メインコンテンツへスキップ
見出し画像

発達の順番・見えない土台・DCDー発達支援で知っておきたい『カラダの基本』を図解で解説

    こんにちは。
    発達支援の翻訳者、ヒデアキです

    大阪のUSJがある此花区という場所で
    妻と二人で療育施設を3つ運営しながら
    毎日たくさんの子どもたちと
    それ以上にたくさんの保護者の方々と向き合っています

    資格としては
    保育士、児童発達支援管理責任者、
    それから鍼灸師と介護福祉士

    いろんな角度から
    「体」と「育ち」を見てきた人間です。

    さらに2025年11月からはthreadsというSNSで
    発達支援についての情報を発信し
    今では12000人を超える方に
    フォローしていただけています


    画像

    さらに発達支援に関するnoteも書いており
    WISC検査のnoteは130名以上に届いているんですよね

    なにより大切にしているのが
    読んだ人がわかった状態になること

    なので、めちゃくちゃ図解を使います
    すごくわかりやすいですし
    スタッフさんからは
    「イラストが可愛すぎますね」
    と言われたりします


    画像

    でも、それぐらい
    「理解」って大事なので
    今回も大切にして
    50枚以上の図解と一緒に
    情報を届けます。


    画像


    さて前置きはこのぐらいにして

    今日は、
    僕が現場でずっと伝えたいと思っていたテーマを、
    腰を据えて書きます。

    threadsをはじめてからも
    すごく要望も相談もあった

    子どもの「体の発達の順番」の話

    そして
    「がんばっているのに、どうしてもできない」
    お子さんのこと。

    後半では、DCD(発達性協調運動症)という、
    一般の方にはまだあまり知られていないけれど、
    とても大切なテーマにもしっかり触れていきますね。

    かなり長くなります。

    でも、ひとつひとつ、
    できるだけやさしく翻訳していくので、
    お茶でも飲みながら、
    肩の力を抜いて読んでもらえたら嬉しいです。

    このnoteは無料で情報提供します
    だって『みんなに知ってほしいこと』だから

    他にも『学習支援』についての基礎知識も
    無料noteで作成しているので
    良ければ読んでくださいね

    さらに深く知りたい方は
    施設スタッフさんであるPTさんと一緒に作った
    有料の『支援方法と考え方の手順』まで記載した
    noteをたのしみにしていてください

    はじめに:夜中にスマホで検索した、あなたへ

    まず、こんな経験ありませんか。


    子どもが寝たあと、ふとスマホを手に取って、
    「〇歳 歩かない」
    「〇ヶ月 お座り できない」
    「子ども 不器用 発達」

    って検索してしまう夜。

    出てくるのは、
    やたら不安を煽る記事か、
    逆に「個人差です!大丈夫!」
    とだけ書いてあって、
    結局なにも分からない記事か。

    どっちにしても、画面を閉じたあと、なんだかモヤモヤが残る。

    ……うん、分かります。
    すごく、分かります。


    僕のところにも
    「周りの子はもう走ってるのに、うちの子はまだよちよちで」
    「スプーンがうまく持てなくて」
    「縄跳びがどうしても跳べなくて、本人も泣いちゃって」
    っていう相談が、本当にたくさん来ます。

    そのたびに思うんです。

    お父さんお母さんは、
    ちゃんと子どもを見てるからこそ不安になるんだよな、って。

    画像

    特に今日ひとつ、強く伝えたいことがあります。

    それは——
    「がんばってるのに、できない」子がいる、
    ということ。

    なわとびが跳べない。
    ボールがキャッチできない。
    字が枠からはみ出る。
    靴ひもが結べない。

    そういうとき、周りの大人はつい
    「ちゃんと見て!」
    「もっと練習して!」
    「ふざけてるの?」

    って言ってしまいがちです。

    でもね。

    その子、サボってるわけでも、
    ふざけてるわけでも、
    やる気がないわけでもないことが、
    本当に、本当に多いんです。

    体の中の「連携プレー」が、ちょっと苦手なだけ。

    これが、後半でお話しするDCDという話
    につながっていきます。

    だから今日は、不安を煽るでも、
    ただ「大丈夫」で片付けるでもなく、
    こんな順番で話します。

    まず
    ❶「子どもの体の発達には、ちゃんと順番がある」
    こと。

    次に、その順番の中で
    ❷「つまずきやすいポイント」
    があること。

    そして、
    ❸「がんばってもできない」の正体と、
    その子たちへの関わり方。

    この「地図」を手に入れると、
    今わが子がどのあたりを歩いているのか、
    位置が見えるようになります
    。

    地図があれば、迷子の不安って、
    ずいぶん軽くなりますよね。

    そういう話を、これからしていきます。

    画像

    それじゃあ、はじめましょう。

    第1章:発達には「進む向き」がある——3つの原則

    いきなり結論から言いますね。

    子どもの体の発達って、
    実はけっこう律儀(りちぎ)なんです。


    あっちこっちバラバラに伸びていくんじゃなくて、
    だいたい決まった向きに、
    決まった順番で進んでいく。

    まるで「こっちから育ってね」
    っていう設計図が、
    最初から体に組み込まれているみたいに。


    これ、僕が勝手に言ってるわけじゃなくて、
    小児看護や発達の研究の世界では昔から知られている、
    いわば「基本のき」みたいな話なんです。

    難しそうに聞こえる原則が3つありますが、
    全部かみ砕くので、
    どうか身構えないでくださいね。

    この3つを知っておくと、
    後半のDCDの話も、支援の話も、
    ぜんぶ「ああ、そういうことか」とつながっていきます。

    いわば、今日の記事ぜんぶを支える「土台の章」です。

    ① 頭から足へ(頭尾方向)

    ひとつめ。

    発達は、頭に近いところから、
    だんだん足の方へ進んでいきます。

    ちょっと、赤ちゃんが育っていく様子を
    思い浮かべてみてください。

    まず、❶首がすわりますよね。
    グラグラだった頭を、自分で支えられるようになる。
    次に、❷お座りができる。
    そして、❸立って、
    最後に❹歩く。

    これ、よーく見ると
    「上から下へ」順番に力がついていってるんです。

    首(上)が先で、足(下)が後

    考えてみたら不思議ですよね。
    いきなり足だけ発達して、
    首はグラグラのまま走り出す赤ちゃん

    いないでしょう?
    (いたらちょっとびっくりします)

    必ず、首から。上から下へ。
    順番は、ちゃんと守られているんです。

    画像

    ② 体の真ん中から、手足の先へ(中枢から末梢)

    ふたつめ。

    発達は、体の中心から、
    外側の手足の先っぽへと広がっていきます。


    これ、お絵かきで考えると、
    すごく分かりやすいんです。

    小さい赤ちゃんがクレヨンを持つと、
    どうなるか。

    肩ごと、腕全体を大きく「ブンブン」動かして、
    グルグルッと描きますよね。

    肘も手首も、あんまり使えていない。

    それがだんだん、
    ❶肘が使えるようになる。
    次に
    ❷手首が回るようになる。
    そして最後に、
    ❸指先だけで細かく動かせるようになる。

    つまり、
    真ん中(肩・体幹)がしっかりしてから、
    先っぽ(指先)が器用になる。

    これも、ちゃんと順番が決まっているんです。
    中心から、外へ。内側から、外側へ。

    画像

    ここ、ちょっと覚えておいてください。

    「指先が器用になるには、まず真ん中の安定がいる」
    この感覚、あとで何度も出てきます。

    ③ 大きな動きから、細かい動きへ(粗大運動→微細運動)

