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ピッチブックの作り方|投資家に伝わる構成とストーリー #07

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第6回では、3点セットの2つ目である資本政策を扱いました。
    資本政策は、一度渡した株式が簡単には戻らない「やり直しがきかない」計画であり、上場時のゴールから逆算して設計することをお伝えしました。
    架空の会社A社の資本政策表では、シリーズAの時点で、創業者の持株比率が過半数ぎりぎりになることを確認しました。

    今回のテーマ

    第7回となる今回は、3点セットの最後の1つである「ピッチブック」を扱います。

    ピッチブックは、事業計画と資本政策を、投資家に伝わるストーリーにまとめた資料です。
    言い換えれば、ピッチブックは3点セットを「伝える」ための資料であり、中身の大部分は、ここまで作ってきた事業計画と資本政策のなかにすでにそろっています。

    今回は、ピッチブックの役割と基本構成、ストーリーの作り方を解説したうえで、A社を例にピッチブック全体の骨組みを組み立ててみます。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    ピッチブックとは|投資家が「社内で説明する」ための資料でもある

    ピッチブックというと、投資家との面談で、経営者がプレゼンテーションに使う資料を思い浮かべる方が多いと思います。
    もちろんそれも大切な役割ですが、実はもう1つ、見落とされがちな役割があります。

    それは、投資家の担当者が、自分の会社の中で出資を提案するための材料になるという役割です。

    VCやCVCでは、担当者が「この会社に出資したい」と考えても、それだけで出資が決まるわけではありません。
    多くの場合、社内の投資委員会などで出資の是非を審議し、承認を得る必要があります。
    そしてその場に、経営者は同席しません。
    担当者が、経営者に代わって会社の魅力を説明し、質問に答えることになります。

    私自身、CVCの責任者として出資を検討していた際には、まさにこの「社内で説明する」立場にいました。
    そのとき助けになったのは、見栄えのよい資料よりも、事業の課題、成長の道筋、資金の使い道が、筋道立てて整理されている資料でした。

    つまり、よいピッチブックとは、経営者がいない場でも、投資家の担当者がそれを使って会社の魅力を説明できる資料です。
    この視点を持っておくだけで、ピッチブックの作り方は大きく変わります。

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    「送る用」と「話す用」の2種類を用意する

    もう1つ押さえておきたいのが、ピッチブックには使われる場面が大きく2つあるということです。

    • 送る用:面談の前に投資家へ送り、読んでもらうための資料です。経営者が説明しなくても内容が伝わるよう、文章で補足を加えておく必要があります。

    • 話す用:面談で、経営者が話しながら見せるための資料です。説明は口頭で補えるため、1ページあたりの情報を絞り、話の流れをつくることを優先します。

    1つの資料で両方を兼ねようとすると、送る用としては説明が足りず、話す用としては文字が多すぎる、という中途半端な資料になりがちです。
    中身の骨組みは共通にしつつ、場面に合わせて2種類を用意しておくのがおすすめです。

    ピッチブックの基本構成

    ピッチブックの構成に決まった正解はありませんが、一般的には次のようなページで構成されます。
    ページ数は、会社や投資家によって異なりますが、15〜20枚程度にまとめることが多いようです。

    ここで注目していただきたいのは、それぞれのページの中身が、3点セットのどこから来ているのかという点です。

    • 課題、解決策、なぜ今か、市場規模、ビジネスモデル、競合と優位性、成長戦略:事業計画の定性戦略(第4回)から

    • トラクション(これまでの実績)、事業計画の数字:事業計画の定量戦略(第5回)から

    • 資金調達の概要(調達額、資金の使い道、次のマイルストーン):事業計画と資本政策(第5回・第6回)から

    • チーム:創業者とメンバーの経験や役割から

    こうして並べると、ピッチブックの大部分は、事業計画と資本政策を作り込んでいれば、すでに材料がそろっていることがわかります。
    ピッチブックから作り始めてはいけない、と第3回でお伝えしたのはこのためです。

