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Photo byyokoichi

同僚に起業の倱敗をドダ顔で語りに行ったら、保険のフルコヌスに入っお垰っおきた話

    朚曜日の深倜、郜内のワンルヌムで、私はスマホのメモ垳に向かっお真剣に指を動かしおいた。

    画面に打ち蟌んだタむトルは、『独立の倱敗から孊んだ、サラリヌマンが持぀
    べき心構え』。

    誰もそんなものは頌んでいない。


    翌日の金曜の倜、同い幎の同僚ず飲みに行くためだけに、私は「酞いも甘いも噛み分けた頌れる男」を挔じるためのカンニングペヌパヌを、䞀人で黙々ず仕蟌んでいたのだ。

    事の発端は、その数日前の昌䞋がりだった。


    私はか぀お䌚瀟を蟞めお独立し、数幎で資金を溶かしお叀巣に出戻っおきた、いわば「負け戊の垰還兵」だ。瀟内でその過去に觊れる人間はほずんどいないし、私自身もなるべく目立たぬよう息を朜めお働いおいる。


    そんなある日、絊湯宀の前で、他郚眲の同僚ずばったり顔を合わせた。


    圌ずは同い幎の40代。郚眲が違うためたたにしか飲たないが、顔を合わせれば気さくに軜口を叩き合う仲だった。


    「あ、さっくん。ちょうどよかった、ずっず蚀おうず思っおたんだよ」


    圌は声を朜め、どこか矚望の県差しで私を芋た。


    「さっくんっおさ、ほんずすごいよな」


    「え 䜕がだよ。ただ独立に倱敗しお、頭䞋げお戻っおきただけだぞ」


    「いやいや、䜕蚀っおんだよ 自分の看板で倖に飛び出しお勝負したっおだけでも、俺らみたいな普通のサラリヌマンからしたら、ずんでもなく貎重な経隓だよ。今床さ、ぜひその時の話聞かせおよ」


    胞の奥で、長幎錆び぀いおいた自尊心が、コトンず音を立おお動いた気がした。


    倱敗を笑うでもなく、腫れ物に觊るでもなく、「挑戊した経隓」ずしお敬意を払っおくれる同い幎の友人。


    すっかり気を良くした私は、その堎で金曜の倜に飲む玄束を取り付け、前倜に冒頭の「心構えメモ」たで䜜成するに至ったのである。


    ・売䞊がれロでも毎月決たった日に振り蟌たれる絊料の奇跡。

    ・有絊䌑暇ずいう名の、合法的なサボり暩利のありがたみ。

    ・自分が䜓調を厩しおも、誰かが仕事をカバヌしおくれる組織の防波堀。


    「こういうリアルな教蚓を語っおやれば、あい぀も今の仕事の䟡倀を芋盎せるはずだ」


    私はたずめたメモを䜕床も読み返し、すっかりメンタヌの顔぀きで圓日の居酒屋ぞず向かった。

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    心構えメモを䜜っおいた

    金曜日の倜、ガヌド䞋の隒がしい居酒屋。


    生ビヌルで也杯し、最近の瀟内の人事や共通の知人の近況を䞀通り語り終えたずころで、圌がグラスを眮き、神劙な面持ちになった。


    「でさ、さっくん  独立しおた時っお、実際どうだったの」


    来た。


    私は内心の高揚を悟られないよう、少しだけ遠い目をしおハむボヌルを䞀口飲んだ。そしお、昚晩スマホに打ち蟌んだ通りのセリフを、さも今ふず思い出したかのような自然な口調で語り始めた。


    「やっぱりさ、倖に出お䞀番痛感したのは、サラリヌマンがいかに守られおるかっおこずだよ」


    私は熱を蟌めお語った。


    䌚瀟員なら、どれだけ退屈な䌚議に出おいようが毎月きっちり絊料が出る。有絊だっおある。


    だが、䞀人で看板を掲げたらそうはいかない。


    「いいか、俺たちは普段、䌚瀟の看板っおいう分厚い鎧を着おるから気づかないんだ。でもな、もしひずたび自分が病気で倒れたり、働けなくなったりしおみろ。個人だったらその瞬間に売䞊はれロ、誰もカバヌしおくれないし、誰も助けおくれない。䞞腰で生きるっおいうのは、そういう恐怖ず隣り合わせなんだよ」


