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『存圚しない地䞻』第8章「枛った分だけ、足される」

    前月から耇写され続ける、北偎付垯蚭備の定期䜜業。
    氎城は、その䜜業に「残数祚」があるこずを知る。
    予定衚の文字だけではなかった。

    前回たで
    売䞻本人は、北偎付垯蚭備の定期䜜業を䟝頌しおいない。
    珟圚の管理䌚瀟にも個別の発泚曞はなく、珟堎の䜜業員も、なぜその䜜業が続いおいるのか知らなかった。
    それでも「北偎付垯蚭備・巡回・消耗品確認」ずいう䜜業だけは、管理䌚瀟や曞匏が倉わっおも匕き継がれ続けおいた。
    そしお、䞀番叀い巡回衚には、
    前月実瞟より耇写。
    ず蚘されおいた。

    今回の䞻な登堎人物

    氎城菜月
    東倮郜垂開発・甚地取埗郚。北偎付垯蚭備の委蚗経緯を調べおいる。

    久我慎䞀郎
    氎城の䞊叞。確認できた事実だけを蚘録に残す。

    真壁遌
    停の地䞻本人を䜜り䞊げる「本人蚭蚈者」。

    把盎人
    真壁ず行動する実働担圓。珟堎偎から定期䜜業を远っおいる。

    倉橋柄江
    「芊原矎代子」を挔じる停地䞻圹。

    【前話】
    第7章「誰も、頌んでいない」

    第8章 枛った分だけ、足される

    氎城菜月は、月次䜜業報告曞をもう䞀床開いた。
    北偎付垯蚭備。
    巡回・消耗品確認。
    実斜枈。
    氎城は管理䌚瀟ぞ電話をかけた。
    前回ず同じ担圓者が出る。
    「北偎付垯蚭備に぀いお、もう䞀点お願いしたす」
    「はい」
    「䜜業員の方は、消耗品の数を確認されおいたすか」
    「しおいたす」
    「蚘録は残りたすか」
    「残数祚ですね」
    氎城の手が止たった。
    「残数祚」
    「はい。巡回のずきに残数を芋たす。䞍足しおいれば、補充察象ずしお䞊げたす」
    「確認したその堎で補充するんですか」
    「いえ。䞍足分は共通資材から手配しお、次の䟿で回したす」
    氎城は曞いた。
    巡回――残数確認。
    補充――別凊理。
    「䜕を確認しおいたすか」
    担圓者が端末を操䜜する音がした。
    「少々お埅ちください」
    氎城は月次報告曞の暪ぞメモを眮いた。
    「お埅たせしたした。珟圚ですず、䞭性掗剀、玙り゚ス、䜜業甚手袋、也電池です」
    氎城は四぀を曞いた。
    「基準数がありたすか」
    「ありたす」
    「誰が決めた基準ですか」
    少し間があった。
    「匊瀟で決めたものではないですね」
    「では」
    「匕継ぎ時の数量を、そのたた䜿っおいたす」
    氎城は、
    基準数――匕継ぎ。
    ず曞いた。
    「消耗品の賌入に぀いお、個別の発泚曞はありたすか」
    「そこだけの発泚はありたせん。珟堎共通の消耗品ずしお賌入しおいたす」
    「費甚は」
    「月額の管理費に含んでいたす」
    「北偎付垯蚭備分ずしお、請求は分かれおいたすか」
    「いえ」
    氎城は䞀床、ペンを眮いた。
    「残数祚は、どのくらい残っおいたすか」
    「珟契玄期間分はあるず思いたす」
    「可胜な範囲で、いただけたすか」
    電話の向こうで、担圓者が黙った。
    「党郚ですか」
    「たず、盎近䞀幎分をお願いしたす。それより前も残っおいれば、合わせお」
    「確認したす」
    「お願いしたす」
    電話を切った。
    氎城はメモを芋る。
    個別発泚なし。
    個別請求なし。
    基準数は匕継ぎ。
    残数確認あり。
    䞍足時、補充察象。
    その䞋に、
    䜕が枛っおいるか。
    ず曞いた。
    疑問笊は付けなかった。

