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酵母の世界 No.31-1|Lipomyces okinawensis:沖縄の土壌から見つかった酵母

    このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
    ★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


    前回は、この種が日本で最初に見つかった低温に強い野生酵母 Saccharomyces kudriavzevii(サッカロマイセス・クドリアフゼビイ)を紹介しました!

    今回は、沖縄の土の中へ進みます!

    2017年、沖縄県の土壌から分離された酵母が、新種 Lipomyces okinawensis(リポマイセス・オキナワエンシス)として報告されました。種名の okinawensis も、その由来となった沖縄にちなんでいます。

    この酵母が属する Lipomyces は、土壌に暮らす酵母の仲間です。

    そして、この属を調べていくと、日本の土の中には、想像以上に多様な酵母が暮らしていることが見えてきました!


    日本の土壌に広がる Lipomyces

    酵母というと、果実や発酵食品を思い浮かべるかもしれませんが、 Lipomyces 属がよく見つかる場所は土壌です。

    過去に、北海道から沖縄まで11地点の土壌を調べた大規模な研究が行われました。
    そこから分離された Lipomyces の仲間は1,146株。
    当時知られていた30種のうち、24種、約80%が日本の土壌から見つかりました。 

    驚くべきことに、場所によって見つかる種類は大きく異なりました。
    沖縄県西表島では13種、千葉県鴨川市では10種が分離されました。

    L. okinawensis も、沖縄で見つかったあと、新潟県の土壌からも確認されています。

    日本の土の中には、地域ごとに違った Lipomyces の世界が広がっていることが分かりました。


    細胞の中に「油」をためる酵母

    Lipomyces 属には、面白い特徴があります。

    この仲間には、細胞の中に多量の油脂を蓄えることが知られています。
    こうした酵母は「油脂酵母」と呼ばれます。

    では、なぜ酵母が油をためるのでしょうか?

    それは、使いきれない炭素を、あとで使える形として細胞内に蓄えるためです。

    よく研究されている近縁種 Lipomyces starkeyi (リポマイセス・スターケイ)では、糖が十分に残っていても、細胞を増やすために必要な窒素が少なくなると、取り込んだ糖の使い道が変わることが分かりました。

    新しい細胞をつくる材料が足りなくなる一方で、糖から得られる炭素はまだ余っています。
    そこで、その余った炭素を脂肪酸に変え、油脂として細胞内に蓄えるのです!

    実験条件によっては、L. starkeyi の乾燥菌体重量の55%、さらに別の研究では70%を超える量が脂質になることも報告されています。

    つまり、私たちが植物から油を採るように、酵母に糖を与えて、細胞の中に油をつくらせることもできるのです。


    土壌酵母からバイオものづくりへ

    この性質から、Lipomyces 属はバイオものづくりの分野でも注目されています!

    代表的な L. starkeyi では、植物を分解して得られる糖や、さまざまな未利用資源を原料として油脂を生産する研究が進められています。

    つまり、土の中に暮らす野生酵母が、糖を油へ変えるバイオものづくりの候補にもなっているのです!

    では、沖縄から見つかった L. okinawensis はどうでしょうか?

    この種については、油脂生産を詳しく調べた研究はまだ多くありません。
    しかしながら、日本各地から集めた Lipomyces を比較する研究では、L. okinawensis にも高い油脂生産を示す株が報告され始めています!

    L. okinawensis を含め、日本各地の Lipomyces が産業の主役になる時が将来やって来そうですね!


    おわりに

    Lipomyces okinawensis(リポマイセス・オキナワエンシス) は、沖縄の土壌から見つかったことをきっかけに、新しい種として知られるようになった酵母です。

    そこから Lipomyces 属全体に目を向けると、日本の土壌には非常に多様な仲間が暮らし、その中には細胞の中に油をためる酵母も多く含まれています。

    つまり、土壌は酵母にとっての生活場所であるだけでなく、まだ十分に調べられていない微生物資源の集まる場所でもあります。

    L. okinawensis 自身の油脂生産については、まだ詳しい研究が多いとはいえません。

    だからこそ、日本各地から見つかる Lipomyces を比較していくことで、油脂生産に優れた新しい酵母や株が見つかる余地が残っています。

    身近な土の中にも、バイオものづくりにつながる酵母の可能性が広がっていそうですね。


    次回、日本の亜熱帯地域から見つかった新種酵母 Vanderwaltozyma japonica(ヴァンダーワルトザイマ・ジャポニカ)を紹介します。

    この酵母が新種として報告されたのは、なんと2024年です!

    ただし、株そのものはそれよりずっと前から採取され、微生物コレクションに保存されていました。

    では、以前から保存されていた酵母が、なぜ後になって「新種」だと分かったのでしょうか。

    次回は、酵母の分類と、微生物を保存しておくことの意味を見ていきます!


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    参考文献

    Yamazaki A, et al. Two novel Lipomycetaceous yeast species, Lipomyces okinawensis sp. nov. and Lipomyces yamanashiensis f.a., sp. nov., isolated from soil in the Okinawa and Yamanashi prefectures, Japan. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology. 2017;67(8):2941–2946.

    Yamazaki A, et al. North-to-South diversity of lipomycetaceous yeasts in soils evaluated with a cultivation-based approach from 11 locations in Japan. Mycoscience. 2023;64(1):1–10.

    Calvey CH, et al. Nitrogen limitation, oxygen limitation, and lipid accumulation in Lipomyces starkeyi. Bioresource Technology. 2016;200:780–788.

    Takaku H, et al. Lipid metabolism of the oleaginous yeast Lipomyces starkeyi. Applied Microbiology and Biotechnology. 2020;104(14):6141–6148.

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    アメリカ在住の研究者 × 子育てパパ。 家族と暮らす海外生活や、研究と育児の葛藤などを発信中。 海外で働く・家族を支えるあなたに、共感とヒントを届けられたら嬉しいです。

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