
エクイティ、デット、J-KISS|調達手段の種類と使い分け #09
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
前回の振り返り
前回の第8回では、事業計画・資本政策・ピッチブックの3点セットについて、数字、ロジック、ストーリーの3つの層で整合性を確かめる方法を解説しました。
架空の会社A社の3点セットを整合性チェック表で点検し、ずれを防ぐための仕組みもご紹介しました。
これで、第2部「資金調達の『3点セット』を作り込む」は完結です。
今回のテーマ
今回から、第3部「調達方法を選ぶ」に入ります。第2部で作り込んだ3点セットを手に、「どのような手段で資金を集めるのか」を考えていきます。
第9回となる今回は、その入口として、エクイティ(株式)、デット(借入)、J-KISSという3つの調達手段の特徴と使い分けを解説します。
それぞれの仕組みだけでなく、「資金のコスト」と「出し手が見ているもの」という視点から比べ、最後にA社で組み合わせを試算してみます。
なお、誰から調達するのかは第10回、補助金や助成金などは第11回、銀行からの調達は第18回と第19回でくわしく扱います。
【はじめての資金調達さくせん会議】
【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】
調達手段の全体像
ベンチャー企業が資金を調達する手段は、大きく次の3つに分けられます。
エクイティ:株式を発行し、投資家から出資を受ける方法
デット:金融機関などから、資金を借り入れる方法
J-KISSなど:エクイティとデットの中間にあたる方法。株価を決めずに資金を受け入れ、次の株式による調達の際に株式に転換する

このほか、補助金や助成金、クラウドファンディングといった方法もありますが、こちらは第11回で扱います。
まずは、この3つの特徴を順に見ていきましょう。
エクイティ|株式で調達する
エクイティは、新しく株式を発行し、それを投資家に引き受けてもらうことで資金を得る方法です。
ベンチャー企業の資金調達というと、多くの方がまずこの方法を思い浮かべると思います。
エクイティのメリット
返済の必要がない:受け入れた資金は、借入と違って返す必要がありません。赤字が続く段階でも、事業に投資し続けることができます。
大きな金額を集めやすい:将来の成長に期待して出資するため、現在の売上や利益の水準を超えた金額を集められることがあります。
投資家の支援を得られる:VCなどの投資家は、資金だけでなく、採用や顧客の紹介、次のラウンドの投資家とのつながりなど、さまざまな支援をしてくれることがあります。
エクイティのデメリット
持株比率が下がる:新しい株式を発行するため、第6回で見たように、創業者の持株比率が下がっていきます。
投資家が経営に関与する:投資家は株主として、取締役を派遣したり、重要な意思決定に同意を求めたりすることがあります。

エクイティは「もっとも高くつく資金」でもある
もう1つ、CFOの視点から知っておいていただきたいことがあります。
それは、エクイティは「返さなくてよいお金」である一方で、「もっとも高くつくお金」でもあるということです。
第2回でお伝えしたとおり、VCは、出資した会社のうち一部の大きな成功で、ファンド全体のリターンを生み出す必要があります。
そのため、1社ごとに非常に大きなリターンを期待して出資しています。
A社がシードで渡した20%の株式が、将来、上場したときにどれだけの価値になるのかを考えれば、借入の利息とは比べものにならない「コスト」を支払っていることがわかります。
だからこそ、エクイティは「必要な分を、必要なときに」調達することが大切です。
デット|借入で調達する
デットは、金融機関などから資金を借り入れる方法です。
ベンチャー企業が使える主な借入には、次のようなものがあります。
日本政策金融公庫の創業融資:創業して間もない会社でも利用しやすい、政府系金融機関の融資です。
制度融資:自治体、金融機関、信用保証協会が連携して提供する融資です。信用保証協会の保証が付くことで、実績の少ない会社でも借りやすくなります。
銀行からの借入:事業の実績が積み上がってくると、銀行から直接借り入れることもできるようになります。
ベンチャーデット:VCから出資を受けているベンチャー企業などを対象とした融資です。エクイティによる調達と組み合わせて使われることが多い手段です。
デットのメリット
持株比率が下がらない:株式を渡さないため、創業者の持株比率に影響しません。
エクイティより早く調達できることが多い:審査はありますが、株価の交渉や投資契約の協議が必要なエクイティに比べて、短い期間で調達できることが多くあります。
資金のコストが低い:支払うのは利息であり、エクイティで投資家に期待されるリターンに比べれば、資金のコストはずっと低くなります。
デットのデメリット
返済と利息が伴う:借りた資金は、利息とあわせて決められた期日までに返さなければなりません。
赤字の段階では借りにくいことがある:返済の見通しが立てにくい段階では、借りられる金額に限りがあります。

