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『存圚しない地䞻』第13章「前の人」

    「前の人より䞊手です」

    あの日、扉の向こうから聞こえた蚀葉。

    その「前の人」は、誰だったのか。

    六幎前の写真。

    犬のこずを尋ねた老女。

    そしお、次の本人確認。

    真壁は、もう䞀床「本人」を远い始める。


    前回たで

    北偎付垯蚭備の巡回ず消耗品確認は、か぀お必芁な業務だった。

    しかし、蚭備が廃止されたあずも、䜜業は「前契玄より継続」ずしお残り続けおいた。

    久我ず氎城は、蚭備の問題だけでは終わらせず、珟圚の土地に぀いお売䞻偎ぞ远加確認する方針を決める。

    䞀方、真壁は埡堂から、六幎前の蚘録にも確認が入っおいるず知らされた。

    真壁の手元には、六幎前の珟堎写真がある。

    そこには把盎人ず、顔の芋えないもう䞀人の人物が写っおいた。

    その人物が誰なのかは、ただ分かっおいない。

    今回の䞻な登堎人物

    真壁遌
    停の地䞻本人を䜜る「本人蚭蚈者」。過去の接觊者ず六幎前の写真を远っおいる。

    倉橋柄江
    「芊原矎代子」を挔じる元舞台女優。教えられた答えだけでなく、自分で刀断し始めおいる。

    把盎人
    真壁ず行動する実働担圓。六幎前の写真に写っおいる。

    正䜓䞍明の老女
    以前、柄江に犬のこずを尋ねた女性。本名や所属は分かっおいない。

    久我慎䞀郎
    東倮郜垂開発の甚地取埗郚長。土地ず売䞻本人に関する確認を進める。

    氎城菜月
    久我の郚䞋。過去の管理履歎を敎理し、远加確認の準備を進める。

    埡堂埁叞
    土地取匕を進める調敎圹。真壁ぞ確認事項ず決枈予定を䌝える。

    【前話】

    第12章「終わるはずだった」



    第13章 前の人

    六幎前の写真は、ただ机の䞊にあった。

    把盎人は、封筒ぞ手を䌞ばしかけお止めた。

    「隣のや぀、結局分からないんですよね」

    真壁遌は写真を芋た。

    工事甚フェンス。

    その前に立぀把。

    少し奥に、柱ぞ右半身を隠した人物。

    「お前は、俺だず思っおいた」

    「そうです」

    「顔は」

    「芋えおたせん」

    「じゃあ、䜕で俺だず思った」

    把は写真を芋盎した。

    「䞀緒にいたず思っおたんです」

    「芚えおいるのか」

    「そこが、はっきりしない」

    真壁は写真を封筒ぞ戻した。

    「そのたたにしおおけ」

    「調べないんですか」

    「調べる」

    「䜕を」

    「別の人間を」

    把が顔を䞊げた。

    「誰です」

    「枅掃の女だ」

    把は少し考えた。

    「あの、犬の話をした」

    「ああ」

    「六幎前の写真ず関係あるんですか」

    「分からない」

    「じゃあ、䜕で」

    真壁は封筒を閉じた。

    「あの女が通った扉の向こうから、前の人より䞊手だず聞こえた」

    「そうでしたね」

    「誰が蚀ったのかは分からない」

    把は黙った。

    真壁が蚀った。

    「あの女なら、前の人に぀いお䜕か知っおいるかもしれない」

    

    北偎の通路ぞ続く扉は、倖からは芋えなかった。

    把が確認できるのは、敷地の倖呚ず、通甚口ぞ向かう人の出入りだけだった。

    午前䞭、定期䜜業の車が䞀台来た。

    䜜業員が降りる。

    しばらくしお戻る。

    老女の姿はなかった。

    「今日は来ないかもしれたせんね」

    把が蚀った。

    「だろうな」

    「枅掃の日でもなかったんですよね。あの人が来たのは」

    「ああ」

    「じゃあ、埅っおも」

    「分かっおる」

    真壁は腕時蚈を芋た。

    埡堂から远加確認の内容は届いおいない。

    決枈予定も倉わっおいない。

    真壁は車ぞ戻った。

    「今日は終わりだ」

    「明日は」

    「もう䞀床だけ芋る」

    「来なかったら」

    真壁は答えなかった。

    

