メインコンテンツへスキップ
見出し画像

補助金・助成金・クラウドファンディング|株を出さずに資金を得る方法 #11

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第10回では、エンジェル投資家、VC、CVC、事業会社という4つの出し手の特徴を比べました。
    お金に色はないが株主には色があること、そして会社もまた投資家を選ぶ立場にあることをお伝えしました。
    架空の会社A社の例では、CVCから出資の打診があった場合に、事業と資本政策の両面から何を検討すべきかを考えました。

    今回のテーマ

    第11回となる今回は、第3部「調達方法を選ぶ」の最後として、株式を渡さずに資金を得る方法を扱います。
    具体的には、補助金、助成金、クラウドファンディングの3つです。

    いずれも、エクイティのように株式を渡す必要がなく、デットのように返済する必要もない(あるいは性格が異なる)資金です。
    そう聞くと、とても魅力的な手段に思えるかもしれません。
    しかし、これらはエクイティやデットの「代わり」になるものではありません。
    あくまで、うまく組み合わせて使う「補完」の手段です。

    今回は、それぞれの特徴と、資金計画に織り込むときに注意すべき点を、CFOの視点から解説します。
    なお、補助金や助成金は、制度の名称や内容が年度ごとに変わります。
    今回は個別の制度ではなく、仕組みと考え方を中心にお伝えします。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    「株を出さない資金」の全体像

    まず、今回扱う3つの手段を整理しておきましょう。

    • 補助金:国や自治体が、政策の目的に合った事業の費用の一部を補助する制度

    • 助成金:主に雇用や人材育成に関して、要件を満たした会社に支給される制度

    • クラウドファンディング:インターネットを通じて、多くの人から少しずつ資金を集める方法

    画像

    なお、クラウドファンディングにはいくつかの種類があります。
    今回中心に扱うのは、支援者に製品やサービスなどの返礼品を届ける「購入型」です。
    このほか、株式を渡して資金を集める「株式投資型」もありますが、こちらは株式を渡す点で、補助金や助成金とは性格が異なります。

    補助金|政策の目的に合う事業を支援する資金

    補助金は、国や自治体が、新しい事業への挑戦や研究開発、設備投資など、政策の目的に合った事業の費用の一部を補助する制度です。

    補助金の特徴

    • 審査を経て採択される必要がある:多くの補助金は、決められた期間に申請を受け付け、事業計画の内容などを審査したうえで、採択する会社を決めます。申請すれば必ず受け取れるものではありません。

    • 対象となる経費と補助される割合が決まっている:補助の対象になるのは、制度ごとに決められた経費だけです。また、補助されるのは費用の全額ではなく、2分の1や3分の2など、決められた割合であることが一般的です。

    • 多くの場合「後払い」である:補助金は、採択されたあとに事業を実施し、実際に費用を支払ったうえで、その実績を報告してから受け取るのが一般的です。つまり、いったんは自社の資金で費用を立て替える必要があります。

    • 申請や報告の手続きが必要になる:申請書の作成だけでなく、事業の実施後には実績の報告が求められ、その後も一定期間、状況の報告が必要になる制度もあります。

    研究開発型のスタートアップ向けの支援もある

    補助金のなかには、研究開発に取り組むスタートアップを対象とした公的な支援制度もあります。
    技術の研究開発から事業化までを段階的に支援するものなど、制度によって内容はさまざまです。
    研究開発の比重が大きい会社にとっては、エクイティによる調達と組み合わせることで、手放す株式を抑えながら研究開発を進められる可能性があります。

    助成金|要件を満たせば受け取れる資金

    助成金は、主に雇用や人材育成に関する制度で、国の制度としては厚生労働省が所管するものが多くあります。
    たとえば、人を採用したり、従業員の教育訓練を行ったり、働く環境を改善したりした会社に支給されるものです。

    助成金の特徴

    • 要件を満たせば受け取れるものが多い:補助金のように、ほかの会社と競う審査ではなく、決められた要件を満たせば受け取れるものが多いのが特徴です。

    • 事前の計画の提出が必要なものが多い:取り組みを始める前に計画を提出しておくことが要件になっている制度も多く、あとから申請しようとしても受け取れないことがあります。

    • 労務管理が整っていることが前提になる:雇用契約や就業規則、勤怠の記録などが適切に整っていないと、要件を満たせないことがあります。

    助成金は、採用や人材育成をこれから本格的に進める段階のベンチャー企業にとって、活用を検討する価値のある制度です。
    第5回で作った採用計画とあわせて、どの取り組みが助成金の対象になりうるのかを確かめておくとよいでしょう。

    クラウドファンディング|資金と一緒に「応援者」も集める

    クラウドファンディングは、インターネット上の専用のサイトを通じて、事業やプロジェクトへの共感を集め、多くの人から少しずつ資金を集める方法です。

    購入型クラウドファンディングの特徴

    購入型のクラウドファンディングでは、支援者は資金を出す代わりに、製品やサービス、体験などの返礼品を受け取ります。
    実質的には、製品やサービスの「予約販売」に近い仕組みです。

