
収穫が終わった畑に、ヴィニュロンたちが集まる理由|いまブルゴーニュが警戒する病気フラヴェサンス・ドレ
収穫が終わったブルゴーニュの畑を訪れたとき、少し不思議な光景に出会った。
たくさんのヴィニュロンたちが集まり、ブドウの木を一本一本、じっと見ている。
収穫はもう終わっている。
彼らが見ていたのはブドウではなく、ブドウの木だった。
葉の色はおかしくないか。
不自然に巻いていないか。
枝はきちんと木質化しているか。
彼らが探していたのは、フラヴェサンス・ドレ(ブドウ黄金色黄化病、Flavescence dorée)の兆候だった。
この病気の名前を、私はもう10年以上前からブルゴーニュで聞いている。
調べてみると、その記憶は不思議ではなかった。
ブルゴーニュで現在につながる大規模な集団監視が本格化したのは2013年。前年、マコネでフラヴェサンス・ドレが大きく拡大したことを受け、行政、技術機関、ワイン業界、そしてヴィニュロンたちが参加する地域的な防除体制が整えられていった。
それから10年以上。
今も、この監視は続いている。
「黄金色」という名前を持つ病気
フラヴェサンス・ドレ。
フランス語の響きだけを聞くと、少し美しい名前にも思える。
フラヴェサンス flavescence は「黄化」、ドレ dorée は「黄金色の」。
しかし、ブドウ栽培にとっては非常に警戒されている病気である。
原因となるのは、フィトプラズマ(phytoplasme)と呼ばれる病原体。細胞壁を持たない非常に小さな細菌の仲間で、ブドウ樹の師管の中で増殖する。
感染した樹では、白ブドウ品種なら葉が黄色くなり、黒ブドウ品種なら赤く変色する。葉が硬くなって下向きに巻いたり、果房が萎れたり、枝が十分に木質化しなかったりすることもある。
ただし、葉の色だけでフラヴェサンス・ドレと判断することはできない。
ボワ・ノワール(ブドウ黒木病、Bois noir)という別の病気でも、非常によく似た症状が現れるからだ。
外観だけで両者を区別することは難しく、疑わしい樹からサンプルを採取し、検査によって確認する必要がある。
さらに厄介なのは、感染してすぐに症状が現れるとは限らないことだ。翌年、あるいはそれより後になって初めて症状が確認されることもある。

わずか5ミリほどの「運び屋」
この病気が警戒される大きな理由の一つが、
スカフォイデウス・ティタヌス(Scaphoideus titanus)
というヨコバイの一種である。
成虫でも体長は5ミリほど。
この虫そのものがブドウ樹に大きな直接被害を与えるわけではない。問題は、フラヴェサンス・ドレの病原体を運ぶことだ。
感染したブドウ樹から吸汁してフィトプラズマを取り込み、その後、健康なブドウ樹を吸汁することで病原体を伝えていく。
しかも、この虫は主としてブドウを宿主として生活する。
そして興味深いことに、スカフォイデウス・ティタヌスはヨーロッパ原産ではない。北米原産で、20世紀にヨーロッパへ持ち込まれたと考えられている。
一方、近年の研究では、フラヴェサンス・ドレに関連するフィトプラズマの多くは、ヨーロッパのハンノキ類に土着していた系統に由来することが示されている。
ヨーロッパに存在していた病原体と、北米からやってきた媒介昆虫。
その二つが出会ったことで、ブドウ畑で病気が広がる条件が生まれた。

治す薬がない
もう一つ大きな問題がある。
現在のところ、感染したブドウ樹を治す治療法がない。
だから対策は、とても地道だ。
疑わしい樹を見つけ、検査し、感染が確認されれば抜く。そして病原体を運ぶスカフォイデウス・ティタヌスを管理する。
また、感染した穂木や台木などの植物材料によって病気が広がる可能性もある。
現在のブルゴーニュでは、対策は大きく四つの柱で行われている。
集団での畑の巡回調査、感染樹の抜根、媒介昆虫の管理、そして苗木などへの温湯処理。
特効薬を使えば解決する病気ではない。
だから、人が畑を歩いて探す。