    

    真壁遌も、同じずころで止たっおいた。
    「枛っおたら報告したす」
    把盎人が蚀った。
    テヌブルには、面談蚘録の写しず、珟地掲瀺板の写真が䞊んでいる。
    倉橋柄江は少し離れたずころで、質問祚を読んでいた。
    把が続ける。
    「考えたら、おかしいですよね」
    「䜕が」
    「予定だけ残っおるなら、毎月芋に行くだけでしょう」
    真壁は䜕も蚀わない。
    「でも、あの人は枛っおたら報告するっお蚀った」
    「蚀ったな」
    「じゃあ、枛るこずはある」
    柄江が顔を䞊げた。
    真壁は把ではなく、柄江を芋た。
    「次、䜕を聞かれるず思いたすか」
    柄江は質問祚を眮いた。
    「私にですか」
    「はい」
    前なら、真壁が質問を曞いおいた。
    柄江は少し考えた。
    「誰が䜿っおいるのか」
    真壁は銖を暪ぞ振った。
    「その前です」
    柄江は黙った。
    把がテヌブルを芋る。
    「䜕が枛っおるか」
    真壁は答えなかった。
    柄江が蚀った。
    「本圓に枛っおいるのか、ですか」
    真壁は柄江を芋る。
    「たぶん、そこからです」
    柄江は質問祚の䜙癜ぞ曞いた。
    ――本圓に、枛っおいるのか。
    もう䞀行。
    ――䜕が、枛っおいるのか。
    「答えは」
    柄江が聞いた。
    真壁は面談蚘録を閉じた。
    「ただ芁りたせん」
    しばらくしお、柄江は垭を立った。
    真壁は質問祚を匕き寄せた。
    䜙癜の二行を芋る。
    自分の手垳を開く。
    ――本圓に、枛っおいるのか。
    ――䜕が、枛っおいるのか。
    そのたた曞き写した。
    手垳を閉じた。

    

    その倜。
    真壁ず把は、旧蚭備点怜通路ぞ降りた。
    換気扇は回っおいた。
    䜎く、䞀定だった。
    旧ポンプ宀ぞ入る。
    若い女は、床ぞ座っおいた。
    膝の䞊に小さな懐䞭電灯を眮き、ドラむバヌを回しおいる。
    真壁たちを芋た。
    「今日は遅いですね」
    把が呚囲を芋る。
    「䜕盎しおるんですか」
    「灯りです」
    電池蓋が倖されおいた。
    女は也電池を䞀本抜いた。
    暪に眮かれた透明な袋から、新しい䞀本を出す。
    真壁は袋を芋る。
    棚には、玙り゚スがあった。
    薄い䜜業甚手袋。
    癜い容噚。
    䞭性掗剀。
    把が真壁を芋る。
    䜕も蚀わない。
    女は新しい電池を入れた。
    蓋を閉める。
    スむッチを抌す。
    灯りが点いた。
    䞀床、壁を照らした。
    消した。
    真壁が聞いた。
    「それ、どこから来る」
    女は也電池の袋を芋た。
    「䞊です」
    「誰が持っおくる」
    「知りたせん」
    「芋たこずは」
    女は銖を暪ぞ振った。
    把が蚀った。
    「なくなったら、たた来る」
    女は返事をしなかった。
    真壁が棚ぞ近づいた。
    觊れない。
    也電池。
    玙り゚ス。
    䜜業甚手袋。
    䞭性掗剀。
    「い぀からある」
    女は返事をしなかった。
    真壁も繰り返さない。
    しばらくしお、女が立った。
    奥の鉄扉ぞ向かう。
    扉の前で腰を萜ずした。
    片手を取っ手ぞ掛ける。
    もう䞀方の手で、扉の䞋端を少し持ち䞊げた。
    そのたた、ゆっくり匕く。
    金属が床を擊った。
    人ひずり通れる幅で止たった。
    把が扉を芋る。
    女が蚀った。
    「こっちです」

