
どうか、動きませんように。
4歳の娘の体操服は、用心深く扱わなければならない。
幼稚園で着た服を、そのまま洗濯機に放りこむのはご法度だ。
まずは、ポケットを確認する。
木の棒やら、謎の実やらが出てくる。
うっかり手を入れたら、ダンゴムシかもしれない。
できれば、ダンゴムシには入っていてほしくない。
私のためにも、ダンゴムシのためにも。
小さな体操服についている、小さなポケット。
たいして何も入らなさそうな顔をして、油断がならない。
木の棒といっても、大人の私には、ただの木の棒である。なぜ数ある棒のなかからこれを選んだのか、どのあたりが持ち帰る決め手だったのか、見ただけではわからない。
謎の実もそうだ。
どこで拾ったのか。何の実なのか。
洗濯の前に、いくつもの謎が残される。
こちらは、洗濯をしたいだけなのだけれど。
それでも、ポケットから取り出したものを眺めていると、幼稚園で過ごす娘の姿を想像する。
遊んでいた足を止めて、しゃがむ。
小さな指でつまみ上げる。
しばらく眺めて、それからポケットにしまう。
友だちに見せただろうか。
もっといい棒が見つかって、取り替えたりしただろうか。
しまったあとは、もうすっかり忘れて、走り出したのだろうか。
私の知らない時間が、その短い棒にくっついている。
幼稚園で何をしているのか、私は一日の全部を見られない。娘が話してくれることもあれば、聞かないまま過ぎていくこともある。
ポケットから出てくるのは、そんな一日の小さなかけらなのかもしれない。
今日、この実の前で娘は足を止めた。
少なくとも、持って帰りたいと思うくらいには、気に入った。
そう思うと、すぐに捨てる手が止まる。
だからといって、何でも歓迎できるわけではない。
洗濯機に土は入れたくないし、謎の実がつぶれるのも困る。生きものには、どうか外で暮らしていてほしい。
娘の発見を大切にしたい私と、滞りなく洗濯を終えたい私は、同じ場所にいる。
体操服のポケットの前で、毎回ちょっと相談している。
いつか、この点検がいらなくなる日も来るのだろう。
娘が自分で中身を出すようになるのか。
落ちている実を、拾わなくなるのか。
そうなったら楽になる。
きっと、ずいぶん楽になる。
でも、洗濯機に服を入れる直前、何も入っていないポケットを、もう一度探ってしまう日があるかもしれない。
今はまだ、そんな先のことよりも。
今日のポケットである。
体操服の上からそっと触る。
何かある。
どうか、動きませんように。
三條凛花さんの「#ビンゴエッセイ 」に参加しています。
今回選んだお題は「ポケット」。
なんとか1ビンゴできました!
お読みいただきありがとうござます。
喜木 拝

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