は分けて見る必要があります。
なお、環境NGOからは「削減の先送り(mitigation deterrence)」という批判も出ています。LRF緩和とのパッケージが大手排出者への迎合と映っている面があり、CDR業界としてはレピュテーションリスクとして認識しておくべき論点だと思います。
4. 変化その3:「約束」から「証明」へ ― 実納入が始まった
3つめの変化は、供給側の話です。
耐久CDR市場のこれまでの最大の弱点は、契約と引渡しの乖離でした。累計契約約4,940万トンに対して、実際に引き渡された除去は164万トン(3.3%)。市場の大半が「将来の約束」でできていたのです。DACはさらに初期段階で、契約247万トンに対して引渡実績は1,186トンでした。
その状況に、2026年前半に2つの実納入が現実の回答を与えました。
4月24日:Alt Carbon → 商船三井
強化風化(ERW)の認証済みクレジット2,500トン(Isometric認証)を納入。アジア最大の検証済みERW発行であり、日本企業が高耐久CDRを実際に受け取った先行例になりました。
6月29日:Deep Sky → Microsoft・RBC
北米初の認証済みDACクレジット(Isometric認証)を納入。DAC経路としては世界初のCCP(Core Carbon Principles)ラベル付き証書です。
Deep Skyがたどった道筋は、これから供給者が通る道筋として参考になります。
1. 資本・市場開発:SMBCが邦銀初のCDR/DACセクター投資としてDeepSkyに戦略出資(6/25)。日本でのDACクレジット需要創出を明示的な目的に掲げました
2. 複数のオフテイク:ENGIE 最大1.5万トン(4/30)、TD Bank 1.8万トン超・10年(6/4)、Lufthansa(5/21)、Microsoft・RBC(創設バイヤー)
3. 認証・実納入:北米初の認証済みDACクレジット納入(6/29)
資本 → 需要 → 実納入。この流れを実現できた供給者に、次の需要が集まる。市場は計画の段階から履行の段階へ移りつつあります。
供給側では戦略プレイヤーも降りていません。米DOEは約12億ドル規模のDAC Hub資金(ルイジアナProject Cypress、テキサスSouth Texas)をキャンセル対象から除外して維持を確認しました(4月)。SiemensはUcaneoと提携して電気化学式DACの自動化・標準化を支援し(6/25)、Ucaneoのベルリン初号機(150トン/年)が7月2日に開所しています。制御・自動化の世界大手が入ってくるのは、一品生産から量産・標準化への移行のサインです。
一方で、公称能力と実際の除去量の乖離が指摘された事例(Climeworks Mammoth等)もあります。パイロットの能力=商用のデリバリー能力ではない。だからこそ、連続運転時間・回収効率・正味除去量・四半期の発行量という「地味な数字」が、これからの評価軸になります。
5. 日本にとって、これは何を意味するか
ここまで海外の話が続きましたが、日本にも同じ時期に3点セットが動き出しました。

1.制度:GX-ETSが義務化フェーズに入った
日本の排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度から本格稼働し、直近3年度平均の直接CO2排出量が10万トン以上の事業者(約300〜400社、国内排出の約6割)が対象になりました。発電部門への有償オークションは2033年度開始が法律で定められています(GX推進法第27条)。
除去との接続で重要なのは、制度上の接続経路がすでに一部開かれていることです。適格クレジットであるJ-クレジットには、森林(FO-001)とバイオ炭(AG-004)という除去系の方法論が既に流通しており、除去クレジットは制度上、実排出量の10%枠内で使用できます(上限価格4,300円/t)。
DACCSの方法論はまだありません。ただ、経済産業省のDACワーキンググループは「まずJ-クレジットとして取引されることを目指して方法論を作成する」と明言しており、制度運営委員会で策定が検討されています。方法論ができれば、ETS本体の制度改正を待たずに既存の10%枠を通じて需要につながり得るというのが、いま国内で最も現実的な近道です。
(もっとも、国内DACCSクレジットの実際の流通は国内CCSの事業化=2030年以降の見込みに律速されます。制度が先にできても、貯留がなければクレジットは生まれません。ここは制度と物理インフラを同時に進める必要がある論点です。)
2.業界:日本CDR協議会(J-CDR)が82社へ
三菱総研・三菱商事が共同で発足させた日本CDR協議会は、7月上旬時点で一般会員76社を含む82社・団体へ拡大しました。6月30日には「CDR産業化ロードマップ」ドラフトVer.1を公開し、政府提言に向けて動いています。
3.金融:メガバンクが買い手側・投資家側の両方で参入
SMBCのDeep Sky出資は、邦銀初のCDR/DACセクター投資でした。目的として「日本でのDACクレジット需要創出」が明示されています。
そして、除去は「立地産業」になりつつある
ここが政策の観点でいちばん大事なところだと思っています。
EU ETS改正提案が買うのはEU域内の恒久除去です。米国は45Q税額控除で、カナダはDAC設備投資額の60%という高率の税額控除で、設備を自国に呼び込んでいます。つまり、DACは「クレジットの輸出産業」ではなく、制度のある国への立地産業になりつつあります。
これは日本にとって、ふたつの意味を持ちます。
• 日本国内に需要と貯留インフラを整えなければ、日本企業の技術は海外案件で使われる一方、日本は除去を輸入する構図になり得ます
• 逆に、EUが先に規定する品質基準(正味除去、LCA、永続性、貯留責任、電力属性、監査可能性)を先取りしてデータ設計しておけば、日本の制度設計と初期需要の両方で優位に立てます
EUの制度が日本にそのまま移植されるとは思いません。ただ、波及しやすいのは、①恒久除去を別枠で管理する、②方法論と第三者検証を需要アクセスの条件にする、③供給力が育つまで中央購入・実証支援・上限管理を組み合わせる、という段階設計の発想でしょう。制度の時期を予測するより、検証可能なデータと案件を先に用意しておくことが実務的だと考えています。
6. Planet Saversはどこに立つのか
最後に、私たち自身の話を少しだけ。
この市場の選別基準は、「安さ」以前に「納入できること」です。 実納入が始まった以上、投資家も買い手も「いつ実証結果を示せるか/いつ納入実績を示せるか」を見ています。稼働データ、第三者検証、実機の納入時期と確度。派手ではありませんが、ここが勝負どころになりました。
私たちは昨年11月から、東京都の東京Bay eSG プロジェクトで実環境でのDAC装置の実証を始めています。研究室の性能ではなく、実際の気温・湿度のなかで動く装置のデータを積むフェーズです。

