
マッチョ華道 『一日花』 サムライ・スキャンダル外伝 けん & サエグサ 編
『文章+マンガ』
⇒ スキ頂けると励みになります!
『一日花』
庁舎の裏、給湯室の隣の三畳。そこがサエグサの華道場だった。
「遅い」
振り向きもしない。百八十八センチの背中が、三畳をほとんど塞いでいる。魔法少女の刺繍が、蛍光灯の下で妙に静かに光っていた。
「すんません。現場が長引いて」
ケンは十手をベルトから抜き、框に置いた。かわりに鋏を持つ。サエグサの鋏だ。ケンの手には少し大きい。
「今日の花材は」
差し出されたのは、夏椿の枝が一本。白い花が三つ、ついている。
「沙羅双樹だ」
「へえ。朝に咲いて、夕に落ちるってやつですか」
「知っていたか」
「オレ、そういうの好きなんで」
サエグサは答えなかった。鼻から息を抜いただけだ。それが笑ったということを、ケンは四年かけて覚えた。
枝を水盤に留める。ケンの指は太く、節が固い。人を縛るための指だ。縄を扱う指で、茎を扱う。
「切れ」
「え」
「この枝だ。ここから上を」
指されたのは、一番いい枝だった。花が二つ、一番きれいについている方。
「……これ、落としたら、残るの一輪っすよ」
「もったいなくないすか」
「もったいないから切る」
ケンは鋏を持ったまま動かなかった。
花だけは切る。
「サエグサさん」
「オレら、人は殺さないのに、花は殺すんすね」
「—活けるというのは、殺すということだ」
低い声だった。
「水を吸わせて、形を与えて、人に見せる。それはもう野に生きていた花じゃない。俺たちが殺して、俺たちの都合で、もう一度生かしてる。その覚悟がないなら鋏を置け」
ケンは、鋏を置かなかった。
ぱち、と音がした。
落ちた枝が畳に転がる。白い花が二つ、上を向いたまま、もう水を吸わない。
残った一輪だけが、水盤の上で、傾いだまま立っている。
「…きれいっすね」
「二つ落としたからだ」
「わかってますよ」
ケンは膝を抱えて座り込み、それを眺めた。強面の上司が、その隣にどっかと腰を下ろす。狭い三畳が、さらに狭くなる。肩が触れた。どちらもどかさなかった。
「明日には落ちますよ、これ」
「落ちる?」
「じゃあ今日のうちに、ちゃんと見とかないとな」
サエグサは水盤を見たまま言った。
しばらく二人とも黙っていて、蛍光灯だけが鳴っていた。
⇒よろしければマンガも、ご覧ください。



#毎週ショートショートnote
#マッチョ華道
#AIマンガ #AIイラスト