なぜ、皆で探すのか
ここで、最初に見た光景の意味がわかってくる。
ブルゴーニュでは現在、集団巡回調査が毎年行われている。
コート・ドール(Côte-d'Or)、ソーヌ・エ・ロワール(Saône-et-Loire)、ヨンヌ(Yonne)ではブドウ畑全体が対象で、単なる自主的な活動ではない。
集団で、義務的に、毎年(collective, obligatoire et annuelle)。
ヴィニュロンたち自身が畑を歩き、疑わしい樹を探していく。
この病気の性質を考えれば、自分の畑だけを見ていればよいわけではない。
隣の区画に感染樹が残っていても、ヨコバイが所有地の境界線で止まってくれるわけではないからだ。
これはブルゴーニュでは特に興味深い。
この土地の畑は細かく分割され、同じクリマの中に何人もの所有者がいる。数列だけを所有する生産者も珍しくない。
普段はそれぞれが、それぞれの哲学で自分の区画を耕している。
しかし、この病気を前にすると、境界を越えて協力しなければならない。
なぜ収穫後だったのか
私がこの光景を見たのは、収穫が終わった後だった。
ただし、フラヴェサンス・ドレの調査が「収穫後に行われる」と決まっているわけではない。
大切なのは、症状を確認しやすい夏の終わりから秋にかけて畑を見ることだ。
そのため、年によって収穫と重なることもあれば、収穫直後になることもある。
例えば2025年のブルゴーニュは収穫が早く、多くの集団巡回調査が9月18日から10月3日に設定されている。
収穫を終え、醸造が始まる忙しい時期。
それでもヴィニュロンたちは、再び畑へ出る。
2026年、ブルゴーニュの現在
フラヴェサンス・ドレは、過去の病気ではない。
2025年の調査では、コート・ドール県のジュヴレ・シャンベルタンやボーヌで孤立した感染例が確認され、ヴォーヌ・ロマネでは新たに感染が確認された。サビニー・レ・ボーヌでは感染域の拡大も報告されている。
さらに南のソーヌ・エ・ロワール県では、メルキュレイで感染域が隣接区画へ広がり、ジブリなどでも感染樹が確認された。
ジュヴレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネ、サビニー・レ・ボーヌ、メルキュレイ。
普段、私たちがワインを通して親しんでいる村の名前が並ぶ。
2026年もブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地方では防除措置が続けられている。
だからこれは、将来ブルゴーニュを襲うかもしれない病気の話ではない。
今、ブルゴーニュの畑で起きている話なのだ。
フィロキセラとは違う。でも…..
フラヴェサンス・ドレについて話していると、フィロキセラの名前が引き合いに出されることがある。
19世紀、ヨーロッパのブドウ畑に壊滅的な被害をもたらしたフィロキセラ。
もちろん、この二つはまったく違う。
フィロキセラはブドウの根などを加害する昆虫であり、フラヴェサンス・ドレはフィトプラズマによって引き起こされる病気だ。
だから「フィロキセラに次ぐ第二の災厄」と単純に順位をつけることはできない。
ただ、フラヴェサンス・ドレが高い伝染性を持ち、感染が広がれば収量やブドウ畑の存続に深刻な影響を与えうる病気であることは確かだ。

一本の樹を見るということ
この病気の名前を、私は10年以上前から聞いてきた。
けれど、今回初めて強く印象に残ったのは、病気そのものよりも、畑にいた人たちの姿だった。
何人ものヴィニュロンが畑に集まり、畝の間を歩き、一本一本の樹を見る。
ワインの世界には、グラン・クリュや高価なボトル、華やかな試飲会がある。
その一方で、ブルゴーニュの風景を守っているのは、こんな地道な仕事でもある。
一枚の葉の色を見る。
一本の樹の異変を見つける。
収穫が終わった畑で見たその光景が、私にはとてもブルゴーニュらしく思えた。