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事業計画の作り方①|ビジョン、市場、ビジネスモデルとKPIの設計 #04

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第3回では、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」が、事業計画を出発点に1本の線でつながっていることを解説しました。
    架空の会社A社の例では、事業計画の数字を1つ変えるだけで、調達額も、投資家に渡す株式の比率も、ピッチブックのストーリーも変わることを見てきました。
    そして、3点セットがバラバラだと、投資家は「この経営者は自社の数字を把握しているのか」と不安を感じることをお伝えしました。

    今回のテーマ

    第4回となる今回から、3点セットの具体的な作り方に入ります。
    最初に取り上げるのは、3点セットの出発点である事業計画です。

    事業計画は2回に分けて解説します。
    今回は、数字を入れる前に固めておくべき土台である「定性戦略」として、ビジョン、課題と顧客、市場規模、ビジネスモデル、競合と優位性、そしてKPIとマイルストーンの設計を扱います。
    次回の第5回では、この土台をもとにした数値計画の作り方を解説します。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    今回も登場するA社

    今回も、前回登場した架空の会社A社を例に考えていきます。
    前回は数字だけの登場でしたので、少し設定を加えておきましょう(設定と数字はすべて説明のための仮のものです)。

    • 事業内容:飲食店向けに、アルバイトのシフト作成と勤怠管理をスマートフォンで完結できるクラウドサービス(SaaS)を提供

    • ステージ:シード期。初期の顧客に使ってもらいながら、PMFを目指している

    • 前回の設定:毎月1,000万円の資金を使う計画で、シリーズAまでの18か月分として2億円を調達する

    前回は「事業計画の数字が変わると、ほかの資料も変わる」という話をしました。
    今回は一歩さかのぼり、その事業計画の数字は、そもそも何を土台にして決まるのかを見ていきます。

    事業計画は「数字の表」ではない

    事業計画というと、売上や費用が並んだ表を思い浮かべる方が多いかもしれません。
    しかし、事業計画には大きく2つの部分があります。

    • 定性戦略(言葉で示す部分):どこへ向かうのか、誰のどのような課題を解くのか、どのように稼ぐのかといった、事業の考え方

    • 定量戦略(数字で示す部分):その考え方を、売上や費用、必要な資金といった数字に置き換えたもの

    定量戦略は、定性戦略で描いた事業を数字に「翻訳」したものです。
    定性戦略があいまいなまま数字だけを作ると、投資家から「この売上の前提は何ですか」と聞かれたときに、答えられなくなってしまいます。

    だからこそ、数字を入れる前に、まず土台となる定性戦略を固めておく必要があります。
    ここからは、その土台を順番に見ていきましょう。

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    ビジョン|どこへ向かう会社なのか

    最初に固めるのは、会社がめざす姿、つまりビジョンです。

    ビジョンでは、「何年後に、どのような会社になっていたいのか」と「なぜ自社がそれをやるのか」の2つを言葉にします。
    ここが定まっていないと、事業計画のどの数字も、何のための数字なのかがぼやけてしまいます。

    投資家は、ビジョンを聞きながら「この会社が上場するとき、どのような会社になっているか」を想像しています。
    第2回でお伝えしたとおり、VCは上場やM&Aでのリターンを前提に出資を判断しているからです。
    目の前の事業だけでなく、その先にどこまで広がるのかを示せるかどうかが問われます。

    A社であれば、たとえば「飲食店で働く人の時間の使い方を変え、人手不足に悩む飲食業界の生産性を高める」といったビジョンが考えられます。
    シフト管理は入口にすぎず、その先に採用や給与計算などへ広げていく構想を描けると、投資家は成長の余地をイメージしやすくなります。

    課題と顧客|誰の、どのような課題を解くのか

    次に整理するのは、「誰の、どのような課題を解くのか」です。
    ここでは、次の3つを明確にします。

    1. 顧客は誰か:どのような顧客が、いちばん強くその課題を感じているのか

    2. 課題はどれほど深刻か:その課題によって、顧客はどれだけの時間やお金を失っているのか

    3. いまはどう解決されているのか:顧客は現在、その課題にどう対処しているのか

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    A社の場合、顧客はアルバイトを多く抱える飲食店の店長です。
    毎月のシフト作成に何時間もかかり、急な欠勤の調整にも追われている。
    そして多くの店舗では、いまも紙やスプレッドシート、メッセージアプリでのやり取りでなんとかしのいでいる、という状況が考えられます。

