メインコンテンツへスキップ
見出し画像

事業計画の作り方②|数値計画(PL・資金計画)と前提条件の置き方 #05

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第4回では、事業計画のうち、言葉で示す部分である「定性戦略」を扱いました。
    ビジョン、課題と顧客、市場規模、ビジネスモデル、競合と優位性という土台を固め、売上を因数分解してKPIツリーをつくり、架空の会社A社が「18か月後に契約店舗数2,000店舗、毎月の売上2,000万円」というマイルストーンを設定するところまでを見てきました。

    今回のテーマ

    前回が定性戦略の回だとすれば、第5回となる今回は「定量戦略」の回です。

    定性戦略で描いた事業を、売上計画、費用計画、PL計画(損益計画)、資金計画という数字に翻訳していく手順を解説します。
    あわせて、投資家からもっとも多くの質問を受ける「前提条件」の置き方についてもお伝えします。

    今回も、A社を例に進めていきます。
    第3回では、A社が「毎月1,000万円の資金を使う計画で、18か月分として2億円を調達する」という設定を紹介しました。
    今回は、その数字が定性戦略からどのように導き出されるのかを、実際に計算しながらたどっていきます(設定と数字はすべて説明のための仮のものです)。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    定量戦略の全体像

    定量戦略は、次の4つの計画を順番に組み立てていきます。

    1. 売上計画:KPIツリーの各要素に前提を置き、売上を積み上げる

    2. 費用計画:マイルストーンに到達するために必要な人員や投資から、費用を見積もる

    3. PL計画:売上と費用を損益にまとめ、いつまで赤字が続き、いつ黒字になるのかを示す

    4. 資金計画:損益をお金の出入りに置き換え、手元の資金がどのように推移するのかを示す

    画像

    計画を作る期間は、次のラウンドまでの18〜24か月程度を月次で、その先の3〜5年程度を年次で作るのが一般的です。
    直近の期間は打ち手と結びついた細かな数字で、その先は成長の方向性を示す大きな数字で示すイメージです。

    売上計画|因数分解から積み上げる

    売上計画の出発点は、前回つくったKPIツリーです。A社の売上は、次のように因数分解できました。

    売上 = 契約店舗数 × 1店舗あたりの月額単価

    そして契約店舗数は、「新たに獲得した店舗数」と「解約した店舗数」によって増減します。
    売上計画では、この一つひとつの要素に前提条件を置き、月ごとに積み上げていきます。

    A社の売上計画

    A社の現在の契約店舗数は300店舗、月額単価は1万円です。
    マイルストーンは、18か月後に2,000店舗です。
    ここで、次の前提を置いたとします。

    • 毎月の解約率は2%

    • 月額単価は1万円で据え置き

    • 新たに獲得する店舗数は、営業体制の拡充にあわせて、毎月80店舗から段階的に増やし、18か月目には150店舗にする

    この前提で計算すると、18か月間で新たに獲得する店舗は累計でおよそ2,070店舗、毎月平均115店舗ほどになります。
    一方で、解約によって毎月の契約店舗数の2%が減っていくため、18か月後の契約店舗数はおよそ2,000店舗となり、マイルストーンに届く計算です。

    ここで注目していただきたいのは、2,000店舗に届くには、差し引きの1,700店舗だけでなく、解約で失う分も含めて約2,070店舗を獲得しなければならないという点です。
    解約率を前提に置かずに計画を作ると、必要な獲得件数を見誤ってしまいます。

    さらに、新たに獲得する店舗数も因数分解できます。
    たとえば、商談から契約に至る割合(成約率)を25%とすると、毎月80店舗を獲得するには320件、150店舗を獲得するには600件の商談が必要です。
    こうして因数分解を進めることで、「毎月何件の商談をつくる必要があるのか」という現場の行動目標にまで落とし込めます。

    この結果、A社の毎月の売上は、1か月目の300万円から、18か月目にはおよそ1,880万円まで伸び、19か月目には2,000万円に届く計画になります。

    「市場の◯%を獲得する」という置き方は通用しない

    売上計画でよく見かけるのが、「市場規模が600億円なので、その1%を獲得して売上6億円」という上からの置き方です。
    一見わかりやすいのですが、投資家には説得力をもって伝わりません。
    なぜその1%を獲得できるのか、どのような行動の積み重ねで獲得するのかが、まったく説明されていないからです。

