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3点セットの整合性チェック|数字とストーリーにずれがある会社は信頼されない #08

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第7回では、3点セットの最後の1つであるピッチブックを扱いました。
    ピッチブックは、投資家の担当者が社内で出資を提案するための材料にもなること、そして「なぜこの課題か、なぜ今か」「なぜこのチームか」「なぜこの金額で、何を達成するのか」という3つの問いでストーリーをつなぐことをお伝えしました。
    架空の会社A社を例に、14ページのピッチブックの骨組みも組み立てました。

    今回のテーマ

    第8回となる今回は、第2部「資金調達の『3点セット』を作り込む」の総まとめです。

    ここまで、事業計画(第4回・第5回)、資本政策(第6回)、ピッチブック(第7回)と、3点セットを1つずつ作ってきました。
    しかし、3つの資料はそれぞれを作り終えた時点では、まだ完成していません。
    3つを並べて、数字とストーリーが本当につながっているかを確かめてはじめて、投資家や銀行に自信をもって出せる3点セットになります。

    今回は、3点セットの整合性を確かめる方法を、A社の3点セットを実際に点検しながら解説します。

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    なぜ「整合性」がここまで重視されるのか

    第3回で、3点セットがバラバラだと投資家の信頼を失う、とお伝えしました。
    ここで改めて、なぜ投資家がそこまで整合性を重視するのかを、出資する側の視点から整理しておきます。

    出資の検討が進むと、投資家は会社の実態を詳しく調べるデューデリジェンスを行います。
    そこでは、事業計画、資本政策、ピッチブック、そして試算表などの実績の数字が、一つひとつ突き合わされます。

    このとき、資料ごとに数字が食い違っていると、投資家は単なる誤りとしては受け止めません。
    「この会社は、自社の数字を正しく管理できているのか」という、経営管理そのものへの疑問として受け止めます。
    出資したあとも、この会社から届く数字を信じてよいのか、という不安につながるからです。

    私自身、出資を検討する立場にいたとき、資料の数字が合わない会社には、事業の中身とは別のところで慎重にならざるを得ませんでした。
    逆に、どの資料のどの数字を確かめても一貫している会社は、それだけで「数字を任せられる会社だ」という安心感がありました。
    整合性は、投資家との信頼関係の土台なのです。

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    整合性は3つの層で確かめる

    整合性といっても、確かめるべきことは数字が合っているかどうかだけではありません。
    整合性は、次の3つの層で確かめます。

    ① 数字の整合性|同じ数字が、どの資料でも同じ値になっているか

    もっとも基本的な層です。
    調達額、単価、解約率、マイルストーンなど、同じ数字が、事業計画、資本政策、ピッチブックのどこに登場しても、同じ値になっているかを確かめます。

    ② ロジックの整合性|原因と結果の関係でつながっているか

    数字が合っていても、その数字どうしのつながりが説明できなければ、整合性があるとは言えません。
    前提条件から売上計画と費用計画が導かれ、そこから資金計画と調達額が導かれ、さらに調達額と株価から投資家に渡す株式の比率が導かれる。
    この原因と結果の流れが、途切れずにつながっているかを確かめます。

    ③ ストーリーの整合性|同じ方向を向いているか

    最後の層は、言葉で語る内容の整合性です。定性戦略で描いたビジョンや成長戦略と、定量戦略の数字、そしてピッチブックで語るストーリーが、同じ方向を向いているかを確かめます。
    たとえば、ピッチブックで「採用や給与計算へ広げていく」と語りながら、事業計画にそのための開発費や人員がまったく見込まれていなければ、ストーリーと数字が食い違っていることになります。

    A社の3点セットで実際にチェックしてみる

    それでは、ここまで作ってきたA社の3点セットを並べて、実際に整合性を確かめてみましょう(設定と数字はすべて説明のための仮のものです)。

    ① 数字の整合性を確かめる

    まずは、3点セットのなかで「つながっているべき数字」を一覧にします。
    縦に確認する数字を、横に事業計画(定性戦略・定量戦略)、資本政策、ピッチブックを並べ、それぞれの数字がどの資料のどこに登場するのかを整理したものが、次の表です。