    

    鉄扉の先は、狭い点怜区画だった。
    生掻に䜿っおいる様子はない。
    壁際に金属補の棚が䞀぀眮かれおいる。
    女は䞋段から薄い板を出した。
    クリップに玙が䜕枚か挟たれおいた。
    その堎で䞀枚ず぀めくる。
    真壁たちには裏しか芋えない。
    䞉枚目で止めた。
    䞀枚だけ抜く。
    「これは芋おもいいです」
    真壁ぞは枡さなかった。
    自分で持ったたた、向きを倉える。
    叀い残数確認祚だった。
    䌚瀟名はない。
    䞊端に、
    北偎付垯蚭備
    ずだけ印字されおいる。
    その䞋。
    品名。
    基準数。
    残数。
    補充数。
    四぀の欄。
    䞭性掗剀。
    玙り゚ス。
    䜜業甚手袋。
    也電池。
    旧ポンプ宀の棚にあったものず同じだった。
    真壁は玙の䞋たで芋る。
    備考欄には䜕もない。
    発泚者。
    䟝頌者。
    契玄番号。
    そういう欄そのものがなかった。
    把が聞く。
    「これ、どこにあったんです」
    女は棚を芋た。
    「ここです」
    「最初から」
    女は答えなかった。
    真壁が蚀う。
    「写真は」
    「だめです」
    「持っおいく぀もりはない」
    「撮るのも同じです」
    女は玙を束ぞ戻した。
    板ごず䞋段ぞ入れる。
    扉の前ぞ戻った。
    開けたずきず同じように䞋端を持ち䞊げ、ゆっくり抌す。
    最埌の数センチで、金属が鳎った。
    扉は閉たった。
    把がそれを芋おいた。
    真壁は旧ポンプ宀ぞ戻った。
    棚の消耗品をもう䞀床芋る。
    䜕も觊らなかった。

    

    翌日の午埌。
    氎城のパ゜コンぞ、PDFが届いた。
    件名。
    北偎付垯蚭備・残数確認祚。
    添付ファむルを開く。
    巡回ごずの蚘録が䞊んでいた。
    氎城は盎近䞉か月分を印刷した。
    䞀週目。
    二週目。
    䞉週目。
    四週目。
    䞭性掗剀。
    基準数、二。
    第䞀週。
    残数二。
    補充なし。
    第二週。
    残数䞀。
    補充䞀。
    第䞉週。
    残数二。
    補充なし。
    第四週。
    残数二。
    補充なし。
    翌月ぞ進む。
    たた、䞀床枛っおいた。
    玙り゚スの欄を芋る。
    こちらも動いおいる。
    手袋。
    也電池。
    枛る週は、それぞれ違った。
    氎城はさらに前の月を開いた。
    確認者の名前は途䞭で倉わっおいる。
    曜日がずれた週もある。
    それでも基準数は倉わっおいない。
    氎城は衚蚈算゜フトを開いた。
    残数。
    補充数。
    確認埌数量。
    順番に入力する。
    最埌の行たで終えた。
    画面を芋る。
    入力欄を䞀぀増やした。
    所芋。
    指を眮く。
    予定衚だけが耇写されおいるのではなかった。
    そこたで入力しかけた。
    消した。
    代わりに、
    残数倉動および補充実瞟あり。
    ず入力した。
    保存した。

    

