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エンジェル、VC、CVC、事業会社|誰から調達するべきか #10

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第9回では、エクイティ、デット、J-KISSという3つの調達手段の特徴と使い分けを解説しました。
    エクイティは「返さなくてよいが、もっとも高くつく資金」でもあること、そして架空の会社A社の試算では、借入を組み合わせることで、渡す株式を抑えたり、ランウェイを延ばしたりできることを確認しました。

    今回のテーマ

    前回が「何で調達するか」の回だとすれば、第10回となる今回は「誰から調達するか」の回です。

    エクイティで資金を集める場合、出資してくれる相手には、エンジェル投資家、VC(ベンチャーキャピタル)、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)、事業会社といった選択肢があります。
    今回は、この4つの出し手の特徴と、自社に合った調達先の選び方を解説します。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    なぜ「誰から」がそれほど大切なのか

    「出資してもらえるなら、誰からでもありがたい」。
    資金が必要な創業期には、そう感じるのも自然なことです。
    しかし、出資を受けるということは、その相手が自社の株主になるということです。

    株主との関係は、上場するまで、場合によっては上場したあとも続く、長い付き合いになります。
    そして株主の顔ぶれは、次のような場面に影響します。

    • 経営の意思決定:株主は、取締役の派遣や重要な事項への同意などを通じて、経営に関わります。

    • 次のラウンドの調達:新しい投資家は、既存の株主の顔ぶれを見て出資を判断します。既存の株主が追加で出資してくれるかどうかも、大きな判断材料になります。

    • 将来の上場やM&A:株主の構成によっては、上場の準備やM&Aの選択肢に影響することがあります。

    お金に色はありませんが、株主には色があります。
    同じ1億円の出資でも、誰から受けるかによって、その後の経営は大きく変わるのです。

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    エンジェル投資家|創業期を支える個人の投資家

    エンジェル投資家は、自分自身の資金で、創業間もないベンチャー企業に出資する個人の投資家です。
    起業して成功した経験を持つ経営者や、特定の業界で長く活躍してきた人などが多くいます。

    エンジェル投資家の特徴

    • 創業期でも出資してもらいやすい:判断材料が少ないプレシードやシードの段階でも、創業者の人柄や事業への思いを評価して出資してくれることがあります。

    • 判断が早い:個人の判断で出資を決めるため、組織で審議するVCなどに比べて、短い期間で出資が決まることが多くあります。

    • 経験や人脈を生かした助言を得られる:起業の経験や業界での人脈を生かして、経営の相談相手になってくれることがあります。

    エンジェル投資家から出資を受けるときの注意点

    一方で、エンジェル投資家は一人ひとり、投資家としての経験や関わり方が大きく異なります。
    経営に深く関わりたい人もいれば、ほとんど関わらない人もいます。
    出資を受ける前に、どのような関わり方を期待しているのかを確かめておくことが大切です。

    また、エンジェル投資家からの出資は1人あたりの金額が小さいことが多いため、何人もの投資家から少額ずつ出資を受けると、株主が多数に分散しやすくなります。
    第6回でお伝えしたとおり、株主の分散は、将来の資金調達や上場の準備で手続きを煩雑にします。

    なお、一定の要件を満たすベンチャー企業に個人が出資した場合、その個人が税制上の優遇を受けられる「エンジェル税制」という制度があります。
    要件や手続きの詳細は、専門家や公的機関の情報で確かめてください。

    VC|ファンドの資金で出資するプロの投資家

    VCは、機関投資家や事業会社などから預かった資金でファンドをつくり、ベンチャー企業に出資するプロの投資家です。
    第2回でお伝えしたとおり、ファンドには運用期間があり、VCはその期間内にリターンを返す必要があります。

