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問題:1次元空間に量子的で非相対論的な自由粒子がある。その波動関数ψ(x)や密度演算子ρを、実験で印加できる調和振動子ポテンシャルと、粒子の位置を測る測定機を用いて定める方法を述べよ。

    粒子の波動関数ψ(x)や密度演算子ρを、物理量の確率分布の実験データから一意に決定する方法が、様々な分野の多くの物理研究者には、まだ浸透していない悲しむべき現状があります。中には、「物理に影響しない全体の位相因子を除いて、波動関数は実験だけからきちんと決まる」と言うだけで、驚く先生も居ます。そのような方々に、彼らの波動関数の定義を改めて聞くと、単に「シュレディンガー方程式を満たす複素関数で、物理量の確率分布が、その関数のボルン則から計算できるもの」という内容の答えが、圧倒的に多いのです。しかしこれは、前世紀の古い量子力学の教科書の内容に過ぎません。もしくは「ほとんど至る所(almost everywhere)で一致する関数の同値類を導入した、ヒルベルト空間の元が波動関数である」と答える、数学寄りの物理の先生も結構居ます。

    しかし、それでは波動関数が与える実験への予言を計算できても、波動関数そのものの物理的な理解に繋がりません。波動関数は、実験で計測される特定の物理量の確率分布の集合から一意に定義されるものです。つまり「波動関数=確率分布」という構図が、現在ではハッキリしているのですが、その知識のアップデートをされてない先生方も未だ多いのです。このような現状については、下記記事もご覧ください。

    この状況を改善することを目的として、広江克彦さんと一緒に『量子力学の〈新常識〉』という書籍を出しました。

    これは、通称「堀田量子」と呼んで頂いている『入門 現代の量子力学』の副読本という位置づけにもなっています。

    この『量子力学の〈新常識〉』には、実験に基づいた、波動関数の定義方法だけでなく、前世紀の物理学の教科書に書かれていた、様々な間違いや誤解を解消するための内容が、豊富に出ています。量子力学を学ぶ物理学徒の方だけでなく、以前に量子力学を大学で学ばれた多くの方々にも、是非ご一読して頂きたい一冊です。

    さて、以下では1次元空間中の粒子の波動関数や密度演算子を定義する「量子状態トモグラフィ法」を紹介します。これは『量子力学の〈新常識〉』の付録Bや、それ以前に出されている『量子情報と時空の物理』の付録Aに書かれている内容です。


    時刻がt<0ではポテンシャルを持たない自由運動をしている質量mの粒子の、t=0における密度演算子ρを決定する方法として、0<t<Tの間に調和振動子ポテンシャルを印加する装置と、t=Tに粒子の位置の確率分布を計測できる装置を使う量子状態トモグラフィ法を考えます。t=0の瞬間に調和振動子ポテンシャルを印加すると、粒子の波動関数は、その素早い印加の過程で全く変化せずにそのままです。そしてそれ以降は、角振動数がωの調和振動子運動を粒子は行います。そのハミルトニアンは

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    (1)式

    です。ここで位置と運動量の線形和としての物理量Aを考えてみましょう。

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    (2)式

    このAのt=0での値を、t=Tでのxの値x(T)から決めることができます。x(T)は

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    (3)式

    で与えられますが、これを使うとt=0でのAの値は

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    (4)式

    と計算されます。これは、古典力学だけでなく、量子力学でも同様です。時刻t=Tで、位置xがx=Xという値をとる確率密度分布を

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    を考えます。これを使うと、t=TでのAの確率分布は

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    (5)式

    で与えられます。つまり位置xと運動量pの任意の線形和としての物理量Aのt=0での分布が、実測できるのです。

    なお前世紀にウィグナーが、このAは物理的に測れないという間違った議論をしたことがありますが、現代の量子測定理論では、Aは問題なく測定できる物理量と理解されています。

    さて、Aの特別な場合として、角度変数θを用いた

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    (6)式

    という物理量のt=0での確率分布を、この実験で測定します。これは生成消滅演算子を使うと

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    (7)式

    と書け、量子光学などによく出てくる物理量です。これを使って、t=0の密度演算子ρの位置表示での行列成分を、この物理量の実験データから定める公式を構築しましょう。

    まずρに対してウィグナー関数を定義します。

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    (8)式

    これは実関数であって、かつ

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    (9)式

    という規格化条件を満たすものです。ここで注目の物理量がXという固有値をとる固有ベクトルを考えます。

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    (10)式

    するとρから得られる確率密度分布は

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    (11)式

    となります。これが上の方法を通じて、各θの値ごとに実験データとして与えられます。

    さてデルタ関数を使うと

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    (12)式

    という関係式が成り立ちますので、(11)式の確率密度分布は

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    (13)式

    とも書けます。またデルタ関数のフーリエ変換の関係式である

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    (14)式

    を使えば、(13)式は

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    (15)式

    と計算されます。ここで

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    (16)式

    というトレースの定義と、次のハウスドルフ公式

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    (17)式

    を使います。また同時に

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    (18)式

    を思い出すと、以下の公式が得られます。

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    (19)式

    従って、ウィグナー関数を使って、測定される物理量の確率密度は

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    (20)式

    となります。ここで、

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    とすれば

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    (21)式

    となるため、

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    (22)式

    という公式に至ります。この両辺をフーリエ変換した後に、逆ラドン変換を用いれば

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    (23)式

    というように、実験データからウィグナー関数が一意に定まります。密度演算子ρを実験データから決める式も、これから得られます。まず

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    (24)式

    を導入すれば、

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    (25)式

    という関係式が得られます。(24)式を代入すると、

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    (26)式

    が出てきます。これに(23)式を代入すれば、時刻t=Tでの位置測定で得られた、各θに対する密度分布の実験データから、時刻t=0での密度演算子ρが一意に定義できることが示されました。これは粒子の量子状態トモグラフィの1つの方法になっています。

    なお粒子が2次元空間や3次元空間中の荷電粒子ならば、磁場をかけることで、同様の量子状態トモグラフィ法を実験で実装することも可能です。


     
     
    量子情報物理学の研究者です。著書に『入門現代の量子力学 -量子情報・量子測定を中心として-』(講談社サイエンティフィク)『量子情報と時空の物理』(サイエンス社)。質問はMONDで。(https://mond.how/ja/hottaqu)Twitter: @hottaqu

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