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儲からないのに会社を大きくした社長の話――日本企業の失敗パターンが全部詰まっていた(笑)会社を売って引退した零細企業の社長。その続編



    儲からないのに会社を大きくした社長の話――日本企業の失敗パターンが全部詰まっていた(笑)

    会社を売って引退した零細企業の社長。その続編

    以前、ある零細企業の社長が、自分で育てた会社を売却した話を書いた。


    幸いなことに、その記事には「いいね」がついた。

    そこで今回は、もう少し踏み込んで、この会社がどのような経営をしてきたのかを振り返ってみたい。

    話を整理しているうちに、あることに気がついた。

    この会社、過去数十年間に日本企業が成功するための経営戦略だと言われてきたことを、これでもかというくらい実行しているのである(笑)。

    M&A、海外進出、外注化、低価格戦略、事業規模の拡大。

    どれも経済誌やビジネス書ではおなじみの話だ。

    それなのに、経営は決して楽ではなかった。

    いったい、なぜなのだろうか。

    なお、これは私が知る範囲での話である。社長の内心や詳しい財務内容まで知っているわけではない。以下では、実際に知っていることと、私なりの推測を分けて考えてみたい。

    もともとは買収する側だった

    この会社は、最初から現在の形だったわけではない。

    実は、二つの事業所を吸収して事業を拡大してきた会社なのだ。

    それでも従業員は数十人規模だった。

    いかに小さな業界、小規模な事業だったのかが分かるだろう。

    ただし、既存の事業所を買収するというのは、それなりに合理的な経営判断である。

    新しく事業を始めるには、顧客を開拓し、設備を用意し、人材を確保しなければならない。

    しかし、既存の事業所を取得すれば、顧客や取引関係、設備、人材などをまとめて引き継げる可能性がある。

    会社を大きくするには手っ取り早い方法なのだ。

    その買収がいつ行われたのか、どんな条件だったのかは知らない。

    しかし、社長が会社を大きくしたいという野心を持っていたことは、こうした経営の歩みからもうかがえる。

    景気に左右されない、将来有望な業界だった

    さらに興味深いことがある。

    この会社の業種は、一般的には景気に左右されにくいと考えられてきた。

    顧客の需要が安定していて、将来的にも市場の拡大が見込める。

    こう説明すれば、いかにも有望な事業に聞こえる。

    銀行に事業計画を提出するとしても、それなりに説得力のある話になるだろう。

    ところが、ここに大きな落とし穴がある。

    市場が拡大することと、その市場で商売をしている会社が儲かることは、まったく別の話なのだ。

    例えば介護事業を考えてみれば分かりやすい。

    日本では高齢化が進んでいる。

    将来的にも介護の需要は大きいだろう。

    しかも介護保険制度があり、公的な財源に支えられている。

    これだけ聞けば、ずいぶん安定したビジネスに思える。

    ところが現実には、倒産する介護事業者も少なくない。

    なぜか。

    人手が足りない。人件費が上がる。介護報酬は自由に決められない。利用者がいても採算が合うとは限らない。

    つまり、需要が安定していても、経営が安定するとは限らないのである。

    この社長の会社にも、似たような問題があったのではないかと思う。


    東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者の倒産は176件で過去最多。さらに休廃業・解散は653件に達している。