    売上は、因数分解した要素の積み上げで示すことが基本です。
    そうすることで、売上の数字が、日々の営業活動や採用計画と1本の線でつながります。

    費用計画|マイルストーンから逆算する

    売上計画ができたら、次はそれを実現するための費用を見積もります。
    ここでのポイントは、「いくらまでなら使えるか」ではなく、「マイルストーンに到達するために、何にいくら必要か」から逆算することです。

    費用の中心は人件費、その土台は採用計画

    ベンチャー企業の費用の多くを占めるのは人件費です。
    そして人件費は、「いつ、どのような人を、何人採用するか」という採用計画から決まります。
    採用計画のない費用計画は、根拠のない数字の集まりになってしまいます。

    なお、人件費を見積もる際は、給与だけでなく、会社が負担する社会保険料なども含めておく必要があります。

    A社の費用計画

    A社では、費用を次の4つに分けて見積もったとします。

    • 売上原価:サーバーの利用料やカスタマーサポートの費用として、売上の20%がかかる。つまり売上総利益率(粗利率)は80%

    • 顧客の獲得にかかる費用:営業担当の人件費や広告費を合わせて、1店舗を獲得するのに10万円(CAC)がかかる。毎月の獲得件数が増えるにつれて、1か月目の800万円から18か月目には1,500万円まで増える

    • 開発・管理部門の人件費:エンジニアや管理部門の採用を進め、8名から14名へ増やす。社会保険料などを含めて1人あたり月50万円とし、毎月400万円から700万円まで増える

    • その他の固定費:オフィスの家賃などで、毎月100万円

    ここで、前回のマイルストーンの1つだった「LTVがCACの3倍以上」を確認しておきましょう。
    A社のLTV(顧客1店舗が契約期間全体でもたらす利益)は、月額単価1万円×粗利率80%÷解約率2%で、40万円です。CACは10万円なので、LTVはCACの4倍となり、目安の3倍を上回っています。
    費用計画の前提が、定性戦略で決めたマイルストーンと整合しているかを、このように確かめることが大切です。

    PL計画|いつまで赤字が続き、いつ黒字になるのか

    売上計画と費用計画がそろったら、PL計画(損益計画)にまとめます。

    A社の場合、1か月目は売上300万円に対して費用が1,360万円で、1,060万円の赤字です。
    18か月目には売上がおよそ1,880万円まで伸びますが、獲得費用や人件費も増えるため、費用はおよそ2,680万円となり、赤字はおよそ790万円まで縮まります。
    18か月間の赤字を合計すると、およそ1.74億円、1か月あたりにすると約970万円です。

    これが、第3回で「毎月1,000万円の資金が出ていく計画」とお伝えした数字の正体です。

    投資家は「何のための赤字か」を見ている

    ベンチャー企業の損益は、事業の立ち上げ期にいったん赤字が深くなり、その後、売上の成長とともに赤字が縮まって黒字に転じていきます。
    グラフに描くとアルファベットの「J」のような形になることから、「Jカーブ」と呼ばれます。

    A社の年次の計画では、たとえば3年目に月次で黒字化し、4年目に通期で黒字化するといった見通しを示すことになります。

    ここで知っておいていただきたいのは、投資家は赤字そのものを問題視しているわけではないということです。
    見ているのは、「その赤字は何のために生まれているのか」と「いつ、どのように回収に向かうのか」です。
    A社の赤字の大部分は、LTVがCACの4倍となる顧客獲得への投資です。
    こうした「将来の利益を生むための赤字」であることを説明できれば、赤字はむしろ成長への意思として評価されます。

