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アジア人の飲食店 甘いカレーが増えるわけ (室橋裕和)

    【連載】アジア人は今 第9回

    ジャーナリスト 室橋 裕和

    日本でもよく見るようになったアジア料理店。さまざまな国・地域の外国人が経営し、日本人客も取り込みながら店を増やしてきた。物価高や節約志向で日本の飲食店も苦戦する中、うまく営業できる店は何が違うのか。また、食の多様化が進む一方で在留資格は厳格化され、これら料理店の存続を揺るがしている。

    外国料理、とりわけアジアの料理を出すレストランがずいぶん増えたなあと、今さらながら思う。特に首都圏では、アジアの大半の国の食文化が楽しめるようになった。ブータン料理だってアフガニスタン料理だって味わえるのだ。
     
    あえて言えば、中央アジアはウズベキスタンしか(たぶん)ないのと、中東諸国は国ごとに細分化された店が少ないくらいだろうか。中国やインド、ミャンマーあたりは地域ごと民族ごとのレストランもたくさんある。
     
    都市部だけでなく、今や地方の小さな町でもインド料理やベトナム料理の店ぐらいは見かけるようになった。これほどに多様な「食」に出合えるのは、実に豊かなことだと思うのだ。
     
    その背景にあるのは、言うまでもなく日本に住む外国人が増加したことだ。主に労働者としてやってきた人々の胃袋を満たすため、同胞向けにレストランや食材店を開く外国人も当然ながら現れる。
     
    同国人のお客だけで店を回せるならいいが、なかなか難しいわけで、次第に日本人客も意識するようになる。日本語メニューを用意したり、日本人が来ると「カライ、ダイジョブ? カラクナイ、デキルヨ」なんて味を調整してくれたりもする。

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    地階はネパール料理店、1階はインドネシア料理店、2階はハラールのラーメン店。新大久保にて(筆者提供)

    そして、ガッツリ稼ぎたいならば同国人よりも日本人をターゲットにした方がいいと発想する人も出てくる。ここは日本なのだ。マイノリティーの外国人より、日本人がはるかに多い。そこで、味付けや店の内装を日本人好みに寄せる店もどんどん増えてくる。
     
    この図式は、僕が10年ほど暮らしたタイでも同様だ。
     
    7万人の在タイ日本人社会は確かに大きなマーケットで、そこを狙って本格的な和食店や居酒屋を開く日本人も多い。だが、タイ人は6500万人。消費意欲も高い。となれば、タイ人をメインの顧客層と考え、タイ人好みの料理と雰囲気の店づくりをする日本人も増えていく。移民たちは、現地人の舌に合わせて食文化を変えていくものなのだ。
     
    日本ではタイ料理もずいぶんと味が違う。良く言えば、マイルドで食べやすい。悪く言えば味にパンチがなく、ぼんやりしている。
     
    ランチはビュッフェ式、という所も多くなった。日本人が好むグリーンカレーやガパオライス、パッタイは必須だ。タイでは決してメジャーではないトムヤム麺も、日本ではポピュラーなメニューになっている。
     
    「でも、トムヤムって言うわりには酸味、辛味、甘味、全部薄いよね・・・」と思いつつ食べるわけだが、僕のようなタイ在住経験者はメインのお客ではないのだ。そういうマニアは、タイ人のコミュニティーがある東京・錦糸町とか、横浜・伊勢佐木町とか、茨城県にある「ガチ」のタイ飯の店に行けばいい。
     
    浅く広いエスニックファンをつかむにはマイルド過ぎるぐらいが十分で、それでお客でにぎわっているからきっと正解なのだろう。

    ナンにハチミツ魔改造
    「日本人は甘い物好き」

    日本人への適応という意味では、ネパール人ほどたくましい人々はいないだろう。今や、日本全国の津々浦々にインドカレー店があるが、そのほとんどはネパール人経営だ。
     
    インドとネパールは、長く国境を接する隣国同士。食文化にも共通する部分はいくらかあるものの、両者の料理は「別モノ」と言っていい。しかし、ネパール人たちは自国の料理ではなくあえてインド料理を出している。その方が、日本人客が入るだろうという思惑からだ。
     
    それも、バターチキンカレー、でっかいナン、謎ドレッシングのかかったサラダ、ラッシーというお決まりのセット。「ナンおかわりする?」と笑顔で聞いてくるのも共通だ。他にもカレーの種類はいろいろあるが、基本的には北インドの料理を日本人好みにアレンジした店が多い様子。共通しているのは「甘さ」だ。

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    こうした「日本人向けにアレンジしたインド料理」を出しているのはほとんどネパール人(筆者提供)

    「日本人、甘いの好きね」
     
    ネパール人に限らず、そう話す外国人は多い。確かに、和食には砂糖やみりん、酒などで甘みを出す料理が結構ある。僕たちはあまり意識しないけれど、外国人からすると和食は「とっても甘い」と感じられるのだと聞く。
     
    だから、ネパール人たちはカレーにはカシューナッツのペーストを入れて甘みを出し、ナンにも砂糖を入れる。さらには、世界のどこにもない「あんこナン」「明太子チーズナン」「ハニーナン」などなど、魔改造したナンをスイーツとして売り出し、これまた日本人に好まれている。
     