    ストーリーの作り方|投資家の3つの問いに答える

    ページの材料がそろっても、ただ並べただけではピッチブックになりません。
    大切なのは、全体を1つのストーリーとしてつなぐことです。

    ピッチブック全体で答えるべき3つの問い

    ピッチブック全体を通じて答えるべき問いは、次の3つに集約できます。

    1. なぜこの課題なのか、なぜ今なのか:解こうとしている課題は本当に大きく、いま取り組むべき理由があるのか

    2. なぜこのチームなのか:その課題を、このチームこそがやり切れる理由は何か

    3. なぜこの金額で、何を達成するのか:今回の調達額の根拠は何か、その資金で次にどこまで到達するのか

    投資家の担当者が社内で説明するときも、結局はこの3つの問いに答えることになります。
    ピッチブックの各ページが、どの問いに答えるためのページなのかを意識して構成すると、ストーリーに一本の筋が通ります。

    1ページに1つのメッセージ、見出しは「結論」にする

    ストーリーを伝えるうえで、ページの作り方にも基本があります。

    • 1ページに伝えるメッセージは1つに絞る:あれもこれもと詰め込むと、何を伝えたいページなのかがわからなくなります。

    • ページの見出しには、そのページの結論を書く:「市場規模」という見出しではなく、「狙う市場は240億円。まず5年で2万店舗の獲得をめざす」のように、そのページで伝えたい結論を見出しにします。

    見出しを結論にしておくと、見出しだけを順に読んでもストーリーが伝わる資料になります。
    忙しい投資家が資料をめくりながら目を通す場面でも、要点を逃さずに受け取ってもらえます。

    A社のピッチブックを組み立ててみる

    それでは、A社がシードで2億円を調達する際のピッチブックを例に、全体の骨組みを組み立ててみましょう(設定と数字はすべて説明のための仮のものです)。

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    図は、A社のピッチブック14ページについて、各ページの見出し(そのページで伝えたい結論)を並べたものです。
    ページの色は、先ほどの3つの問いのどれに答えるページなのかを表しています。

    全体像|最初の2ページで結論を示す(1〜2ページ)

    表紙ではビジョンを示し、2ページ目のエグゼクティブサマリーで「2億円を調達し、18か月で2,000店舗の導入をめざす」という結論を先に伝えます。
    投資家は多くの資料に目を通しているため、最初の数ページで「この会社は何をめざし、今回何を求めているのか」が伝わらないと、その先を読んでもらえないこともあります。

    なぜこの課題なのか、なぜ今なのか(3〜10ページ)

    ここは、第4回で作った定性戦略がそのまま活きるパートです。
    飲食店の店長がシフト作成と欠勤の調整に追われているという課題、スマートフォンで完結させるという解決策、人手不足が深刻になり、紙や表計算からの移行が進んでいるという「なぜ今か」を順に示します。

    そのうえで、狙う市場は240億円であること、月額1万円・粗利率80%の積み上げ型のビジネスモデルであること、そしてすでに300店舗が導入しているというトラクションを示します。
    競合と優位性、シフト管理を入口に採用や給与計算へ広げていく成長戦略までを伝えることで、「課題が大きく、勝てる理由もある」というストーリーが完成します。

    なぜこのチームなのか(11ページ)

    チームのページでは、メンバーの経歴を並べるだけでなく、「なぜこのチームがこの事業をやり切れるのか」を示します。
    A社であれば、飲食店の現場を知るメンバーと、プロダクトを開発できるメンバーがそろっていることが、強みとして伝わるように構成します。

    なぜこの金額で、何を達成するのか(12〜14ページ)

    最後のパートでは、第5回の定量戦略と第6回の資本政策をもとに、今回の調達の全体像を示します。

    • 事業計画:18か月後に毎月の売上2,000万円、3年目に月次黒字化という見通し

    • 資金調達の概要:2億円を調達し、主に顧客の獲得と採用に投資すること

    • マイルストーン:18か月後に2,000店舗、解約率2%以下、LTVがCACの3倍以上を達成し、シリーズAに進むこと

    ここで示す数字は、すべて事業計画と資本政策の数字と一致していなければなりません。
    第5回でたどったように、「2億円」という調達額が、売上計画、費用計画、PL計画、資金計画から1本の線で導き出されたものであることを、資金の使い道とあわせて説明できるようにしておきます。