    みっつめ。

    全身を使う大きな動きが先、手先の細かい動きは後。

    ここで、2つの言葉を紹介させてください。
    今日の記事の主役になる言葉です。

    ハイハイしたり、歩いたり、ジャンプしたり
    こういう「体ぜんぶを使う、大きな動き」を、
    専門用語で粗大運動(そだいうんどう)と言います。

    「粗(あら)くて大きい運動」と書きます。
    字面はちょっといかついですが、
    要は「ダイナミックな全身運動」のことです。


    一方で、スプーンを持つ、
    ボタンをとめる、字を書く
    こういう「手先の、細かい動き」を
    微細運動(びさいうんどう)と言います。

    「微(び)細な運動」
    つまり「こまやかな手の動き」ですね。

    画像

    で、ここがすごく大事なんですが

    この2つは、別々のものじゃなくて、
    つながっているんです。

    全身を使う大きな動き(粗大運動)が、
    まず土台になる。
    その土台の上に、
    手先の細かい動き(微細運動)が乗っかっていく。

    順番は、やっぱり「大きい→細かい」なんですね。

    イメージとしては、2段重ねのケーキです。

    下の大きなスポンジ(粗大運動)がしっかりしているから、
    上の繊細なデコレーション(微細運動)が乗せられる。

    下がグラグラだと、上は飾れません。

    画像

    この3つ、実は全部つながっている

    さて、勘のいい方は、
    もう気づいたかもしれません。

    ❶「頭から足へ」
    ❷「中心から先へ」
    ❸「大きい動きから細かい動きへ」

    この3つって、
    言い方は違うけど、実は同じことを、
    別の角度から言ってる
    ようなものなんです。

    全部に共通しているのはね、
    「まず安定、それから繊細さ」ってこと。

    まず体の真ん中、
    どっしりした土台ができる。

    その上に、
    だんだん細かいコントロールが乗っかっていく。

    発達って、ぜんぶこの流れで動いているんです。

    画像

    だからこそ——「手が不器用」の答えは、「手」にないことがある


    ここで、今日いちばん大事なことを、
    先に言ってしまいます。

    よくある相談に、
    「うちの子、手先が不器用で……」
    というのがあります。

    お箸がうまく使えない、
    字がうまく書けない、
    ハサミが苦手。

    そういうとき、
    僕たちはつい「手」に注目しちゃうんですよね。
    手の練習をさせなきゃ、指先のトレーニングを
    、って。

    でもね。

    さっきの3原則を思い出してください。

    指先が器用に動くには、
    その前に「体の真ん中(体幹)の安定」がいるんです。

    だから、
    手先の不器用さの"本当の原因"が、
    実は「手」じゃなくて
    「座る姿勢の不安定さ」や「体幹のぐらつき」
    にあることが、めちゃくちゃ多い。

    画像

    これ、本当に大切な視点なので、
    ぜひ心のどこかに置いておいてください。

    「手が気になったら、まず体を見る」

    この章の、いちばんのお土産です。

    そしてこの「土台と繊細さ」の考え方は、
    このあとお話しする
    粗大運動・微細運動の章でも、

    DCD(発達性協調運動症)の章でも、
    支援の章でも、何度も顔を出します。

    今日の記事ぜんぶを貫く背骨みたいなもの
    だと思ってもらえたら嬉しいです。

    画像

    それじゃあ次の章から
    いよいよ具体的に
    「体がどう育っていくか」を
    順番に見ていきましょう。

    第2章:大きな動きの育ち方——粗大運動のものがたり

    さて、ここからは具体的に
    「体がどう育っていくか」を
    順番に見ていきましょう。

    まずは粗大運動、つまり全身を使った大きな動きから。
    寝返り、お座り、ハイハイ、歩く、走る、跳ぶ
    あのダイナミックな動きたちです。

    その前に、ひとつだけお願いがあります

    本題に入る前に、
    どうしても先に言っておきたいことがあります。

    これから「〇ヶ月頃」という月齢が、
    たくさん出てきます。

    でもこれ、あくまで目安です。

    地図でいう「だいたいこのあたり」くらいの、
    ざっくりした感覚で見てください。


    「3〜4ヶ月で首すわり」と書いてあっても、
    5ヶ月でしっかりすわる子もいれば、
    2ヶ月半でグッと持ち上げる子もいる。

    どっちも、なんの問題もありません。

    なのに、この手の月齢表って、
    なぜか人を不安にさせる力を持ってるんですよね。

    「あれ、うちの子もう〇ヶ月なのに……」って。

    だから先に、強く言っておきます。

    月齢は、わが子を採点する点数表じゃありません。
    「今このへんを歩いてるんだな」と位置を確かめる、
    地図の目盛りです。

    そのつもりで、どうか気楽に読み進めてくださいね。

    画像

    寝んねから歩くまで——赤ちゃんの大冒険(0〜12ヶ月)

    生まれたばかりの赤ちゃんは、
    まだ重力に負けっぱなしです。

    自分の頭ひとつ、持ち上げられない。


    でも、ある日。

    うつ伏せの状態で、「んっ……」と、
    あごをちょっとだけ持ち上げる。

    この小さな一歩が、壮大な冒険の始まりなんです。

    ◆❶首すわり(3〜4ヶ月頃)

    第1章の「頭から足へ」覚えてますか?
    その記念すべき第一歩です。
    グラグラだった頭を
    自分で支えられるようになると、
    赤ちゃんの見える世界が、
    ガラッと変わります。

    上を向いて、首を左右に動かして、
    世界を見渡せるようになるんですから。

    ◆寝返り(5〜6ヶ月頃)

    体をねじって、コロンと向きを変える。
    地味に見えますが、これ、
    けっこうすごい運動なんですよ。

    体をひねる力と、バランス感覚が、
    ここでグッと育ちます。

    「寝てるだけ」から「自分で向きを変えられる」へ。
    赤ちゃんにとっては、大きな自由の獲得です。

    ◆お座り(6〜8ヶ月頃)

    これ、僕が個人的に
    すごく好きな節目
    なんです。

    なぜかというと
    座れるようになると、
    両手が自由になるから
    。

    それまで、赤ちゃんの手って、
    体を支えるのに忙しかったんですよね。

    でも安定して座れるようになると、
    その手が「支える係」から解放される。

    すると、手を伸ばして
    物をつかむ、いじる、口に運ぶ
    そういう「手を使った探検」が、
    一気に花開くんです。

    ここ、実は後でお話しする
    「手先の発達(微細運動)」とガッチリつながる、

    大事な分岐点なんですよ。

    画像

    ◆ハイハイ(8〜10ヶ月頃)

    右手と左足、左手と右足を交互に出して進む。
    ……これ、文字にすると分かりますが、
    かなり高度な連携プレーなんですよ。

    左右バラバラのものを、同時に、リズムよく動かすわけですから。

    そして実はこのハイハイ、
    あとあとの「読み書き」にも
    つながると言われています。

    体の左右をバランスよく、
    協力させて使う経験
    が、
    ここでたっぷり積まれるから。

    だから最近の僕は、

    「焦って歩かせなくていいので、
    ハイハイをいっぱいさせてあげてくださいね」

    ってお伝えすることが多いです。
    たくさん這った経験は、ちゃんと後で生きてきます。

    ◆つかまり立ち〜伝い歩き(9〜11ヶ月頃)
    ◆そして独り歩き(12〜15ヶ月頃)

    いよいよ二本足の世界へ。
    ソファや壁につかまって立ち上がり、
    伝い歩きをして、ある日とうとう、
    何も持たずに一歩を踏み出す。

    このとき、
    お父さんお母さんは
    感動で胸がいっぱいになると同時に

    「あ、これから追いかけるの、大変になるやつだ」
    って気づくんですよね(笑)

    そう、ここからが体力勝負の始まりです。
    どうか、無理せず。

    走る・跳ぶ・ケンケン——動きがどんどん派手になる(1〜6歳)

    歩けるようになると、
    今度は動きがどんどんダイナミックに、
    そして複雑になっていきます。

    ◆1歳半頃には、階段をのぼったり、ボールを蹴ったり。
    ◆2歳頃には、走る、両足をそろえてジャンプ。
    ◆3歳頃には、片足立ちで数秒バランス、三輪車をこぐ。
    ◆4〜5歳頃には、ケンケン(片足跳び)、スキップ、
    ボールを投げて、飛んできたボールを受け取る。

    画像

    ちなみに、スキップって、
    改めて考えるとすごい動きなんですよ。

    右足で跳んで、
    左足で跳んで、
    しかも手は逆のリズムで振って……

    左右で違うことを
    同時に、リズミカルにやっているわけです

    だから、できるようになった瞬間って、
    本当にちょっと感動します。
    「おお、脳と体の連携、ここまできたか!」って。

    この

    「複数の動きを、同時に、タイミングよく組み合わせる」

    というのが、

    実はこのあとお話しする
    DCD(発達性協調運動症)を理解するうえで、
    すごく大事なキーワードになってきます

    今はまだ「ふーん」でいいので、
    頭の片隅に置いておいてください。

    ここが本題——「見えない土台」の話

    さて、ここからが、
    この章でいちばんお伝えしたいところです。

    座る、立つ、歩く

    こういう目に見える動きの奥で、
    縁の下の力持ちみたいに働いている感覚が、
    2つあります。

    目には見えないけど、
    めちゃくちゃ大事な2つです。

    ひとつめは、前庭覚(ぜんていかく)
    名前は難しそうですが、中身はシンプル。
    「体の傾きや動き、スピード、バランスを感じるセンサー」です。
    頭を傾けたときに「あ、今かたむいた」と分かる、あの感覚。
    目をつぶってエレベーターに乗っても
    「上がってる」「下がってる」が分かる、あれです。
    耳の奥にセンサーがあるんですよ。