    ここで大切なのは、課題の存在を裏づける材料を持っておくことです。
    顧客へのヒアリングの結果や、実際に使ってもらった初期顧客の声などがあると、「本当にその課題はあるのか」という投資家の疑問に答えられます。
    プレシードやシードの段階では、この裏づけが事業計画の説得力を大きく左右します。

    市場規模|その市場はどれだけ大きいのか

    課題と顧客が定まったら、次はその市場がどれだけ大きいのかを示します。
    ここでよく使われるのが、TAM・SAM・SOMという3段階の考え方です。

    • TAM(Total Addressable Market):その製品・サービスが理論上獲得しうる、市場全体の規模

    • SAM(Serviceable Available Market):そのうち、自社の事業モデルで実際に狙える市場の規模

    • SOM(Serviceable Obtainable Market):そのうち、一定の期間で現実的に獲得できると見込む市場の規模

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    A社で考えてみましょう(数字はすべて仮のものです)。
    仮に国内の飲食店が50万店あり、A社のサービスの年間利用料が1店舗あたり12万円だとすると、TAMは600億円です。
    そのうち、アルバイトを多く抱え、シフト管理の負担が大きい店舗を20万店とすると、SAMは240億円。
    さらに、5年間で獲得をめざす店舗を2万店とすると、SOMは24億円となります。

    市場規模は「上から」と「下から」の両方で考える

    市場規模の推計には、大きく2つの方法があります。

    • 上から推計する方法:公的な統計や調査会社のレポートなどの数字から、市場全体を絞り込んでいく

    • 下から積み上げる方法:「対象となる顧客の数×1顧客あたりの単価」のように、自社の事業の数字から積み上げていく

    投資家により説得力をもって伝わるのは、下から積み上げた推計です。
    自社の顧客と単価にもとづいているため、事業計画の数字ともつながりやすくなります。

    反対に避けたいのは、「関連市場の規模は数兆円」といった大きな数字だけを示すことです。
    市場が大きいことは魅力の1つですが、根拠なく大きな数字を置いても、投資家は「自社が実際に狙う市場を理解していない」と受け止めてしまいます。

    ビジネスモデル|誰から、どのようにお金をいただくのか

    市場の大きさを示したら、その市場からどのように収益を得るのか、つまりビジネスモデルを整理します。

    ここで押さえておきたいのが、売上をいくつかの要素の掛け算に「因数分解」する考え方です。
    A社のように月額で利用料をいただくサービスであれば、売上は次のように分解できます。

    売上 = 契約店舗数 × 1店舗あたりの月額単価 × 継続する期間

    さらに、契約店舗数は「新たに獲得した店舗数」と「解約した店舗数」に分けられます。
    このように売上を因数分解しておくと、売上を伸ばすためには何を伸ばせばよいのか、どこに課題があるのかが見えてきます。

    この売上の因数分解は、このあと解説するKPIの設計と、次回の数値計画の土台になります。
    ビジネスモデルを言葉で説明できるだけでなく、「売上がどのような要素の掛け算で成り立っているのか」まで整理しておくことが大切です。

    競合と優位性|なぜ自社が勝てるのか

    ビジネスモデルとあわせて、競合と自社の優位性も整理しておきます。

    ここでよく見かけるのが、「競合はいません」という説明です。
    新しい市場に挑戦しているという自負の表れかもしれませんが、投資家には逆効果になることがほとんどです。
    競合がいないということは、市場が存在しないか、市場を十分に調べていないかのどちらかだと受け止められてしまうからです。

    また、競合は同じようなサービスを提供する会社だけではありません。
    A社にとっては、ほかのシフト管理サービスだけでなく、顧客が現在使っている紙やスプレッドシート、メッセージアプリも競合です。
    顧客がいまのやり方を変えてでもA社のサービスを選ぶ理由は何か、という視点で考える必要があります。

    競合と比べたうえで、自社が選ばれる理由と、その強みが簡単には真似されない理由を示せると、投資家は「この会社が勝ち残れるか」を判断しやすくなります。

    KPIの設計|事業の進み具合を測る指標を決める

    土台の仕上げとして、事業が計画どおりに進んでいるかを測るための指標、つまりKPI(重要業績評価指標)を設計します。

    売上の因数分解から「KPIツリー」をつくる

    KPIを設計するときに役立つのが、先ほどの売上の因数分解を、さらに細かく枝分かれさせていく「KPIツリー」という考え方です。
    A社であれば、次のように分解できます。

    • 売上

      • 契約店舗数

        • 新たに獲得した店舗数(=商談の件数 × 成約率)

        • 解約した店舗数(=前月の契約店舗数 × 解約率)

