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酵母の世界 No.27-1|Papiliotrema laurentii:植物の成長に関わる酵母

    このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
    ★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


    前回は、寒冷環境でも活動できる Vishniacozyma victoriae(ビシュニアコザイマ・ビクトリアエ) を紹介しました!

    今回は、氷河から植物のまわりへ向かいます。

    植物の成長というと、水、光、肥料を思い浮かべるかもしれません。

    でも、植物のそばには多くの微生物が暮らしていて、その中には植物の成長やストレスへの強さに影響する酵母もいます。

    今回紹介するのは、Papiliotrema laurentii(パピリオトレマ・ラウレンティイ)です!

    では、植物の周囲に暮らす酵母は、植物にどんな影響を与えるのでしょうか?


    植物のそばに暮らす酵母

    まず、P. laurentii は、土壌や植物の表面などから見つかる酵母です。

    このような環境は、乾燥したり濡れたりを繰り返し、利用できる栄養も限られています。
    さらに、そこには細菌や菌類、ほかの酵母も暮らしているため、場所や栄養をめぐる競争も起こります。

    ところが、微生物どうしの関係は「競争」だけではありません。

    2025年の研究では、P. laurentiiが別の酵母 Candida boidinii (カンジダ・ボイディニイ) と一緒に存在すると、P. laurentii が葉の表面により多く定着することが示されました。

    つまり、植物の周りでは、酵母どうしの関係、ひいては微生物どうしの関係も、その暮らしやすさを左右するということです!


    植物の成長に関わる物質

    ではP. laurentii は植物のそばで何をしているのでしょうか?

    面白いことに、P. laurentii の一部の株では、植物の成長に関わる複数の性質が報告されています。

    その一つが、リン酸を利用しやすい状態に変える能力です!
    植物の成長に必要なリンですが、土壌中のリンはほかの成分と結びつき、植物が吸収しにくくなっています。

    それをP. laurentiiの代謝によって植物が利用しやすい形に変えているのです。

    さらに、2025年に報告されたコムギの研究では、特定のP. laurentii が、ポリアミンの生成につながる代謝活性を持つことも確認されました!

    ポリアミンは、細胞の成長や分裂などに関わる小さな分子で、植物では発芽や成長、ストレス応答にも関係します。

    実際、この酵母を種子に処理すると、コムギの発芽や初期生育が改善しました。
    この原因として、P. laurentii によるポリアミン生産がその一因である可能性が考えられています。

    さらに別の研究では、乾燥条件のトウモロコシで、生育や酸化ストレスの状態が改善することも報告されています。

    このように、酵母がつくる物質や周囲の環境への働きかけが、植物自身の成長やストレスへの反応に影響している可能性があるのです。


    酵母を農業に利用する

    こうした性質から、P. laurentii は農業への利用が研究されています。

    コムギでは、酵母を種子に付着させる「種子コーティング」が試され、圃場試験では発芽や初期生育だけでなく、穂あたりの粒数や穀粒の成分にも変化がみられました!

    また、ナスでは、根から侵入して植物をしおれさせる病原菌 フザリウムによる萎凋病を抑える可能性も研究されています。

    さらに、乾燥条件で植物の生育を助ける可能性から、植物がストレスを受けたときにその働きを支えるバイオスティミュラントとしての利用も検討されています!

    ただし、こうした効果は P. laurentii という種すべてに共通するわけではありません。
    菌株や植物の種類、栽培環境によって結果は変わります。

    だからこそ、農業利用では「この酵母種なら効く」ではなく、どの株が、どの植物に、どんな条件で働くのかを見極めることが重要になります。


    おわりに

    植物は、自分だけで生きているわけではありません。

    その周囲には多くの微生物が暮らし、植物が成長する環境の一部をつくっています。

    Papiliotrema laurentii(パピリオトレマ・ラウレンティイ)では、リン酸の利用に関わる代謝や、植物の成長・ストレス応答に関係する物質の生産が研究されています。

    そして人間は今、そうした酵母の能力を、種子処理やバイオスティミュラント、生物防除として農業に利用しようとしています。

    植物の成長を見るとき、植物だけを見るのではなく、その周囲に暮らす微生物まで見る。

    そうすると、畑や土の中にも、これまでとは少し違った「酵母の世界」が見えてきそうですね!


    次回は、植物のまわりから、植物の「中」へ。

    ポプラの茎の内部から見つかり、植物の成長に関わる物質をつくる酵母 Rhodotorula graminis(ロドトルラ・グラミニス)を紹介します。

    植物の中に暮らす酵母は、そこで何をしているのでしょうか?


    ★過去の様々なトピックの記事を全てまとめてます。詳細はこちらから↓

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    参考文献

    van den Heever CF, et al. Evidence that the soil yeast Papiliotrema laurentii affects germination, vigour and grain nutrient content of wheat (Triticum aestivum L.). Field Crops Research. 2025;328:109913.

    Das S, et al. Assessment of soil yeasts Papiliotrema laurentii S-08 and Saitozyma podzolica S-77 for plant growth promotion and biocontrol of Fusarium wilt of brinjal. Journal of Applied Microbiology. 2023;134(11):lxad252.

    Bajus M, et al. The yeast Papiliotrema laurentii alleviates drought-induced stress in maize and affects oxidative status, LEA genes, hormone concentrations, and fatty acid allocation. Current Plant Biology. 2025;44:100542.

    Shigeta K, et al. Methylotrophic yeast Candida boidinii enhances the colonization of plant growth-promoting yeast Papiliotrema laurentii in the phyllosphere. Frontiers in Microbiology. 2025;16:1677102.

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    アメリカ在住の研究者 × 子育てパパ。 家族と暮らす海外生活や、研究と育児の葛藤などを発信中。 海外で働く・家族を支えるあなたに、共感とヒントを届けられたら嬉しいです。

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