    資金計画|PLの赤字と、お金の減り方は一致しない

    PL計画ができても、まだ定量戦略は完成していません。
    最後に、損益をお金の出入りに置き換えた資金計画を作ります。

    なぜなら、PLの赤字の額と、手元のお金が減る額は一致しないからです。
    主な理由は次のとおりです。

    • 入金と支払いのタイミングのずれ:たとえば利用料を翌月にいただく契約であれば、売上を計上してから実際にお金が入るまでに1か月のずれが生じます。

    • 消費税:売上とともに預かった消費税と、支払った消費税との差額は、あとからまとめて納めることになります。PLには表れませんが、お金は動きます。

    • 設備投資:パソコンなどの購入費用は、PLでは数年に分けて費用にしますが、お金は購入したときに一度に出ていきます。

    • 借入の返済:借入金の元本の返済は、PLの費用にはなりませんが、お金は確実に減ります。

    こうしたずれを反映して、月ごとにお金の出入りと残高を計算したものが資金計画です。

    「最低限残しておく資金」を決めておく

    資金計画を作るうえで大切なのが、「手元の資金が、最低限これだけは残っている状態を保つ」という基準を決めておくことです。

    第2回でお伝えしたとおり、次のラウンドの調達活動には数か月かかります。
    また、事業が計画どおりに進まないこともあります。資金が尽きる直前まで計画を組んでしまうと、少しのずれで資金がショートしかねません。

    A社の調達額「2億円」はこうして決まる

    ここまでの数字をつなげると、A社の調達額の根拠が見えてきます。

    1. PL計画では、18か月間の赤字の合計がおよそ1.74億円

    2. これに、入金のずれやパソコンなどの購入費用といった、PLには表れないお金の動きを加えると、18か月間で出ていくお金はおよそ1.8億円

    3. さらに、18か月目の時点でも、毎月の資金流出のおよそ2か月分にあたる約2,000万円が手元に残るようにしておく

    こうして積み上げた結果が、「2億円」という調達額です。
    第3回でお伝えした「毎月1,000万円、18か月分で1.8億円、調達活動の期間なども見込んで2億円」という数字は、定性戦略から売上計画、費用計画、PL計画、資金計画へと1本の線でつながって導き出されたものなのです。

    なお、手元に残る資金が2か月分しかないということは、シリーズAの調達活動は18か月目よりかなり前、たとえば12か月目ごろには始めておく必要があるということでもあります。
    資金計画は、こうした「いつ次の調達に動くべきか」を判断する道具にもなります。
    日々の資金の管理に使う資金繰り表の作り方は、第13回でくわしく解説します。

    前提条件の置き方|投資家がもっとも質問するところ

    ここまで、A社の数値計画を組み立ててきました。
    しかし、投資家との面談で実際に質問が集中するのは、計算の結果ではありません。
    「解約率2%の根拠は何ですか」「成約率25%は本当に達成できますか」といった、前提条件です。

    定量戦略の説得力は、前提条件の説得力で決まると言っても過言ではありません。

    前提条件の根拠は3種類

    前提条件の根拠は、大きく次の3つに分けられます。

    1. 自社の実績:これまでの解約率や成約率など、自社で実際に計測した数字です。もっとも説得力があります。

    2. 他社や業界の水準:同じような事業を営む会社の公開情報や、業界で一般的とされる数字です。自社の実績が少ない段階で役立ちます。

    3. 仮説とその検証計画:実績も参考になる水準もない場合は、仮説として置いたうえで、「いつまでに、どのように検証するか」をあわせて示します。

    画像

    シード期のように実績が少ない段階では、3つ目の「仮説」に頼る部分が多くなるのは自然なことです。
    大切なのは、仮説を仮説として正直に示し、その検証の進め方まで説明できることです。

    前提条件は一覧にして添える

    数値計画には、主な前提条件とその根拠を一覧にした資料を添えておくことをおすすめします。
    投資家は、その一覧を見ながら計画の妥当性を確かめることができますし、経営者自身も、どの前提がずれたときに計画がどう変わるのかを把握しやすくなります。

    複数のシナリオを用意する

    あわせて、強気・標準・保守といった複数のシナリオを用意しておくと、投資家との対話がより建設的になります。
    たとえばA社であれば、「成約率が想定より低く20%にとどまった場合、マイルストーンへの到達は何か月遅れ、資金はいつまでもつのか」を示しておくのです。

    計画どおりにいかない場合を想定していることは、弱気の表れではありません。
    むしろ、自社の事業を冷静に把握している経営者であるという信頼につながります。

    「ホッケースティック」型の計画が疑われる理由

    数値計画でよく見かけるのが、しばらく横ばいだった売上が、ある時点から急に右肩上がりになる計画です。
    グラフの形がホッケーのスティックに似ていることから、「ホッケースティック」型と呼ばれます。

