
「荷物持ちなら鞄で足りる」とパーティー追放となった俺、〈保存〉スキルで食堂を開いたが客が来ない|短編ファンタジー【シロクマ文芸部「待つ時間」
待つ時間だけは、いくらでもあった。
王都の外れで食堂を開いて三か月。今夜も客は来ない。窓の向こうでは、青い魔石灯が雨に滲んでいた。
俺は厨房に戻り、鍋の縁に触れた。
止まっていた煮汁が、ことりと泡を立てる。玉ねぎの甘い匂い。味見にすくった牛肉は、三日前と変わらず、舌の上でほろりと崩れた。
固有スキル〈保存〉。触れた物の時間を止める、俺の唯一の取り柄だ。
旅の間も、仲間の飯を温かいまま運んでいた。
「荷物持ちなら鞄で足りる」
勇者にそう言われた日の夕飯も、俺が用意したものだった。
匙を置いたとき、扉の鈴が鳴った。
びしょ濡れの少女が立っていた。額に張りついた髪から雫が落ちる。外套を脱ごうとして、背中の大剣が椅子にぶつかった。
「いちばん安いの、二人分ください」
濡れた指が銅貨を三枚並べた。
「一皿で二枚だぞ」
少女は革袋を逆さにした。何も落ちてこない。
「……一人分で。弟と分けます」
俺は銅貨を受け取り、深皿を二枚下ろした。
「今日は三枚でいい。弟は?」
「弟は森で薬草を採ってて。売った帰りに、ここで待ち合わせで」
壁の時計が九つ鳴った。少女が扉を見る。
「どこの森だ」
「黒牙の森です。でも、あの子、足は速いから」
今朝、組合で聞いた。あの森に大狼が出た、と。
少女の指は、空の革袋を握り潰していた。
俺は古い外套を羽織った。
「迎えに行くぞ」
「でも、お店が」
「見りゃわかるだろ。暇なんだ」
二皿によそった煮込みを保存する。少女の目の前で、湯気がぴたりと止まった。
「帰ってから食え」
残りの鍋にも触れ、蓋をして抱える。少女は大剣を背負い直し、俺の後から雨の中へ駆け出した。
*
明け方、店に戻ったときには、俺の膝は笑っていた。
背中の少年は眠っている。折れた脚には、帰りに寄った治療院で添え木を当ててもらった。俺の外套は応急処置の際に包帯になり、少女の剣には刃こぼれができていた。
大狼が剣に噛みついた隙に、鍋に触れて〈保存〉を解き、熱い煮込みを顔に浴びせた。顎が緩んだところで少女が剣を引き抜き、俺たちは逃げた。背後では、狼の唸り声がしばらく続いていた。
少年を椅子に下ろし、二枚の皿に触れる。
湯気が、ふわりとほどけた。
肉の匂いに、少年が目を開ける。
「姉ちゃん。俺の分もある?」
少女は頷いた。何度も頷きながら、弟の手に匙を握らせた。
やがて二人分の匙の音が、朝の店に響き始めた。
俺も向かいに腰を下ろす。
自分の分は、もうなかった。
それでも、皿が空になるのを待つ時間は、少しも長くなかった。
あとがき
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、シロクマ文芸部のお題「待つ時間」から、短編ファンタジーを作りました。
前回の「借りた本」ではホラーを書きましたが、今回は、固有スキルや勇者が登場する、なろう系ファンタジーの雰囲気に挑戦しています。
ChatGPTとやり取りしながら、会話のつながりやスキルを使う動作などを調整しました。説明を足しすぎず、情景や登場人物の行動から伝わる文章を目指した作品です。
読み終えたあとに、少しでも温かさが残っていたらうれしいです。印象に残った場面や感想も、ぜひコメントで聞かせてください。
普段は「AIを使う看護師パパ」として、育児や学習、仕事でAIをどう使っているかを、実体験をもとに書いています。
気になるものがあれば、こちらも読んでいただけるとうれしいです。
前回の短編を読みたい方へ
同じシロクマ文芸部のお題「借りた本」から書いた短編ホラーです。今回とは違う、不穏な物語もどうぞ。
私について知りたい方へ
看護師歴13年、3児の父。AIを使ってアプリやホームページを作るようになった私の自己紹介です。
育児にAIを取り入れてみたい方へ
息子の鏡文字をきっかけに、間違い探しとして楽しめるアプリを作りました。家庭のちょっとした困りごとに、AIを活用したお話です。
仕事や学習にAIを活用してみたい方へ
AIに学習計画や進捗管理を手伝ってもらい、資格取得に取り組んだ経験を書いています。
今回の作品をきっかけに、また読みに来ていただけたらうれしいです。