
2分で読めるショートショート『ハナシノブの伝言』|花語り④【#シロクマ文芸部】【待つ時間】
💐今回の花語り、こちらの企画に参加させていただきました。
コトコト、と鋳物鍋が小さく震える。
コンロの前に立ち、私はじっと火を見つめていた。本当は今すぐにでも蓋を開けて、中をのぞき込みたい。
けれど、だめ。
気になってすぐ蓋を開けたり、何度もひっくり返したりしてはいけない。
熱と時間が具材の奥までじっくりしみこんでいくのを、ただ信じて待つのが料理のコツなのだから。
「食事なんかに時間をかけるなんて非効率」
「そんなことより、もっと価値のあることに時間を使わなきゃ」
友だちはそう嘲笑い、かつての私も本気でそう思っていた。
冷凍食品もレトルトも、完全栄養食だって手に入る時代だ。
誰かのために時間をかけて料理を作るなんて、愚かなことだとさえ思っていた。
そんな私に、あなたは小さな鉢植えを見せたのだった。
ハナシノブ。
青紫の、可憐な花。
「これね、花言葉が『あなたを待つ』なんだよ」
あなたはもう、この部屋にはいない。
メッセージを送っても、何ヶ月も既読すらつかない。
毎日を競争ですり減らし、雑に時間を使い潰していたあの頃の私。
どれほどあなたを傷つけていたのだろう。
思いやりのない言葉。
ぞんざいに破った約束。
同じテーブルでスマホを見つめながら取った、冷たい食事。
あなたが部屋を出て行ったとき、私はすぐに追いかけようとした。
「なぜ?」と納得のいく理由を求め、あなたの心に土足で踏み込んで、すべてを自分の思い通りに壊してしまいたかった。
けれど、思い留まった。
ようやく気づいたのだ。自分の愚かさに。
花はとうに枯れてしまったけれど、秋を深めたハナシノブの葉は、窓際で静かに紅葉している。
「あなたを待つ」
そう言って笑ったあなたに、応えられなくてごめんなさい。
料理を待つ時間さえ惜しんでいた、あの頃の私に巻き込んでしまって、ごめんなさい。
カチ、とタイマーが小さな音を立てた。
そっと蓋を開けると、白い湯気とともに、やさしくてどこか懐かしい香りが部屋いっぱいに広がった。
テーブルには、二人分のカトラリー。
ねえ、私もやっと、お料理ができるようになったわ。
あとはあなたがこのドアを開けるのを、
ただ、
永遠に待つだけ。

春から初夏に花茎がすっと伸びて開花する。花後の夏は、葉色が緑色に変化するが、秋になると再び色が濃くなり、まるでシダ植物のよう。カラーリーフとしても楽しめる。
花言葉は「あなたを待つ」「愛を持っています」など。

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