
資本政策の作り方|資本政策表の作り方と、創業者・ストックオプションの持株設計 #06
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
前回の振り返り
前回の第5回では、事業計画のうち数字で示す部分である「定量戦略」を扱いました。
売上計画、費用計画、PL計画、資金計画を順に組み立て、架空の会社A社の「2億円」という調達額が、定性戦略から1本の線でつながって導き出されることを確認しました。
あわせて、投資家の質問が集中するのは計算の結果ではなく前提条件である、ということもお伝えしました。
今回のテーマ
第6回となる今回は、3点セットの2つ目である「資本政策」を扱います。
事業計画で「いくら必要か」が決まったら、次に考えるのは「その資金を集めるために、誰に、どれだけの株式を渡すのか」です。
今回は、資本政策の考え方と資本政策表の作り方、そして創業者どうしの持株やストックオプションの設計について解説します。
今回もA社を例に、設立からシード、シリーズAまでの資本政策表を実際に作ってみます。
なお、企業価値の評価(バリュエーション)のくわしい考え方は第14回、種類株式や投資契約の条件は第17回で扱います。
【はじめての資金調達さくせん会議】
【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】
資本政策とは|やり直しがきかない計画
資本政策とは、誰が、どれだけの株式を持つのかを、上場までを見据えて設計する計画です。
第1回で、財務には「知らなかった」では取り返しがつかない判断があるとお伝えしました。
その代表が資本政策です。
事業計画は、実績に合わせて何度でも見直すことができます。
しかし、一度渡した株式は、相手が同意しない限り簡単には戻ってきません。
最初のラウンドで渡した株式の比率は、次のラウンドにも、上場のときにも、ずっと影響し続けます。
だからこそ資本政策は、3点セットのなかでもっとも「やり直しがきかない」資料です。
調達のたびに場当たり的に決めるのではなく、最初から上場までの全体像を描いておく必要があります。

資本政策表の基本構造
資本政策を形にしたものが「資本政策表」です。
資本政策表は、次のような構造になっています。
縦の軸:株主です。創業者などの社内の株主と、VCなどの社外の株主に分けて並べます。
横の軸:ラウンドです。設立時、シード、シリーズA、シリーズB以降、上場時と、時系列に並べます。
各ラウンドの欄:そのラウンドで増えた株式数、ラウンド後に保有する株式数、持株比率を記載します。
表の下段:各ラウンドの1株あたりの価格(株価)、調達前の企業価値(プレマネー)、調達額、調達後の企業価値(ポストマネー)、累計の調達額を記載します。
「顕在株式」と「潜在株式」
資本政策表を読むうえで押さえておきたいのが、「顕在株式」と「潜在株式」の違いです。
顕在株式:すでに発行されている株式です。
潜在株式:ストックオプションなど、将来、権利が行使されると株式になるものです。
資本政策表では、顕在株式だけで計算した持株比率と、潜在株式も含めて計算した持株比率の両方を示します。
ストックオプションが行使されると株式の総数が増え、ほかの株主の持株比率は下がります。
投資家は、この潜在株式を含めた比率で判断することが多いため、両方を把握しておくことが大切です。
上場時のゴールから逆算する
資本政策を考えるときの基本は、「今回いくら調達するか」から考えるのではなく、「上場したときに、どのような株主構成になっていたいか」というゴールから逆算することです。
持株比率が持つ意味
ゴールを考えるうえで知っておきたいのが、株主総会の決議と持株比率の関係です。
株式会社では、重要な事項を株主総会で決めますが、決議の種類によって必要な賛成の割合が異なります。
3分の2以上:定款の変更や合併など、会社の根幹に関わる事項を決める「特別決議」を、単独で可決できる水準です。
過半数:取締役の選任など、日常的な重要事項を決める「普通決議」を、単独で可決できる水準です。
3分の1超:特別決議を、単独で否決できる水準です。
※いずれも、株主総会に出席した株主の議決権を基準とした、一般的な目安です。
つまり持株比率は、単なる「持ち分」ではなく、経営の主導権そのものです。
創業者がどの比率を、どの時点まで保ちたいのかを先に決めておくことで、各ラウンドで渡せる株式の上限が見えてきます。
ラウンドを重ねるごとに、創業者の比率は下がっていく
資金調達のたびに新しい株式を発行すれば、創業者の持株比率は下がっていきます。
これを「希薄化」と呼びます。
希薄化そのものは、成長のための資金を得る以上、避けられないものです。
問題は、希薄化を計画せずに進めてしまうことです。
シードで株式を渡しすぎると、シリーズA以降で渡せる余地が小さくなり、上場前に創業者が経営の主導権を失ってしまうことにもなりかねません。