    ふたつめは、固有受容覚(こゆうじゅようかく)
    これは、「筋肉や関節の動き、力加減を感じるセンサー」です。
    たとえば目をつぶっていても、
    自分の手がどのへんにあるか、だいたい分かりますよね。
    あれがこの感覚のおかげ。

    「どれくらいの力で握ればいいか」
    「今、腕をどれくらい曲げているか」を、
    無意識に教えてくれているんです。

    画像

    この2つのセンサーがしっかり働いていると、
    姿勢がピシッと保てます。

    体が「今どんな状態か」を常に把握して、
    無意識にバランスをとってくれるから。

    でも逆に、このセンサーの働きがまだ未熟だと——どうなるか。

    ・座っていても、すぐにグニャッと崩れる
    ・ちゃんと座ろうとしても、姿勢が保てない
    ・なんだか、すぐ疲れてしまう
    ・じっとしていられず、そわそわ動いてしまう

    こういうことが、起きやすくなるんです。

    「ちゃんと座りなさい!」が通じない、本当の理由

    ここ、本当に大事なので、
    少し踏み込ませてください。

    「ちゃんと座りなさい!」って、
    何度言っても座れない子、いますよね。
    すぐに姿勢が崩れる。
    机に突っ伏す。
    椅子の上でモゾモゾする。

    そういう姿を見ると、
    大人はつい
    「やる気がない」
    「集中力がない」
    「だらしない」
    って思ってしまいがちです。

    でもね。
    それ、やる気の問題じゃないことが、
    本当に多いんです。

    体の奥にある、あの2つのセンサーが、
    まだ姿勢を支えきれていないだけ。

    本人は、むしろ必死なんです。
    崩れそうになる体を、
    一生懸命もちこたえようとしている。

    でも、土台のセンサーがまだ育ちきっていないから、
    どうしても崩れてしまう。

    画像

    これを「サボり」として
    叱ってしまうと、
    子どもはどうなるか。

    「がんばってるのに怒られた」
    「自分はダメなんだ」って、
    どんどん自信をなくしていきます。

    できないことを責められ続けるのって、
    大人でもつらいですよね。
    子どもなら、なおさらです。

    だから僕は、お願いしたいんです。
    座れない子を見たら、
    叱る前に、一回立ち止まって
    「この子の土台、育ってる途中なのかも」
    って、そっと見方を変えてみてほしい。

    じゃあ、どうする?——土台は「遊び」で育つ


    じゃあ、その見えない土台(センサー)って、
    どうやって育てるの?という話です。

    答えは、
    拍子抜けするくらいシンプル。遊びです。

    ブランコ、すべり台、
    トランポリン、公園のアスレチック、
    でこぼこ道のお散歩、
    くるくる回る遊び、高い高い

    こういう
    「揺れる・弾む・ぶら下がる・踏ん張る・回る」
    が詰まった遊びが、
    実はあの2つのセンサーを、
    ぐんぐん育ててくれるんです。

    ブランコで揺れる → 前庭覚(バランスのセンサー)が鍛えられる。
    トランポリンで跳ぶ → 着地のたびに固有受容覚(力加減のセンサー)が働く。
    アスレチックでぶら下がる → 全身で踏ん張って、体幹が育つ。

    画像

    「うちの子、落ち着きがなくて、
    じっとしてられなくて……」

    と悩む親御さんに、

    僕がよく
    「とにかく公園でいっぱい遊ばせてあげてください」
    とお伝えするのは、
    こういう理由からなんです。

    一見、「落ち着き」と「遊び」って、真逆に見えますよね。

    でも実は、
    たっぷり体を動かして土台のセンサーが育つと、
    結果的に姿勢が安定して、
    じっと座っていられる時間が延びていく。

    遠回りに見えて、
    これがちゃんとした近道だったりするんです。

    この章のまとめ

    少し長くなったので、
    ぎゅっとまとめますね。

    粗大運動
    つまり全身を使った大きな動きは、
    ❶首すわりから始まって、
    ❷お座り、❸ハイハイ、
    ❹歩く、❺走る、❻跳ぶ、
    と順番に育っていく。

    月齢はあくまで地図の目盛りで、
    スピードには大きな個人差がある。

    そして、その動きの奥では、
    ◆前庭覚(バランスのセンサー)と
    ◆固有受容覚(力加減のセンサー)という
    「見えない土台」が、縁の下で働いている。

    姿勢が崩れやすい子は、
    やる気の問題じゃなく、
    この土台が育っている途中であることが多い。

    その土台は、叱って育つものじゃなくて
    遊びの中で、楽しみながら育っていく

    画像

    この「土台から育つ」という流れ、
    しっかり握っておいてください。

    次の章では、
    その土台の上に乗っかる
    「手先の細かい動き——微細運動」

    の話に入っていきます。

    あの「お座りで両手が自由になった」
    という話が、ここから本格的につながっていきますよ。

    第3章:手先の育ち方——微細運動のものがた

    前の章で、
    体の「大きな動き(粗大運動)」が、
    どんなふうに育っていくかを見てきました。

    この章では、
    その土台の上に乗っかる微細運動
    つまり「手先の、細かい動き」の話をします。

    つかむ、つまむ、いじる、めくる、描く、切る。
    こういう動きが、どんな順番で育っていくか
    。

    これがまた、
    知れば知るほど面白いんですよ。
    手って、本当によくできているなあって、
    いつも思います。

    そして思い出してください。

    前の章の最後に
    「お座りで両手が自由になった」
    という話をしましたよね。

    あそこから、
    手先の冒険が本格的に始まっていくんです。

    「握り方」そのものが、育っていく

    赤ちゃんの手って、
    生まれたばかりの頃は、
    触れたものをギュッと握りますよね。

    指を差し出すと、
    小さな手で握り返してくる。
    あの、たまらなく可愛いやつ。

    でも実はあれ、反射なんです。

    つまり、本人の意志とは関係なく、
    自動的に起きる反応
    。

    「握ろう」と思って握っているわけじゃなくて、
    手のひらに何か触れると、
    体が勝手に「ギュッ」とやってしまう。

    そういう生まれつきの仕組みなんですね。

    やがて、この反射がだんだん消えていきます。
    そして入れ替わるように、
    今度は「自分の意志で」握るようになる。

    ここからが、手先の冒険の本当のスタートです。

    そして、ここが面白いところなんですが

    握り方そのものが、だんだん進化していくんです。
    同じ「握る」でも、月齢によって握り方のクオリティが変わっていく。

    ざっくり、こんな順番です。

    まず、
    ❶小指側を使って、
    手のひら全体でガシッとつかむ(3〜5ヶ月頃)
    この頃はまだ、不器用な握り方です。

    次に、
    ❷手のひら全体で、
    ぎゅっと握り込む(5〜6ヶ月頃)
    おもちゃをわしづかみにする感じ。

    そして、
    ❸だんだん親指側を使うようになる(6〜9ヶ月頃)
    握りの重心が、小指側から親指側へ、
    じわじわ移っていくんです。

    最後に、
    ❹親指と人差し指で、
    小さな物を「ちょこん」とつまむ(10〜12ヶ月頃)。

    画像

    「ちょこん」とつまめた日は、大事件です

    この最後の「親指と人差し指で、小さな物をつまむ」動き。
    専門的にはピンサーグラスプと呼ばれます。

    これ、具体的にどんな場面かというと
    床に落ちた、小さなボーロ。
    髪の毛。小さなゴミ。

    そういう「ちっちゃいもの」を、
    赤ちゃんが指先で器用につまみ上げる、
    あの瞬間です。

    親御さんからすると
    「うわ、そんなの拾わないで!」
    って場面かもしれませんが(笑)

    発達の視点で見ると、
    これはものすごく大きな節目なんですよ。

    手先の器用さにおける、ひとつの到達点

    画像

    ここで思い出してほしい、第1章の

    さて、ここで第1章の原則を思い出してみてください。

    「中心から先へ(中枢から末梢へ)」

    覚えてますか?

