メインコンテンツへスキップ
見出し画像

生放送直前、ディレクターが来ない! One Day その時僕はラジオの現場にいた 第一章 AD時代 第15話

    これまでのOne Day

    1986年、大学生だった僕は、開局間もないFM横浜の制作現場にADとして飛び込んだ。生放送での失敗や、厳しい先輩たちとの仕事を重ねながら、少しずつ現場に慣れていった。仕事が面白くなり、ディレクターという仕事も身近に感じ始めていた。そんな頃の話です。

    第1話から読む

    録音番組の収録が結構遅くまであった。
    それでも終電というほどではなかった。


    虎ノ門にある老舗収録スタジオ「FMサウンズ」での収録があった。録音番組は例えば30分や1時間番組なら通常2週間分一回で収録することが多かった。
    10分番組のような短いものなら一週間、つまり月金5本分だ。
    でも今日は出演者のスケジュール都合があり二週分の収録で、時間がかかったのだった。

    その日はとても疲れていた。
    虎ノ門から横浜の自宅まではdoor-to-doorで1時間15分ほどだろうか。自宅最寄りの駅近くにある中華料理「大慶」でタンメンに餃子、時にはビールを頼み一日の疲れを癒して帰宅することが多かった。
    でもその日はとにかく疲れていたので何となく「このまま帰っちゃ翌日危ないな」と感じており、スタジオからそのままFM横浜に行くことにした。

    資料の整理が溜まっていたこともあった。そしてあまりほめられたことではないけれど、自宅に戻るよりもレコード室で仮眠した方が睡眠時間が取れそうなこともあった。

    通常6時半にスタジオ入りして準備をするのだけど、その日は6時から準備を始めた。いつもなら5時過ぎには家を出るわけだから、もうすっかり目が覚めているのだ。

    その日の担当ディレクターはS.Mさんだった。
    もちろん準備はしっかりとなさっており、僕はかける曲のレコードやCDを順番に並べ、使用する原稿や番組の進行表であるCUEシートを人数分コピーした。

    担当パーソナリティーは山ノ井友司さんだった。

    朝が来た

    「おはようございます。今日はS.Mさん遅いですね」「そうだな、まあいつものように準備進めておいてよ」「はい、分かりました」

    それにしても遅い。

    時計を見る。

    まだ来ない。

    S.Mさんから連絡が入った。かなり遅れるらしい。

    僕はH.Hさん、T.H社長に電話を入れた。

    山ノ井さんから「今日のDは、君がやって。」

    その一言で、頭の中が真っ白になった。

    本当に僕がやるのか。

    間違えたらどうなる。

    CMは?
    交通情報は?
    ニュースは?
    曲順は?
    時間通りに番組を収めることができる?

    頭では分かっている。

    でも身体がついてこない。

    震えていた。どうしようもなく震えていたのを覚えている。

    時報。

    テーマ曲。

    山ノ井さんを見る。

    CUEシート。

    時計。

    CM。

    また時計。

    番組が終わる頃、ようやくS.Mさんがスタジオへ入ってきた。
    僕が交代しようと椅子から腰を浮かせると

    「そのままやりなよ」

    S.Mさんはそう言って、僕の後ろで放送を見守ってくれた。

    エンディングテーマが流れる。

    フェーダーが下がる。

    赤いON AIRランプが消えた。

    初めて息をついた。
    力が抜けた。まるで今まで息をしていなかったかのようだった。

    その時だった。

    T.H社長が笑いながら近づいてきた。

    「よくやった」

    そう言って、大きな手で握手をしてくれた。

    その時初めて、

    「ああ、終わったんだ」

    と思った。

    山ノ井さんも笑いながら、

    「よくやりきったね。」

    と声を掛けてくれた。

    あの言葉は、今でも忘れられない。

    でも、これでディレクターになれたわけではない。
    本当に一本立ちするまでには、そこからさらに二年ほど掛かることになる。

    あの日は、ディレクターになった日ではなかった。

    ディレクターへの入口に、ようやく立てた日だった。

    その時は言葉にできなかった。
    でも今振り返ると、あの日、僕の中で何かが静かに動き始めていたのだと思う。


    One Day あの時、確かに僕はそこにいた。


    次の話

    前の話

    マガジンに登録する



     
     
    私たち、東京エンターテイメント[ チーム TET ]は、ラジオ番組や Podcastなど「音声媒体制作」のスペシャリストです。

    あなたへのおすすめ