投資家と銀行は、見ているものが違う
ここで、私が銀行と投資の両方の現場で感じてきたことをお伝えしておきます。
それは、投資家と銀行では、同じ会社を見ていても、見ているものがまったく違うということです。
投資家が見ているのは、「この会社はどこまで大きくなれるのか」という成長の大きさです。
多少のリスクがあっても、大きく成長する可能性があれば出資します。
一方で銀行が見ているのは、「この会社は、貸したお金を確実に返せるのか」という返済の確実さです。
どれだけ大きな成長の可能性があっても、返済の見通しが立たなければ貸すことはできません。
この違いを知っておくと、同じ3点セットでも、投資家に説明するときと銀行に説明するときで、強調すべきポイントが変わることがわかります。
銀行からの調達については、第18回と第19回でくわしく解説します。
J-KISS|株価を決めずに調達する
J-KISSは、国内のベンチャーキャピタルが作成・公開した、新株予約権を使った資金調達の標準的な契約書のひな形です。
シード期の調達でよく使われています。
J-KISSの仕組み
J-KISSの特徴は、資金を受け入れる時点では株価を決めないことです。
投資家はまず新株予約権という形で資金を払い込み、その後、会社が株式による本格的な資金調達を行った際に、その権利が株式に転換されます。
このとき、どの株価で株式に転換されるのかは、主に次の2つの条件で決まります。
バリュエーションキャップ(上限となる企業価値):転換する際の企業価値の上限です。次のラウンドの企業価値がこの上限を上回った場合でも、上限の企業価値で計算した株価で転換されます。
ディスカウント(割引率):次のラウンドの株価から、一定の割合を割り引いた株価で転換される、という条件です。
多くの場合、この2つで計算した株価のうち、低いほうで転換されます。
早い段階でリスクを取って出資した投資家が、次のラウンドの投資家より有利な条件で株式を取得できるようにするための仕組みです。
A社で考えてみる
たとえば、A社がシードの2億円を、株式ではなくJ-KISSで調達していたとします。
条件は、バリュエーションキャップが8億円、ディスカウントが20%です(数字はすべて仮のもので、実際の計算はより複雑になるため、ここでは簡略化しています)。
その後、A社はシリーズAで、1株20万円で株式を発行しました。
このとき、J-KISSの転換価格は次のように計算されます。
ディスカウントで計算した場合:20万円から20%を割り引いた16万円
バリュエーションキャップで計算した場合:8億円を、シリーズAの前の株式数1万株で割った8万円
低いほうの8万円で転換されるため、2億円は2,500株の株式になります。
これは、シードで1株8万円の株式による調達をした場合と同じ株式数です。
つまり、次のラウンドで企業価値が大きく上がるほど、バリュエーションキャップが実質的な株価になるということです。
J-KISSのメリット
早く、手続きの負担が小さい:株価の交渉が不要で、標準的な契約書を使うため、株式による調達に比べて早く、費用を抑えて調達できます。
企業価値の交渉を先送りできる:判断材料の少ないシード期に、無理に企業価値を決める必要がありません。
J-KISSの注意点
バリュエーションキャップの設定が実質的な企業価値の交渉になる:A社の例のように、キャップが実質的な株価になることが多いため、キャップを低く設定しすぎると、株式で調達した場合と同じか、それ以上に株式を渡すことになります。
何度も重ねると、転換したときの影響が大きくなる:J-KISSを複数回重ねて発行すると、次のラウンドでまとめて株式に転換され、創業者の持株比率が想定以上に下がることがあります。
J-KISSは「株価を決めなくてよい便利な手段」と思われがちですが、実際には、将来の資本政策に大きく影響します。
第6回の資本政策表に、転換後の株式数を織り込んで確かめておくことが大切です。バリュエーションのくわしい考え方は、第14回で解説します。
3つの手段を比べる
ここまでの内容を、返済の義務、持株比率への影響、調達までのスピードと手間、経営への関与、資金のコスト、向いているステージの6つの観点で整理したものが、次の表です。