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    この表を使って、横に1行ずつ見ていき、同じ数字がすべての資料で同じ値になっているかを確かめます。
    たとえば「調達額2億円」であれば、資金計画(第5回)で導き出した金額、資本政策表(第6回)のシードの調達額、ピッチブック(第7回)のエグゼクティブサマリーと資金調達の概要のページが、すべて2億円になっているかを確認します。

    こうして一覧にしてみると、A社の3点セットでは、13の数字が複数の資料にまたがって登場していることがわかります。
    どれか1つでも食い違っていれば、投資家はそこに気づきます。

    ② ロジックの整合性を確かめる

    次に、数字どうしが原因と結果の関係でつながっているかを確かめます。
    A社の場合、確かめるべき流れは次のとおりです。

    1. 解約率2%と新規獲得の前提から、18か月後に2,000店舗・毎月の売上2,000万円に届くか(第4回・第5回)

    2. 獲得費用と採用の計画から積み上げた費用と、売上との差額が、18か月間で約1.8億円の資金流出になっているか(第5回)

    3. 約1.8億円に、最低限残しておく資金を加えて、調達額が2億円になっているか(第5回)

    4. 2億円をプレマネー8億円で調達すると、1株8万円で2,500株を発行し、投資家の持株比率が20%になるか(第6回)

    この流れを、投資家に質問されたときに、経営者が自分の言葉で順にたどって説明できるかどうか。
    それが、ロジックの整合性を確かめる方法です。

    ③ ストーリーの整合性を確かめる

    最後に、ストーリーの整合性を確かめます。
    A社の場合は、たとえば次のような点を確かめます。

    • ピッチブックで語る「飲食店で働く人の時間を取り戻す」というビジョンと、事業計画の成長戦略が同じ方向を向いているか

    • 「資金の使い道は顧客の獲得と採用」という説明と、費用計画で大きな割合を占める費用が一致しているか

    • 「シフト管理を入口に、採用や給与計算へ広げていく」という成長戦略に対して、年次の事業計画で、いつ、どの程度の投資を見込んでいるかが示されているか

    ずれがあると、どう見えるか

    では、ずれがあると投資家にはどう見えるのでしょうか。
    たとえば、A社のピッチブックのエグゼクティブサマリーに、見栄えを良くしようとして「18か月で3,000店舗」と書いてしまったとします。

    投資家は、事業計画の売上計画を確認し、「18か月後の店舗数は2,000店舗となっていますが、どちらが正しいのですか」と質問するでしょう。
    仮に3,000店舗が目標だとしても、それを達成するための獲得費用が費用計画に入っていなければ、調達額の2億円では足りないことになります。
    そうなると、資金計画、資本政策、ピッチブックのすべてを見直さなければなりません。

    たった1つの数字のずれが、3点セット全体の信頼を揺るがす。
    整合性の確認は、それを防ぐための作業です。

    ずれが生まれやすい5つのポイント

    3点セットのずれは、多くの場合、悪意からではなく、日々の作業のなかで知らないうちに生まれます。
    特に注意したいのが、次の5つのポイントです。

    1. 資料ごとに更新した時期が異なる:事業計画は最新の数字に更新したのに、ピッチブックには数か月前の数字が残っている、というのはもっともよくあるずれです。

    2. ピッチブックだけ、見栄えのよい数字に変えてしまう:面談の直前に、ピッチブックの数字だけを少し強気に書き換えてしまうケースです。先ほどの「3,000店舗」の例がこれにあたります。

    3. 事業計画の前提を変えたのに、資本政策に反映していない:たとえば採用計画を見直して必要な資金が増えたのに、資本政策表の調達額や株式の比率が以前のままになっているケースです。

    4. 計画の起点となる数字が、実績とずれている:事業計画の起点となる現在の売上や店舗数が、試算表などの実績の数字と一致していないケースです。デューデリジェンスでは、まずこの点が確かめられます。

    5. 言葉の定義が、資料によって異なる:ある資料では「契約店舗数」、別の資料では「実際に利用している店舗数」を同じ言葉で呼んでいる、というように、数字の定義がそろっていないケースです。

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    整合性を保つための仕組み

    ずれを防ぐには、作り終えたあとに確認するだけでなく、ずれが生まれにくい仕組みを持っておくことが大切です。

    数字の出どころを、事業計画に一本化する

    もっとも効果的なのは、すべての数字の出どころを事業計画に一本化することです。
    資本政策やピッチブックの数字は、必ず事業計画から引用し、それぞれの資料で独自に数字を作らないようにします。
    数字の出どころが1つであれば、そこを更新すれば、ほかの資料も更新すべきことが明確になります。