    会社を大きくするために中国へ進出した

    この社長は、国内の事業所を吸収するだけでは満足しなかった。

    さらに中国にまで事業を拡大したのである。

    いわゆる中国ビジネスだ。

    かつては日本企業の中国進出が盛んに推奨された時代があった。

    人件費が安い。製造コストを下げられる。国際競争力が高まる。

    そんな説明が繰り返されていた。

    しかし、考えてみれば中国に進出すれば必ず儲かるなら、誰も苦労しない。

    海外で事業を行うには、それなりの管理費用やリスクがある。

    現地の従業員、取引先、為替、品質管理、法律や商習慣。

    国内では発生しなかった問題も出てくる。

    さらに、この会社は国内でも安売り戦術を取っていた。

    安く仕事を受注するために海外でコストを下げる。

    しかし、せっかくコストを下げても、それ以上に販売価格を下げてしまえば利益は残らない。

    もちろん、中国事業そのものが失敗だったと断定できる資料は持っていない。

    ただ、海外進出が必ずしも利益の拡大につながらないことは、十分に考えられるのである。

    国内では外注先を全国に拡大した

    この会社は、さらに国内各地にも外注先を広げていった。

    単なる業務提携だったのか、資本関係まであったのかは分からない。

    ただ、全国に外注ネットワークを構築していたことは確かだ。

    これも、経営理論としては合理的である。

    自社で従業員を大量に雇う必要がない。

    必要なときに必要な仕事を外注すれば、固定費を抑えられる。

    個人事業者に仕事を任せれば、成果が収入に結びつくので意欲も高まる。

    そんな説明もできる。

    しかし、これにも問題がある。

    外注先に仕事を任せても、顧客に対する責任までなくなるわけではない。

    品質管理も必要だし、取引先との調整も必要になる。

    そして何より、安売りで仕事を取ってくれば、自社に残る利益は少なくなる。

    売上が増えても儲からない。

    それどころか、仕事が増えるほど忙しくなり、資金繰りまで苦しくなることがある。

    売上が増えたのに利益が減る不思議

    例えば、年間売上が1億円で、利益率が10%の会社があったとしよう。

    年間利益は1,000万円である。

    ところが、安売りして仕事を増やし、売上を1億5,000万円にした。

    社長としては大成功だ。

    しかし、利益率が3%に下がっていたらどうなるか。

    利益は450万円しか残らない。

    売上は5割増えたのに、利益は半分以下になってしまった。

    これでは何のために会社を大きくしたのか分からない。

    しかも事業拡大のために借金をしていれば、返済もしなければならない。

    会社の規模は大きくなり、社長の仕事も責任も増えた。

    しかし、手元に残るお金は減ってしまった。

    これはあくまでも架空の数字だが、今回の会社の経営を考えるうえでも参考になる話だと思う。

    もう少し頑張れば何とかなるという罠

    ここからは私の想像である。

    社長も相当に悩んだのではないだろうか。

    中国に進出すれば儲かると言われた。

    外注化すれば効率が上がると言われた。

    事業所を買収すれば規模の経済が働くと言われた。

    価格を下げれば仕事が増えると言われた。

    それなのに、どうして利益が残らないのか。

    もしかすると、社長はこんなふうに考えていたのかもしれない。

    「まだ規模が小さいからだ」

    「もう少し売上を増やせば固定費を回収できる」

    「中国事業も、もう少し頑張れば軌道に乗る」

    「ここで撤退したら、これまでの投資が無駄になってしまう」

    こうして、さらに事業を拡大する。

    しかし、利益はなかなか増えない。

    経営学では、こうした状況をサンクコストへのこだわりや、コミットメントのエスカレーションという考え方で説明することがある。

    簡単に言えば、うまくいかなかった戦略を、さらに頑張って続ければ成功すると考えてしまうことだ。

    もちろん、実際の社長がそう考えていたかは分からない。

    ただ、経営者なら陥り得る罠だと思う。

    銀行やコンサルタントは何をしていたのだろうか

    私は、この社長が本当にすべてを自分一人で考え、実行したのだろうかという疑問を持っている。

    従業員が数十人という小さな会社である。

    それなのに、事業所の買収、中国進出、全国への外注展開まで行っている。

    普通に考えれば、外部の専門家の支援が必要になるような話だ。

    銀行、税理士、コンサルタント、M&A仲介業者、海外進出を支援する業者などが関与していた可能性はある。

    ただし、具体的に誰が関与し、何を助言したのかは知らない。

    だから、誰かに騙されたと断定するつもりはない。

    それでも、考えておきたいことがある。

    銀行は融資によって利息を受け取る。

    コンサルタントは助言の報酬を受け取る。

    M&A仲介業者は取引成立によって手数料を受け取る。

    もちろん、こうした人たちも顧客企業の成功を望んでいる場合が多い。

    しかし、彼らの収益構造と、社長自身の利益が常に一致するとは限らない。

    仮に事業拡大に失敗しても、借金を返し、従業員の生活に責任を持つのは社長である。

    成功すれば関係者みんなの手柄。失敗すれば社長の自己責任。

