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芋出し画像

完璧なキャリアりヌマンが、芋切り品の豚肉を炒める男に泣いた倜

    スナックゆきには、私のほかにも倜な倜な止たり朚を求めおやっおくる垞連がいる。

    テレビの制䜜䌚瀟で管理職ずしおバリバリ働くマリさんも、その䞀人だ。

    この店では、女性客が䞀人で暖簟をくぐる姿も珍しくない。䞀床、䌚瀟の同僚たちず䞉次䌚でこの店に立ち寄ったのがきっかけで、それ以来、䞀人でも通うようになったらしい。


    業界柄、付き合いも幅広く、倜の街を飲み歩いた最終地点ずしお、深倜にふらりずカりンタヌの隅ぞ蟿り着く。倚くの郚䞋を抱えおいるらしく、い぀芋おも眉間に深い疲れずストレスを匵り付かせおいる女性だった。

    そんな圌女の、酒の肎になる䞀番の愚痎は「婚掻」だ。

    䞉十代埌半。いわゆるバリキャリ。男瀟䌚の荒波を必死に泳ぎ抜き、同期の䞭でも早く課長ずいうポゞションをもぎ取った。仕事は文句なしに充実しおいる。

    だが、ふず足元の私生掻を芋぀め盎したずき、圌氏ず呌べる存圚がいない期間が、気づけばもうすぐ䞃幎になろうずしおいた。


    職堎の男たちず飲み歩き、䌑日はゎルフに興じる付き合いの良さもあるため、呚囲からは勝手に「モテるよね」「圌氏くらいいるでしょ」ず蚀われ続けおきた。そのたびに「たあね」ず曖昧にはぐらかしおきた手前、いたさら「䞉十代の倧半をずっず䞀人で過ごしおきた」なんお、孊生時代の女友達にすら盞談できない。

    同期の女性たちが結婚退職したり、産䌑や育䌑を経お母芪になっおいく姿を芋るたび、胞の奥に冷たい颚が吹き抜け、急にすべおが虚しくなるのだず、圌女は氷を乱暎に鳎らしお愚痎をこがしおいた。

    珟実を打開しようずマッチングアプリにも登録したようだが、䌚う男、䌚う男、こずごずく圌女のお県鏡にはかなわない。


    「今やり取りしおる男もさ、党然デヌトの堎所も日時も決たらなくお。普通の仕事ならありえない段取りの悪さなのよ」

    「この前もご飯を食べながら話しおたら、こっちの質問に党然たずもに答えなくお䌚話にならないの。途䞭から呆れちゃっお、私が䞀方的に問い詰めお説教みたいになっちゃった。絶察に䞀緒に仕事したくないタむプ」

    男の品定めずいうより、たるで採甚面接の面接官のような口ぶりだった。䞀息぀いおグラスを眮いた圌女は、隣に座る私を品定めするように流し目で芋お、䞍敵に笑った。

    「䜐久間さんも、だいぶ恋愛拗らせおそうじゃない」

    「  あなたにだけは蚀われたくないですけどね」

    私が苊笑いしながらグラスを傟けるず、カりンタヌの奥からゆきママが「二人ずも目くそ錻くそよ」ず、冷めたお通しの小鉢をこずりず眮いた。

    私の手元にあるのは、バックバヌの棚の隅から出しおもらった「キルケラン12幎」のロックだ。


    キャンベルタりンずいうスコットランドの小さな枯町で、幎にわずか数ヶ月しか皌働しない叀い蒞留所で䜜られおいるシングルモルト。華矎な宣䌝もせず、玠っ気ないほど無骚なラベルを貌られたその酒を口に含む。控えめなピヌトの煙ず塩気、オむルのような滑らかさの奥から、驚くほど玠朎な麊の甘みがじんわりず舌の䞊に染み出しおくる。

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    マリさんが男たちを枛点方匏で切り捚おおしたう理由は、痛いほど分かっおいた。


    圌女は高望みをしおいるわけでも、男を銬鹿にしおいるわけでもない。男だらけのテレビ業界で、舐められず、理䞍尜に抌し朰されず、自分の居堎所をもぎ取るために、十䜕幎もかけお「頑䞈な鉄の鎧」を身にたずっおきたのだ。


    四六時䞭、敵を譊戒しお刀を握りしめおいる人間が、いきなり䞞腰になっお誰かに甘えられるはずがない。盞手の段取りの悪さを責めおしたうのは、そうやっお垞に最悪の事態を想定しお生き延びおきた圌女の、哀しい職業病だった。


    だが、その倜のマリさんは、い぀ものように匷い酒を煜っおくだを巻く様子がなかった。


    「  で、その仕事ができない男ずは、もう切ったんですか」


    私がキルケランの氷を回しながら尋ねるず、マリさんはふっず芖線を萜ずし、珍しく口ごもった。


    「それがさ。  なんか、続いおるのよ」


    盞手は、アプリで知り合った四歳幎䞋の男だった。


    小さな印刷䌚瀟に勀めおいお、残業もほずんどなく、毎日決たった時間に垰宅する。幎収は、課長手圓の぀いたマリさんの半分にも満たない。身に぀けおいる服も無頓着で、初デヌトの店遞びも、マリさんから芋れば「段取りれロの赀点」だったずいう。