    ベンチャー企業が急成長をめざすこと自体は当然です。
    問題は、急に伸びる理由が説明されていない場合です。
    「なぜその時点から伸びるのか」「そのために、どのような採用や投資を行うのか」が、前提条件と費用計画で裏づけられていなければ、投資家は計画全体を疑ってしまいます。

    数値計画でよくある失敗

    最後に、数値計画づくりでよく見かける失敗を4つ紹介します。

    1. 売上は強気なのに、費用は控えめに見積もっている:売上を伸ばすには、それに見合った採用や投資が必要です。売上と費用の前提が整合しているかを確かめましょう。

    2. 採用が計画どおりに進まないことを考慮していない:採用は計画より遅れることがよくあります。採用が遅れれば、費用は減る一方で、売上の伸びも遅れます。その影響を把握しておくことが大切です。

    3. 見落としやすい支出が抜けている:社会保険料、消費税、採用にかかる費用などは、計画から漏れやすい支出です。

    4. 作ったまま見直さない:数値計画は、作ったときがいちばん正しい状態ではありません。実績と比べて前提を見直し続けることで、精度が上がっていきます。予実管理については第13回で解説します。

    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. 定量戦略は、売上計画、費用計画、PL計画、資金計画の順に組み立てる。売上は因数分解した要素の積み上げで、費用はマイルストーンと採用計画からの逆算で見積もる

    2. PLの赤字と、手元のお金の減り方は一致しない。資金計画で、最低限残しておく資金を確保したうえで調達額を決める。A社の「2億円」も、定性戦略から1本の線でつながって導き出されたものである

    3. 投資家の質問が集中するのは、計算の結果ではなく前提条件である。根拠を示し、仮説は仮説として示し、複数のシナリオを用意しておく

    画像

    自社の数値計画を確認するためのチェックリスト

    • 売上を、KPIツリーの要素の積み上げで計算しているか

    • 解約による減少も見込んだうえで、必要な獲得件数を計算しているか

    • 費用計画の土台となる採用計画があり、社会保険料なども含めているか

    • 費用の前提が、LTVとCACの関係など、マイルストーンと整合しているか

    • 赤字が「何のための赤字か」「いつ回収に向かうのか」を説明できるか

    • 入金のずれや消費税など、PLに表れないお金の動きを資金計画に反映しているか

    • 最低限残しておく資金の基準を決め、そこから調達額と次の調達の開始時期を逆算しているか

    • 主な前提条件とその根拠を一覧にし、複数のシナリオを用意しているか

    次回予告

    次回は「資本政策の作り方|資本政策表の作り方と、創業者・ストックオプションの持株設計」です。
    今回導き出したA社の「2億円」の調達で、誰に、どれだけの株式を渡すのか。
    上場までを見据えた資本政策の組み立て方を解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

    また、資金調達を控えたベンチャー企業様向けに、1社限定・参加費無料の「資金調達さくせん会議」をご用意しています。
    セミナー60分と個別相談30分の計90分で、エクイティ×デットを組み合わせた調達の設計図と、調達後18か月の勝ち筋を一緒に描きます。

    ▶ はじめての資金調達をお考えの方へ
    「はじめての資金調達さくせん会議」

    はじめての資金調達は、やり直しがききません。
    デットとエクイティの違いやバリュエーションといった基本用語からやさしく解説し、PMFに向けた最初の一手を一緒に設計します。
    3点セットを作り始める前の段階でのご相談がおすすめです。

    ▶ 2回目以降の資金調達をお考えの方へ
    「プレシリーズA~シリーズAの資金調達さくせん会議」

    前回の調達は乗り切ったものの、次のラウンドの準備に不安がある方に向けた内容です。
    お手元の3点セットを事前にご共有いただければ、資料同士の整合性や数字の根拠まで踏み込んでご相談に乗ります。

    いずれもオンラインで、ご都合のよい日時をお選びいただけます。
    「まだ資料が何もない」という段階でも構いません。

    私たちは、ベンチャー企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考える「社外のCFO」でありたいと考えています。
    「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
    資金調達や資金繰り、資本政策に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
    ご連絡を心よりお待ちしております。

     
     
    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

    あなたへのおすすめ