    今の握り方の進化、
    よーく見てください。

    手のひら全体でのざっくりした握り(大きな単位)から始まって、
    だんだん親指側へ重心が移り、
    最後は指先2本でのピンポイントな操作(細かい単位)へ


    これ、まさに
    「大きな単位から、細かい単位へ」
    という流れそのものなんです。

    はじめは手全体という
    大ざっぱな道具で物をとらえ、
    しだいに「指先」という
    精密な道具を使いこなせるようになっていく。

    画像


    発達って、バラバラに起きているように見えて、
    実は全部、同じ原則で動いている。

    知れば知るほど、筋が通っていて、
    僕はこれが面白くてたまらないんです。

    クレヨン、スプーン、そして鉛筆へ——「持ち方」にも順番がある

    1歳頃になると、
    クレヨンを握って、
    画用紙にグルグルッと
    なぐり書きをするようになります。

    あれ、ただの落書きに見えて、
    実は立派な微細運動の芽なんですよ。


    2歳頃には、
    積み木を数個積めたり、
    コップを両手で持って飲めたり、
    スプーンを使って食べられるようになったり。

    できることが、どんどん増えていきます。

    そして——これはぜひ知っておいてほしいんですが、

    鉛筆やクレヨンの「持ち方」にも
    ちゃんと発達の段階があるんです

    最初は、
    ❶手全体でギュッと握る持ち方。
    こぶしを握るみたいに、グーで持つ感じです。

    それがだんだん、
    ❷指を使った持ち方になっていく。

    そして就学前後になると、
    ❸親指・人差し指・中指の3本で支える持ち方
    (専門的には「三指握り」とか「トライポッド」と言います)に、
    近づいていきます。

    画像

    だから、お子さんが
    鉛筆やクレヨンを「グー」で握っていても、
    どうか慌てないでください。

    それは「変な持ち方」でも「悪いクセ」でもなくて、
    「まだその段階にいる」というだけ。

    順番通り、ちゃんと進んでいる途中なんです。

    無理やり正しい持ち方に矯正しようとすると、
    かえって本人が「書くこと」を
    嫌いになってしまうこともあります。

    土台(手の中の安定や力加減)が育てば、
    持ち方も自然と変わっていくことが多いんですよ。

    両手を「協力」させる——地味だけど、超重要な

    もうひとつ、
    微細運動で絶対に外せない話をします。

    ちょっと、
    ハサミで紙を切る場面を
    思い浮かべてください。

    どうやって切りますか?

    片手で紙を押さえて、
    もう片方の手でチョキチョキ切りますよね
    。

    服のボタンもそう。
    片手で布を持って、
    もう片方の手でボタンをとめる。

    これ、何気なくやっていますが、

    実は両手が「それぞれ違う役割」を持って、協力しているんです。

    片方は「押さえる・支える」係、
    もう片方は「動かす・操作する」係。

    この役割分担、専門的には
    「両手の協調(きょうちょう)」と言います。

    画像

    これができないと、どうなるか。

    ハサミを使うとき、
    紙を押さえる手がついていかなくて、
    紙がぐにゃぐにゃ動いてうまく切れない。

    ボタンも、
    片手だけでやろうとして、
    なかなかとまらない。

    日常の「あれができない」の多くが、
    実はこの「両手の協力」の未熟さと関係していたりするんです。

    「体のど真ん中」を越える、という

    そして、
    この「両手の協力」と深く関わっているのが、
    「正中線(せいちゅうせん)を越える」という動きです。

    正中線——なんだか難しい言葉ですが、
    中身はシンプルです。

    体を左右にパカッと分ける、ど真ん中の縦ラインのこと。
    おでこから、鼻、おへそを通って、
    下まで一直線に引いた、あの想像上のラインです
    。


    で、「正中線を越える」というのは
    たとえば右手が、
    この真ん中の線を越えて、
    体の左側まで届く動きのこと。

    右手で、体の左にある物を取る。
    そういう動きです。

    画像

    「え、そんなの当たり前にできるでしょ?」
    って思いますよね。

    でも、これが地味に、すごく大事なんです。

    字を書く、ハサミを使う、
    ボタンをとめる、服を着る

    こういう動作って、よく見ると全部
    「真ん中を越えて、両手が協力する」力が
    土台になっているんです。

    たとえば字を書くとき、
    右手はどんどん右へ、
    紙の端まで進んでいきますよね。

    体の正中線を越えて、
    スムーズに手が動いていく必要がある
    。

    画像

    逆に、この「真ん中を越える」動きを
    なんとなく避けてしまう子もいます。

    右にある物は右手で、
    左にある物は左手で、
    ときっちり分けて使ってしまう。

    すると、
    両手を協力させる経験が積みにくかったり、
    利き手がはっきり決まりにくかったり、
    手先の器用さが伸びにくかったりすることがある、
    と言われています。

    だから、難しく考えなくていいので

    ❶体の反対側にある物を取る遊びとか
    ❷大きく腕を使う遊び
    (体の前で大きな円を描く
    タオルを両手で持って左右に動かす、など)を、
    日常にちょっと混ぜてあげる。

    それだけで、
    手先の発達の土台が、
    じわじわ育っていくんですね。

    この章のまとめ

    少し整理しますね。

    手先の細かい動き(微細運動)は、
    ❶反射的な握りから始まって、
    ❷「自分の意志で握る」へ、

    そして握り方そのものが、
    ①手全体のざっくりした握りから、
    ②指先2本の精密なつまみ
    (ピンサーグラスプ)へと進化していく。

    これは第1章の
    「中心から先へ」
    「大きい単位から細かい単位へ」

    という原則、
    そのものの表れでした。

    鉛筆の持ち方にも段階があって、
    グー握りから3本指へと育っていく。

    だから、今の持ち方だけを見て焦らなくて大丈夫。

    そして、

    ハサミやボタンに必要な「両手の協力」
    その土台になる「正中線を越える動き」

    こういう、
    ちょっと見えにくい力が、
    日常の器用さを支えている。

    画像

    さて——ここまでで、
    「体の大きな動き(粗大運動)」と
    「手先の細かい動き(微細運動)」が、
    どんなふうに育っていくかを見てきました。

    どちらも、「土台から、繊細さへ」という流れの中で、
    ちゃんと順番を守って育っていく。
    これが、発達のきほんの物語です。

    この発達や成長を可視化してくれる発達検査
    それが【新版K式発達検査】でもあります

    でも。

    ここで、こんな疑問が浮かんだ方も、
    いるんじゃないでしょうか。

    「順番は分かった。
    でも……うちの子、
    その順番通りには進んでるはずなのに
    どうしても特定のことだけ、すごく苦手で。
    がんばっても、がんばっても、できない。
    これって、どういうこと?」


    はい。その疑問に、次の章で、
    まっすぐ向き合います。

    「がんばっているのに、できない」
    その背景にあるかもしれない、
    DCD(発達性協調運動症)という話です。

    ここからが、今日の記事の、
    いちばん届けたいところです。

    第4章:「不器用」で片づけないで——DCD(発達性協調運動症)の話

    ここからが、
    今日の記事で、
    僕がいちばん届けたいところです。

    少し、僕の現場の話から
    始めさせてください。

    ある男の子の話

    以前、療育に来てくれていた、
    年長さんの男の子がいました。

    仮に、ハルくんとしますね。
    ※仮名です。通ってくださっている
    お子さんの名前ではないですので
    お間違いのないように


    ハルくんは、とっても優しくて、
    おしゃべりが上手で、お友達思いの子でした。

    でも——運動が、どうしても苦手だったんです。

    かけっこをすれば、
    手足がバラバラになって転ぶ。

    ボールを投げても、
    あらぬ方向へ飛んでいく。

    縄跳びは、一回も跳べない。

    お絵かきをすれば、線がガタガタで、
    枠からはみ出る。

    ハサミを持たせると、
    紙がぐにゃぐにゃになってしまう。

    周りの大人は、こう言っていました。
    「もっと練習しなさい」
    「ちゃんと見てやってるの?」
    「ふざけてるんじゃないの?」
    って。

    でも、ハルくんは、ふざけてなんかいなかった。
    むしろ、誰よりも必死でした。

    縄跳びの練習を、
    人の見ていないところで、
    こっそり何十回も繰り返していたんです。

    それでも、跳べない。

    ある日、ハルくんがぽつりと言いました。

    「ぼく、なんでみんなができることが、できないんだろう」

    この言葉、今でも忘れられません。

    画像



    「がんばってもできない」には、理由があることがある

    ハルくんのように、

    「知的な遅れがあるわけでもない。
    やる気がないわけでもない。むしろ一生懸命。
    なのに、体を使うことが、どうしても極端に苦手」

    そういうお子さんがいます。

    こういうとき、その背景に、
    DCDというものが隠れていることがあるんです。

    DCDは、
    日本語で「発達性協調運動症」
    (または発達性協調運動障害)と言います。

    英語の
    Developmental Coordination Disorder
    の頭文字をとって、DCDと呼ばれています。

    ……うん、漢字が並ぶと、
    ちょっと身構えちゃいますよね。

    ひとつずつ、ほどいていきましょう。

    キーワードは「協調」——体の"連携プレー"