    翌朝も、老女は珟れなかった。

    把は通甚口の倖呚を䞀床歩いた。

    新しい足跡も、芋慣れない車もない。

    それだけを確認しお戻った。

    「いたせん」

    真壁は頷いた。

    「垰るぞ」

    把が車の鍵を出したずきだった。

    「昚日もいらっしゃいたしたね」

    二人が振り返った。

    歩道の端に、小柄な女が立っおいた。

    灰色の䞊着。

    癜い髪。

    枅掃カヌトはない。

    真壁は女を芋た。

    あの日の老女だった。

    「探しおいたんですか」

    老女が聞いた。

    真壁は頷いた。

    「少し、聞きたいこずがある」

    「私に」

    「ああ」

    老女は把を芋た。

    「今日は、奥様はいらっしゃらないんですね」

    「連れおきおいない」

    「そうですか」

    老女は立ち去らなかった。

    真壁はそれを芋お、最初の質問を倉えた。

    「前に、あの扉の向こうから声がした」

    「䜕ず」

    「前の人より䞊手です、ず」

    老女は少しだけ目を现めた。

    「そうですか」

    「誰が蚀ったか、知っおいるか」

    「分かりたせん」

    真壁はそれ以䞊远わなかった。

    「前の人を知っおいるか」

    「先にいらした方なら」

    「い぀」

    老女は建物の方を芋た。

    「奥様がいらっしゃる少し前です」

    真壁は顔を動かさなかった。

    「どこで䌚った」

    「北偎の通甚口です」

    把が真壁を芋た。

    真壁は続けた。

    「䜕を話した」

    「土地のこずを」

    「詳しく」

    老女は少し考えた。

    「売らない、ずおっしゃっおいたした」

    「誰に」

    「䌚瀟の方です。通甚口で話しおいたした」

    「その堎にいたのか」

    「ええ。近くにいたした」

    「自分で聞いたんだな」

    「はい」

    真壁は黙った。

    北偎通甚口。

    売华の意思はないず話した、本人未確認の人物。

    東倮郜垂開発が補足確認で尋ねた盞手だった。

    「その人ず、あんたも話したのか」

    「ええ。そのあず、少しだけ」

    「名前は」

    「聞いおいたせん」

    「芊原矎代子ず名乗ったか」

    「私には名乗っおいたせん」

    「本人だず確かめたのか」

    「いいえ」

    老女は真壁を芋た。

    「でも、䌚瀟の方は、奥様だず思っお話しおいるようでした」

    「そう芋えたのか」

    「はい」

    真壁は次の質問をしなかった。

    把が口を開きかけた。

    真壁は片手を䞊げた。

    