    購入型には、資金を集めること以外にも、次のような効果があります。

    • 製品やサービスへの反応を確かめられる:どれだけの人が、いくらでなら支援してくれるのかがわかり、本格的に売り出す前の検証の場になります。

    • 応援してくれるファンを集められる:支援者は、最初の顧客であり、製品やサービスを広めてくれる応援者にもなります。

    • 実績として示せる:多くの支援を集めたという結果は、その後の資金調達や営業の場面で、市場の反応を示す材料になることがあります。

    購入型クラウドファンディングの注意点

    一方で、次のような点には注意が必要です。

    • 手数料と返礼品の費用がかかる:サイトの運営会社に支払う手数料に加えて、返礼品の製作や発送の費用がかかります。集まった金額がそのまま手元に残るわけではありません。

    • 返礼品を届ける責任を負う:支援者に約束した返礼品は、必ず届けなければなりません。製造の遅れなどで約束を守れないと、信用を大きく損ないます。

    • 結果が公になる:支援が集まらなかった場合も、その結果は誰でも見られる形で残ります。

    株式投資型は「株式を渡す」調達である

    クラウドファンディングには、インターネットを通じて多くの個人から出資を受ける「株式投資型」もあります。
    こちらは名前のとおり株式を渡す調達であり、エクイティの一種です。

    株式投資型では、少額の出資者が一度に多数の株主になることがあります。
    第6回や第10回でお伝えした株主の分散につながるため、将来の資金調達や上場の準備への影響を、資本政策表であらかじめ確かめておく必要があります。

    3つの手段を比べる

    ここまでの内容を、資金を受け取る時期、審査・要件、資金の使い道、手続きの負担、主な注意点、向いている会社の6つの観点で整理したものが、次の表です。

    画像

    表から読み取っていただきたいのは、3つの手段に共通する点です。
    いずれも、資金を受け取るのは「あと」になります。
    また、補助金は対象経費、クラウドファンディングは返礼品というように、それぞれに制約や負担が伴います。
    株式を渡さず、返済も必要ないという魅力の裏側には、こうした条件があることを理解しておく必要があります。

    A社で考える|使えるもの、使えないもの

    では、A社の場合、この3つの手段をどのように考えればよいでしょうか(設定はすべて説明のための仮のものです)。

    助成金|採用計画と連動させて検討の余地あり

    第5回の費用計画で、A社は開発・管理部門の人員を8名から14名に増やす計画を立てました。
    営業担当も含め、これから採用を本格的に進める段階です。
    採用や人材育成に関する助成金は、この採用計画と連動させて検討する価値があります。
    ただし、事前に計画を提出する必要がある制度も多いため、採用を始める前に確かめておくことが大切です。

    補助金|新しい機能の開発で検討の余地あり

    A社は、成長戦略として、シフト管理を入口に、採用や給与計算へとサービスを広げていく構想を描いています。
    こうした新しい機能の開発が、補助金の対象となる事業に当てはまる可能性はあります。
    ただし、補助金のために開発の内容や時期を変えるのではなく、もともとの事業計画に沿った取り組みが対象になる場合にだけ活用する、という姿勢が大切です。

    購入型クラウドファンディング|A社には向かない

    一方で、購入型のクラウドファンディングは、A社には向かないと考えられます。
    購入型は、消費者向けの製品やサービスで、共感や応援を集めやすいものに適した手段です。
    A社のように、飲食店という事業者に向けた業務用のサービスでは、多くの個人から支援を集める形にはなじみにくいからです。

    このように、株を出さずに資金を得る方法は、すべての会社に合うわけではありません。
    自社の事業や計画と照らし合わせて、使えるものを見極めることが大切です。

    資金計画に織り込むときの注意点

    補助金や助成金を活用する場合、CFOの視点で特に注意していただきたいのが、資金計画への織り込み方です。

    ① 後払いの資金は、受け取るまでの資金を別に用意しておく

    先にお伝えしたとおり、補助金や助成金の多くは後払いです。
    補助金であれば、事業を実施して費用を支払い、実績を報告し、確認を経てようやく受け取ることができます。
    その間は、自社の資金で費用を立て替えることになります。

    たとえば、採択された補助金で開発を進めても、実際に補助金が入金されるのは、事業の完了から数か月後になることもあります。
    その間の資金を手元の資金でまかなえるのか、それとも借入でつなぐ必要があるのかを、第5回の資金計画であらかじめ確かめておく必要があります。

    ② 採択されるまでは、資金計画に入れない

    補助金は、申請しても採択されるとは限りません。
    採択される前から補助金を資金計画に組み込んでしまうと、不採択になった時点で計画が崩れてしまいます。
    資金計画は、補助金がなくても回るように作っておき、採択が決まってから上乗せするのが基本です。