    DCDを理解するうえで、いちばん大事な言葉。
    それが「協調(きょうちょう)」です。

    協調運動って、何か。

    ひとことで言うと、

    「体のいろんな部分を、同時に、
    タイミングよく連携させて動かすこと」
    です。

    画像


    これ、実は僕たち、
    日常で無意識にやりまくっているんですよ。

    たとえば、ボールをキャッチする。
    これ、すごい連携プレーなんです。

    ①飛んでくるボールを目で追って(目)、
    ②落ちてくる位置とスピードを予測して(脳)、
    ③そこへ手を出して(腕)、
    ④ちょうどいいタイミングで、
    ⑤ちょうどいい力で握る(手)。

    目・脳・腕・手が、一瞬で、見事に連携している。

    縄跳びなんて、もっとすごい。
    縄を回す手と、跳ぶ足の、
    タイミングをピッタリ合わせないといけない。
    手が先でも、足が先でもダメ。
    しかも、それを連続で繰り返す。

    画像

    DCDというのは、ざっくり言うと、
    この「連携プレー」が、生まれつき、
    とても苦手な状態のこと
    なんです。

    力がないわけじゃない。
    やる気がないわけじゃない。

    体の各パーツを
    「同時に、タイミングよく、まとめて動かす」
    という司令塔の働きが、うまくいきにくい。

    だから、縄跳びやボール、
    ハサミや書字みたいに
    「複数の動きを組み合わせる」ことが、
    極端に難しくなる。

    ここで、第2章のあの話を思い出してください。
    「スキップは、左右で違うことを同時にやる、すごい動き」

    あれです。
    あの「複数の動きを同時に組み合わせる力」こそが、
    協調運動。

    DCDの子にとっては、
    ここが大きな壁になるんですね。

    「頭では分かってる、でも体が言うことをきかない」

    DCDの子の感覚を、
    少しでも想像してもらうために、
    こんな例えを使わせてください。

    想像してみてください。

    あなたが、
    利き手じゃないほうの手で、
    字を書こうとしている場面を。

    あるいは、
    生まれて初めて自転車に乗ろうとして、
    ハンドルとペダルとバランスが、
    全然まとまらない、あの感じを。

    「どう動かせばいいか」は、頭では分かっている。
    でも、体がその通りに動いてくれない。
    ぎこちなくて、思った通りにいかなくて、すごく疲れる。


    DCDの子は、日常のいろんな場面で、
    あの「初めて自転車に乗る感覚」を味わっている

    そんなふうにイメージすると、
    少し近いかもしれません。

    画像

    だから、
    「もっと練習しなさい」という言葉が、
    どれだけ酷なことか。

    本人は、人の何倍も頑張って、
    それでやっと人並みの半分、
    みたいな世界で生きているのかもしれないんです。

    そこへ「努力が足りない」と言われたら

    そりゃあ、心が折れますよね。

    どのくらいの子にみられるの?

    「そんなの、すごく珍しいことなんじゃないの?」
    って思うかもしれません。

    でも、実はそうでもないんです。

    研究によって幅はありますが、
    DCDは、だいたい
    学齢期の子どものうち数%にみられる
    と言われています。

    これは、1クラスに1人か2人は、
    その可能性のある子がいる、
    くらいの割合です。

    つまり、決して珍しいことじゃない。
    むしろ、よくあること。

    なのに、あまり知られていなくて、
    「ただの運動オンチ」「不器用な子」
    で片づけられてしまいがちなんです。

    そこが、僕がこの章をどうしても書きたかった理由です。

    画像

    ほかの特性と、一緒にあることも

    もうひとつ、
    知っておいてほしいことがあります。

    DCDは、単独であることもあれば、
    ほかの発達の特性と一緒にみられることもある、ということ。


    たとえば、
    ASD(自閉スペクトラム症)や
    ADHD(注意欠如・多動症)、
    LD(学習症)
    のあるお子さんに、

    DCDが重なっていることは、
    わりとよくあります。


    逆に言うと

    「落ち着きがない」「集中が続かない」
    と言われている子の
    "動きのぎこちなさ"の背景に、
    実はDCDが隠れていた、
    なんてこともあるんです。

    だから、ひとつの特性だけで決めつけず、
    「この子は、どんな組み合わせの中で生きているのかな」と、
    まるごと見てあげる視点が大切になります。

    画像

    「診断」の話を、少しだけ丁寧ん

    ここで、デリケートな話をひとつ。

    こう書いていくと、
    「え、じゃあうちの子もDCDかも……」と、
    不安になった方がいるかもしれません。

    まず、落ち着いて聞いてください。

    この記事は、
    お子さんを診断するためのものではありません。

    DCDかどうかを判断できるのは、
    医師などの専門家だけです。

    チェックリスト的に
    「当てはまるから、うちの子はDCDだ」と、
    ご家庭で決めてしまう必要は、
    まったくありません。

    そして、これがいちばん大事なんですが
    「診断がつくかどうか」より、
    ずっと大切なことがあります。

    それは、

    「この子は今、何に困っていて、
    どうすればその困りごとが減るか」を考えること。

    診断名は、その子を助けるための
    "道具のひとつ"にすぎません。

    名前がつくことがゴールじゃない。
    名前がついてもつかなくても、
    目の前の子が「できた!」と笑える工夫を考えること。

    そっちのほうが、何倍も大事なんです。

    画像

    だから、もし気になることがあれば、
    ひとりで抱え込まず、
    気軽に専門家に相談してください。

    それは「問題がある子だと認めること」じゃなくて、
    「この子を一緒に理解してくれる味方を、増やすこと」なんです
    。

    この感覚、
    ずっと大切にしてほしいなと思います。

    いちばん守りたいのは、「心」です

    最後に、この章で、
    どうしても伝えたいことを。

    DCDで本当に怖いのは、
    実は「運動が苦手なこと」
    そのものじゃない
    んです。

    怖いのは

    「がんばってもできない」を繰り返すうちに、
    子どもが「どうせ自分はダメなんだ」と思い込んでしまうこと。

    できないことを責められ、笑われ、
    「練習が足りない」と言われ続けると、
    子どもはだんだん、
    挑戦すること自体をやめてしまいます。

    「どうせできないから、やらない」

    体育が嫌いになり、
    外遊びを避け、
    工作から逃げ、

    そして「自分には価値がない」
    とまで感じてしまう
    。

    これを、二次的な傷つき——「二次障害」と呼んだりします。

    運動の苦手さそのものより、
    こっちのほうが、ずっと根深く、
    その子の人生に影を落とすことがあるんです。

    画像


    だからこそ、僕たち大人の関わり方が、本当に、本当に大切になる。

    ハルくんの話に戻りますね。

    ハルくんは、その後どうなったか。

    僕たちは、
    縄跳びを無理に跳ばせるのを、
    いったんやめました。

    代わりに、ハルくんが大好きだった
    「お友達と協力する遊び」や、
    揺れる・踏ん張る全身遊びをたっぷりやって、

    まずは「体を動かすって、楽しい」を取り戻すことから始めたんです。
    できたことを、ひとつずつ、具体的に言葉にして認めて。

    縄跳びが跳べるようになったかって?

    ……正直、すぐには跳べませんでした。

    でもね、ハルくんの口から、
    あの「なんでぼくだけ」は、
    だんだん聞かれなくなっていったんです
    。

    代わりに「これ、できた!」が増えていった。

    僕にとっては、縄跳びが跳べることより、
    そっちのほうが、ずっと大きな"できた"でした。

    具体的に、じゃあどんな関わり方をすればいいのか

    その話は、第6章でたっぷりします。

    でもその前に、次の第5章で、
    「DCDの子って、日常でどんな姿を見せるの?」という、
    具体的な特性の例を、
    場面ごとにじっくり見ていきましょう。

    「あ、これ、うちの子のことかも」
    と思うものがあるかもしれません。

    でも、どうか思い出してください。

    それは「ダメな姿」じゃなくて、
    「この子が、こんなに頑張ってきたサイン」なんです。

    そういう目で、一緒に見ていきましょうね。

    第5章:こんな姿、ありませんか?——DCDの子の動きの特性例

    前の章で、
    DCD(発達性協調運動症)の「正体」
    体の連携プレーが、とても苦手な状態

    についてお話ししました。

    でも、「協調運動が苦手」と言われても、
    正直まだピンとこない方も多いと思うんです。

    だから、この章では、具体的に
    「日常のどんな場面で、どんな姿として現れるのか」を、
    できるだけたくさん、一緒に見ていきましょう。

    その前に、もう一度だけ、大事なお願いをさせてください。

    これから出てくる例を読んで、
    「あ、これ、うちの子かも」
    と思うことがあるかもしれません。

    でも——どうか、
    チェックリストで採点する
    みたいに読まないでください。

    ひとつ当てはまったから、ふたつ当てはまったから、
    「だからDCDだ」なんてことは、絶対にありません。

    ここに挙げるのは、あくまで
    「こういう姿として現れることがあるよ」
    という例。

    そして何より——これから挙げる姿は、
    どれも「ダメな姿」じゃなくて、
    「その子が、見えないところでこんなに頑張ってきたサイン」
    なんです。