    VCによって、得意なことはさまざま

    ひと口にVCといっても、その特徴はさまざまです。

    • 得意とするステージ:シード期に特化したVCもあれば、シリーズA以降を中心に出資するVCもあります。

    • 得意とする領域:特定の業界や技術に強みを持つVCもあれば、幅広い領域に出資するVCもあります。

    • 出資後の支援の手厚さ:採用や営業の支援まで深く関わるVCもあれば、主に資金面での支援にとどまるVCもあります。

    リード投資家と、それ以外の投資家

    1つのラウンドに複数のVCが出資する場合、そのなかで中心的な役割を担う投資家を「リード投資家」と呼びます。
    リード投資家は、企業価値や投資契約の条件を会社と交渉し、ほかの投資家はその条件に合わせて出資するのが一般的です。
    リード投資家を誰にするかは、そのラウンドの条件だけでなく、出資後の支援のあり方も大きく左右します。

    VCを選ぶときに確かめたいこと

    VCを選ぶ際には、出資の条件だけでなく、次のような点も確かめておくとよいでしょう。

    • ファンドの残りの運用期間:運用期間の終わりが近いファンドから出資を受けると、自社の上場やM&Aを急ぐよう求められることがあります。

    • 追加出資の余力:次のラウンドでも追加で出資してくれる余力があるかどうかは、次の調達の成否に大きく影響します。

    CVC|事業とのつながりを重視する投資家

    CVCは、事業会社がベンチャー企業への投資のために設けた組織です。
    事業会社の社内の部門として運営される場合もあれば、別の会社やファンドとして運営される場合もあります。

    CVCが見ているのは「財務」と「事業」の2つのリターン

    VCとの大きな違いは、CVCが財務的なリターンだけでなく、親会社の事業との相乗効果、いわゆる「戦略的なリターン」も重視することです。

    私自身、上場企業でCVCの責任者を務めていたとき、出資を検討する際には、必ず2つの観点から判断していました。
    1つは、VCと同じように「この会社は大きく成長し、投資したお金が増えて返ってくるか」という観点。
    もう1つは、「この会社と組むことで、自社の事業にどのような広がりが生まれるか」という観点です。
    どれだけ成長が見込める会社でも、自社の事業とのつながりが描けなければ、社内で出資の承認を得ることは難しかったのが実情です。

    CVCから出資を受けるメリット

    • 事業での連携が期待できる:親会社の顧客や販売網、技術などを生かした連携によって、事業の成長を加速できることがあります。

    • 信用力が高まる:知名度のある事業会社が株主になることで、顧客や取引先、採用候補者からの信用が高まることがあります。

    CVCから出資を受けるときの注意点

    一方で、CVCを運営していた立場だからこそ、注意していただきたい点もあります。

    • 競合する企業との取引に影響することがある:特定の事業会社のCVCが株主になると、その事業会社と競合する企業が、取引をためらうことがあります。

    • 親会社の方針や担当者の変化に影響を受ける:CVCの活動は、親会社の経営方針に左右されます。方針が変われば、CVCの投資方針も変わることがあります。また、担当者が人事異動で交代し、それまでの関係が引き継がれないこともあります。

    • 将来のM&Aの選択肢に影響することがある:特定の事業会社が株主になると、将来、その会社の競合にあたる企業への売却が難しくなるなど、M&Aの選択肢が狭まることがあります。

    CVCからの出資は、うまくかみ合えば大きな力になります。
    だからこそ、「その事業会社と、どのような連携を、どこまで具体的に描けるのか」を、出資を受ける前にすり合わせておくことが大切です。

    事業会社|業務提携とセットで出資を受ける

    CVCを通さず、事業会社が直接出資するケースもあります。
    この場合、出資と同時に業務提携の契約を結ぶことが多くあります。

    事業会社からの出資は、提携による事業の後押しが期待できる一方で、契約にさまざまな条件が付くことがあります。
    たとえば、将来の売却の際に優先的に交渉できる権利や、特定の分野での独占的な取引などです。
    こうした条件は、将来の資金調達やM&Aの選択肢を狭めることがあるため、契約の内容をよく確かめ、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。