    そんな構造になっていなかっただろうか。

    私はそこが気になるのである。

    会社の価値は社長だけが決めるものではない

    さて、ここで少し違う話をしよう。

    例えば、30年前に1980年代のトヨタ・スプリンタートレノを60万円で買った人がいたとする。

    その車を倉庫にしまったまま、長い間放置していた。

    ところが、ある日突然、知らない人が訪ねてきた。

    「その車、200万円で売ってくれませんか?」

    持ち主は驚くだろう。

    古い中古車に200万円も払う人がいるなんて、夢にも思っていなかったからだ。

    そこで中古車市場を調べてみると、漫画の人気などもあって、同じような車が300万円で取引されていた。

    もちろん、これは説明のための架空の話だが、古い車の価値が後から見直されることは実際にある。

    会社も同じである。

    例えば、60年前に東京の大田区羽田に土地を購入して工場を建てた会社があったとしよう。

    経営は苦しい。

    設備も古い。

    社長は、もう廃業するしかないと考えている。

    ところが、会社が所有している土地を現在の価格で評価したらどうだろう。

    帳簿には、原則として取得原価を基礎とした金額が載っている。

    しかし、市場価格は当時と大きく違っている可能性がある。

    事業自体には魅力を感じない買い手でも、その土地には大きな価値を見いだすかもしれない。

    もちろん、借入金や税金なども考慮する必要があるので、土地の時価がそのまま会社の売却益になるわけではない。

    それでも、会社の価値が現在の利益だけで決まるものではないことは分かるだろう。

    今回の社長の会社が不動産を持っていたという話ではない。

    ここで言いたいのは、売り手が考える会社の価値と、買い手が考える会社の価値は違うということだ。

    この会社にも、長年の顧客、事業の実績、国内外の取引ネットワークがあった。

    社長には負担だったものが、別の企業にとっては魅力的な経営資源だった可能性がある。

    買う側だった社長が、最後には売る側になった

    そして、今回の話はここにつながる。

    もともと他の事業所を吸収して会社を大きくした社長が、最後には自分の会社を売却した。

    つまり、買う側だった人が売る側になったのである。

    これを経営の失敗だと考える人もいるかもしれない。

    しかし、私は必ずしもそうは思わない。

    会社が倒産してすべてを失ったわけではない。

    少なくとも、会社に価値を認める買い手が現れ、売却が成立した。

    売却の条件も分からないので、社長がどれだけの利益を得たかは知らない。

    ただ、会社を手放すという選択肢を持てたことには意味があると思う。

    前にも書いたが、創業者にとって自分の会社は子どものようなものだ。

    簡単に捨てられるものではない。

    それでも、いつかは引退しなければならない。

    自分の人生を会社と一緒に終わらせる必要はないのだ。

    日本の経営者は何のために会社を大きくするのか

    最後に、今回の話で最も考えさせられたことを書いておきたい。

    日本では長い間、会社を大きくすることが成功だと思われてきた。

    売上を増やす。

    従業員を増やす。

    全国に進出する。

    海外にも進出する。

    そして大きな会社の社長になる。

    確かに立派に見えるだろう。

    しかし、従業員10人で毎年1,000万円の利益を安定して出す会社と、従業員50人で売上は大きくても利益がほとんど残らない会社なら、どちらが経営者にとって幸せなのだろうか。

    今回の社長は、会社を大きくしようと努力した。

    その過程でさまざまな経営戦略を取り入れた。

    しかし、経営は容易ではなかった。

    そして最後には会社を売却した。

    今振り返ってみると、この社長は日本の経営者が成功するために必要だと言われてきたことを、実に忠実に実行した人だったのかもしれない。

    だからこそ、私はこの話を単純な失敗談として片付けたくない。

    問題は社長の努力が足りなかったことではなく、そもそも努力する方向が正しかったのか、ということなのである。

    会社を大きくすることと、会社を儲かる状態にすることは違う。

    市場が拡大することと、その市場で利益を出せることも違う。

    そして何より、会社が大きくなることと、社長自身が幸せになることも違う。

    会社を大きくするために働いていたはずが、いつの間にか大きくなった会社を維持するために働くようになる。

    これほど皮肉な話もないだろう。

    それでも、最後には会社を売って引退できた。

    私は、それはそれで一つの立派な着地点だったと思っている。

    結局のところ、会社は社長の人生を豊かにするためのものであって、社長の人生を犠牲にしてまで大きくしなければならないものではないのだ。


    さらに続編を書きました。
    こちらもどうぞ。


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    お金持ちになる方法より、お金持ちになりたがる人の話が好きです。 政治、経済、投資、会社経営から日常のくだらない話まで。世の中の常識を疑いながら、思いつくままに書いています。 AIは文章整理の相棒。考えているのは人間です(笑)。

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