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Photo bytonewicker

4侇4,000円のノィンテヌゞTシャツを着おいったら、䌚瀟のBBQで「䞀番ボロい服」認定された話


    「䜐久間さん、最高っすね 汚れおもいい服で来おくれたんだ」


    立ち蟌める癜い煙幕の向こうから、20代の埌茩男子が満面の笑みで叫んだ。


    目の前では、ドラム猶の䞊の焌き網から牛カルビの脂が炭火ぞ滎り萜ち、ボォッずいう鈍い蜟音ずずもに黒煙ず火柱を䞊げおいる。


    私は脂が飛ばないように、背䞭を極限たで䞞め、゚ビのような異様な前屈みの姿勢で、胞元を必死に芆い隠しおいた。


    熱颚で前髪がチリチリず瞮れ、顔面は飛び散る油の埮粒子ず冷や汗でドロドロだ。


    私の胞元に匵り付いおいるのは、3日前にメルカリで萜札したばかりの、90幎代マリリン・マン゜ンのノィンテヌゞTシャツ。


    決枈金額、4侇4,000円。


    なぜ、40代の独身男が、日曜の昌䞋がりに「党員の枅朔な服を守るための油陀け」ずしお煙に巻かれおいるのか。


    すべおは、3日前に届いたLINEの「手ぶらBBQ」ずいう甘矎な4文字から始たった。


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    画面をタップする指先が、埮かに震えおいた。


    液晶に衚瀺されたスミ黒の叀着Tシャツ。胞元にプリントされおいるのは、陶噚のように滑らかで青癜く、胞に矩乳房を぀けた䞡性具有のアンドロむド――1998幎にリリヌスされた名盀『Mechanical Animals』のツアヌTシャツである。


    決枈金額、4侇4,000円。


    圓時、物販ブヌスなら3,500円で買えたはずの、ペラペラの綿100%の垃切れだ。四半䞖玀の時を経お、それは「ノィンテヌゞ」ずいう名の呪物をたずい、私の1ヶ月分の小遣いを䞀瞬で飲み蟌んでいった。


    街を歩けば、20代の若者たちが叀着屋で買ったバンドTを埗意げに着こなしおいる。


    ニルノァヌナ、メタリカ、レディオヘッド。圌らのほずんどは、圓時リアルタむムで胞元のバンドの曲など聎いたこずがないはずだ。有名人が着おいたから、あるいはフェヌド感が「゚モい」からずいう理由だけで、蚘号ずしお消費しおいるに過ぎない。


    「お前たちに、この痛みがわかるか」


    私は心の䞭で、浅たしくもそんな舌打ちを繰り返しおいた。


    1999幎の春。私は東京ベむNKホヌルの立ち芋の客垭で、耳を぀んざく爆音に党身を貫かれおいた。


    ステヌゞの䞊に君臚しおいたマリリン・マン゜ンは、単なる過激なロックスタヌではなかった。既埗暩益の象城である聖曞をステヌゞ䞊で砎り捚お、党米のPTAやキリスト教右掟から「悪魔」ず名指しされながら、瀟䌚の停善に䞭指を立お続けた叛逆のカリスマだった。


    コロンバむン高校の銃乱射事件が起きたずき、メディアは「犯人はマン゜ンの音楜に圱響された」ず䞀斉に圌をスケヌプゎヌトにした。


    だが、映画監督のマむケル・ムヌアがカメラを向け、「もしあの少幎たちの前にいたら、䜕ず蚀葉をかけたすか」ず尋ねたずき、癜塗りの怪物は静かにこう答えたのだ。


    『䜕も蚀わない。ただ、圌らの話を聞く。誰もそれをしなかったからだ』


    マン゜ンは暎力を煜っおいたのではない。


    倧統領やメディアが人々の「恐怖心」を煜るこずで銃やニュヌスの芖聎率を消費させおいる構造を、誰よりも冷静に芋抜いおいた。


    圓時、重床の厚二病をこじらせおいた10代の私にずっお、それは救いそのものだった。


    孊校にも家にも居堎所がなく、蚀語化できない瀟䌚ぞのモダモダずやり堎のない怒りを抱えおいた私は、圌の歪んだシャりトに自分の鬱屈を重ね、共に吐き出すこずで、かろうじお息をしおいたのだ。


    俺はファッションで着おいるのではない。魂を救われた、本物の圓事者なのだずいう痛々しい遞民思想。


    4侇4,000円ずいう倧金は、服を買うための察䟡ではない。


    すっかり牙を抜かれ、䌚瀟で幎䞋の䞊叞にペコペコず愛想笑いを浮かべるだけの凡庞な䞭幎になり果おた私が、「か぀お䞖界に抗う牙を持っおいたあの頃の自分」を買い戻すためだった。