    4つの出し手を比べる

    ここまでの内容を、出し手ごとに整理しておきましょう。

    • エンジェル投資家:期待するのは、主に財務的なリターンと、創業者への応援です。判断が早く、創業期でも出資を受けやすい一方で、関わり方は人によって大きく異なり、株主が分散しやすいという注意点があります。

    • VC:期待するのは、ファンドの運用期間内での財務的なリターンです。ステージや領域に応じた支援が期待できる一方で、ファンドの運用期間に合わせて、上場やM&Aまでの時間軸を意識する必要があります。

    • CVC:期待するのは、財務的なリターンと、親会社の事業との相乗効果です。事業での連携や信用力の向上が期待できる一方で、競合する企業との取引や、親会社の方針の変化に影響を受けることがあります。

    • 事業会社:期待するのは、主に業務提携による事業上のメリットです。提携による事業の後押しが期待できる一方で、契約に付く条件が、将来の選択肢を狭めることがあります。

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    どの出し手が優れているということではありません。
    自社のステージと、資金以外に何を得たいのかによって、最適な組み合わせは変わります。

    A社で考える|ステージごとに、どの出し手を選ぶか

    それでは、A社を例に、ステージごとの調達先の考え方をたどってみましょう(設定はすべて説明のための仮のものです)。

    シード|シード期に強いVCを中心に

    第6回の資本政策表では、A社はシードでVC X社から2億円を調達しました。
    VC X社は、シード期のSaaS企業への出資を得意とするVCという設定です。
    PMFに向けた検証の進め方や、初期の営業体制づくりについて、同じ段階の会社を数多く支援してきた経験を生かした助言が期待できます。

    もしこのとき、飲食チェーンの経営経験を持つエンジェル投資家を少額で迎えるとしたら、どうでしょうか。
    飲食店の現場を知る人の助言や、業界の人脈による顧客の紹介は、飲食店向けのサービスを手がけるA社にとって大きな力になる可能性があります。
    一方で、株主が1人増えることになるため、その人にどのような関わり方を期待するのかを、事前に確かめておく必要があります。

    シリーズA|事業を伸ばすリード投資家を選ぶ

    シリーズAでは、VC Y社をリード投資家とし、VC X社も追加で出資しました。
    シードから支援してきたVC X社が追加で出資することは、新しく加わるVC Y社にとっても、「既存の株主がこの会社を評価し続けている」という安心材料になります。
    今回の冒頭でお伝えした、既存の株主の顔ぶれが次のラウンドに影響する、というのはこういうことです。

    もし、CVCから出資の打診があったら

    では、シリーズAの準備を進めていたA社に、飲食店向けのレジ(POS)システムを手がける会社のCVCから、出資の打診があったとしたらどうでしょうか。A社は、次のような点を検討することになります。

    • 連携をどこまで具体的に描けるか:POSシステムとA社のサービスを連携させ、POSシステムを導入している飲食店にA社のサービスを紹介してもらえれば、店舗の獲得が大きく加速する可能性があります。その連携を、出資を受ける前にどこまで具体的に合意できるかが大切です。

    • ほかのPOSシステムの利用者に影響しないか:特定のPOS会社が株主になることで、ほかのPOSシステムを使っている飲食店や、ほかのPOS会社との連携に影響が出ないかを確かめる必要があります。

    • 将来の選択肢を狭めないか:将来、M&Aで会社を売却する場合に、そのPOS会社の競合にあたる企業が買い手の候補から外れてしまわないか、契約に優先交渉権などの条件が付いていないかを確かめます。

    • 資本政策に余地はあるか:第6回で見たとおり、A社の創業者の持株比率は、シリーズAの時点で過半数ぎりぎりになります。CVCに追加で株式を渡す余地があるのかを、資本政策表で確かめる必要があります。