    そういうあたたかい目で、
    一緒に見ていきましょうね。

    画像

    それでは、場面ごとに見ていきましょう。

    【場面1】運動の時間——「どうして、ぼくだけ」

    まずは、いちばん分かりやすく現れやすい、
    体育や運動遊びの場面から。

    ❶ボール遊びが苦手
    飛んでくるボールをキャッチできない。
    顔のほうへ飛んできても、
    よけるのが間に合わない。
    投げても、狙ったところへ飛ばず、
    あらぬ方向へ。

    前の章で話した
    「目・脳・腕・手の連携」が、
    うまくいきにくいからなんですね。


    ❷縄跳びが跳べない
    縄を回す手と、跳ぶ足のタイミングが、
    どうしても合わない。
    縄が足元に来る前に跳んでしまったり、
    跳んだあとに縄が引っかかったり。

    連続で跳ぶなんて、夢のまた夢……
    という状態になりやすいです。

    ❸走り方が、なんだかぎこちない
    手と足が、うまく連動しない。
    全力で走っているのに、
    なぜか手足がバラバラで、転びやすい。
    かけっこで、理由もなくつまずく。

    画像

    こういう子が、運動会や体育で、
    どんな思いをしているか。

    想像すると、胸がしめつけられますよね。

    みんなが当たり前にできることが、自分だけできない。
    その劣等感を、人一倍、感じ取っているんです。

    ここで大人が
    「もっと頑張れ」「練習不足だ」
    と言ってしまうと……

    前の章でお話しした「心の傷つき」に、
    まっすぐつながってしまいます。

    【場面2】教室・お勉強——「字が、どうしても書けない」

    次は、机に向かう場面。
    実はここにも、たくさんのサインが現れます。

    ❶字が、枠からはみ出る。マスに収まらない。
    手先を細かくコントロールするのが難しいので、
    どうしても線がガタガタになったり、
    大きさがそろわなかったり。

    本人は、ものすごく集中して、
    力を込めて書いているのに、うまくいかない。

    ❷書くのが、とにかく遅い。すぐ疲れる。
    一文字書くのに、人の何倍も神経を使うので、
    ものすごく疲れるんです。
    だから、板書(黒板を写すこと)が追いつかない。

    みんながとっくに書き終わっているのに、
    自分だけ半分も進んでいない。

    ❸姿勢が、すぐ崩れる。机に突っ伏す
    これ、覚えていますか?
    第2章の
    「見えない土台(前庭覚・固有受容覚)」
    の話です。
    体幹を安定させて姿勢を保つこと自体が大変だと、
    机に向かう姿勢を維持できず、
    すぐにグニャッとなる。

    「ちゃんと座りなさい」が通じない、
    あの子たちです。

    画像

    ここで注意したいのが

    こういう姿が「やる気がない」「真面目にやっていない」
    と誤解されやすいということ。

    でも、違うんです。
    字が汚いのも、
    書くのが遅いのも、
    姿勢が崩れるのも、
    「サボり」じゃない。

    体の連携や、姿勢を支える土台が、
    まだうまく働いていないだけ。

    むしろ本人は、周りの誰よりも、
    必死でペンを握りしめているのかもしれないんです。

    【場面3】食事——「こぼさないで、って言われても」

    毎日の食事の時間にも、
    サインは現れます。

    ❶スプーンやお箸から、よく食べ物をこぼす。
    口まで運ぶ間に、手が揺れたり、
    傾きの調整がうまくいかなかったりして、
    ポロポロこぼれてしまう。

    ❷コップの飲み物をこぼす。食器を倒す。
    力加減(第2章の固有受容覚、覚えてますか?)の調整が難しいと、
    コップをつかむ力が強すぎたり弱すぎたり、
    置くときにガチャンとなったり。

    食べ方が、どうしても不器用に見える。

    一生懸命食べているのに、
    口のまわりが汚れたり、
    お皿の上が散らかったり。

    画像

    食事って、毎日、何回もありますよね。

    しかも、家族や、給食で、
    みんなと一緒にとることが多い。

    だから、「また、こぼして!」
    「ちゃんと食べなさい!」と言われる回数が、
    どうしても多くなりがちなんです。

    でも思い出してください。

    本人は、ふざけてこぼしているんじゃない。
    手と口の連携、力加減の調整
    その「連携プレー」が、まだ難しいだけ。

    叱られる回数が増えるほど、
    食事の時間が「つらい時間」になってしまう。

    それは、避けたいですよね。

    【場面4】着替え・身支度——「ボタンと、格闘中」

    朝の身支度、実はここも、
    連携プレーの連続なんです。

    ❶ボタンがとめられない
    第3章で話した
    「両手の協力」が必要な作業ですよね。

    片手で布を持って、
    もう片方でボタンを穴に通す。
    この連携が難しいと、
    何分も格闘することになります。

    ❷靴の左右を、よく間違える
    ❸靴ひもが結べない

    靴ひもを結ぶのは、
    両手で複雑な連携をする、
    かなりの高等技術。

    大人が思う以上に、難しい作業なんです。

    ❹ファスナーの着脱、前後ろの区別も苦手なことが。
    服の前後を間違えたり、
    ファスナーの金具を合わせるのに手間取ったり。

    画像

    朝は、ただでさえバタバタしますよね。

    保育園・幼稚園・学校に遅れそうな中で、
    子どもの身支度がなかなか進まないと、
    親御さんもつい「早くして!」ってなっちゃう。

    これ、当たり前の感情です。
    責める必要なんて、まったくありません。

    ただ、ここでも視点を少しだけ。

    身支度が遅いのは、
    「のんびりしている」んじゃなくて、
    ひとつひとつの動作に、
    人の何倍もの集中と連携が必要だから
    。

    そう知っておくだけで、
    朝のイライラが、
    少しだけやわらぐかもしれません。

    【場面5】遊び・工作——「作りたいのに、作れない」

    お友達との遊びや、工作の場面にも、
    サインは現れます。

    ❶ハサミ、のり、折り紙が苦手
    第3章で話した
    「両手の協力」のかたまりのような作業です。

    紙を押さえながら切る、
    線に沿って切る、
    きれいに折る
    どれも連携が必要で、うまくいかないことが多い。

    ❷ブロックやパズルの、細かい操作が難しい
    小さなパーツをはめ込んだり、
    向きを合わせたりするのに、手こずる。

    ❸お友達の動きに、ついていけない
    鬼ごっこで、方向転換がうまくできずに転ぶ。
    みんなの素早い動きのテンポに、乗り切れない。

    だんだん、
    集団遊びから距離をとるように
    なってしまうことも。

    画像

    「作りたいのに、作れない」
    「遊びたいのに、ついていけない」

    この「気持ちと体のあいだにあるギャップ」が、
    DCDの子の、いちばん苦しいところかもしれません。

    やる気がないんじゃない。
    むしろ、やりたい気持ちは、人一倍ある。
    でも、体がついてこない。

    前の章で話した
    「頭では分かってるのに、体が言うことをきかない」

    あれが、遊びの場面でも起きているんです。

    大事なのは、「どう見るか」です

    さて、いろんな場面を見てきました。

    もしかしたら、
    「あれもこれも当てはまる……」と、
    少し不安になった方がいるかもしれません

    でも、何度でも言います。
    これはチェックリストじゃありません。

    そして、当てはまったとしても、
    それは何も悪いことじゃない。

    いちばん大切なのは

    同じ姿を見たときに、大人が「どう見るか」です。

    「また失敗した」
    「どうしてできないの」と見るのか。

    それとも、
    「こんなに難しいことを、毎日、必死で頑張ってるんだ」
    と見るのか。

    同じ子の、同じ姿なのに、
    大人の"見方"ひとつで、
    その子が受け取るメッセージは、
    天と地ほど変わります。

    画像

    ここまで読んでくださったあなたは、
    もう、後者の見方ができる人だと思います。

    だって、
    わが子を理解したくて、
    こんなに長い文章を、
    ここまで読んでくれているんですから。

    「不器用な子」「運動オンチ」というレッテルの奥に、
    ちゃんと「頑張っている一人の子ども」がいる。

    それが見えた時点で、
    あなたとお子さんの関係は、
    もう良い方向へ動き始めています。

    じゃあ、具体的にどう関わって、
    どう支えてあげればいいのか。

    ここまでの
    「発達の順番」も、
    「見えない土台」も、
    「DCDの特性」も、

    ぜんぶつなげて

    次の第6章で、
    おうちで今日からできる「関わり方」の話を、
    たっぷりしていきましょう。

    ここが、この記事のゴールです。

    第6章:じゃあ、どう支えればいいの?——おうちでできる視点

    さあ、ここまで長い旅をしてきました。

    ・発達には順番があること(第1章)
    ・大きな動きの育ち方と「見えない土台」のこと(第2章)
    ・手先の育ち方のこと(第3章)
    そして、
    ・「がんばってもできない」の背景に
    あるかもしれないDCDのこと(第4・5章)