こうして並べると、3つの手段にはそれぞれに長所と短所があり、どれか1つが常に優れているわけではないことがわかります。
エクイティは返済の必要がなく大きな金額を集められる一方で、持株比率が下がり、資金のコストはもっとも高くなります。
デットは持株比率に影響せず資金のコストも低い一方で、返済が伴い、赤字の段階では借りにくいことがあります。
J-KISSは早く手続きの負担も小さい一方で、条件の設定次第では、将来の資本政策に大きく影響します。
大切なのは、それぞれの特徴を理解したうえで、自社のステージと目的に合わせて組み合わせることです。
使い分けの考え方|「どれか1つ」ではなく組み合わせで考える
ステージごとの代表的な組み合わせ
調達手段の組み合わせは会社によってさまざまですが、ステージごとに、次のような組み合わせがよく見られます。
プレシード:創業者自身の資金に、日本政策金融公庫の創業融資や制度融資を組み合わせる。エンジェル投資家などからJ-KISSで調達することもある
シード:J-KISS、または株式による調達に、借入を組み合わせる
シリーズA以降:優先株式による調達に、銀行からの借入やベンチャーデットを組み合わせる
いずれの段階でも共通しているのは、「エクイティだけ」「デットだけ」ではなく、両方を組み合わせて考えるという点です。
A社で組み合わせを試算してみる
では、A社のシードの調達で、出資と借入を組み合わせると何が変わるのかを試算してみましょう。
A社がプレマネー8億円(1株8万円)で出資を受ける前提で、3つのパターンを比べたものが、次の図です(数字はすべて仮のものです)。

パターン①出資だけで調達:これまでのA社の計画です。2億円をすべて出資で集め、投資家の持株比率は20%、創業者は64%です。18か月目に残る資金は約2,000万円、毎月の資金流出の約2か月分です。
パターン②出資を減らし、借入で補う:2億円のうち3,000万円を借入でまかない、出資を1.7億円に抑えるパターンです。手元に入る資金は同じ2億円のまま、投資家の持株比率は17.5%に下がり、創業者の比率は66%に上がります。
パターン③出資はそのまま、借入を上乗せ:出資は2億円のまま、さらに3,000万円を借り入れるパターンです。持株比率は①と同じですが、手元に入る資金は2.3億円となり、18か月目に残る資金は約5,000万円、約5か月分に増えます。
第5回で、A社の18か月目に残る資金は約2か月分しかなく、シリーズAの調達活動を12か月目ごろには始める必要がある、とお伝えしました。パターン③のように借入を組み合わせれば、次の調達までの時間に余裕が生まれ、マイルストーンの達成が少し遅れた場合にも対応しやすくなります。
もちろん、借入には返済が伴います。
この試算では、18か月間は元本の返済を据え置く条件を仮定していますが、実際には返済が始まる時期と、その時点の事業の状況をあわせて考える必要があります。
借入を組み合わせる際は、第5回の資金計画に返済の予定まで織り込み、返済できる見通しを確かめたうえで判断することが大切です。
調達手段の選び方でよくある失敗
最後に、調達手段の選び方でよく見かける失敗を4つ紹介します。
エクイティしか選択肢にないと思い込んでいる:「ベンチャーの資金調達=VCからの出資」と考え、借入を最初から検討していないケースです。A社の試算のように、借入を組み合わせるだけで、渡す株式を抑えたり、ランウェイを延ばしたりできることがあります。
借入を必要以上に避ける、あるいは返済の見通しなく借りすぎる:「借金は怖い」と借入を避けすぎるのも、逆に返済の見通しを立てずに借りられるだけ借りるのも、どちらも問題です。資金計画で返済まで見通したうえで、適切な金額を判断します。
J-KISSを安易に重ねてしまう:手軽さから何度もJ-KISSで調達し、次のラウンドでまとめて株式に転換された結果、創業者の持株比率が想定以上に下がってしまうケースです。
調達手段の選択が、3点セットと連動していない:どの手段で調達するかによって、資金計画も資本政策も変わります。調達手段を決めたら、必ず3点セットに反映し、第8回の整合性チェックで確かめましょう。

まとめ
今回のポイントは、次の3つです。
エクイティは返済の必要がなく大きな金額を集められる一方で、持株比率が下がり、「もっとも高くつく資金」でもある。デットは持株比率に影響せず資金のコストも低いが、返済が伴う
J-KISSは株価を決めずに早く調達できるが、バリュエーションキャップが実質的な株価になることが多く、将来の資本政策に大きく影響する
調達手段は「どれか1つ」ではなく、組み合わせで考える。借入を組み合わせることで、渡す株式を抑えたり、ランウェイを延ばしたりできる
自社の調達手段を確認するためのチェックリスト
エクイティ、デット、J-KISSのそれぞれの特徴を理解しているか
エクイティを「返さなくてよいが、もっとも高くつく資金」として捉えているか
投資家と銀行で、見ているものが違うことを踏まえて説明を準備しているか
借入を組み合わせた場合の持株比率とランウェイを試算したことがあるか
借入を検討する場合、返済の予定まで資金計画に織り込んでいるか
J-KISSを使う場合、転換後の株式数を資本政策表で確かめているか
選んだ調達手段を、3点セットに反映しているか
次回予告
次回は「エンジェル、VC、CVC、事業会社|誰から調達するべきか」です。
同じ出資でも、出し手によって期待することも、受けられる支援も異なります。自社に合った調達先の選び方を解説します。
お問い合わせ・ご相談について
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弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
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