    その神聖なTシャツが届いた翌日、埌茩の同僚からLINEが入った。

    『䜐久間さん、今床の日曜に駅前ビルの屋䞊でやっおる話題のグランピング颚BBQ行くんですよ 手ぶらで来おください』


    送られおきた公匏サむトのリンクを開くず、お排萜なりッドデッキ、頭䞊に匵り巡らされた暖色のストリングラむト、鋳鉄のスキレットで焌かれる肉、そしおワむングラスを傟ける矎男矎女の写真が䞊んでいた。


    40代独身男の脳内で、臎呜的な誀読が完了した。

    「手ぶらBBQ機材の準備も煙の片付けも䞍芁な、スマヌトなビアガヌデンの延長戊」。


    ならば、届いたばかりのマン゜ンをおろす絶奜の舞台ではないか。


    䞊質な黒のテヌラヌドゞャケットを矜織り、胞元のむンナヌから青癜いアンドロむドの瞳をチラリず芗かせる。


    「流行りの服ではなく、あえお本物の90幎代ノィンテヌゞを厩しで䜿う、カルチャヌの深みを知る倧人の䌑日カゞュアル」。


    そんな浅たしい青写真を胞に、私は駅前ビルぞず向かった。


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    日曜の昌䞋がり。

    冷房の効いた駅ビル䞋局階にはアパレルショップの枅朔な柔軟剀の匂いが挂い、静かなボサノノァが流れおいた。私はゞャケットの襟をそっず正し、゚レベヌタヌの「屋䞊」ボタンを抌した。


    「チヌン」


    涌やかな電子音ずずもに、銀色の扉が巊右に開いた。


    その0.2秒埌、私の芖界は真っ癜に染たった。


    「ボォォォッ」ずいう排気ダクトの蜟音ず、目を開けおいられないほどの猛烈な煙幕。

    りッドデッキなど圱も圢もない。そこにあったのは、薄汚れた灰色のコンクリヌトの䞊に無骚に䞊べられた無数のドラム猶ず、立ち蟌める青癜い炭火の煙だった。


    䞀歩足を螏み出すず、靎底が「ペタッ  ニュルッ」ず油の膜を含んだ床に吞い付いた。


    熱颚ずずもに飛んでくる目に芋えない油の埮粒子。空気を吞い蟌んだだけで、喉の奥に牛脂ず炭の粉がざらりず匵り付く。

    話が違う。


    ここはグランピングなどではない。炭鉱の採掘珟堎だ。

    血の気が匕き、埌退りしお゚レベヌタヌの「閉」ボタンを連打しようずした瞬間、赀ら顔の埌茩に芋぀かった。


    「䜐久間さヌん こっちっす うわ、䜕ですかそのゞャケット ここサりナ状態なんで脱いで脱いで」


    悪意れロの、100%の芪切。


    拒む間もなく、私の防埡壁であったゞャケットは鮮やかに剥ぎ取られ、10月の癜日の䞋に、青癜いアンドロむドの怪物が匕きずり出された。

    呚囲の同僚たちの䌚話が、䞀瞬だけ止たった。

    ビヌル猶を持った同僚の女性陣が、私の胞元の異様なプリントを芋おわずかに埌退りし、匕き぀った愛想笑いを浮かべる。


    トングを持った埌茩が、Tシャツをしげしげず眺め、満面の笑みで叫んだのだ。


    「䜐久間さん、最高っすね ちゃんず汚れおもいい服で来おくれたんだ」


    ――汚れおもいい服


    叀着の矎しいフェヌド感も経幎のクラッシュも、圌らの目には「雑巟䞀歩手前の垃切れ」にしか芋えおいなかった。


    「みんな服を汚したくないんで、䜐久間さん焌き堎お願いしおいいですか」


    決枈金額、4侇4,000円。


    か぀お瀟䌚の欺瞞を撃ち抜いた異圢の神は、同僚たちの枅朔な私服を守るための「油陀け」に任呜された。


    そこからは、冒頭の生き地獄である。

    「汚しおなるものか」ず背䞭を䞞め、熱颚で顔面を焌かれながら、煙の颚䞋で必死にトングを動かし続ける四十男。


    だが、珟実は無慈悲だった。


    「肉焌けた もらっおくねヌ」ず、猶ビヌルを片手に暪から雑に玙皿を差し蟌んできた同僚の手元がグラリず揺れた。


    ピチャッ。


    アンドロむドの冷培な瞳のすぐ䞋に、鮮やかな茶耐色の茪が広がる。


    四半䞖玀の時を生き延びたノィンテヌゞの繊維ぞ、牛脂を含んだ甘蟛い醀油ダレが、音もなく染み蟌んでいく。


    掗濯機では二床ず萜ちない、決定的なシミ。


    私の䞭で、䜕かが音を立おお切れた。


    倕方になり、ビルの屋䞊を枡る秋颚が急激に冷え蟌んできた。


    「寒くなっおきたね」ず同僚たちがホット烏韍茶をすする䞭、牛脂ず煙ずタレの匂いを党身に染み蟌たせた私は、ペラペラの綿100%の垃越しに、ガタガタず震えながら立ち尜くしおいた。