技術面では、ゼオライト吸着材×全電化という方式をとっています。熱駆動方式のように低炭素な熱源のある場所に縛られず、脱炭素電源があるところに建てられるという特性は、CRCFのように正味除去を厳しく計算する制度のもとでは、そのまま認証価値を高めます。
そして地理的な余白があります。アジアには需要が立ち上がりつつあります(ARC連合の2030年1,000万トン調達目標、GX-ETSの義務化、SMBCのDeep Sky出資)。一方で、アジアでは、認証済みDACの供給がまだ乏しい。北米でDeep Skyが演じた「資本→オフテイク→実納入」の順路を、アジアで先行して狙う余地があると考えています。
さらに言えば、日本自身がAI・データセンター投資を国策で加速させています。「日本のAI成長が生む残余排出を、日本のDACが除去する」という物語は、GX政策・エネルギー安全保障・産業政策の三つの方向性と整合します。
最後に
2026年前半の3つの変化を並べてみると、こういうことだと思います。
• 需要の主体が、善意の1社からAI産業という構造的な派生需要へ広がった
• 需要の根拠が、自主的な公約から法律が作る需要へつながる入口が示された(ただしEUはまだ提案段階)
• 供給の証明が、約束から実際の納入へ移りはじめた
幻滅期は終わっていません。コストは高いままですし、公称能力と実除去量の乖離という業界の宿題も残っています。ただ、幻滅期というのは「期待で買われる局面が終わり、実行能力で選別される局面が始まる」ことでもあります。選別が進んだ後も、良質な案件を見分ける目が必要です。
私たちPlanet Saversは、その選別を通過できる側に立てるよう、いま実証データを積んでいます。低コスト・段階を踏んだ拡大・確実な納入。地味ですが、この3つを積み上げていきます。
このマクロトレンドの、まだ空いている側で一緒に働きたい方、技術・事業・制度のどの入口からでも構いません。ぜひ採用ページを覗いてみてください。読者のみなさんも、引き続きCDR/DAC市場にご注目ください。
次回のカーボンリムーバル総研もお楽しみに!
#DAC #DirectAirCapture #CDR #炭素除去 #ClimateTech #CCUS #EUETS #GXリーグ #カーボンクレジット #気候変動

主な参照元
• 欧州委員会 COM(2026) 616 final(EU ETS指令改正提案、2026-07-17)
• Commission Delegated Regulation (EU) 2026/285(CRCF恒久除去認証方法論、2026-02-03採択)
• Regulation (EU) 2024/3012(CRCF規則)
• IEA "Energy and AI"(2025-04)/IEA Direct Air Capture
• SBTi 企業ネットゼロ基準 V2.0(2026-06-11)
• CDR.fyi(2026-07-18閲覧)/CDR.fyi 2026 Q1 Durable CDR Market Update(2026-05-18)/Monthly Recap 4〜6月版/DAC Market Snapshot 2025
• CDR.fyi × OPIS "Pricing, Attributes, and Blockers: Durable CDR Market Dynamics 2026–2030"(2026-05-07)
• Heatmap News(2026-04-10、2026-07-16)
• Frontier(2026-06-17)/Anthropic(2026-02-12)/Dario Amodei "Machines of Loving Grace"(2024-10)
• ESG Today "Deep Sky Delivers North America's First Certified DAC Credits"(2026-06-29)
• 商船三井プレスリリース(2026-04-24)/SMBC・Deep Sky(2026-06-25)
• Siemens × Ucaneo(2026-06-25、2026-07-02)
• 各社サステナビリティ報告書(Microsoft FY2025、Google 2025、Amazon 2025、Meta 2024)
• 経済産業省 排出量取引制度(GX-ETS)/産業構造審議会 排出量取引制度小委員会とりまとめ(2025-12-19)/ネガティブエミッション市場創出検討会 DAC WG
• GX推進法(令和5年法律第32号)第27〜29条
• 日本CDR協議会(J-CDR、取得日2026-07-10)
• 日本経済新聞「EU、排出量取引を緩和へ 温暖化ガス 企業負担の軽減優先」(2026-07-18)