    このように、見出しだけを順に読んでも、A社がどのような課題に挑み、なぜ勝てるのか、そして今回の資金で何を達成するのかが伝わる。
    これが、投資家の担当者が社内で説明しやすいピッチブックの骨組みです。

    ステージによって、重点を置くページが変わる

    ピッチブックの基本構成は、どのステージでも大きくは変わりません。
    しかし、第2回でお伝えしたように、ステージによって投資家が見るものは変わります。
    それに合わせて、重点を置くページも変わっていきます。

    • プレシード・シード:判断材料となる数字が少ないため、「課題」と「チーム」のページが特に重要になります。課題の存在を裏づける顧客の声や、このチームだからこそ解ける理由を、厚めに示します。

    • シリーズA:「トラクション」と「事業計画」のページの比重が大きくなります。継続率やユニットエコノミクスなど、成長に再現性があることを示す数字が求められます。

    • シリーズB以降:事業拡大の確度に加えて、組織や管理体制についてのページも必要になります。

    A社がシリーズAで調達する際には、今回のシード期のピッチブックをもとに、18か月間で積み上げた実績を「トラクション」に反映し、より詳しい数字で事業計画を示すことになります。
    ピッチブックもまた、ステージに合わせて育てていく資料なのです。

    ピッチブックでよくある失敗

    最後に、ピッチブックでよく見かける失敗を5つ紹介します。

    1. 情報を詰め込みすぎて、何を伝えたいのかがわからない:伝えたいことが多いほど、1ページに1つのメッセージという基本に立ち返ることが大切です。

    2. ピッチブックの数字が、事業計画の数字と合っていない:第3回でお伝えしたとおり、数字のずれは投資家の信頼を一気に損ないます。ピッチブックの数字は、必ず事業計画から引用しましょう。

    3. 資金の使い道があいまいで、調達額の根拠が伝わらない:「事業拡大のため」だけでは不十分です。何に、いくら使い、その結果どこまで到達するのかを示します。

    4. チームの紹介が、経歴の羅列になっている:経歴の立派さよりも、「なぜこのチームがこの事業をやり切れるのか」が伝わることが大切です。

    5. デザインに凝りすぎて、中身が薄くなっている:見やすさは大切ですが、投資家が評価するのは中身です。デザインに時間をかける前に、ストーリーと数字を固めましょう。

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    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. ピッチブックは、面談で使うだけでなく、投資家の担当者が社内で出資を提案するための材料にもなる。経営者がいない場でも、会社の魅力が伝わる資料をめざす

    2. ピッチブックの中身の大部分は、事業計画と資本政策からすでにそろっている。全体を「なぜこの課題か、なぜ今か」「なぜこのチームか」「なぜこの金額で、何を達成するのか」という3つの問いでつなぎ、1つのストーリーにする

    3. 1ページに1つのメッセージに絞り、見出しには結論を書く。見出しだけを読んでもストーリーが伝わる資料にする

    自社のピッチブックを確認するためのチェックリスト

    • 経営者がいない場でも、投資家の担当者が説明できる内容になっているか

    • 「送る用」と「話す用」を、場面に合わせて用意しているか

    • 最初の数ページで、会社のめざす姿と今回の調達の結論が伝わるか

    • 各ページが、3つの問いのどれに答えるページなのかが明確か

    • ページの見出しが、そのページの結論になっているか

    • ピッチブックの数字が、事業計画と資本政策の数字と一致しているか

    • 資金の使い道と、その結果到達するマイルストーンを具体的に示しているか

    • チームのページで、「なぜこのチームか」が伝わるか

    次回予告

    次回は、第2部の総まとめとなる「3点セットの整合性チェック|数字とストーリーにずれがある会社は信頼されない」です。
    ここまで作ってきたA社の事業計画、資本政策、ピッチブックを並べて、3つの資料の数字とストーリーが本当につながっているかを確かめる方法を解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

    また、資金調達を控えたベンチャー企業様向けに、1社限定・参加費無料の「資金調達さくせん会議」をご用意しています。
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    私たちは、ベンチャー企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考える「社外のCFO」でありたいと考えています。
    「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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    ご連絡を心よりお待ちしております。

     
     
    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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