
【地図にない灯り】駅のホーム|ショートショート
みなさん、こんばんは🌙
noteが大好きな、雪綴ゆきです。
いつも、わたしのnoteを読んでくださり
本当にありがとうございます。

いちばん端の灯り
最終列車は、わたしひとりを降ろして
すぐに行ってしまった。
テールランプの赤が、藍いろの夜にとけていく。
無人駅のホームに、じじ、と蛍光灯の音だけが残った。
十月の夜風は、思っていたよりつめたくて
刈りおわった田んぼの匂いがした。
三年まえ
わたしはこのホームで「もう帰らない」と言った。
見送りにきた母は
それでも「いってらっしゃい」と言った。
わたしは、ふりかえらなかった。
ときどき届く「ごはん、食べてる?」
には既読だけをつけた。
今夜のことも、だれにも知らせていない。
乗り換えのホームで、母への返事を書いては消した。
電車を三本見送って
ようやく乗ったのが、この最終だった。
ふと気づくと、ホームのいちばん端に、灯りがひとつ。
蛍光灯の白とはちがう
とろりとした琥珀いろが、小さく揺れていた。
古い懐中電灯。
それを両手で持って
ベンチに座っていたのは、母だった。
カーディガンを羽織った肩が
記憶よりひとまわり小さい。
足が止まる。
引きかえそうにも、最終はもう、行ってしまった。

「……おかえり」
あんまりふつうの声で言うから
わたしは返事をわすれた。
まるで、きのうもここで会ったみたいに。
「なんで、いるの」
「散歩よ、散歩」
母は、よいしょ、と腰をあげて
カーディガンの裾を払った。
「ほら、行こ。足もと、暗いから」
ならんで歩きだすと
母はわたしの足もとばかり照らした。
かかとのすり減ったパンプスが
灯りの円のなかで、こつ、こつ、と鳴る。
「あの、お母さん。わたし……」
「おでん、あるよ。大根、よくしみてるの」
ごめん、のかわりに
わたしは「うん」とだけ言った。
駅を出ると、街灯のない一本道。
虫の声も、もうまばらだった。
「……散歩って、いつもこんな時間に?」
「眠れないときだけよ」
母は前を向いたまま、くすりと笑った。
「帰ってくるなら、どうせ最終でしょう。あんた、むかしから決めるのがおそいんだから」
母の靴が、灯りのふちを歩いている。
母はこの道を、何度ひとりで帰ったのだろう。
琥珀いろの円が、じわりとにじんだ。
わたしは手をのばして、母から懐中電灯を受けとった。
母の歩幅に合わせて、すこしゆっくり歩いた。
「……ただいま」
母はなにも言わずに、そっと肩を寄せてきた。

ふたりぶんの足もとを照らす、ひとつの灯り。
雪綴ゆき
次も、水曜の夜に
第2回のお題は
10月28日(水)19時に発表します。
次は、どんな場所でお会いできるでしょうか。
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