    そういう奇抜な、しかし日本人の心をくすぐるメニューを生み出しつつも、基本は「ナン+カレー」のセットで勝負してきた。同じようなメニューの店ばかりが日本各地に増殖していった詳しい経緯は、拙著『カレー移民の謎』(集英社新書)をお読みいただきたいが、根本にあるのはこの国に適応し、生き延び、稼ごうという強い気持ちだ。

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    「あんこナン」は結構おいしい。こちらは持ち帰りに包んでもらったもの(筆者提供)

    ここ数年は「ネパール居酒屋」なんて名乗る店も目立つようになった。カレーを出しつつ、唐揚げとか枝豆とかタコわさびなんかも出して、会社帰りのお父さんたちが一杯やれるような店だ。
     
    タンドリーチキンと生ビールで800円の「晩酌セット」とか「飲み放題、宴会承ります」なんて貼り紙も見かける。ボトルキープの黒霧島や、いいちこが並ぶ光景も普通になった。日本人が、いかに酒好きかをよく分かっているのだ。それらの店主たちが日本語学校に通っていた時代、居酒屋でアルバイトをしていた人が多いことも影響しているだろう。
     
    また、大学のそばに出店したカレー屋は「学生セット」と称して600円とか700円の格安ランチを出し、郊外店では「お子さまセット」を売り出してファミリー層をつかむ。ポイントカードを発行する店まである。日本の特色をどんどん取り入れて稼ごう、というモチベーションにあふれているのだ。
     
    最近では、カレービジネスそのものに見切りをつけて「日本で稼ぐなら日本食だろう」と、焼鳥屋や居酒屋に業態を変えるネパール人も出てきている。一見すると、ごく普通の日本の店なのだが、実はネパール人が経営しているのだ。

    明洞の流行
    日本でもウケる

    韓国人たちは、極めて移り変わりの激しい流行の波に乗り遅れまいと必死だ。
     
    僕の住む東京・新大久保はコリアンタウンとしても知られるが、店がどんどん入れ替わっている。チーズタッカルビを出していた店がポチャ(韓国風の居酒屋)になり、爆増したタピオカの店は次々とマカロンやらチュクミ(イイダコの甘辛炒め煮)の店に変わり、今はドバイチョコやトッピングできるヨーグルトが人気になっている。

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    フローズンヨーグルトにトッピングできる店は日本人女性に大人気(筆者提供)

    はやっていると見るや商品をすかさず転換し、内装を変えて、お客の日本人女子を受け入れる。その即応性と臨機応変さには驚く。
     
    ある韓国人は言う。
     
    「ソウルの明洞で人気のもの、それから韓国人女性のSNSで流行っているものは、日本に持ってきてもたいてい受ける」
     
    とはいえ、ビジネスはそう簡単ではない。お金をかけて店をモデルチェンジしたって、お客がつかないこともあるし、日本では思ったほど売り上げが伸びないものだってある。
     
    「何が流行するかわかったら、苦労はないですよね」
     
    そして、今の韓流ブームは十代が主役だから、どうしたって客単価は低い。だから、安い食べ放題の店も出てきている。しかし、これが広がれば町全体の売り上げが下がると懸念する声もあるそうだ。客層と値段と流行と、全てのバランスを取るビジネスはなかなかに難しい。
     
    客単価で言うなら、今ではインバウンドの外国人観光客にはかなわない。そこを当て込んでか、ハラール対応を全面に打ち出す店を開く外国人も増えている。ハラールラーメン、ハラール焼肉などを結構見るようになった。
     
    宗教的にベジタリアンが多いインドのレストランにも、イスラム教徒の観光客がやってくるが、こうした店では酒や豚肉を使わないだけでなく、ビーガンにも対応していることがある。
     
    欧米人の観光客の中には、ベジタリアンや動物由来の食品(乳製品など)を一切食べないビーガンもかなりいる。やはり欧米人に人気の観光地タイでは、すでにタイ人たちがビーガンレストランをばんばん開いて盛況だ。日本ではまだまだ未開拓の分野なので、ひと儲けしたい人はトライしてもいいかもしれない。

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    ピスタチオクリームと、カダイフという揚げた麺を砕いたものをチョコで包んだドバイチョコ(筆者提供)

    資本金6倍に
    在留資格が厳しく

    しかし今、これら外国人経営のレストランは危機に瀕している。
     
    店を経営する外国人の多くは「経営・管理」という在留資格を持っている。外国人が日本で事業を営むために必要なものだ。これが従来は500万円の出資金で取得できたが、2025年10月に要件が変わった。
     
    「3000万円の資本金」「日本人もしくは永住者などをひとり以上雇用すること」など、極めて厳しい条件が課された。既存の事業者には2028年までの猶予期間があるものの、それまでに残り2500万円を用意することは小規模な飲食店経営者には難しい。
     