    完璧なスピヌチだった。


    私の血ず汗から滲み出た人生蚓に、圌は「たあ、そうだよな  ほんずその通りだず思うわ」ず、深く、䜕床も頷いおいた。


    すっかり気持ちよく語り終えた私が、焌き鳥の皿に手を䌞ばしたその時だった。


    圌のたずっおいた空気が、すっず音を立おお切り替わった。


    「実はさ、さっくん。ここだけの話なんだけど  」


    圌は呚囲をちらりず芋回し、声を萜ずした。


    「俺、最近ファむナンシャルプランナヌの資栌取っおさ。䌚瀟には内緒で、ちょっずだけ副業始めたんだよね」


    「ぞえ、すごいじゃないか。ちゃんず将来を芋据えおるんだな」


    「いや、ただ始めたばっかりなんだけどさ。  ただ、さっきのさっくんの話聞いおお、同い幎ずしお、どうしおも他人事ずは思えなくなっちゃっおさ」


    圌はテヌブルの䞊の玙ナプキンを脇に寄せ、私の目をたっすぐに芋぀めた。


    「さっきさっくんが蚀っおた、『もし倒れお働けなくなったら、誰も助けおくれない』っおいう蚀葉。あれ、独立しおる時だけの話じゃないよ」


    「  え」


    「さっくん、今40代で、独身じゃん。死亡保障の生呜保険はいらないかもしれない。でもさ、もし来月、ガンが芋぀かったら もし脳梗塞で倒れお、䌚瀟の有絊も傷病手圓も䜿い果たしお、働けなくなったら 奥さんも子䟛もいないさっくんの老埌、䞀䜓誰がカバヌしおくれるの」


    背筋に、氷氎を流し蟌たれたような悪寒が走った。


    その時になっおようやく、私は気づいた。


    さっきたで圌が深く頷いおいたのは、私の人生蚓に感銘を受けおいたからではない。『40代独身・䞀床資金を溶かした過去あり・倒れるこずぞの匷い恐怖』ずいう、保険の芋蟌み客ヒアリングシヌトの項目を、頭の䞭で次々ずチェックしおいただけだったのだ。


    ほんの5分前、私がドダ顔で圌に攟った「䞞腰で生きる恐怖」ずいうブヌメランが、猛烈な回転をかけられお私の銖元ぞ突き刺さっおきた。


    「サラリヌマンは守られおるっお蚀ったけど、䌚瀟が守っおくれるのなんお、健康に働けおる間だけだよ。40代過ぎおからの倧病ず就業䞍胜は、独身男にずっお䞀発で老埌砎綻に盎結するんだから」


    教える぀もりで来たはずだった。


    スマホに心構えをメモしお、人生の酞いも甘いも噛み分けた顔でグラスを傟けおいたはずだった。


    それなのに、気づけば私は背筋を正し、圌が語る「40代独身男の孀独な砎綻シミュレヌション」に、恐怖で喉をカラカラに也かしながら前のめりでのめり蟌んでいた。


    「いや、でも、俺はどうすれば  」


    「倧䞈倫だよ。俺も同い幎のよしみだから、悪いようにはしないっお。今床、俺が提携しおるすごく優秀な保険の担圓者玹介するよ。䞀床、ちゃんず壁䜜っおおこうぜ」


    圌は本圓に、1ミリも悪い奎ではなかった。


    ただ玔粋に資栌を掻かし、同い幎の友人の無防備な老埌を案じおくれただけなのだ。


    そしお䜕より、盎前に「䞀人で倒れたら終わりだぞ」ず倧芋埗を切った手前、「いや、俺は倧䞈倫だから」ず断る退路は、私自身の手によっお完党に爆砎されおいた。


    その2週間埌。


    䌑日のカフェには、ピシッずした玺色のスヌツを着た爜やかな保険営業マンず、その暪で「これで安心だな、さっくん」ずニコニコ芋守る圌の姿があった。


    画面をスラむドするiPadで老埌の資金ショヌトを鮮やかに図解された私は、埮かに震える指先でボヌルペンを握りしめ、「医療保険」「がん保険」「就業䞍胜保険」ずいう独身䞭幎フルコヌスの契玄曞に、流れるような手぀きでサむンをしおいた。


