
2分で読めるショートショート『ツユクサの色』|花語り➀
今日、道ばたで摘んできたツユクサを コップに挿した。
瑞々しくて、とても綺麗な青だったから。
彼と生活を共にしてもう4年目。
最近は帰りが遅い。
連絡もない。
用意した夕食はすっかり冷めてしまった。
深夜、ようやく帰って来た彼は 面倒そうに顔を背けた。
「起きてなくてもよかったのに」
温かいご飯を食べてほしかったの。
今日あったことを話したかったの。
一緒に笑いたかったの。
けれど、どれも言葉にはならなかった。
胸の奥が詰まる。
ふと見ると、テーブルのツユクサは もう萎れていた。
「何、この草」
嫌そうな彼の視線に耐えかねて、 急いでゴミ箱に捨てた。
「……え?」
コップのあった場所が、 鮮やかに青く染まっている。
その夜を境に、不思議なことが起こるようになった。
言いたいことを飲み込むたび 私の感情がツユクサの青い色となって、 部屋を染めるのだ。
壁も、家具も、床も。
けれど、それは彼にとって都合が良かった。
ツユクサの青は、水に弱い。
「ごめんね、寂しかったんだろ」
優しい決まり文句を口にしながら、 彼が濡れた雑巾で撫でる。
すると、青色は跡形もなく消え、白い壁が現れた。
私の目を見る必要もなかった。
話をする必要もなかった。
部屋さえ白くなれば、すべて元通りなのだから。
彼は、向き合う代わりに、掃除をするようになった。
そして今夜。
私たちは、言い争った。
萎れきった私の心から、 抑えきれない青が溢れ出す。
白い壁が、床が、家具が、深い青に染まっていく。
彼はいつものように雑巾を手に取った。
何事もなかったように、部屋は真っ白になった。
「綺麗になった」
満足そうに笑うと、彼はすぐに眠りについた。
私は暗闇の中で 、自分の指先を見つめていた。
濃い青が、指先から静かに広がっていく。
手のひらへ。
腕へ。
言葉にできない悲しみが、私自身を溶かしていく。
翌朝。
飛び起きた彼の視界に飛び込んできたのは、
からっぽのベッドと、 見たこともないほど深い青色で塗り潰された部屋だった。
「嘘だろ……」
パニックになった彼は、バケツの水を床にぶちまけ 雑巾を走らせた。
擦ればあっけなく青色は落ちていく。
彼が手を動かすたびに、 私という存在が、この世界から消え去っていく。
彼は雑巾を動かし続けた。
やがて戻ってきたのは
からっぽで、
シミ一つない、
綺麗な白い部屋だった。

朝咲いた花が昼しぼむことが、朝露を連想させることから、「露草」と名付けられたという説がある。
花言葉は、「懐かしい関係」「恋の心変わり」「敬われない恋」など

お時間のあるときに、こちらもどうぞ👇☕