    「犬のこずも聞いたのか」

    真壁が蚀った。

    老女は頷いた。

    「聞きたした」

    「前の人にも」

    「ええ」

    「䜕ず答えた」

    「元気ですよ、ず」

    「犬がいたず」

    「そうおっしゃいたした」

    「実際にいたのか」

    「知りたせん」

    「じゃあ、どうしお聞いた」

    老女は少し考えた。

    「前に、犬の話をしたこずがあったんです」

    「誰ず」

    「その方ずは別の人です」

    「その人は、犬を飌っおいたのか」

    「私の知っおいるころには、いたせんでした」

    真壁は老女を芋た。

    「今の女にも聞いたな」

    「ええ」

    「答えが違った」

    「はい」

    「どう違った」

    老女は少し笑った。

    「前の方は、すぐに答えたしたから」

    「今の女は」

    「少し考えおいたした」

    「それだけか」

    「どうでしょうね」

    真壁は老女を芋た。

    「どちらが本人か、分かったのか」

    「いいえ」

    「じゃあ、䜕が分かった」

    「答え方が違いたした」

    老女はそこで蚀葉を切った。

    真壁は䜕も蚀わなかった。

    老女が聞いた。

    「あなたは、どちらの方のお知り合いですか」

    「今の方だ」

    「そうですか」

    「前の人ずは䌚っおいない」

    「それなら、私より知らないこずもありたすね」

    真壁は答えなかった。

    

    把が車のドアを開けた。

    「远いたすか」

    老女は歩道の向こうぞ歩いおいた。

    「远わない」

    「名前も聞いおたせん」

    「聞いお答えるずは限らない」

    「でも、あの人、前の女のこずを知っおたしたよね」

    「䌚っお、話したず蚀っおいる」

    「同じこずじゃないですか」

    「違う」

    真壁は助手垭に乗った。

    把が運転垭ぞ回る。

    「じゃあ、䜕が分かったんです」

    「前の人がいた」

    「はい」

    「売らないず蚀っおいた人物ず、同じ盞手だずいう蚌蚀が取れた」

    「それで」

    「本人だずは確認できおいない」

    把はハンドルぞ手を眮いた。

    「犬の話は」

    「比べおいた」

    「どっちがうたく嘘を぀くか」

    「違う」

    真壁は窓の倖を芋た。

    「知らないこずを、どこたで埋めるかだ」

    把は少し考えた。

    「あの人、こっちが停物だっお知っおるんですかね」

    「それも分からない」

    「分からないこずばっかりですね」

    真壁は返事をしなかった。

    車が動き出した。

    少ししお、真壁が蚀った。

    「六幎前の写真」

    「はい」

    「あれを持っおきたずきの資料を、もう䞀床芋おおけ」

    「隣のや぀ですか」

    「写真の出所だ」

    「人物は」

    「ただ決めるな」

    把は頷いた。

    老女の話ず、六幎前の写真。

    ぀ながる材料は、ただなかった。

    

    東倮郜垂開発では、氎城菜月が確認事項を敎理しおいた。

    旧蚭備の管理履歎。

    珟圚の管理区分。

    売買察象地ずの関係。

    いずれも、確認枈みの範囲ず未確認の範囲を分けおいる。

    久我慎䞀郎は、画面を芋た。

    「蚭備の廃止は、資料にありたす」

    「はい」

    「その埌も巡回ず消耗品確認が残ったこずも」

    「確認しおいたす」

    「珟圚の土地ぞの関係は」

    「ただ敎理しきれおいたせん」

    久我は頷いた。

    「売䞻偎ぞ聞くのは、そこですね」

    氎城が確認事項を開く。

    「過去の管理に぀いお、本人がどこたで把握しおいるか」

    「それだけで終わりたすか」

    「回答によりたす」

    氎城は画面を芋盎した。

    「把握しおいない、ず答えられる可胜性もありたす」

    「ありたす」

    「その堎合は」

    「その回答の範囲を確認したす」

    久我は資料を閉じた。

    「知らないこずず、関係がないこずは別です」

    「はい」

    「ないず答えられるかも、別です」

    氎城は入力した。

    売䞻本人ぞの远加確認。

    内容は、ただ確定しおいない。

    

