
AIの回答精度が上がらないのは、なぜか ――3つの動かし方
正しい。でも、それだけだ。
そう感じた壁打ちが、何度もありました。
あるとき、部下の育成について考えていました。目的・対象・粒度を置いて、発散型の問いで入った。「私が見落としている育成の論点があるとしたら何か?」。
返ってきた答えは整然としていました。「心理的安全性の確保」「フィードバックの質」「業務の難易度曲線」。どれも正しい。でも読んだあとに、「それで、私はどうすればいいのか」という感覚が残りました。
前回、壁打ちは最初の1文で決まると書きました(→第1回「AIへの最初の1文で、答えの質は決まる」)。問いを設計しても、なぜまだ薄いのか。しばらく考えました。
「正しいが浅い」は、始まりにすぎない
最初の返答は「棚から取り出して並べた」状態です。知識の一覧であって、思考ではない。
深い答えは、こちらが動かさなければ出てきません。「正しいが浅い」は失敗ではなく、対話の本番が始まる合図です。
3つの動かし方
最初の返答を受け取ったあと、私は3つのどれかで動かすようにしています。
Why深掘り(なぜを一段下げる)
「なぜそうなるのか、もう一段、構造で説明してほしい」
「その中で最も根っこにある原因は何か?」
答えの「なぜ」を掘る動きです。表面的な正解の下に、構造が埋まっていることが多い。
「心理的安全性が必要だ」という答えに、私はこう返しました。「なぜ心理的安全性が不足すると育成が止まるのか、構造として説明してほしい」。
返ってきたのは「失敗が個人の評価に直結する環境では、難しい業務を任されること自体がリスクになる。そのため部下は達成確実な仕事だけを引き受けようとし、成長機会が自然に減る」という説明でした。知っていたことの言い換えではなく、自分では整理できていなかった構造でした。
横展開(別の角度を開く)
「別の角度から見ると、この問題はどう言えるか?」
「この整理と対照的な考え方はあるか?」
答えが一方向に偏っているときに使います。別の枠組みを持ち込んで、見えていなかった側面を引き出す。
「フィードバックの質が重要」という返答に対して、「対照的な考え方はあるか」と聞きました。「フィードバックの質より頻度を優先する考え方もある。細かくても即座のフィードバックのほうが、丁寧だが遅いフィードバックより成長を速める場合があるという議論もある」と返ってきて、自分が「質」だけを考えていた偏りに気づきました。
現場適用(自分の状況に引き寄せる)
「大企業の中間管理職が実際に使う場面で考えると、どうなるか?」
「私の場合、[具体的な制約]という条件ではどう変わるか?」
一般論を自分の現場に引き寄せる動きです。AIの返答は構造上、汎用的になりやすい。自分の文脈を渡すと、解像度が一段上がります。
「難易度曲線を意識した業務設計が重要」という答えに、「ただし私の場合、チームに与える業務の種類は私の裁量で決められない。所与の業務の中で難易度を設計するとしたら?」と返しました。
「既存業務の難易度を変えるのではなく、業務への関与の深さ(観察者→補佐→主担当)を段階的に変える方法がある」という答えが出て、これは実際の現場で使えると思いました。
どこで止めるか
3つの動きを繰り返すと、対話はどんどん深くなります。でも、どこかで止めなければ終わらない。
私の目安は2つです。
「自分では気づかなかった」と感じた瞬間。知っていたことの整理ではなく、自分の思考に新しい何かが加わった感覚です。
「ずっとモヤモヤしていたことが言語化された」と感じた瞬間。曖昧だった感覚が一文になったとき、それはEvergreenの素材になっています。
どちらかを感じたら、そこが止め時です。それ以上続けると、同じ場所をぐるぐるするだけのことが多い。
対話を終えたあと、今日の壁打ちで残すべき一文はあるか、と問うようにしています。あれば書き留める。それが次の思考の種になります。
おわりに
「正しいが浅い」答えが返ってきたとき、それはAIの限界ではありません。こちらがまだ動かしていないだけです。
Why深掘り・横展開・現場適用の3手を持っていれば、最初の返答はゴールではなく出発点になります。
次回は、対話の出力そのものを疑う話です。AIは自信を持って間違えることがある。その出力を現場で検証するための3つの問いを書きます。
あなたの思考OSに、今日の3手(Why深掘り・横展開・現場適用)をインストールできたら。次回も届くよう、連載をフォローしておいてください。
📖 AIとの壁打ちで思考を深める作法(全4回)
第1回 AIへの最初の1文で、答えの質は決まる
第2回 AIの答えが「正しいけど浅い」ときの、3つの動かし方 ← いまここ
第3回 AIは自信を持って間違える ――出力を現場で検証する3問(8/8公開)
第4回 AIとの対話を、30分で「使える1枚」に変える手順(8/11公開)
▶ 前回:AIへの最初の1文で、答えの質は決まる
今日の3手は「問いを設計したあと」の話です。その前段(発散・収束・検証の3種)はこちらに書きました。
https://note.com/rioh_os/n/n794604517b6e
▶ 全4回をまとめて読む:マガジン「AIとの壁打ちで思考を深める作法」
https://note.com/rioh_os/m/m146d1cfce7df
会議や資料が毎回「迷子」になる方へ。姉妹シリーズもどうぞ。
▶ 思考OSの作り方(全5回・完結)
https://note.com/rioh_os/m/mc2e1d17acfee
▶ 論点ドリフトを止める技術(全4回・完結)
https://note.com/rioh_os/m/me85d5368e3da
▶ 次に読む:AIは自信を持って間違える ――出力を現場で検証する3問
深まった答えを、そのまま信じてよいのか。現場で確かめるための3問を書きました。
https://note.com/rioh_os/n/ncadbcc91bef6
どこから読むか迷ったら、この1本から。症状から選べるようにしてあります。
▶ 会議も資料も、毎回ゼロから考えていませんか ――「思考OS」入門
https://note.com/rioh_os/n/n226cb0de2fd8
この3手を知っていても、自分の案件では浅いまま終わることがあります。どこで浅くなったかを10問で診断し、詰まった場所ごとに私が実際に打った一言を8つまとめました(有料・500円。診断の10問までは無料で読めます)。
▶ その壁打ち、どこで浅くなったか ―― 診断10問と、実際に打った8手