    ここからは、いよいよ本題中の本題。

    「じゃあ、親として、どう関わればいいの?」という、
    いちばん知りたいところです。

    先に、肩の力を抜いてもらうために
    言っておきますね。

    これから話すのは、
    特別な訓練でも、高価な教材でも、
    毎日何時間もかける特訓でもありません。

    ほとんどが「視点の持ち方」と「ちょっとした工夫」の話です。

    今日から、肩肘はらずにできることばかり。
    どうぞ気楽に読んでください。

    ① いちばん大事:「できない」の原因を、正しい場所に探す

    まず、すべての土台になる考え方から。

    お子さんが何か「できない」とき。
    僕たち大人はつい、"できないこと"そのものを直そうとします。

    字が下手なら字の練習、
    縄跳びが跳べないなら縄跳びの特訓
    ボタンがとめられないならボタンの練習

    でもね、
    ここまで読んでくださったあなたなら、
    もう分かるはずです。

    「できない」の本当の原因は、
    目に見えている場所とは、
    別のところにあることが多い
    、と。

    ◆字が枠からはみ出す
    →原因は「手先」じゃなく、「座る姿勢の不安定さ(体幹)」かもしれない。
    ◆ハサミがうまく使えない
    →原因は「右手」じゃなく、「紙を押さえる左手との連携」かもしれない。
    ◆すぐ姿勢が崩れる
    →原因は「やる気」じゃなく、
    「見えない土台(前庭覚・固有受容覚)」かもしれない。

    第1章でお話しした
    「手の悩みの答えは、体にある」

    あれを、いつも頭の片隅に置いてほしいんです。
    できないことを直接たたくんじゃなくて、
    その一段下にある"土台"を探して、そこを育てる。

    これが、支援のいちばん大事なコツです。

    画像


    ② 土台を育てるのは、やっぱり「遊び」

    じゃあ、その土台はどう育てるのか。
    答えは、第2章でもお話しした通り、遊びです。

    ◆体の土台(姿勢・バランス)を育てたいなら
    ブランコ、すべり台、トランポリン、アスレチック、
    でこぼこ道のお散歩、公園でのびのび。

    「揺れる・弾む・ぶら下がる・踏ん張る・回る」
    が詰まった遊びを、たっぷり。

    ◆手の土台(指先の器用さ)を育てたいなら
    粘土、ビーズ通し、シール貼り、洗濯ばさみのパチパチ、
    新聞紙をビリビリ破く、お絵かき、折り紙。

    楽しく指先を使える遊びを、たっぷり。

    画像

    ここで大事なのは、「訓練」にしないこと

    「はい、今から指先のトレーニングするよ!10回ね!」
    なんてやると、子どもは一瞬で冷めます(笑)。

    そうじゃなくて、
    「わー、この粘土ふわふわだね」
    「洗濯ばさみ、何個つけられるかな?」って、
    あくまで"楽しい遊び"として一緒にやる。

    楽しいからこそ、子どもは何度も繰り返す。
    繰り返すから、力がつく。

    遊びって、本当によくできた仕組みなんですよ。

    ③ 「ちょっとだけ難しい」を用意する——スモールステップ

    次のコツは、課題の"ちょうどよさ"です。

    子どもって、簡単すぎると飽きるし、
    難しすぎると心が折れる。

    伸びるのは、その間

    「今できることの、ほんのちょっと先」に
    挑戦しているときなんです。

    たとえば、縄跳び
    いきなり「連続10回」は、
    DCDの子には高すぎる山です。

    そうじゃなくて、
    ❶「縄をまたいで歩く」→
    ❷「その場で縄なしでジャンプ」→
    ❸「縄を前に置いて跳び越える」→
    ❹「1回だけ回して跳ぶ」
    というふうに、
    階段を小さく小さく刻んであげる。

    一段ずつなら、登れる。
    そして一段登るたびに、「できた!」が生まれる。

    この小さな「できた!」の積み重ねが、
    子どもの自信を、少しずつ太くしていくんです。

    画像

    ④ 「結果」じゃなく「頑張り」をほめる——言葉の魔法

    これ、めちゃくちゃ大事なので、
    太字でいきます。

    ほめるのは、「できた結果」だけじゃなく、「頑張ったプロセス」

    DCDの子は、どんなに頑張っても、
    「結果」では人に勝てないことが多いんです。

    だから、結果だけをほめる関わりだと、
    その子はいつまでたってもほめられない。

    そうじゃなくて、
    「最後まであきらめなかったね」
    「さっきより、縄に近づけたね」
    「自分からやってみようとしたの、すごいね」

    こんなふうに、
    過程や姿勢や、ほんの小さな前進を、
    具体的に言葉にしてあげてほしいんです。

    「すごいね」「えらいね」だけだと、
    ちょっともったいない。

    何がよかったのかを具体的に伝えると、
    子どもは「ああ、ここを見てもらえてるんだ」と感じて、
    自信の芯が、ぐっと太くなります。

    画像


    ⑤ 子どもを変える前に、環境を変える——これがいちばん優しい

    ここ、僕がいちばん大切にしている考え方です。

    「できない」とき、子ども本人に「もっと頑張れ」と求める前に
    まず、環境のほうを変えられないかを考えてみてほしい
    んです。

    たとえば、こんな工夫。

    ◆椅子が高すぎて足がブラブラしていると、
    姿勢って安定しません。
    →だったら足台を置く。

    足の裏がしっかり床(台)につくだけで、
    姿勢がグッと安定して、
    手元の作業がしやすくなることがあります。

    ◆食事でお皿が滑って食べにくいなら、
    →滑り止めマットを敷く。

    ◆スプーンが持ちにくいなら、
    →握りやすい太めの柄のものに替える。

    ◆字を書くのがつらいなら、
    →マスを大きくする。
    →鉛筆を持ちやすい三角鉛筆や補助グリップにする。

    ◆ボタンが大変なら、
    →大きめのボタンやマジックテープの服を選ぶ。

    ◆靴ひもが結べないなら、
    →マジックテープの靴にする。

    画像

    これ、「甘やかし」でも「ズル」でもありません。

    眼鏡を思い浮かべてください。
    目が悪い人に「気合いで見ろ!」
    とは言いませんよね。

    眼鏡という道具で、
    見えやすくしてあげる。

    環境調整って、それと同じことなんです。

    道具や環境を工夫して、
    その子が本来の力を発揮しやすい"舞台"を整える。

    できない原因を子どものせいにしない、
    いちばん優しいアプローチだと、僕は思っています。

    ⑥ 「やらない選択肢」もあっていい——逃げ道を残す

    これは、少し勇気のいる話かもしれません。

    特にDCDのお子さんの場合、

    どうしても苦手なことを、
    無理やり全部やらせる必要は、必ずしもないんです。

    たとえば、縄跳び。
    本人が泣きながら嫌がっているのを、
    毎日特訓して、
    「運動なんて大嫌い」
    「自分はダメだ」になってしまうくらいなら

    いったん手放す勇気も、大切です。

    縄跳びが跳べなくても、
    人生はちゃんと続きます。

    でも、「自分はダメだ」という思い込みは、
    その子の人生に、長く重くのしかかる。

    どっちを守るべきか。
    答えは、はっきりしていますよね。

    苦手なことから少し距離をとって、
    そのぶん、その子の
    「好き」や「得意」を思いっきり伸ばしてあげる。

    運動が苦手でも、絵が好き、
    生き物にくわしい、優しくてお友達思い

    その子だけの「きらめき」が、必ずあります。
    そこに光を当ててあげることも、立派な支援なんです。

    画像


    ⑦ ひとりで抱えない——味方を増やす

    最後に

    これは、
    お子さんへの支援であると同時に、
    あなた自身への支援の話です。

    ここまで読んで、
    「よし、全部やってみよう!」
    と思ってくださったかもしれません。

    嬉しいです。

    でも…どうか、
    ぜんぶを、あなた一人で抱え込まないでください。

    子どもの発達は、親だけで支えるものじゃないんです。
    保育園・幼稚園・学校の先生、小児科の先生、
    作業療法士さんや理学療法士さん、
    僕たちのような療育の人間