      • 1店舗あたりの月額単価

        • 基本プランの料金

        • 追加機能(オプション)の利用率

    こうして因数分解すると、「売上を伸ばすには、商談の件数を増やすのか、成約率を上げるのか、解約を減らすのか、単価を上げるのか」という打ち手が具体的に見えてきます。
    そして、それぞれの要素が、日々追いかけるべきKPIの候補になります。

    ステージによって、重視されるKPIは変わる

    第2回でお伝えしたように、ステージが進むほど投資家が見るものは変わります。それに合わせて、重視すべきKPIも変わっていきます。

    • シード期:PMFに近づいているかを示す指標が中心です。A社であれば、導入した店舗が使い続けているか(継続率)や、どれだけ頻繁に使われているか(利用頻度)などです。

    • シリーズA:成長に再現性があるかを示す指標が重視されます。代表的なのが、顧客1件を獲得するための費用(CAC)と、顧客1件が契約期間全体でもたらす利益(LTV)の関係、いわゆるユニットエコノミクスです。LTVがCACの3倍以上あることが、1つの目安とされることがよくあります。

    • シリーズB以降:事業拡大の効率性や、組織の生産性を示す指標も加わります。

    KPIは多ければよいというものではありません。
    いまのステージで、次のラウンドに向けて何を証明すべきかを考え、本当に追いかけるべき指標を絞り込むことが大切です。

    マイルストーン|次のラウンドまでに何を証明するのか

    土台づくりの最後は、マイルストーンの設定です。
    設計したKPIをもとに、「次のラウンドまでに、どの数字を、いつまでに、どこまで伸ばすか」を決めます。

    第2回で、各ラウンドの資金調達は「次のマイルストーンまでの資金」だとお伝えしました。
    ここで決めるマイルストーンこそが、その「次のマイルストーン」です。

    A社で考えてみましょう(数字はすべて仮のものです)。
    A社はいま、300店舗と契約しており、月額単価は1万円、毎月の売上は300万円です。
    シリーズAで評価してもらうために、18か月後のマイルストーンを次のように設定したとします。

    • 契約店舗数を2,000店舗に伸ばし、毎月の売上を2,000万円にする

    • 毎月の解約率を2%以下に抑える

    • LTVがCACの3倍以上になる獲得の仕組みをつくる

    このマイルストーンが決まると、そこに到達するために、営業担当を何人採用し、広告にいくら使い、開発にどれだけ投資するのかを考えることができます。
    そうして積み上げた費用が、前回の「毎月1,000万円、18か月で2億円」という調達額の根拠になります。

    つまり、今回つくった土台から、マイルストーンを経て、事業計画の数字が生まれる。
    これが、事業計画の定性戦略と定量戦略をつなぐ流れです。

    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. 事業計画の定量戦略は、定性戦略で描いた事業を数字に「翻訳」したものである。数字を入れる前に、定性戦略としてビジョン、課題と顧客、市場、ビジネスモデル、競合と優位性という土台を固めておく

    2. 売上を因数分解し、KPIツリーをつくることで、売上を伸ばすための打ち手と、追いかけるべきKPIが見えてくる。重視すべきKPIはステージによって変わる

    3. KPIをもとに「次のラウンドまでに何を証明するか」というマイルストーンを決める。そこに到達するための費用の積み上げが、調達額の根拠になる

    自社の事業計画を確認するためのチェックリスト

    今回の内容をもとに、自社の事業計画の土台を確認してみてください。

    • 何年後にどのような会社になっていたいのか、そしてなぜ自社がそれをやるのかを、言葉で説明できるか

    • 顧客は誰か、その課題はどれほど深刻か、いまどう解決されているかを説明でき、それを裏づける材料があるか

    • 市場規模を、自社の顧客数と単価から積み上げて説明できるか

    • 売上を、どのような要素の掛け算で成り立っているかに因数分解できているか

    • 「競合はいない」ではなく、競合と比べた自社の強みを説明できるか

    • いまのステージで追いかけるべきKPIが、絞り込まれているか

    • 次のラウンドまでに「どの数字を、いつまでに、どこまで伸ばすか」が決まっているか

    すべてに自信をもって答えられれば、数値計画に進む準備は整っています。

    次回予告

    次回は「事業計画の作り方②|数値計画(PL・資金計画)と前提条件の置き方」です。
    今回つくった土台とA社のマイルストーンをもとに、損益計画と資金計画をどのように組み立てるのか、そして投資家に納得してもらえる前提条件をどう置くのかを解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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