    このように、CVCからの出資は、事業を大きく加速させる可能性がある一方で、検討すべき点も多くあります。
    条件だけで判断せず、事業と資本政策の両面から考えることが大切です。

    調達先を選ぶときの5つの確認ポイント

    どの出し手から出資を受けるにしても、次の5つの点は必ず確かめておきましょう。

    1. 期待するリターンと時間軸が、自社の計画と合っているか:出し手が期待するリターンの大きさや、上場やM&Aまでの時間軸が、自社の事業計画や資本政策と合っているかを確かめます。

    2. 資金以外に、どのような支援を受けられるか:採用、営業、次のラウンドの投資家の紹介など、資金以外にどのような支援が期待できるのかを具体的に確かめます。

    3. 次のラウンドで追加出資する余力があるか:既存の株主が追加で出資してくれるかどうかは、次の調達の成否を大きく左右します。

    4. 投資家の過去の関わり方を確かめたか:その投資家が過去に出資した会社の経営者に、出資後の関わり方を聞いてみることをおすすめします。投資家が会社を調べるのと同じように、会社も投資家を調べてよいのです。

    5. ほかの株主や、今後迎えたい株主との関係に問題はないか:既存の株主との相性や、将来迎えたい株主にとって障害にならないかを確かめます。

    資金調達というと、「投資家に選んでもらう」ことばかりを考えがちです。
    しかし、株主とは長い付き合いになる以上、会社もまた、投資家を選ぶ立場にあります。

    調達先の選び方でよくある失敗

    最後に、調達先の選び方でよく見かける失敗を4つ紹介します。

    1. 企業価値などの条件だけで調達先を選んでしまう:もっとも高い企業価値を提示した投資家を選んだものの、出資後の支援がほとんど得られなかった、というケースです。条件と同じくらい、出資後の関係を重視しましょう。

    2. こちらから投資家を選ぶ視点がない:「出資してもらえるだけでありがたい」と考え、投資家の過去の関わり方や、ファンドの状況を確かめないまま出資を受けてしまうケースです。

    3. 声をかけてくれた人から順に受け入れ、株主が増えすぎてしまう:創業期に、知人やエンジェル投資家から少額ずつ出資を受け続け、株主が多数に分散してしまうケースです。

    4. CVCや事業会社の出資で、契約の条件を十分に確かめていない:業務提携への期待が先行し、優先交渉権や独占的な取引などの条件の影響を十分に検討しないまま、契約を結んでしまうケースです。

    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. お金に色はないが、株主には色がある。株主との関係は長く続き、経営の意思決定、次のラウンドの調達、将来の上場やM&Aにまで影響する

    2. エンジェル投資家、VC、CVC、事業会社は、それぞれ期待するリターンも、時間軸も、受けられる支援も異なる。CVCや事業会社からの出資は、事業を加速させる可能性がある一方で、将来の選択肢への影響も検討する必要がある

    3. 会社もまた、投資家を選ぶ立場にある。条件だけでなく、出資後の支援、追加出資の余力、過去の関わり方まで確かめて調達先を選ぶ

    自社の調達先を確認するためのチェックリスト

    • 出資を受ける相手が、どのようなリターンと時間軸を期待しているのかを把握しているか

    • 資金以外に、どのような支援を受けたいのかを明確にしているか

    • VCから出資を受ける場合、ファンドの残りの運用期間と追加出資の余力を確かめたか

    • 投資家が過去に出資した会社の経営者から、出資後の関わり方を聞いたか

    • CVCや事業会社から出資を受ける場合、連携の内容を具体的にすり合わせているか

    • 優先交渉権や独占的な取引などの条件の影響を確かめたか

    • 新たな株主を迎えることで、株主が分散しすぎないか、資本政策表で確かめたか

    次回予告

    次回は「補助金・助成金・クラウドファンディング|株を出さずに資金を得る方法」です。
    株式を渡さずに資金を得られる方法を中心に、それぞれの特徴と注意点を解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

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    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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