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午前三時の咆哮

    こんがらがって断線寸前のイヤホンを耳に突っ込んで、爆発寸前の頭をエイト・ビートで縦に振りながら左中指は裏拍で脳天を叩いている。

    BPM160の苛立ち、的外れなフィルインへの罵倒!
    A・D・G・Aで音のゲシュタルト崩壊!

    気付けば俺は頭を抱えて叫んでいた。
    午前三時。
    逃したフレーズはでかい。
    得た代償もでかい。

    でもな、これだけは言わせろ。

    俺の叫びなんかよりよっぽどお前の彼女の喘ぎ声の方がうるせえんだよ!

    バンドマンがモテるなんて幻想だ。
    若者よ。
    やめておくことだ。
    その実、こうやってなんかヤバそうな薬をエナジードリンクで胃に流し込んで半開きの口から涎を垂れ流しながら、青いペンで方眼ノートの方眼をガン無視して「アロンゾンフォン?」だの「メフィストフェレス」だの書き殴って、眼球の上転に乗せてひっくり返って目が覚めたら馬鹿ほど後悔するんだ。

    ほらまただ。
    もう何回目だ?
    脱力しきる六秒前、ここからの五秒だけだ。
    愉しくて、楽しくて、気持ちがいいのは!
    あとは全部最悪だ。
    地獄だ。

    大笑いしながら小瓶をぶん投げて、それがどこに行ったのか。
    探しもしない自分に全能感を覚えちゃって、お前ら全員ちっぽけで、安っぽく見えてきて……

    ──…………君!

    ああ……
    目を閉じるとかえって世界が回るのはなぜ?

    ──……川君!

    真っ暗闇で左斜め45°の後転……

    ──砂川君!

    「なんだよ!」

    自分の声で頭が爆発するかと思った。

    ウグゥとマヌケな声を漏らして俺はスーパーのお菓子売り場の子どもみたいにひっくり返った。

    馬鹿でかい鏡の一番低いところに映る自分の顔を指さして叫ぶ。

    「なんだその閻魔とやり合ったあとみてえなツラは!!」

    もうここからは止まらない。

    「おい剛つよし!、お前どういう了見でB1stビーワンスタジオ予約した? Astエースタでいいんだよ!」
    「いや、空いてな……」
    「五五〇円だ……お前……五五〇円……」
    「だから空いてな……」
    「空いてなかったらなんかあんだろ! 学内スタジオが! あれなら無料タダ!」

    差額五五〇円あれば三回は昼飯が食える。
    多分。
    あのシケた地下スタジオチカスタにしてくれりゃ三・一九〇円だ。
    昼飯に約十一回ありつける……

    だめだ。
    だめだ!
    笑うタイミングでもないのに変なことを思い出した。

    そうだ。
    俺は確かさっき、爆ぜる栗の実を月夜でまぐわう男女に向かってぶん投げたんだ。
    だが、そもそもなんでそんな爆ぜる栗と野外プレイの恥知らずどもが共存する場所に俺が?

    あろうことか白と黒の犬がプリントされた朗らかなTシャツの上に、三原色のお手本みたいな緑のパーカー羽織って、ロールアップしたアイスブルーのデニムを穿いて……
    それも今じゃ泥まみれ、草まみれ……

    「一敗地にまみれのお前は血まみれってわけだ! 起きろ恭平。」
    「いやだ! 起きない!」

    胸ぐらを掴まれたくらいじゃ俺は動じない。

    「いいのか? 大人しく起きればあとで好きなだけ吸わしてやるのに?」
    「はあ?」

    今俺は、こいつの眼鏡を叩き割りたい!
    理由?
    簡単だよ!
    よっぽど俺のがボーカル顔なのに、こいつがボーカルってだけでチヤホヤされてるからだよ!

    ふざけるな!

    あの家賃八万のくせにユニットバスで、壁極めて薄く、悪いことに隣の部屋は手癖が悪い。
    よって俺は毎夜毎夜……土日なんか二十四時間無休の懊悩に苦しみながら作っても作ってもお前らに酷評される曲を書いてはまた恍惚性のブルガダ症候群で死にかけて……

    お前が取っ替え引っ替えできるのは俺の曲のおかげだろう?!

    クソが!

    そういってクソ眼鏡がちらつかせたそいつを見て俺はがなる。

    「いらねえよ!!」

    ふざけるな……
    本当にふざけるな……

    もう俺の肺はお前のせいで、毒まみれなんだよ!

    右肘を引き下げる。

    剛がポリーチューンを踏んづけて……

    「おい! 汚きったねえ靴で……」

    鼻先に煙草。
    俺は舌打ち。

    身体を起こす。
    ローズの冷えた指板に指を置く。

    「フォーカンだ……フォーカンで入る。出遅れたら、殺す。」

    アンプの電気の吐息が荒くなる。

    ──今だ!

    俺は右腕を振り上げた。


    ──カンッカンッカンッカンッ

    「はーい、ストップストップ……」

    俺は咳き込んでいる。
    嘘だ。

    「なーにが出遅れたら殺すだよ! てめえだろ!」

    ……四弦一フレットが鳴らなかった。
    いや、鳴らせなかった。

    こんがらがって動かない指は髪の中、ギリギリと震え続けている。

    頭の中の不自然なまでに規則正しい七拍子が、肺を殴って消えていった。

    劈くようなハウリングの中、耳を塞いでうずくまる。

    今、意識が断線したようだ。

    ↑
    ヘゲモニカ!

    ↑
    バンドのお話。

    ↑
    瓦礫つながり。

    ↑
    ゆきお様・作
    リコーダーです。
    こちらは世界線が小学校。
    もしかして、あなたの名前が見つかるかもしれない。
    そして、小学生ってそう、こんな感じだったよな……のノスタルジーに浸れる作品です。

     
     
    ラブラドールの匂いで肺を満たしたいアラウンドサーティ。 9歳児に親育てされている本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、しつこく文字を掻き集める滑稽な姿を東京の片隅からお送りしております。 ※連載小説も基本的には一話完結として読める構成を目指しているので、おじけづくことなかれ。

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