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13_倩邪鬌ず狂気_J.D.サリンゞャヌ『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』考察

    こちらのマガゞンでは、J.D.サリンゞャヌ『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』を、聖杯䌝説的な偎面から読み解いおいたす。前の蚘事を未読の方は、もしよろしければ、01からお楜しみください。

    マガゞン_06 から、神話孊者のゞョヌれフ・キャンベルが『千の顔をも぀英雄』で瀺した英雄の旅の項目に沿っお読み解いおいたす。項目に぀いおは䞋蚘06_聖杯䌝説の構造をご芧ください。

    英雄の旅【むニシ゚ヌション】1 詊緎の道

    Q.13-1 ホヌルデンが同じ人を耒めたりけなしたりするのはなぜか

     ホヌルデンはスペンサヌ先生の行動に察しお「ずんでもなく汚いやりくちだ」22「僕は先生を氞遠に蚱さないだろう」24ず反発する。䞀方で、先生が「君を助けたいず思うんだ」ずいうこずに察しおは、「先生は本気でそう思っおいたんだ。それはよくわかっおた。䞭略先生に察しお悪いなずいう気持ちが突然すごくこみあげおきた。」28ず語り、埌半ではスペンサヌ先生のこずを「なかなかいい人なんだよ」ずいう284。
     ストラドレむタヌのこずも、内実はだらしない50ず批刀し぀぀、フレンドリヌで気前がいい48こずは認めおいる。サリヌの俗っぜさを批刀したすぐあずに、圌女に結婚を申し蟌む223。カヌル・ルヌスを倉態だずののしりながら、「知胜指数が高い」「この男にはずきどきすごく教えられるこずがあるんだ」231ずも述べる247。
     アントリヌニ先生に぀いおも、投身自殺したゞェヌムズ・キャッスルを抱き䞊げお医務宀ぞ運んだ295キャッチャヌの資質を持った人物ずしお語るが、䞍可抗力ずはいえ眠っおいるずきに額を觊られたこずに驚いおその堎から逃げ出しおしたう。ホヌルデンは埌からこの出来事を振り返り、「そのずき僕はゲむっぜいちょっかいを出されたず思ったわけだけど、本圓にそうだったのかな そういうこずっおなかなか真盞が芋極めにくいんだよね」330ず考える。アントリヌニ先生が額を觊る仕草は「゚ズメ」などでも曞かれた、キリスト教で粟霊の力が宿るよう祈る按手や掗瀌の仕草にも読めお䞡矩的だ。

     人びずに察する印象の揺らぎもたた、ホヌルデンの未熟さの象城、神話における英雄に課された詊緎。片方に揺らいだ埌は必ず反察偎ぞの揺り戻しが起こる、愛情が深いほど憎しみも匷くなる、ずいうやじろべえのような動きが垞に起こる。これは、語られる人物の実際の優劣ではなく、圌らを芋る偎、ホヌルデンの方の粟神的な揺らぎの衚珟。
     この愛憎に揺らぐ感芚は、ストラドレむタヌを憎んでいるにも関わらず、ストラドレむタヌの行動を逐䞀チェックせずにはいられないアックリヌの心情44や、フィヌビヌを奜きだからこそ意地悪をしおしたう少幎278にも通じる。兞型的か぀幌皚な倩邪鬌。アックリヌず話しおいるずサディスティックな気持ちになる He always brought out the old sadist in me41、フィヌビヌが泣くずころを芋お嬉しかった350ず語るように、愛憎はホヌルデンが冒頭で着おいるリバヌシブルのコヌト同様たやすくひっくり返る。
     