上場時のゴールから逆算し、各ラウンドでどの程度の希薄化までなら受け入れられるのかを、あらかじめ設計しておくことが大切です。
A社の資本政策表を作ってみる
それでは、A社を例に、設立からシード、シリーズAまでの資本政策表を作ってみましょう(設定と数字はすべて説明のための仮のものです)。

設立時|創業者2名で設立
A社は、代表取締役の創業者と、CTOの共同創業者の2名で設立しました。
1株500円で1万株を発行し、創業者が8,000株(80%)、共同創業者が2,000株(20%)を保有しています。
シード|2億円の調達で、投資家に20%を渡す
設立から1年後、A社はVC X社から2億円を調達しました。
第3回でお伝えしたとおり、調達前の企業価値(プレマネー)は8億円です。
プレマネー8億円を、調達前の株式数1万株で割ると、1株あたりの価格は8万円になります。
2億円を8万円で割った2,500株を新たに発行し、VC X社に割り当てます。その結果、株式の総数は1万2,500株、調達後の企業価値(ポストマネー)は10億円となり、VC X社の持株比率は20%になります。
一方で、創業者の比率は80%から64%に、共同創業者は20%から16%に下がりました。
設立時は1株500円だった株価が、シードでは8万円になっていることにも注目してください。
事業が前に進み、企業価値が評価されたことで、同じ1株の価値が大きく上がっているのです。
シリーズA|5億円の調達と、ストックオプションの枠の設定
さらに1年半後、A社は第4回で設定したマイルストーンを達成し、シリーズAで5億円を調達しました。
新たにリード投資家となったVC Y社が4億円、シードから引き続き支援するVC X社が1億円を出資します。
プレマネーを25億円とすると、1株あたりの価格は、25億円を1万2,500株で割った20万円です。
VC Y社に2,000株、VC X社に500株を新たに発行します。
あわせて、今後の採用に備えて、ストックオプションの枠として1,500株を設定しました。
この結果、持株比率は次のようになります。
顕在株式で見た比率:創業者53.3%、共同創業者13.3%、VC X社20.0%、VC Y社13.3%
潜在株式を含めた比率:創業者48.5%、共同創業者12.1%、ストックオプション9.1%、VC X社18.2%、VC Y社12.1%
なお、この表では、ストックオプションの枠を新たな調達とは別に設定しているため、ポストマネーの30億円には含めていません。
ストックオプションの枠まで含めた株式数(1万6,500株)で計算すると、企業価値は33億円になります。
ストックオプションの枠を調達前の企業価値に含めるかどうかは、投資家との交渉で決まる重要な論点の1つです。
表から読み取れること
この資本政策表から、次のことが読み取れます。
創業者単独の比率は、シリーズAで過半数ぎりぎりになる:顕在株式では53.3%と過半数を保っていますが、ストックオプションがすべて行使されると48.5%となり、過半数を割り込みます。
創業者2名を合わせても、3分の2を下回り始める:顕在株式では2名で66.7%とちょうど3分の2の水準ですが、潜在株式を含めると60.6%になります。
この先のラウンドを考える余地は、それほど大きくない:シリーズB以降でも株式を発行すれば、創業者の比率はさらに下がります。上場時に創業者がどの比率を保っていたいのかを、この段階で改めて確認しておく必要があります。
このように資本政策表を作ってみると、「今回の調達条件が、この先の経営にどう影響するのか」が一目でわかります。
調達の条件を投資家と交渉する前に、必ず資本政策表で先の先まで確かめておきましょう。
創業者どうしの持株設計
資本政策は、社外の投資家との関係だけで決まるものではありません。
設立時の創業者どうしの持株の分け方も、資本政策の大切な出発点です。
均等に分けることのリスク
共同創業者がいる場合、「一緒に始めたのだから」と株式を均等に分けたくなることがあります。
しかし、たとえば2名で50%ずつ持つと、意見が対立したときにどちらも過半数を持たないため、物事を決められなくなるおそれがあります。
誰が最終的な意思決定の責任を負うのかをはっきりさせ、その人が主導権を持てる比率にしておくことが基本です。
A社で創業者が80%、共同創業者が20%としているのも、この考え方によるものです。
創業者が会社を離れる場合に備えておく
もう1つ大切なのが、創業者の1人が途中で会社を離れた場合の株式の扱いを、あらかじめ取り決めておくことです。
会社を離れた創業者が多くの株式を持ったままだと、会社の成長に関わらない株主が大きな比率を占め続けることになります。
その後の資金調達で、投資家から問題視されることも少なくありません。
こうした事態に備えて、創業者どうしで「会社を離れる場合には、株式を一定の条件で会社や他の創業者が買い取る」といった内容の契約を結んでおくのが一般的です。
関係が良好な設立時にこそ、取り決めておくべきことです。
ストックオプションの設計