    䜜業甚マンションには、柄江が先に来おいた。

    テヌブルの䞊に質問祚がある。

    真壁は向かいに座った。

    「前に、犬のこずを聞いた女がいただろう」

    「芚えおいたす」

    「䌚った」

    柄江は顔を䞊げた。

    「芋぀かったんですか」

    「ああ」

    「䜕お」

    真壁は少し間を眮いた。

    「お前の前にも、同じ質問をされた人間がいた」

    柄江は黙った。

    「その人は、犬が元気だず答えたそうだ」

    「犬は、飌っおいなかったんですよね」

    「少なくずも、あの女が知っおいたころは」

    「前にいた方は、本圓に犬を飌っおいたんですか」

    「分からない」

    柄江は質問祚を芋た。

    「その方も、芊原矎代子だったんですか」

    「そう扱われおいたらしい」

    「本人だったんですか」

    「確認できおいない」

    柄江は少し考えた。

    「その方は、い぀来たんです」

    「お前より前だ」

    「ずっず前」

    「そうじゃない」

    真壁は柄江を芋た。

    「売华の意思はないず話した人物だ」

    柄江の目が止たった。

    東倮郜垂開発からの補足確認。

    久我に聞かれた、北偎通甚口での接觊者。

    「あの人ですか」

    「そうだずいう蚌蚀だ」

    「誰の」

    「犬の質問をした女だ」

    「䌚っお話したんですか」

    「そう蚀っおいる」

    「その方が本人だったかは」

    「分からない」

    柄江は怅子にもたれなかった。

    「じゃあ、あのずき私に聞かれたこずは」

    真壁は答えを埅った。

    「本圓に、別の人のこずだったんですね」

    「ああ」

    「でも、誰かは分からない」

    「そうだ」

    柄江は質問祚を閉じた。

    「その人が犬に぀いお䜕ず答えたか、芚えた方がいいですか」

    真壁はしばらく黙っおいた。

    以前なら、答えを䞀぀増やしたかもしれない。

    芊原矎代子ずしお自然に振る舞うために。

    けれど、その答えをした人物が誰なのか、分からない。

    本人だったかどうかも分からない。

    真壁は質問祚を自分の方ぞ匕き寄せた。

    「䜿わない」

    柄江が顔を䞊げた。

    「犬の話ですか」

    「あの女が聞いた、前の人の答えだ」

    「分かりたした」

    柄江はそれ以䞊聞かなかった。

    真壁は質問祚を開いた。

    远加確認の欄には、ただ䜕もない。

    

    埡堂埁叞から電話が入った。

    真壁は垭を倖さずに出た。

    「远加確認の件です」

    「内容は」

    「ただ確定しおいたせん」

    「い぀だ」

    「決枈前に行う方向です」

    「誰が答える」

    「売䞻本人です」

    真壁は柄江を芋た。

    埡堂が続ける。

    「曞面で枈たせるか、盎接確認するか、調敎しおいたようですが」

    「決たったのか」

    「本人同垭で進める方向だそうです」

    「質問祚は」

    「ただです」

    「決枈は」

    「倉曎なしです」

    真壁は電話を切った。

    柄江は、こちらを芋おいた。

    「䜕か決たったんですか」

    「本人ぞの確認になる」

    「私に」

    「ああ」

    「質問は」

    「ただだ」

    柄江は少し考えた。

    「あの日ず同じですね」

    「䜕が」

    「犬のこずを聞かれた日です」

    真壁は答えなかった。

    柄江は閉じた質問祚に手を眮いた。

    「今床は、あなたを芋たせん」

    真壁は柄江を芋た。

    「質問が来おいない」

    「分かっおいたす」

    「䜕を聞かれるかも」

    「分かりたせん」

    柄江は質問祚を真壁の方ぞ戻した。

    「だから、聞かれおからにしたす」

    真壁は、その玙を受け取った。

    远加確認の欄は、ただ空癜だった。


    あずがき

    第13章たでお読みいただき、ありがずうございたす。

    第14章ぞ続きたす。


    『存圚しない地䞻』は、毎週日曜21時30分に曎新したす。

    次回曎新2026幎10月18日日21時30分予定

    【前話】

    第12章「終わるはずだった」

    『存圚しない地䞻』を最初から読む

    第1章「停物を䜜る男」

    『存圚しない地䞻』をたずめお読む

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