     アントリヌニ先生宅を飛び出した埌は、雑誌を読んで「真剣に」「自分は癌」で「䜙呜せいぜいあず二カ月ずいうずころだろう」ず「萜ち蟌んでしたった」332ず語ったすぐ埌で、クリスマスでにぎわう街に「なかなかいい気分だった」334ずいい、フィヌビヌずの楜しい思い出を回想し、たた次のペヌゞでは、「僕にはもうこの通りを向こう偎たで枡り切るこずができないんじゃないか」335ず萜ち蟌む。ホヌルデンのなかに、おそらくはもずもずあった躁う぀的な傟向も、物語が進むにしたがっお、悪化しおいくように芋える。Q.12や「バナナフィッシュ」読解でも芋たように、シェむクスピアに倣うサリンゞャヌ䜜品では、粟神的な浮き沈み、愛憎の急䞊昇ず急降䞋が粟神を蝕む。
     ホヌルデンがフットボヌルの詊合のような二項察立の勝敗ゲヌムを拒絶するのは、圌自身が内面的な二項察立の揺らぎに苊しむ未熟者であるからだ。躁う぀的な思考や振舞い、過剰に饒舌なのに倧切なこずには䞀切觊れない頑なさ、氎を出したり止めたりするようなしぐさはその衚珟ずいえるだろう。

    Q.13-2 ホヌルデンがハムレットに぀いお語るのはなぜか

     ホヌルデンは、サリヌの芝居の趣味や、男友達ずのやりずりを心の䞭で批刀したすぐ埌に、サリヌに求婚する211224。この堎面は、『ハムレット』で、ハムレットがオフィヌリアに「心からお前を愛したこずもある」ず語った数行埌に、「お前を愛したこずなどない」123ず蚀い攟぀堎面を想起させる。
     『キャッチャヌ』で、ホヌルデンは1948幎公開のサヌ・ロヌレンス・オリビ゚監督・䞻挔の映画『ハムレット』に぀いお觊れおいるから、サリヌずの堎面を『ハムレット』ず重ねお読んでも良いだろう。

     ホヌルデンは映画に぀いお、「ずびっきりハンサム」なオリビ゚が「歩いたり決闘をしたりするのを眺めおいるのは最高だった」が、「DBが話しおくれたハムレット像ずオリビ゚ずはぜんぜんあっおいなかった。オリビ゚は頭がこんがらがった気の毒な青幎ずいうよりは、どっかのお偉い将軍みたいに芋えた」198ず語る。
     ホヌルデンにずっお、『ハムレット』で重芁なのは䞻人公が「頭がこんがらがった気の毒な青幎」であるこず狂気に陥っおいるずいう点。ハムレットは「気違いに戻らなくおは」『ハムレット』シェむクスピア、束岡和子蚳、ちくた文庫_134ず、わざず珟王ず王劃の前で狂気に陥った挔技をするこずで埩讐の機䌚を狙うわけだが、ハムレット本人も自芚できないたたに、挔技の狂気ず本圓の狂気が混ざり合っおいくのがひず぀の読みどころ。
     ホヌルデンが映画に぀いお、わざわざ「フィヌビヌが気に入ったただひず぀の堎面は、ハムレットが犬の頭をずんずんず撫でるずころだった」199ず述懐するのは、狂気におちいった状態が、04でみたように神話やシェむクスピア䜜品においお〈頭の異垞〉や〈獣〉ずしお衚珟されるこずが倚いからだろう詳现䞋蚘参照。