    ③ 申請や報告の事務の負担も見込んでおく

    申請書の作成、事業の実施中の書類の管理、実績の報告など、補助金や助成金には少なくない事務の負担が伴います。
    人数の限られたベンチャー企業では、この負担が本業を圧迫することもあります。
    受け取れる金額と、かかる手間のバランスを考えて判断しましょう。

    ④ 決められた目的以外には使えない

    補助金は、決められた事業の、決められた経費にしか使えません。
    また、補助金は原則として、税務上は課税の対象となる収入として扱われます。
    受け取った金額がそのまま自由に使える資金になるわけではないことも、理解しておく必要があります。

    画像

    株を出さない資金でよくある失敗

    最後に、補助金、助成金、クラウドファンディングでよく見かける失敗を4つ紹介します。

    1. 補助金ありきで、本来の事業計画を曲げてしまう:補助金の対象になるからと、本来の事業計画にはなかった取り組みを始めてしまうケースです。補助金はあくまで、自社の事業計画を後押しするために使うものです。

    2. 入金の時期を見誤り、資金がショートしかける:補助金が採択されたことで安心し、入金までの資金の手当てをしていなかったケースです。後払いであることを、必ず資金計画に反映しましょう。

    3. 申請の代行に丸投げし、高額な報酬だけが残る:申請書の作成を外部に丸投げした結果、自社の事業計画とかけ離れた内容で申請され、採択されても事業の実態に合わない、あるいは高額な報酬だけを支払うことになったケースです。外部の専門家の力を借りる場合も、申請の中身は自社で理解しておくことが大切です。

    4. 株式投資型のクラウドファンディングで、株主が多数に分散してしまう:手軽さから株式投資型で資金を集めた結果、多くの少額株主を抱え、その後の資金調達や上場の準備で手続きが煩雑になったケースです。

    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. 補助金、助成金、購入型クラウドファンディングは、株式を渡さずに資金を得られる手段である。ただし、エクイティやデットの代わりではなく、組み合わせて使う「補完」の手段である

    2. 補助金や助成金の多くは後払いであり、受け取るまでの資金を別に用意する必要がある。補助金は、採択されるまで資金計画に入れず、なくても回る計画にしておく

    3. すべての手段が、すべての会社に合うわけではない。補助金ありきで事業計画を曲げず、自社の事業や計画に合うものだけを見極めて活用する

    株を出さない資金の活用を確認するためのチェックリスト

    • 補助金、助成金、クラウドファンディングを、エクイティやデットの「補完」として位置づけているか

    • 活用を検討している補助金が、もともとの事業計画に沿った取り組みを対象としているか

    • 補助金を受け取るまでの資金を、手元の資金や借入で手当てできるか確かめたか

    • 補助金が採択されなくても、資金計画が回るようになっているか

    • 採用計画と連動させて、助成金の対象になりうる取り組みを確かめたか

    • 助成金の要件となる労務管理が整っているか

    • 申請や報告の事務の負担を見込んだうえで、活用するかどうかを判断しているか

    • 株式投資型のクラウドファンディングを検討する場合、株主の分散の影響を資本政策表で確かめたか

    次回予告

    次回からは、第4部「資金を管理する」に入ります。
    第12回は「ランウェイとバーンレート|会社の残り時間を把握する」です。
    調達した資金があとどれだけもつのかを把握し、次の調達に動くタイミングを判断するための考え方を解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

    また、資金調達を控えたベンチャー企業様向けに、1社限定・参加費無料の「資金調達さくせん会議」をご用意しています。
    セミナー60分と個別相談30分の計90分で、エクイティ×デットを組み合わせた調達の設計図と、調達後18か月の勝ち筋を一緒に描きます。

    ▶ はじめての資金調達をお考えの方へ
    「はじめての資金調達さくせん会議」

    はじめての資金調達は、やり直しがききません。
    デットとエクイティの違いやバリュエーションといった基本用語からやさしく解説し、PMFに向けた最初の一手を一緒に設計します。
    3点セットを作り始める前の段階でのご相談がおすすめです。

    ▶ 2回目以降の資金調達をお考えの方へ
    「プレシリーズA~シリーズAの資金調達さくせん会議」

    前回の調達は乗り切ったものの、次のラウンドの準備に不安がある方に向けた内容です。
    お手元の3点セットを事前にご共有いただければ、資料同士の整合性や数字の根拠まで踏み込んでご相談に乗ります。

    いずれもオンラインで、ご都合のよい日時をお選びいただけます。
    「まだ資料が何もない」という段階でも構いません。

    私たちは、ベンチャー企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考える「社外のCFO」でありたいと考えています。
    「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
    資金調達や資金繰り、資本政策に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
    ご連絡を心よりお待ちしております。

     
     
    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

    あなたへのおすすめ