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Photo bymiike_neeko

「おめでとうございます」を貰うまで

    雨の月曜日は、よく電車が遅れる

    今日もそんな日だ


    通勤途中の駅で、「運転間隔調整」のため電車が少しの間停車していた

    ふと、窓の外を見ると、区の行政出張所があった

    その前を通る人に反応して、自動ドアが開いて窓口が見えた

    昔、一度だけ来たことがある
    婚姻届を貰いに一度だけ



    婚姻届を提出した日を思い出す

    天気の良い日だった

    前日に、両親に証人の欄を書いてもらったばかりの紙を、彼と2人で役所に出しに行った

    出しに行ったのは、実家の近くの区役所だった


    必要書類は事前に何度も確認した
    漏れはないはず

    担当してくれた、窓口の女性はとても感じが良かったが、ずっと眉を顰めた顔で書類を見ていた


    後ろには忙しなくファイルのページをめくって、何かを探している様子の人が居た

    そのファイルを数人で確認したり話し合ったり、

    しばらく待った


    しばらく待って

    「ご提出頂いた書類は、正しいものに間違い無いのだと思うのですが……


    まただ

    わたしの人生はいつもそう
    一発で上手く行った試しがない


    最後まで話を聞いたけど、ずっと泣き出しそうだった



    ……間違い無いのだと思うのですが、こちらではそれが確認出来ません。
    ですので、受理ではなく、お預かりして確認させていただくという形になります。」


    彼の国との国際結婚の前例がその役所には無かったらしく、その場で判断できる術が無いのだと説明された
    書類の見本等を取り寄せて確認が取れたら連絡します、と


    世の中の話と全然違う、と思った
    記念日の日にちを選んだり、大安吉日に提出したり
    婚姻届を提出する日は、もっと気持ちよく事が運ぶものだと思っていた


    「よろしくお願いします」と言うしかなかったわたし達は、きっとみんなが受け取っている『おめでとうございます』は言われずに、一度その場から去った


    「わたしのせいだ。ごめんね」

    「いつもそうだから。
     受験も、就職試験も、
     いつも1回目はダメだったから…」

    彼が理解出来てるかわからないくらいの早口で、
    自分の心を落ち着かせるために、
    2回目は上手く行くと自分に言い聞かせるために、
    只々、話し続けた

    きっと彼も同じくらい落ち込んでいたと思うけど、よく覚えていない

    ただ、いつもわたしが落ち込んでしまうと言ってくれる「大丈夫。全部オーケーになるよ」とだけ言ってくれた




    電話は予想より早く鳴った

    その日のうちに日本での婚姻証明を持って大使館にも行こうと思っていたのに、
    いきなり躓いて、やるべき事が分からないまま区役所を出て、ほんの少しした時


    「まだ近くに居られますか?」

    「もう確認出来たのですか?」

    「いただいた書類に不備があるとは考えられませんので、受理させていただきます。
    窓口にお戻りいただくことは出来ますか?」


    急いで戻ったわたし達に、さっきと同じ女性が、同じようにとても感じ良く、電話口でしてくれた説明を、彼にも理解できるように丁寧にもう一度説明してくれた

    「おめでとうございます」


    噂に聞いていた言葉を貰って
    わたし達は夫婦になれた





    この時のことを時々思い出す

    その度にいつも、
    最初にわたし達が去った後の役所ではどんな話し合いがされたんだろうと思う


     
     

    aoiur

     
     
    横浜で働きながら暮らしています。 仕事はパタンナー。 大きな夫と、大きく育っている息子がいます。 生活や仕事のことを少しずつ。

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