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会議で何も決まらないのは、なぜか ――「論点ドリフト」という正体

    会議が終わった。90分、みんな真剣に議論した。でも会議室を出ながら、こう思っていた。結局、何が決まったんだろう。

    そのあと、参加者に個別でメッセージを送って、各自の記憶をつなぎ合わせて、ようやく決定事項を一行にする。そういう後始末を、私は何度もやりました。

    最初は、特定の人のせいだと思っていました。余計な論点を持ち込む人。話を広げる人。「そういえば」で場を変える人。心当たりのある顔が、一人や二人は思い浮かぶはずです。

    でも、自分が会議の主催者になってからも、同じことが起きました。違うメンバー、違うテーマ、でも同じ感覚。

    そのとき、やっと気づきました。問題は、人ではなかった。

    私の会議が迷子になった日のこと

    あるプロジェクトで、複数部門の合意が必要な意思決定を持ち回りました。1時間の会議を設定し、問題・選択肢・推薦案をスライドに整理して臨みました。準備は十分のつもりでした。

    最初の10分は順調でした。ところが「この案は、海外拠点のケースでも使えるのか」という質問が出た。範囲外の話でしたが、いちおう答えました。次に「それなら社内規程との整合性はどうなる」という話になった。気づけば40分が経っていて、まだ本題の選択肢の比較に入れていませんでした。

    会議は延長して90分に。それでも「持ち帰りで検討」で終わりました。

    後日、なぜそうなったかを自分で振り返りました。会議が目指していた「今日決めること」は、私の頭の中にはありました。ただ、それを場の全員が共有できる形で、会議の最初に置いていなかった。だから最初の質問の時点で「これは今日の範囲外です」と返せなかった。そこから少しずつ、話が別の方向に流れていきました。

    「論点ドリフト」という現象

    会議や議論の論点が、気づかないうちに当初とは別の場所に移動していく。私はこれを論点ドリフトと呼んでいます。

    ドリフトは、誰かが悪意を持って起こすのではありません。善意の質問が、場を動かします。真剣な発言が、話を横に広げます。みんなが一生懸命だからこそ、迷子になる。

    そして特徴的なのは、ドリフトしている最中は誰も気づかないことです。話は盛り上がっている。発言も多い。でも会議後に「何も決まっていない」という感覚だけが残る。

    このドリフトには、3つのパターンがあります。

    ① 目的ドリフト:「何を決めるための場か」が消える

    会議が始まった時点では、目的はあります。でもそれが最初の10分で共有されず、話が進むにつれ「そもそもこれは何の会議だったか」が薄れていく。議論は続いているのに、目的地を誰も見ていない状態。

    ② 対象ドリフト:「誰の話をしているか」がズレる

    「この部署の話」で始まったはずが、いつの間にか「全社の話」になっている。「今回のプロジェクト」の話が、「うちの部門の慣例」の話にすり替わっている。対象が広がると、議論は深まらず、決定は遠のきます。

    ③ 粒度ドリフト:「どのレベルの話か」が混在する

    方針の確認をしたい会議で、実装手順の話が始まる。あるいは、手順を詰めたい場で「そもそもの目的は何か」という根本論が出てくる。抽象と具体が噛み合わない議論は、参加者全員がすれ違ったまま終わります。

    ドリフトは「注意力」では防げない

    論点ドリフトは悪意では起きない。善意の発言が、固定点のない場を動かす。だから注意力では防げない。仕組みだけが防ぐ。

    会議の後で「あの質問を流せばよかった」と後悔することがあります。でも同じ会議をやり直しても、また同じ場所で別の質問が出て、別のルートでドリフトします。

    防げるのは、仕組みだけです。

    会議の冒頭に、3つの固定点を置く。何を決めるか(目的)、何を扱い何を外すか(対象)、どのレベルの話をするか(粒度)。この3つが場に出ていると、話が流れ始めたとき「今の話は範囲外です」「それは粒度が違う議論です」と返せます。感情的にではなく、構造として。

    この3つの固定点を、どう置くか。次回、具体的な使い方を書きます。会議冒頭の1文、資料の書き出し、1行テンプレートまで。手を動かせる形で届けます。


    論点ドリフトが起きているとき、その場の誰も悪くありません。ただ、3つの固定点が置かれていない。それだけのことです。

    次回も届くように、この連載をフォローしておいてください。あなたの会議から、迷子を一つ減らすフレームをインストールできたら。


    ※「思考OSの作り方」シリーズを読んでいる方へ:次回紹介する3つの固定点は、DialogueでAIに渡す「軸」としても使えます。同じフレームが場面をまたいで動く。思考OSのモジュールの一つとして設計しています。


    📖 論点ドリフトを止める技術(全4回)

    • 第1回 会議で何も決まらないのは、なぜか ――「論点ドリフト」という正体 ← いまここ

    • 第2回 会議が脱線するのを、冒頭の1文で防ぐ

    • 第3回 「わかりやすい資料」が作れないのは、なぜか ――受信者を先に決める

    • 第4回 資料やメールが一発で伝わらないのは、なぜか ――送る前の3つの問い

    ▶ 次に読む:第2回「会議が脱線するのを、冒頭の1文で防ぐ」

    https://note.com/rioh_os/n/nb864459c2df1

    ▶ 全4回をまとめて読む:マガジン「論点ドリフトを止める技術」

    https://note.com/rioh_os/m/me85d5368e3da

    はじめての方へ。当メディアで最も読まれている記事はこちらです。
    ▶ AIに壁打ちしても浅い答えしか返らない理由
    https://note.com/rioh_os/n/nd0bb2166f141
    姉妹シリーズ「思考OSの作り方」(全5回・完結)もどうぞ。
    https://note.com/rioh_os/m/mc2e1d17acfee

    どこから読むか迷ったら、この1本から。症状から選べるようにしてあります。
    ▶ 会議も資料も、毎回ゼロから考えていませんか ――「思考OS」入門
    https://note.com/rioh_os/n/n226cb0de2fd8

     
     

    Rio.H

     
     
    会議・提案・育成の「なぜうまくいかないのか」を、性格ではなく設計の問題として解いています。考え方の型=思考OSの作り方を書いているnoteです。 入門記事 ▶ https://note.com/rioh_os/n/n226cb0de2fd8

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