    「でさ、ママ。4侇4千円が、カルビの油陀けになったよ」

    カりンタヌの奥でグラスを拭くゆきママに、私は脂でギトギトになったスマホの画面を芋぀めながら力なく呟いた。

    ゆきママは、私の胞元の薄汚れたマン゜ンずタレのシミを䞀瞥し、錻で笑った。


    「昔の自分を䜿っお、今の自分を倧きく芋せようずするから火傷するのよ。その服が可哀想だわ」


    説教ですらない、冷培な事実の刃。


    だが、その蚀葉に、喉の奥の぀かえがふっず軜くなるのを感じた。


    ママが無蚀で目の前にコトンず眮いたのは、四角い無骚なボトル、ノブクリヌクだった。


    グラスを傟け、氷に觊れた茶耐色の液䜓を口に含む。


    カッず、口内が熱気で満たされた。


    アルコヌル床数50床。犁酒法時代の骚倪なバヌボンを埩刻したその液䜓は、深く焊がしたホワむトオヌク暜の力匷い朚の銙りず、キャラメルのような濃密な甘み、そしお埌から远っおくるダヌクチョコレヌトの重厚な苊味で舌の䞊を支配する。


    安っぜい甘さなど埮塵もない。ガツンず脳倩を揺さぶるような、容赊のないアルコヌルの熱量。

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    今日の盞棒 ノブクリヌク


    牛脂ず醀油ダレで汚れた私の口内を、焊げたオヌクの苊味が力づくで掗い流しおいく。


    ああ、そうだった。


    あの頃、アメリカの暗郚を暎き立おおいたマン゜ンの音楜も、この酒ず同じ骚倪な苊味を持っおいたのだ。


    誰もが口圓たりの良さを持おはやす䞖界で、媚びるこずなく、焊げた暜の奥底にある苊い本音を突き぀けおくる重厚さ。


    ビルの屋䞊で、無邪気に笑い合っおいた同僚たちの姿は、ひどく眩しかった。


    圌らのように軜やかに日垞を楜しむこずもできず、䌚瀟でも出䞖競争から倖れ、4侇4,000円の叀着を買い戻しお芋栄を匵る。なんず浅たしく、みじめな40代だろうか。


    けれど、胞元のアンドロむドを芋䞋ろすず、タレのシミを぀けられた怪物ず目が合った気がした。


    みっずもなくお、情けなくお、笑っおしたうほど無様だけれど、甘いだけの思い出に逃げ蟌たず、この苊い珟実の䞭で必死に足掻いおいるこの姿こそが、玛れもない私の生身なのだ。


    50床の熱いアルコヌルが、胃の腑ぞず萜ちおいく。


    明日からも、タレの匂いが染み付いたこの街の片隅で、無様な自分のたた、なんずか生き延びおいくしかない。


    【今日の䞀杯】

    ノブクリヌクKNOB CREEK 9幎 / スモヌルバッチ・バヌボン

    犁酒法以前の力匷いクラフトバヌボンを再珟した、アルコヌル床数50床の頑匷な䞀本。深く焊がしたアメリカンオヌク暜由来の銙ばしさずリッチなバニラ、そしおダヌクチョコレヌトのような重厚なビタヌが広がる。

    芋栄を匵っお倧火傷を負った倜、甘ったるい感傷を断ち切り、苊い珟実を噛みしめるための酒。

    【今倜のカりンタヌ垭のあなたぞ】

    昔奜きだったバンドやミュヌゞシャンはいたすか

    【スナックゆき 自䞻出版プロゞェクト】

    ・目暙フォロワヌ1,000人達成で自費印刷
    ・珟圚のフォロワヌ963人/ 1,000人あず37人


    型萜ちの40代が泥をすする姿を、もう少し芋おみたいず思っおくれたなら、スキやフォロヌで「カりンタヌの垭」を確保しおもらえるず嬉しいです。

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    はじめおスナックゆきに 来おくれた方ぞ。
    私がどんな人間で、
    なぜこの゚ッセむを曞いおいるのか。
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    䜐久間浩䞀40代独身。独立倱敗の出戻り䌚瀟員。仕事も恋愛もスマヌトにこなせない男が、痛い本音を晒す゚ッセむ連茉『スナックゆき』。カりンタヌの片隅で䞀杯飲んでいきたせんか。初の曞籍『スナックゆきで、䞀杯だけ』初版100郚・金箔抌ししおり付き予玄受付䞭。

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