     さらに、サリンゞャヌ䜜品においお、狂気に陥るこずはオルフェりスになっお冥界ぞくだるこずずも結び぀く。オルフェりスは冥界の入り口で、䞉぀の頭を持぀怪物の犬で冥界の番犬、ケルベロスに䌚う。「バナナフィッシュ」ず合わせお読めば、ハムレット、オルフェりス、ホヌルデン、シヌモアがいずれも狂気に陥った人物ずしお描かれおいるこずがわかる。シヌモアはオルフェりスでもある。詳しくは「バナナフィッシュ」読解にお
     神話やシェむクスピア䜜品、それらに倣うサリンゞャヌ䜜品においおは、英雄䞻人公は、異䞖界・圌岞・無意識の深淵を旅しおいるずき、基本的に正気意識を倱っお䞀皮の狂気のなかにいる。倧人ずしおの理性を倱っお本胜的な獣の領域に入ったり、子どもの頃の粟神状態に戻ったりしおいる。さらに、バフチンがカヌニバルずいったもの、い぀もの街が祝祭空間になっおいるこず、日垞から非日垞ぞ切り替わっおいるこずずもむコヌル。
     攟校になり、行き堎を無くしおクリスマスの祝祭ムヌドに包たれたニュヌペヌクの街を歩き回るホヌルデンも、䞀皮の狂気のなかにいる。
     シェむクスピアの『オセロヌ』では、「月が普段より地球に近づくず人の心が狂うずいう」228ず曞かれ、『倏の倜の倢』では月の女神フィヌビヌの別名ティタヌニアが支配する森での倢のような䞀倜が描かれる。『キャッチャヌ』でも、フィヌビヌずいう名の効が物語の芁になっおいる点も、に陥っおいるこずの象城ずずれる。
     
     ハムレットは「to be or not to be」に象城されるように、優柔䞍断で、圌が埩讐を決断できず、先延ばしにしたこずが悲劇を招く、ゆえに埩讐劇ずしおは優れおいるずはいえないずいう『ハムレット』批評もあるようだ。しかし、少なくずも、サリンゞャヌ読解から遡っお考えるなら、『ハムレット』は、䞻人公が優柔䞍断であるこず、二項察立に迷う姿をこそ味わうべき物語だ。
     『ハムレット』の、オズリック「ひどく暑うございたすので」ハムレット「いや、ずんでもない、ひどく寒いよ。北颚だし」オズリック「ごもっずも、かなり冷えおたいりたした」ハムレット「しかし、なんだか蒞し暑いような気もする。僕の䜓質のせいかな」オズリック「たったく蒞し暑くおかないたせんな」249ずいう、倩邪鬌なハムレットず、なんにでも远埓する埓臣の滑皜なやりずりにも、状況や立堎によっお、たやすく揺らぎ惑わされる、匱く浅はかな人心がよく珟れおいる。

     あるいは、『お気に召すたた』で、ロザリンドずシヌリアが、オヌランドヌに぀いお、「髪の毛たで真っ赀な嘘の色しおる」123「ナダの髪よりいくらか茶色がかっおるけど。きっずキスだっお裏切り者のナダのキスず同じだわ」124ず悪口をいった盎埌に、「ほんずのこず蚀うず、あの人の髪はいい色よ」「玠晎らしい色よ、髪の毛はああいう栗色に限るわね」「それにあの人のキスは聖逐のパンの舌ざわりのように神聖だわ」124ず耒める堎面も、同様の衚珟だ。
     
     こういった揺らぎ、優柔䞍断さは、サリンゞャヌ読解、そしおおそらくは䞀郚のシェむクスピア読解をも困難にしおいる芁因のひず぀。䞻人公がある人や物事をほめたたえ、その盎埌に真逆のこずを蚀うため、読者は混乱し、行動が矛盟しおいる、キャラクタヌが䞀貫しおいない、ずいった評䟡がいわれたりもする。
     しかし、サリンゞャヌやシェむクスピアが参照し、キャンベルが解説しおいる神話の文脈では、良いのか悪いのかの䟡倀刀断ができずに二極で揺らぐ粟神状態こそが、未熟な若者楜園を远攟された英雄が乗り越えなければならない詊緎。サリンゞャヌはそれをシェむクスピア䜜品から孊び、自䜜に掻かしおいるのではないだろうか。

    ぀づきはこちらから。ぜひご芧ください。

    J.D.サリンゞャヌ『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』読解0110のたずめはこちらから。ぜひご芧ください。

    J.D.サリンゞャヌ『キャッチャヌ・むン・ザ・ラむ』読解1120のたずめはこちらから。ぜひご芧ください。


    ■参考文献
    『謎解きハムレット』河合祥䞀朗 ちくた孊芞文庫、2016幎
     


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