
【図書館|地図にない灯り】 『消えた魔導書と銀の鈴』
雪綴ゆきさんのショートショート企画『地図にない灯り』に参加します。
(約2,500文字)第3回お題:図書館
今回も、わかモンさんの
『地図にない灯り』ショートショート・メーカー!!
を使って作成しました。
登場人物

消えた魔導書と銀の鈴
ショート・ショート|ファンタジー・ミステリー
魔王城の地下には、地図に載っていない図書館がある。
そこへ続く階段は百三十七段。最後の一段を踏むと、どこからともなく鈴の音が聞こえるという。
チリン――。
「……今の、何?」
マリ・ブラストは足を止めた。
黒と深紅の軍服に、長い黒髪のポニーテール。魔王軍音楽革命隊のサックス奏者である彼女は、ミーノ参謀から一冊の魔導書の調査を頼まれていた。
『月影の魔導書』
三日前、禁書保管庫から忽然と消えた古代の魔導書だ。
マリが重い扉を押すと、地下とは思えない光景が広がっていた。
天井まで続く巨大な書架。何万冊もの古書。天窓から降り注ぐ青白い月光が、床の銀色の魔法陣を照らしている。
「……綺麗」
そのとき。
チリン。
書架の奥で何かが動いた。

「……猫?」
現れたのは、手のひらに乗りそうな小さな黒猫だった。
金色の瞳。艶やかな黒い毛並み。首には赤いリボンと銀の鈴。
「か、可愛い……!」
思わず声が裏返る。
マリは慌てて咳払いした。
「こほん。あんた、どこから来たの?」
「にゃあ」
黒猫は彼女の足元へ歩いてきた。
そこでマリは奇妙なことに気づいた。
月光に照らされた書架にも椅子にも影がある。しかし、黒猫の足元にだけ影がなかった。
「……あんた、普通の猫じゃないね」
チリン。
銀の鈴が鳴った瞬間、書架から一冊の本が落ちた。
表紙には金色の文字。
『月影の魔導書』
「……見つけた!」
だが、おかしい。
禁書目録では千二百ページの分厚い本だったはずが、手元の本は数十ページしかない。
しかも、すべて白紙だった。
「どういうこと……?」
黒猫がマリの膝へ飛び乗った。
「わっ!」
反射的に抱きとめる。
ふわふわだった。温かかった。そして、とんでもなく可愛かった。
「……そんな顔されたら困るんだけど」
黒猫は喉を鳴らした。
ゴロゴロゴロ。
「……もう、しょうがないなぁ」
マリは椅子に座り、黒猫の頭を撫でた。
チリン。
突然、白紙の魔導書に文字が浮かび上がった。

『第一の封印、解除』
「えっ?」
マリが手を止めると、黒猫は不満そうに鳴いた。
「……もっと撫でろって?」
もう一度、頭を撫でる。
チリン。
『第二の封印、解除』
「……まさか」
今度は顎の下。
チリン。
『第三の封印、解除』
耳の後ろ。
チリン。
『第四の封印、解除』
「……何これ。古代魔法って、こんなに適当なの?」
それでも、黒猫の可愛さには勝てなかった。
マリは夢中で撫で続けた。
やがて魔導書の最後のページに文字が現れた。
『第九十九の封印、解除』
その瞬間、床の魔法陣が青白く輝き始めた。
書架が震え、無数の本が宙に浮かぶ。
「……まずい!」
マリは黒猫を抱きしめた。
魔導書が激しくページをめくり、巨大な光の文字を浮かび上がらせる。
『最終封印を解除する者よ』
『汝、真実を知る覚悟はあるか』
「……ある!」
チリィィン――!
銀の鈴が高く鳴り、まばゆい光が図書館を包んだ。
やがて静寂が戻る。
黒猫は、まだマリの腕の中にいた。
「……終わった?」
床に落ちた魔導書を開くと、今度は全ページに文字が記されていた。
『古代魔王軍・最高機密文書』
『封印対象:銀鈴の守護獣』
『封印理由:極めて危険な能力を有するため』
マリの背筋が凍った。
「……危険な能力?」
『この守護獣は、あらゆる者の心を支配する』
『魔王すら抗うことはできない』
「……嘘でしょ」
黒猫は無邪気に見上げている。
次のページには、こうあった。
『能力名――絶対愛玩支配』
『対象は守護獣を無条件に可愛いと認識し、その要求を拒絶できなくなる』
「…………」
『本書は守護獣自身が作成した封印解除用契約書である』
『解除条件:九十九回の愛撫』
「……あたし、騙された?」
黒猫は嬉しそうに頬を舐めた。
さらに最後のページ。
『契約成立。解除者は永久の飼い主となる』
『食事、寝床、遊び相手の提供義務あり』
『一日最低三時間の撫で撫でを要求する』
「……ちょっと待って!」
マリが叫んだ瞬間、図書館の扉が開いた。
「マリ、調査は終わったか?」
ミーノ参謀だった。
「参謀! この猫、とんでもない魔物なの!」
ミーノ参謀は黒猫を見るなり、深いため息をついた。
「……ああ。やはり君が選ばれたか」
「知ってたの!?」
「歴代魔王が誰も引き受けなかった、地下図書館の館長職だ」
「……館長?」
「おめでとう。ようやく後任が決まった」
参謀は一枚の書類を差し出した。
『魔王城地下大図書館・館長就任通知』
そこには魔王ノアの認証印が押されていた。
「……最初から仕組んでたの?」
「いや、禁書目録にこう書いてあっただけだ」
『この本を見つけられるのは、猫を心から愛する者のみ』
マリは無言で黒猫を見た。
黒猫は幸せそうに丸くなっている。
チリン。
すると突然、マリの頭上に魔法文字が浮かんだ。

『館長補佐:マリ・ブラスト』
「……え?」
慌てて契約書を開き直す。
最後のページに、小さな文字が追加されていた。
『ただし、真の館長は猫とする』
静寂。
「あたし、猫の部下になったのおおお!?」
地下大図書館に絶叫が響いた。
黒猫は満足そうに目を細めた。
チリン――。
魔導書に最後の一文が浮かび上がる。
『本日の業務:館長のお昼寝に付き添うこと』
マリは深いため息をついた。
それから、腕の中の黒猫を見下ろす。
「……まあ、可愛いからいいか」
こうして魔王軍史上初めて、人間が猫の部下となった。
ちなみに、真館長の最初の命令は、図書館の蔵書をすべて猫の写真集に入れ替えることだった。
もちろん、マリは反対しなかった。
ただ一つ、彼女には気になることがあった。
あの黒猫には、どうして影がないのだろう。
翌朝、魔導書の裏表紙に新しい文字が現れた。
『追記:本来の影は、契約した人間に移る』
マリが足元を見ると、月光の下に二つの影があった。
一つは自分。
もう一つは、小さな猫。
チリン。
銀の鈴が鳴る。
そして、どこからともなく声がした。
『次の館長候補、発見』
「……え?」
マリの影が、にゃあと鳴いた。
ーー完ーー

#地図にない灯り 第3回お題|図書館
わかモンさんの✨『地図にない灯り』ショートショート・メーカー!!✨
「あとがき」
雪綴ゆきさんのショートショート企画『地図にない灯り』第3回お題:図書館に参加させていただきました。毎週楽しい企画、ありがとうございます。
魔王軍音楽革命隊シリーズの逸話としても使わせていただきます。
マリも登場する、魔王軍音楽革命隊シリーズです。⬇️