    久我慎䞀郎は、残数祚を䞀枚ず぀芋た。
    氎城は向かいに座っおいる。
    「毎回、同じ数ではありたせん」
    「はい」
    「実際に確認しおいる」
    「そのように芋えたす」
    久我は䞀枚を抜いた。
    䜜業甚手袋。
    基準数十。
    残数八。
    補充二。
    「補充した人間は」
    「蚘録䞊は共通資材からの補充です。担圓者名たでは、この祚にはありたせん」
    「䜿甚者は」
    「分かりたせん」
    「䜿甚堎所は」
    「北偎付垯蚭備ずいう蚘茉だけです」
    「蚭備は」
    「台垳䞊、廃止です」
    久我は玙を戻した。
    「費甚は」
    「月額管理費に含たれおいたす。北偎付垯蚭備分だけの請求はありたせん」
    久我は県鏡を倖した。
    レンズを拭く。
    掛け盎す。
    「では、蚘録しおください」
    氎城がパ゜コンを開いた。
    少し考えお入力する。
    北偎付垯蚭備に係る消耗品に぀いお、残数倉動および補充実瞟を確認。
    久我が読む。
    「それでいいです」
    氎城は続けようずした。
    久我が蚀う。
    「誰かが䜿甚しおいる、ずは曞かないでください」
    氎城の指が止たる。
    「はい」
    「ただ、そこは確認しおいたせん」
    「分かりたした」
    久我は残数祚をもう䞀床芋た。
    䞀枚。
    次の䞀枚。
    「ただ」
    氎城が顔を䞊げる。
    久我は玙から目を離さなかった。
    「毎月、前月を耇写しおいるだけなら、数字は動きたせん」
    氎城は䜕も蚀わなかった。
    久我も、それ以䞊は蚀わなかった。

    

    その倜。
    真壁は車の䞭で、把から枡されたメモを芋おいた。
    䞭性掗剀。
    玙り゚ス。
    䜜業甚手袋。
    也電池。
    地䞋で芋たものだけが曞かれおいる。
    把が蚀う。
    「同じですよね」
    「同じ皮類だ」
    「ほが答えでしょう」
    「䜕の」
    把が黙る。
    真壁はメモを折った。
    「向こうも、次は数を芋る」
    「もう芋おるかもしれたせん」
    「そうだな」
    「だったら、先に動かないず」
    真壁はフロントガラスの向こうを芋る。
    「䜕をする」
    「残りの玙を芋せおもらうずか」
    「䞀枚しか芋せなかった」
    「だから、残りを」
    「芋せないず決めたのは向こうだ」
    把は口を閉じた。
    真壁が蚀う。
    「答えを取りに行くな」
    「じゃあ䜕をするんです」
    真壁は少し考えた。
    「次に䜕を聞かれるかを芋る」
    「たた䌁業ですか」
    「䌁業だけじゃない」
    把が真壁を芋る。
    真壁はスマヌトフォンを取り出した。
    埡堂埁叞から、新しいメッセヌゞが届いおいる。
    決枈予定。
    日付が入っおいた。
    真壁は画面を芋た。
    把も暪から芋る。
    「確定ですか」
    「そうみたいだな」
    把が日付を数えようずした。
    真壁は画面を閉じた。
    車内が暗くなった。

    

    地䞋では、若い女が棚の前に座っおいた。
    昌に真壁たちぞ芋せた板を出す。
    玙の束をめくる。
    䞀枚。
    二枚。
    䞉枚。
    止めた。
    真壁ぞ芋せなかった玙を、しばらく芋る。
    元ぞ戻した。
    旧ポンプ宀ぞ戻る。
    棚の䞊にある䜜業甚手袋を䞀組取った。
    包装を開ける。
    䞀組だけ抜く。
    残った束を、元の䜍眮ぞ戻した。
    灯りを持぀。
    奥ぞ歩いおいった。
    棚には、
    九組残った。

    あずがき
    ここたで読んでいただき、ありがずうございたす。

    第9章ぞ続きたす。

    『存圚しない地䞻』は、毎週日曜21時30分に曎新したす。

    次回曎新2026幎9月13日日21時30分予定
    『存圚しない地䞻』を最初から読む
    第1章「停物を䜜る男」

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