
前原光榮商店の傘 モノとルキ#53
忘れ物ランキングの一位は、傘だと思う。
電車に置き忘れたり、出先で雨が止んで忘れてしまう。
美術館入口で預けた傘を忘れて帰り、
帰宅してポケットに手を入れたら、
ナンバー入りの引換プレートが出てきたこともある。
そんなわけでビニ傘を使うようになった。
壊れたらまた買えばいい。
ところがビニ傘にはビニ傘の生き様がある。
コンビニで傘立てに入れておくと、
僕の傘がなくなって別の傘が残っている。
EVAと刻印されていたはずが、残っているのはAPO。
「どれも一緒でしょ」という人が、すっと抜いていったのだろう。
僕は自分のビニ傘を嗅ぎ分ける嗅覚がある。
他人のビニ傘には、休み時間にクラスメイトが
座っていた席みたいな違和感のある温度が残っている。
コンビニのたびにアップデートしていく、
ビニ傘わらしべ長者がきっといる。
百円から始まり、三百円になり、五百円のジャンプ式を経て、
コウモリ傘へと羽ばたく。
本気で選んだ一本を持てば意地でもなくさないのでは、
と仮説を立てた。
二子玉川高島屋、新宿伊勢丹、大丸東京、、、
何ヶ月も傘選びの旅は続いた。
梅雨が近づいたので折り畳み傘の修理に
横浜の傘地蔵へ行った。
傘地蔵を擬人化したような店主に
「良い傘、何がいいですかね」
と尋ねると、コンマ数秒待たずに答えが返ってきた。
「前原です!」
僕の傘の旅はイギリスでもイタリアでもなく、
浅草が終点だった。

👆🏼雨の日がテーマの曲作りました😉👆🏼