    みんなが、あなたとお子さんの味方です。

    もし気になることがあれば、
    専門機関に相談する。

    第4章でも言いましたが、
    それは「問題を認めること」じゃなく、
    「一緒に見てくれる仲間を増やすこと」

    乳幼児健診も、就学前の相談も、療育も、
    ぜんぶ、あなたを助けるために
    用意されている仕組みです。

    使えるものは、遠慮なく、どんどん使ってください。

    画像

    そして、こんなに一生懸命、
    お子さんのことを考えているあなた自身を、
    どうか、ねぎらってあげてください。

    がんばりすぎて、
    あなたが倒れてしまったら、
    元も子もありませんから。

    時には手を抜いて、
    休んで、自分を甘やかして。

    それも、立派な「子どものための支援」なんですよ。

    この章のまとめ

    おうちでできること、整理しますね。

    まず、

    ❶「できない」の原因を、水面下の"土台"に探す。
    ❷その土台は、訓練じゃなく遊びで育てる。
    ❸課題は「ちょっとだけ難しい」に刻んで、小さな「できた!」を積む。
    ❹ほめるのは結果じゃなく頑張り、しかも具体的に。
    ❺子どもを変える前に環境を変える。
    ❻苦手は無理に克服させず、「好き」を伸ばす道も残す。

    そして、
    ❼ぜんぶを一人で抱えず、味方を増やす
     あなた自身も含めて、大切にする。

    画像

    どれも、完璧にやる必要はなくて。

    「あ、これならできそう」
    と思えたものから、
    ひとつだけ、試してみてください。

    それで十分です。

    さあ、長い旅も、
    いよいよ終わりに近づいてきました。

    最後に、僕がどうしても、
    あなたに伝えたいこと
    を

    次の「おわりに」で、
    お話しさせてください。

    おわりに:あなたは、もう十分、やっています


    ここまで、本当に長い道のりに、
    最後までお付き合いくださって、
    ありがとうございました。

    発達の順番の話から始まって、見えない土台、手先の育ち、
    そしてDCDのこと、日常の姿、おうちでできること

    ずいぶんたくさんの話をしましたね。

    全部を覚えて帰る必要なんて、
    まったくありません
    。


    もし、たったひとつでも
    「あ、これ、心に残ったな」
    というものがあれば、

    僕はそれで、
    この記事を書いた意味があったと思っています。

    最後に、今日の話を、
    ぎゅーっと一言にまとめさせてください。

    今日、いちばん伝えたかったこと

    ❶子どもの体は、
    「真ん中から外へ」「大きな動きから、細かな動きへ」
    ちゃんと順番を守って育っていく。

    ❷首がすわり、お座りができ、ハイハイして、
    歩いて、走って。

    その土台の上に、
    やがてスプーンやハサミや鉛筆といった、
    繊細な手の動きが、少しずつ乗っかっていく。


    ❸急がなくても、いいんです。
    順番さえ守られていれば、スピードは、
    その子それぞれで、まったく構わない。

    ゆっくり育つ子は、
    ゆっくりのその子のペースで、
    ちゃんと前に進んでいます。

    画像

    「できない」の奥にいる、頑張り屋さんへ

    そして、もうひとつ。

    もし、あなたのお子さんが、
    「がんばっても、どうしてもできない」ことを
    抱えているなら
    ——どうか、思い出してください。

    それは、サボりでも、わがままでも、
    やる気のなさでもないかもしれない、ということを。

    ◆縄跳びが跳べない子は、
    見えないところで、
    人の何倍も練習しているかもしれない。

    ◆字がはみ出す子は、
    誰よりも強くペンを握りしめているかもしれない。

    ◆朝の身支度が遅い子は、
    ボタンひとつに、
    全神経を注いでいるかもしれない。

    「不器用な子」「運動オンチ」というレッテルの奥には、
    いつだって、一生懸命に生きている、一人の子どもがいます。

    その子の頑張りに気づいてあげられるのは、
    いちばん近くにいる、あなたです。

    画像

    守りたいのは、点数じゃなくて、心です

    僕が療育の現場で、
    いちばん大切にしていること。

    それは、その子の「心」を守ることです。

    縄跳びが跳べるようになることより。
    字がきれいに書けるようになることより。
    何よりまず、「自分はダメなんだ」と思わせないこと。

    「どうせできない」を、
    「やってみたら、できた!」に変えていくこと。

    第4章でお話しした、ハルくんのこと、
    覚えていますか。

    ハルくんは、結局、
    縄跳びがすぐに跳べるようにはなりませんでした。

    でも、
    「なんでぼくだけできないんだろう」
    という言葉は、
    だんだん聞かれなくなって、
    代わりに「これ、できた!」が増えていった。

    あの笑顔を取り戻せたことは、
    僕にとって、どんな"できた"よりも、大きな"できた"でした。

    できることが増えるのは、もちろん嬉しい。

    でも、それ以上に

    その子が、
    自分のことを好きでいられること。
    挑戦する気持ちを失わないこと。

    そっちのほうが、ずっとずっと、大切なんです。

    画像


    最後に——これを読んでいる、あなたへ

    さて。ここまで書いてきて、
    最後に、どうしても伝えたい相手がいます。

    それは今、
    この文章を読んでくださっている、
    あなた自身

    考えてみてください。

    あなたは、この長い長い記事を、
    ここまで読んでくれました。

    それは、お子さんのことを、
    本気で理解したいと願っているからですよね?

    夜中にスマホで検索してしまうのも。
    周りの子と比べて、胸がざわつくのも。

    「どうしたらこの子のためになるんだろう」と悩むのも
    全部、全部、お子さんを深く愛しているからこそ、です。

    その愛情だけで、あなたはもう、
    お子さんにとって、世界でいちばんの味方なんです。

    画像

    だから、どうか。

    比べて、落ち込まないでください。
    できないことを数えて、自分を責めないでください。
    「もっとこうしてあげなきゃ」と、自分を追い詰めないでください。

    お子さんは、お子さんのペースで、
    ちゃんと前に進んでいます。

    そして、あなたは——もう、
    十分すぎるほど、やれています。

    胸を張ってください。

    もし、しんどくなったら。
    うまくいかなくて、涙が出そうになったら。

    どうか、ひとりで抱え込まないで。
    身近な専門家を、遠慮なく頼ってください。


    僕たち療育の人間も、
    保育園や幼稚園の先生も、
    お医者さんも、みんな、

    あなたとお子さんの味方です。

    あなたが頑張りすぎて倒れないように、
    支える手は、ちゃんとたくさんあります。

    今日も、お子さんに。
    そして、がんばっているあなた自身に。
    たくさんの、小さな「できた!」が訪れますように。

    それでは、また、どこかで。

    2026年10月3日
    発達支援の翻訳者、ヒデアキでした。

    📎 この記事で参考にした主な情報

    ・CDC(米国疾病予防管理センター)「Developmental Milestones(発達のマイルストーン)」
    ・小児看護学における成長・発達の原則(頭尾方向・近位遠位方向)
    ・作業療法分野における把握パターンの発達段階(手掌把握〜ピンサーグラスプ)
    ・東京都教育委員会「特別支援教育」関連資料(粗大運動から微細運動へ/姿勢保持)
    ・感覚統合の考え方(前庭覚・固有受容覚と姿勢コントロール)
    ・DCD(発達性協調運動症)に関する一般的な知見

    📝 大切なお願い

    ※記事中の月齢は、あくまで標準的な目安です。
    発達のスピードには、本当に大きな個人差があります。
    どうか、わが子を「採点」する物差しにはしないでくださいね。

    ※この記事は、お子さんを診断したり、
    特定の状態と決めつけたりするためのものではありません。

    DCD(発達性協調運動症)をはじめ、
    お子さんの発達について気がかりなことがある場合は、
    ひとりで判断せず、小児科の先生や、
    作業療法士・理学療法士などの専門職、
    お近くの発達相談の窓口に、
    どうぞ気軽にご相談ください

    それは「問題を認めること」ではなく、
    「お子さんを一緒に理解してくれる味方を増やすこと」です。

     
     
    発達支援の翻訳者|ヒデアキ 療育3施設代表|保育士・児発管・鍼灸師 「知識不足ではなく、翻訳不足だった。」 WISC・新版K式・学校連携など、 難しい発達の話を文章と図解でやさしく翻訳。 保護者さん・支援者さんが明日使えるヒントを届けます。

    あなたへのおすすめ