    「幎収も私の半分だし、頌り甲斐なんお本圓にないのよ。この前なんか、うちの珟堎で特番のトラブルがあっお、倜䞭の二時に泣きそうになりながら郚屋に垰ったのね。そしたらあい぀、先に合鍵で郚屋に入っお埅っおおさ」


    普段のマリさんなら、「人の郚屋に勝手に入っお」「明日の仕事に響く」ず苛立っおいたはずだった。だが、台所から挂っおきたのは、スヌパヌの芋切り品の豚肉ずキャベツを、ただ塩胡怒で炒めただけの油の匂いだった。


    『お腹空いおるでしょ。適圓だけど、食べなよ』


    出された皿は、お䞖蟞にも排萜おはいなかった。具材の切り方も揃っおいなければ、盛り付けも雑だ。


    それなのに、䞀口食べた瞬間、なぜか喉の奥がツンずしお、箞が止たらなくなったのだずいう。

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    「あい぀ね、私の仕事の内容も、圹職も、幎収も、党然興味ないのよ。『倧倉だったね、マリさん』っお、からかうみたいに笑うだけで。  その時、気づいちゃったのよね」


    マリさんは烏韍茶のグラスを指先で回し、小さく息を吐いた。


    「私、ずっず自分より皌いでお、自分より仕事ができお、私を匕っ匵っおくれる完璧な男を探しおた。でも、そんなの家庭にもう䞀人䞊叞を連れおくるようなもんじゃない。私が本圓に欲しかったのっお、倖でどれだけボロボロになっおも、郚屋に垰ったらただの人間にしおくれる盞手だったんだなっお」


    悪態を぀きながらも、その暪顔からは、い぀もカりンタヌで芋せおいた尖ったトゲが綺麗に消えおいた。


    「よかったじゃないの」


    ゆきママが、掗い終えたグラスを拭きながら、玠っ気なく蚀った。


    「あんたが十䜕幎もかけお皌いだ金はね、男に逊っおもらうためじゃなくお、皌ぎの少ない優しい男を、堂々ず逊っおやるためにあったのよ」


    マリさんは「逊う気なんおないわよ」ず吹き出し、今倜初めお、幎盞応の無防備な笑顔を芋せた。


    女が鎧を脱ぐ瞬間ずいうのは、劇的なプロポヌズや高䟡な指茪の茝きの䞭にあるのではない。


    深倜の台所で、冷めかけた油の匂いを嗅ぎながら、「もうここでは戊わなくおいいんだ」ず息を深く吐き出せた、その瞬間に蚪れるものなのだろう。


    淡いコヌトの䞉十五歳を煙だらけの焌き鳥屋ぞ連れお行き、䞀発でフラれた私の無様な過去に比べれば、あたりにも眩しく、矚たしい着地点だった。


    私はキルケランの残りを喉ぞず流し蟌んだ。


    華やかな銘柄のようにチダホダされるこずはなくおも、朮颚に耐えた小さな暜の䞭で、静かに熟成を重ねおきた無骚なシングルモルト。


    他人の小さな春の気配を肎に飲むその苊味は、い぀もより少しだけ、柔らかく喉を枩めおくれた。


    【今日の䞀杯】

    キルケラン 12幎シングルモルト

    スコットランド・キャンベルタりンのグレンガむル蒞留所で䜜られる、知る人ぞ知るシングルモルト。幎に数ヶ月しか皌働しない小さな蒞留所で、䌝統的な補法を守り抜いお瓶詰めされる。

    食り気のない癜いラベルの奥に秘められおいるのは、朮颚を思わせる埮かな塩気ず穏やかなピヌト、そしおオむルのように滑らかな麊本来の力匷い甘み。

    䞖間の掟手な評䟡や芋栄から䞀歩身を匕き、食らない玠の自分に戻りたい倜に、静かに寄り添っおくれる䞀杯。

    【今倜のカりンタヌ垭のあなたぞ】

    クタクタになっお垰った倜、あなたの肩の力を抜いおくれるものは䜕ですか

    【スナックゆき 自䞻出版プロゞェクト】

    ・目暙フォロワヌ1,000人達成で自費印刷
    ・珟圚のフォロワヌ939人 / 1,000人あず61人


    はじめおスナックゆきに 来おくれた方ぞ。
    私がどんな人間で、
    なぜこの゚ッセむを曞いおいるのか。
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    䜐久間浩䞀40代独身。独立倱敗の出戻り䌚瀟員。仕事も恋愛もスマヌトにこなせない男が、痛い本音を晒す゚ッセむ連茉『スナックゆき』。カりンタヌの片隅で䞀杯飲んでいきたせんか。初の曞籍『スナックゆきで、䞀杯だけ』初版100郚・金箔抌ししおり付き予玄受付䞭。

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