    前提条件の一覧を、3つの資料で共有する

    第5回でご紹介した前提条件の一覧を、3つの資料に共通する土台として使います。
    単価、解約率、CACなどの前提条件と、その定義をこの一覧にまとめておけば、資料によって言葉の定義が異なる、というずれも防げます。

    1つを更新したら、3つすべてを見直す

    事業計画、資本政策、ピッチブックのどれか1つを更新したら、必ずほかの2つも見直す、というルールを決めておきます。
    今回の整合性チェック表のような一覧を用意しておけば、見直すべき箇所がすぐにわかります。

    第三者の目で確かめる

    最後に、作った本人ではない第三者の目で確かめることも大切です。経営陣の誰かや社外の専門家に、投資家役として質問してもらう「模擬面談」を行うと、数字のずれや、説明が途切れてしまうロジックの弱い部分が浮かび上がります。
    本番の面談の前に、ぜひ一度試してみてください。

    第2部の振り返り

    今回で、第2部「資金調達の『3点セット』を作り込む」は完結です。
    ここで、第3回から第8回までを簡単に振り返っておきましょう。

    • 第3回 3点セットとは:事業計画・資本政策・ピッチブックは、事業計画を出発点に1本の線でつながっている

    • 第4回 事業計画の作り方①:数字を入れる前に、定性戦略として、ビジョンから市場、ビジネスモデル、KPI、マイルストーンまでの土台を固める

    • 第5回 事業計画の作り方②:定量戦略として、売上計画、費用計画、PL計画、資金計画を組み立て、調達額の根拠を導き出す

    • 第6回 資本政策の作り方:上場時のゴールから逆算し、誰に、どれだけの株式を渡すのかを設計する

    • 第7回 ピッチブックの作り方:事業計画と資本政策を、投資家の3つの問いに答えるストーリーにまとめる

    • 第8回 3点セットの整合性チェック:数字、ロジック、ストーリーの3つの層で、3つの資料のつながりを確かめる

    A社の例でたどってきたように、ビジョンから始まった定性戦略が、定量戦略の数字になり、2億円という調達額になり、投資家に渡す20%の株式になり、ピッチブックのストーリーになる。
    この1本の線がつながった状態こそが、投資家にも銀行にも信頼される3点セットです。

    次回からは第3部「調達方法を選ぶ」に入ります。
    完成した3点セットを手に、どのような手段で、誰から資金を調達するのかを考えていきます。

    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. 投資家は、3点セットと実績の数字を突き合わせる。数字のずれは、単なる誤りではなく、経営管理そのものへの疑問として受け止められる

    2. 整合性は、数字、ロジック、ストーリーの3つの層で確かめる。つながっているべき数字を一覧にし、原因と結果の流れを自分の言葉でたどれるかを確認する

    3. ずれを防ぐには、数字の出どころを事業計画に一本化し、前提条件の一覧を共有し、1つを更新したら3つすべてを見直す仕組みを持つ

    自社の3点セットの整合性を確認するためのチェックリスト

    • 3点セットのなかで「つながっているべき数字」を一覧にしているか

    • 調達額、単価、解約率、マイルストーンなどが、すべての資料で同じ値になっているか

    • 前提条件から調達額、投資家の持株比率までの流れを、自分の言葉でたどって説明できるか

    • ピッチブックで語る成長戦略に見合った費用や人員が、事業計画に見込まれているか

    • 事業計画の起点となる数字が、試算表などの実績と一致しているか

    • 「売上」「店舗数」などの言葉の定義が、すべての資料でそろっているか

    • 資本政策やピッチブックの数字を、事業計画から引用しているか

    • 第三者に投資家役を頼み、模擬面談で確かめたことがあるか

    次回予告

    次回からは、第3部「調達方法を選ぶ」に入ります。
    第9回は「エクイティ、デット、J-KISS|調達手段の種類と使い分け」です。
    株式による調達、借入による調達、そしてシード期によく使われるJ-KISSについて、それぞれの特徴と使い分けを解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

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    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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