資本政策のなかで、もう1つ設計しておきたいのがストックオプションです。
ストックオプションの目的
ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格で、将来、自社の株式を取得できる権利のことです。
会社が成長して株価が上がれば、権利を行使して株式を取得し、その差額が利益になります。
ベンチャー企業にとって、ストックオプションは主に次の2つの目的で使われます。
採用:大企業ほどの給与を出せない段階でも、会社の成長の果実を分かち合うことで、優秀な人材を迎え入れられる
定着:一定期間在籍することを権利行使の条件にすることで、長く会社に関わってもらえる
どれだけの枠を確保しておくか
ストックオプションは、発行するたびに資本政策に影響します。
そのため、あらかじめ「全体の何%までをストックオプションに充てるか」という枠を決めておくのが一般的です。
潜在株式を含めた全体の10%前後を目安とすることが多く、A社でもシリーズAの時点で約9%の枠を設定しています。
枠を決めたら、「誰に、いつ、どれだけ付与するか」も計画しておきます。
早い段階で入社したメンバーほど多めに付与するなど、会社の成長段階に応じた付与の方針を持っておくと、場当たり的な付与を防げます。
税制適格ストックオプション
ストックオプションには、一定の要件を満たすことで、権利を行使したときの課税が繰り延べられるなど、税制上の優遇を受けられる「税制適格ストックオプション」があります。
対象となる人や、権利を行使できる期間、行使価格などに要件があり、その内容は税制改正で見直されることもあります。
ストックオプションの設計は、税務や法務の専門的な判断を伴います。
具体的な設計は、必ず専門家と相談しながら進めてください。
資本政策でよくある失敗
最後に、資本政策でよく見かける失敗を4つ紹介します。
いずれも、後から修正するのが非常に難しいものばかりです。
① 早い段階で、外部に株式を渡しすぎてしまう
資金が必要な創業期に、少しでも多く集めようとして、大きな比率の株式を渡してしまうケースです。
企業価値がまだ低い段階で多くの株式を渡すと、その後のラウンドで調達できる余地が小さくなり、創業者の比率も早い段階で大きく下がってしまいます。
② 少額の株主が多数に分散してしまう
知人や取引先、エンジェル投資家などから少額ずつ出資を受け、株主が多数に分散してしまうケースです。
株主が増えるほど、株主総会の運営や、将来の資金調達や上場の準備での手続きが煩雑になります。
株主の顔ぶれもまた、投資家が確認するポイントの1つです。
③ 事業計画と連動させず、場当たり的に決めてしまう
調達のたびに、その時点の事情だけで条件を決めてしまうケースです。
第3回でお伝えしたとおり、資本政策は事業計画とつながっています。
事業計画で描いた成長の道筋と、上場までの資本政策が連動していないと、投資家に一貫したストーリーを示すことができません。
④ 株式の価格を深く考えずに決めてしまう
株式を譲渡したり発行したりする価格を、深く考えずに決めてしまうケースです。
たとえば、その時点の企業価値よりも著しく低い価格で株式を譲渡すると、税務上の問題が生じるおそれがあります。
また、短い期間に大きく異なる価格で株式が動いていると、上場の審査の際に説明を求められることもあります。
株式の価格を決める際には、専門家に相談することをおすすめします。

まとめ
今回のポイントは、次の3つです。
資本政策は、一度渡した株式が簡単には戻らない、3点セットのなかでもっとも「やり直しがきかない」計画である。上場時の株主構成というゴールから逆算して設計する
持株比率は経営の主導権そのものである。3分の2、過半数、3分の1という比率の意味を踏まえ、各ラウンドでどこまでの希薄化を受け入れるかを、資本政策表で先の先まで確かめておく
創業者どうしの持株の分け方と、会社を離れる場合の取り決め、ストックオプションの枠と付与の方針も、資本政策の一部として最初に設計しておく
自社の資本政策を確認するためのチェックリスト
上場時に、創業者がどの程度の持株比率を保っていたいのかを決めているか
設立から上場までのラウンドを並べた資本政策表を作っているか
顕在株式と、潜在株式を含めた持株比率の両方を把握しているか
今回の調達条件が、次のラウンド以降の比率にどう影響するのかを確かめているか
創業者どうしで、最終的な意思決定の責任者が明確になっているか
創業者が会社を離れる場合の株式の扱いを、取り決めているか
ストックオプションの枠と、付与の方針を決めているか
株式の価格を決める際に、専門家に相談しているか
次回予告
次回は、3点セットの最後の1つ、「ピッチブックの作り方|投資家に伝わる構成とストーリー」です。
ここまで作ってきたA社の事業計画と資本政策を、投資家に伝わるストーリーにどうまとめるのかを解説します。
お問い合わせ・ご相談について
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