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酵母の世界 No.25-1|Aureobasidium pullulans:植物の表面で病原菌と競う酵母様菌

    このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
    ★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


    前回は、木の中でアンブロシア甲虫と暮らす Ambrosiozyma monospora(アンブロシオザイマ・モノスポラ) を紹介しました。

    今回は、木の中から葉や果実の表面へ移ります。

    一見すると何もない植物の表面ですが、実際には細菌や菌類など、多くの微生物が暮らしています。

    その代表的な住人酵母の一つが、Aureobasidium pullulans(オーレオバシディウム・プルランス)です。

    この菌は酵母のような細胞でも増えますが、菌糸もつくるため「酵母様菌」と呼ばれます。

    植物の表面は、乾燥したり濡れたりを繰り返し、利用できる栄養も限られています。
    さらに、そこには多くの微生物が集まるため、場所や栄養をめぐる競争も起こります。

    では、こうした環境に暮らす A. pullulans は、他の菌とどのように競争するのでしょうか?


    植物の表面は微生物どうしの競争の場

    植物の表面では、利用できる糖やアミノ酸は限られ、水分も大きく変化します。
    そのため、微生物にとっては激しい争いが繰り広げられています。

    ところが、果実に傷がつくと状況が変わります。

    傷口からは植物の細胞に含まれていた豊富な栄養分が漏れ出すため、微生物にとって一時的に暮らしやすい場所になります。

    そこで重要になるのが、誰が先にその場所へ定着するかです!

    モモを腐らせる植物病原菌 Monilinia laxa (モニリニア・ラクサ) を用いた研究では、A. pullulans が果実の傷口に素早く増殖すると、この病原菌が利用できる栄養や空間が少なくなり、感染が抑えられることが示されました。

    つまり、A. pullulans は他の菌が増えるために必要な「場所」と「資源」を先に確保することで、他者が定着しにくい環境をつくっているのです。


    鉄まで奪い合う

    さらに、奪い合うのは糖やアミノ酸だけではありません!

    微生物が生きるためには鉄も必要です。

    そこで A. pullulans の一部の株は、周囲から鉄を捕まえる物質をつくります。
    このような物質をシデロフォアと呼びます。

    先ほどの植物病原菌 M. laxa との研究では、鉄が少ないほど病原菌の胞子発芽や菌糸の成長が強く抑えられました。
    つまり、A. pullulans がシデロフォアによって鉄を確保し、病原菌が利用できる鉄を減らすことで、M. laxa の生育が抑えられます。

    ほかにも、A. pullulansは表面に集団で定着する「バイオフィルム」の形成や、ほかの菌の細胞壁に作用する酵素を放出するなど、複数の仕組みが他の菌の抑制に関与すると考えられています。


    微生物の競争を農業に利用する

    そして私たち人間は、この自然界で起きている競争を農業にも利用しているのです!

    生きた微生物や、その微生物どうしの関係を利用して植物の病気を抑える方法を「生物防除」と呼びます。

    A. pullulans の特定の株は実際に生物防除剤として利用されており、果実や花に先に定着させることで、病原菌が入り込む余地を減らしています。

    さらに面白い研究成果もあります!

    ある研究では、マルハナバチにA. pullulans をイチゴ畑へ運んでもらう方法が試されました。
    花を訪れるハチに菌を付着させ、花から花へ届けてもらうのです。
    その結果、イチゴの灰色かび病が減り、収穫後の日持ちも改善しました!

    このように、A. pullulansの生態を応用する試みも盛んに行われているのです!


    おわりに

    Aureobasidium pullulans(オーレオバシディウム・プルランス)を知ると、植物病害の見え方が少し変わります。

    植物と病原菌だけを見ていると、「病原菌をどう退治するか」と考えがちです。

    しかし植物の表面には、病原菌が来る前から多くの微生物が暮らし、場所や栄養をめぐって競争しています。

    病原菌を直接倒さなくても、そこに暮らす微生物の力を利用することで植物を守ることができる。

    生物防除とは、自然界にすでに存在する微生物どうしの関係を、農業に生かす技術でもあるのです。


    次回は、南極をはじめとする寒冷地から見つかる酵母 Vishniacozyma victoriae(ビシュニアコザイマ・ビクトリアエ)を紹介します!

    低温の中で生きる酵母は、どのように細胞を働かせているのでしょうか?
    人間みたいに服でも着ているのでしょうか?
    寒冷環境への適応と、その能力が植物や産業利用へどうつながるのかを見ていきたいと思います。


    ★過去の様々なトピックの記事を全てまとめてます。詳細はこちらから↓

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    参考文献

    Zalar P, Gostinčar C, de Hoog GS, et al. Redefinition of Aureobasidium pullulans and its varieties. Studies in Mycology. 2008;61:21–38.

    Di Francesco A, Ugolini L, D'Aquino S, Pagnotta E, Mari M. Biocontrol of Monilinia laxa by Aureobasidium pullulans strains: Insights on competition for nutrients and space. International Journal of Food Microbiology. 2017;248:32–38.

    Di Francesco A, Baraldi E. How siderophore production can influence the biocontrol activity of Aureobasidium pullulans against Monilinia laxa on peaches. Biological Control. 2021;152:104456.

    Freimoser FM, Rueda-Mejia MP, Tilocca B, Migheli Q. Biocontrol yeasts: mechanisms and applications. World Journal of Microbiology and Biotechnology. 2019;35:154.

    Iqbal M, Jützeler M, França SC, et al. Bee-Vectored Aureobasidium pullulans for Biological Control of Gray Mold in Strawberry. Phytopathology. 2022;112:232–237. 

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    アメリカ在住の研究者 × 子育てパパ。 家族と暮らす海外生活や、研究と育児の葛藤などを発信中。 海外で働く・家族を支えるあなたに、共感とヒントを届けられたら嬉しいです。

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