
『100僕』は料理をしらないので、ばくはつする
今回、まったく本筋にかかわりない料理描写についてのつっこみです。
エクスプローディングキットゥンズ、もとい、エクスプローディングキッチンの危機がおとずれるとは思いませんでした……。
これまでの経緯はマガジンをどうぞ。そちらはまじめです。たぶん。
佑馬が志穂を「人間扱いしていない」大問題の『100日後に別れる僕と彼』エンディングシーンですけど、圧力鍋で鶏肉のレモン煮を作っていたらそれ以前、料理の部分がとても気になってしまいました。
料理……したことあります?
ビーフシチューの煮える音が、インターホンの音にかき消された。
圧力鍋の前から離れてインターホンを取ると、
圧力鍋。
蒸気が噴き出す音、ならわかりますけど、煮える音が聞こえるでしょうか。
きっと煮えている証拠の蒸気の音が、というのを略しただけで、圧力鍋で加圧調理中なのですね、完全に理解しました。
共用玄関のドアを開けてインターホンを切った後、キッチンに戻って半分に切ったじゃがいもを菜箸でつつく。まだ固さがある。もう少し煮る必要がありそうだ。
……あの。
加圧調理中の圧力鍋のなかみをどうやったら菜箸でつつけるのですか?
ふたを開けたら爆発しますよ?
だいどころばくはつです。
いえ、ここのふたつは、最初からふたを開けてただの鍋として使っていたととらえてあげるのが好意的読みでしょうけれど、なら圧力鍋と書くのはノイズでは?
さらに親切に、煮込んだときは圧力をかけていていまは仕上げ、と解釈してあげると……ふたを取ったあとは弱火なので「もう少し煮」るくらいでは間に合いませんし、1文目のような煮える音もしません。介護しきれません!
佑馬はおたまで鍋をかき混ぜる手を止め、
鍋の底が焦げつかないようにこそげたいので、へらを使いませんか?
洗い物をふやしたくないからだと言うかもですけど、少なくとも最初に牛肉や野菜に火をとおすときはおたまじゃなくてへらで混ぜながらですから、もう使っていますよね。なぜ非合理におたまなのでしょう。
あと、おたまという単語選びがすごく和風です。レードルと書きましょうとは言いませんけど、「おたまで」の4文字を抜けばよかったような。
佑馬は鍋と向き合って料理の続きを再開する。
続きを再開、馬から落馬しています? まあ、爆発済みなので、もうどうなってもいいやです。
とろみがつくよう水を足しながらシチューをかき混ぜ、
……とろみをつけるのはルーや水で溶いた小麦粉、あるいは片栗粉です(余った片栗粉をカレーに使うずぼら人間は私です)。
いくら水を足してもとろみはつきません!!
むしろしゃばしゃばになります。

「このシチューはおまえの人生そのものだ。おまえはいつも失敗ばかりだ。とろみをつけようとして、とろみがなくなることばかりをする」
そろそろいいだろうというところで火を止めると、シチューの煮沸音が止まり茅野の観ているテレビの音が相対的に大きくなった。
しゃふ……つ……??
煮沸消毒じゃないんですから、シチューを煮沸するとはどういうシチュエーションですか?
おたまですくって熱湯のなかで振る?
ええ、ええ、沸騰する音と解してあげるのが親切でしょうけれど(いつもながら言語感覚が独特な方です)、それにしたって、止まるとテレビの音が大きくなるような勢いでシチューを沸騰させないでください。
最初から言っているように弱火でことこと仕上げるものですし、「とろみ」があるんですから、ごぽごぽ沸騰させたら噴火口の溶岩みたいに弾けて熱いです。
佑馬くんのお顔の皮は厚いからだいじょうぶかもですけど、服やキッチンに跳ねまくってしまいます。
(最初から最後までありえないのでいまさらですけど、比熱が大きいですから、煮沸もとい沸騰するくらいだったら火を止めてもすぐには音は止まらないですし。)
社交辞令かもしれないが、社交辞令も言えないような出来栄えではないようだ。
いえ……それは……できばえ以前の問題です……。少なくとも今のあなたには茶色い飛沫がいっぱい跳ねかかっています。
……はあはあ。2番はないですよね?
ちなみに別件ですけど、尚美が妊娠中も授乳中もコーヒーをぱかぱか飲むのも気になりました。
会社のコーヒーサーバーからとか全員のインスタントコーヒーとかと書いて、ご丁寧にデカフェという逃げ道もふさいでいますし。
じっさいにはカフェイン厳禁ではないようですけど、私の知っている人はみんな飲まないようにしていました。
ともあれ。
作家は経験したことしか書けないというのはうそですけど(イーガンは小惑星の内側に住むちいさないきものとして物理法則を考究したことはないはずです)、その、あの、すこしは料理する身としてはこれはあまりにも……。
語り得ないものについては沈黙しなければならない、ですか? けれど、おぼしきこと言はぬは腹ふくるるわざなり、でもあります。
というかおなかがよじれていたいです。
右を見ましょう!
煮沸音と沸騰音についてもうすこしかんがえてみました。