    日本の全産業の資本金の中央値は300万~500万円だ。
     
    吉野家ホールディングスの資本金は102億6500万円だが、牛丼の吉野家単体では1000万円。ちなみに、高市早苗首相の公式グッズを販売する会社の資本金は、わずか12万円に過ぎない。

    そもそも2006年に会社法が施行され、資本金が1円でも会社が設立できるようになったのに、外国人だけに高額な資本金を求める意味はどこにあるのだろうか。

    法務省は「経営・管理」を悪用し、事業実態がない会社を作って日本に住んでいる外国人がいることを厳格化の理由に挙げている。これは確かにその通りで、中国系のペーパーカンパニーが多数、民泊などの名目で登記されていることが問題になっていた。この人々には厳しく対応する必要がある。
     
    しかし「経営・管理」を日本移住の手段とする中国人には、3000万円を支払える人もまた多い。ペーパーカンパニー対策に全然なっていないのである。しかも、入管の担当者は参議院法務委員会で「ペーパーカンパニーの実数は把握していない」と答弁している。全体像が見えていないのに、一律に厳格化したというのだ。
     
    一方で、しっかりと事業実態があり、小さいながらも店を経営し、日本人に寄り添ったメニューとフレンドリーさで地域に溶け込んできた店が、あおりを受けて廃業の瀬戸際にある。何とも理不尽な話なのだ。
     
    在留資格を失えば扶養する家族も同様で、日本を出て行かざるを得ない。この国で生まれ育ち、日本語しか話せない子供もだ。

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    東京・新大久保は「経営・管理」で小規模なビジネスを営む外国人が非常に多い(筆者提供)

    永住者や高学歴人材
    「離日を考えている」

    そして、日本社会も大きな損害を受ける。
     
    まずは税収が減るだろう。「経営・管理」取得者は4万4760人(2025年6月時点)。ペーパーカンパニーがあったとしても、大部分は法人税や所得税を支払ってきた。そうでなければ、在留資格の更新ができないからだ。
     
    入居していたテナント、酒や食材などの卸業者、電子決済の会社なども影響があるだろう。外国人は、日本企業と密接に関わりながら商ってきたのだ。
     
    こうして外国人が出ていった後に、果たして日本人の店が入るだろうか。これだけ「異国飯」が増えた背景には、少子高齢化や後継者不足で日本の店舗がどんどん潰れ、困ったテナントのオーナーが外国人でも入居させていったという経緯がある。地域のシャッター街化や過疎化がさらに進むだけではないか。
     
    さらにいえば「経営・管理」や、その下で働くコック(在留資格は「技能」)が扶養する家族は週28時間までのアルバイトができるため、食品加工、飲食、清掃、コンビニ、配送などの業界は、この労働力を相当にアテにしていた。その数、実に8万8776人(2024年時点)。人手不足で成り立たなくなる会社も出てくるだろう。
     
    日本人の配偶者や永住権を持つ人は今回の制限は関係なく店を続けられるが、26年7月には、その永住権取得の要件が厳格化された。
     
    「日本人世帯の平均年収約575万円を超える継続的な収入」と「厚生年金30年加入相当の年金見込み」が原則要件となり、これを満たせる外国人は非常に限られた数になる。ほとんど永住権の廃止に等しい。
     
    「経営・管理」などの在留資格でけんめいに働き、永住権を目標にがんばってきた外国人たちからは、落胆というよりも絶望の声が聞かれる。
     
    そして、誰もが「おかしなビジネスがはびこるのでは」と口にする。
     
    偽装結婚、違法な名義貸しや金貸し、法人口座の売買、会社の乗っ取り・・・。そういう手段を取る外国人ばかりが居残り、まじめにビジネスを営んできた外国人ほど、高すぎるハードルを前にあきらめて帰国する社会になっていきそうだ。
     
    厳格化の基準をクリアできる、あるネパール人の実業家がこんなことを言っていた。
     
    「日本は外国人が生きていくための法律を簡単に、しかも次々に変えるようになってしまった。そういう国に資産を置いておくのはリスク。すでに永住権を持つ人や、帰化した人まで『離日』を考えている。事業に成功した人、高学歴の優秀な人材ほど、そういう傾向にある」
     
    排外主義者の支持を得るためには、実に有効な政策だ。しかし、長い目で見れば日本の国益を確実に損なう愚策だろうと思う。

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    厳格化によって日本社会も大きな痛手を受けることになるという指摘も(筆者提供)

    室橋 裕和(むろはし・ひろかず)
    ジャーナリスト
    1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年にわたりタイおよび周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のジャーナリスト、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。
    現在は日本最大の多国籍タウン、新大久保に在住。外国人コミュニティーと密接に関わりあいながら取材活動を続けている。「外国人コミュニティーから見る多文化共生の実情や課題」といったテーマで、大学やメディア、トークイベントなどの講演多数。武蔵野大学非常勤講師。新大久保など多国籍タウンの街歩きフィールドワークも行う。
    著書に『カレー移民の謎』(集英社新書)、『ルポ新大久保』(角川書店)、『エスニック国道354号線』、(新潮社)『日本の異国』(晶文社)など。

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    公式サイト https://murohashi.jp/
    X     https://x.com/muro_asia


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