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    私が教える立堎が、保険の契玄の話になっおいた


    「  でさ、ママ。同い幎の同僚に人生蚓を垂れに行ったら、毎月1侇4千円の保険をフルコヌスで契玄しお垰っおきたよ」


    路地裏のスナックゆきのカりンタヌで、私はスマホに届いた契玄完了メヌルを芋぀めながら、力なくため息を぀いた。


    グラスを拭いおいたゆきママは、呆れたように肩をすくめお錻で笑った。


    「あんた、自分の倱敗談をタダで気持ちよく聞いおもらえるず思ったの 䞖の䞭で䞀番高く぀くのはね、おだおられお気持ちよくなった男の耳元よ」


    「いや、あい぀は本圓にいい奎なんだよ。俺のこずを心配しお  」


    「分かっおるわよ。盞手が悪人じゃないから、䜙蚈にタチが悪いんじゃない。あんたが自分で『䞀人で倒れたら怖いぞ』っお倧きな穎を掘っお、そこに自分から飛び蟌んだから、圌が芪切に保険っおいう屋根を぀けおくれただけよ」


    ぐうの音も出なかった。


    わざわざ前日にスマホのメモ垳たで䜜っお、意気揚々ずカモになりに行った40代男の背䞭が、カりンタヌの鏡に情けなく映っおいる。


    ママが苊笑いを浮かべながら目の前にコトンず眮いたのは、ひび割れたような暡様の入った、四角く重厚なボトルだった。

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    今日の盞棒 オヌルドパヌ 12幎。


    オヌルドパヌ 12幎。


    ママがボトルの底の角をカりンタヌに圓お、そっず手を離す。


    ボトルは斜めに傟いたたた、ピタリず静止しお自立した。


    「ほら、あんたの倧奜きな『絶察に倒れない』お酒よ。安心しなさい」


    ママの皮肉に苊笑しながら、琥珀色の液䜓を口に含む。


    リンゎや掋梚のような熟した果実の銙りの奥から、ハむランドのピヌトが醞し出す、どこか埃っぜく、そしお枩かみのある麊芜の甘みがじんわりず広がる。


    か぀お昭和の男たちが「右肩䞊がり」の瞁起を担いで愛飲したずいう、斜めに立぀ブレンデッド・スコッチ。


    右肩䞊がりどころか、独立に倱敗しお出戻り、同い幎の同僚に老埌の䞍安を突かれおフルコヌスの保険に入る。


    これが、40代になった私の珟圚地だ。


    けれど、斜めに傟きながらも、無様にバランスを取っお倒れずに立っおいるこのボトルを芋おいるず、䞍思議ず悪くない気分になっおくる。


    芋栄を匵っおカモにされるくらいの間抜けさはあるけれど、毎月1侇4千円の安心を買えるだけの絊料は、今の䌚瀟がくれおいるのだ。


    グラスの氷がカランず鳎った。


    来月の絊料明现から匕かれる保険料の重みを噛みしめながら、私は少しだけ塩気のあるスコッチを、ゆっくりず喉の奥ぞ流し蟌んだ。


    【今日の䞀杯】

    オヌルドパヌ 12幎ブレンデッド・スコッチ
    独特のひび割れ暡様クラックルパタヌンを持぀四角いボトルは、底の角を支点にするず「斜めに傟いたたた倒れずに自立する」こずで知られる。フルヌティヌな滑らかさず、埮かなピヌトの苊味が調和した円熟の味わい。

    芋栄を匵っお墓穎を掘った倜、傟きながらもなんずか螏みずどたる倧人の足元を笑っお肯定しおくれる酒。

    【今倜のカりンタヌ垭のあなたぞ】

    ぀い぀い予定しおいなかった買い物や契玄をしおしたった経隓はありたすか

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    型萜ちの40代が泥をすする姿を、もう少し芋おみたいず思っおくれたなら、スキやフォロヌで「カりンタヌの垭」を確保しおもらえるず嬉しいです。

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    はじめおスナックゆきに 来おくれた方ぞ。
    私がどんな人間で、
    なぜこの゚ッセむを曞いおいるのか。
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