
グラン・エシェゾー|ロマネ・コンティの、その先で出会ったDRCの2026年収穫
ロマネ・コンティの畑にはよく行く。
ブルゴーニュ、ヴォーヌ・ロマネの村から畑へ向かう道を上がれば、比較的簡単にたどり着くことができるからだ。
ところが、そこからさらに北へ、グラン・クリュ「グラン・エシェゾー Grands Echézeaux」、そしてエシェゾー Echézeauxまで足を延ばすことは意外に少ない。
ロマネ・コンティから先は、ブドウ畑の中を縫うように農道が続いている。
この日、その農道をたまたま通っていると、道脇のグラン・エシェゾーで、どこか雰囲気の異なる収穫が行われていた。
ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)の2026年の収穫
車を止めて、その光景を眺める。
畑でおしゃべりをする人はいない。収穫人たちは黙々と手を動かし、畑にはどこか張りつめたような静けさが漂っている。
そして、もうひとつ目に留まったものがある。ブドウを入れる小さな収穫ケースだ。
つい数日前、メルキュレイのドメーヌ・ブリュノ・ロランゾンの収穫でも、同じような6kg用の小ケースを見たばかりだった。
実は、これほど小さなケースを使って収穫するのは、ブルゴーニュでは決して一般的ではない。容量を小さくすることで、上に重なるブドウの重みを減らし、房が潰れて果汁が流れ出すのを防ぐ。畑で摘んだブドウを、できるだけそのままの状態で醸造所まで運ぶためだ。
何気ない小さなケースにも、ブドウをどう扱うかという造り手の考え方が表れている。

グラン・エシェゾーの畑を見渡したとき、あることに気づいた。
こんなに緩やかな斜面だっただろうか。
ブルゴーニュのグラン・クリュと聞くと、丘の中腹にある傾斜したブドウ畑を思い浮かべる。
ところがグラン・エシェゾーは、驚くほど穏やかだ。
標高は約250メートル。勾配はわずか3〜4%。
それでもここは、ブルゴーニュを代表するグラン・クリュのひとつである。
なぜ、これほど緩やかな土地から、グラン・エシェゾーという偉大なワインが生まれるのだろう。
その答えを探していくと、目の前の斜面だけではなく、この土地の長い歴史と、さらにその下に眠る約1億7500万年前の地質へとたどり着く。

隣接しながら、地形と地質は大きく異なる。
かつては「下のエシェゾー」だった
グラン・エシェゾーとエシェゾーの歴史は、隣接するクロ・ド・ヴージョと深く結びついている。
「エシェゾー Echézeaux」という名は、ガロ=ローマ時代の言葉 シェゾーchesaux に由来し、「家々の集まる場所」を意味するとされる。かつてこの地に小さな集落があったことを示す名前なのかもしれない。
12〜13世紀にはシトー修道院によってブドウ畑として形成されていった。
そして興味深いことに、現在の「グラン・エシェゾー」という名前は、最初から使われていたわけではない。
コート=ドール県文書館に残る1723年のシトー修道院のAtlasを見ると、現在のグラン・エシェゾーは、
「Eschezeaux bas」―下のエシェゾー
と記されている。
一方、現在のEchézeaux du Dessusは「Eschezeaux hauts」、つまり「上のエシェゾー」と記されていた。
フランス革命より70年ほど前のことである。
つまり、現在は別々のグラン・クリュとして知られるグラン・エシェゾーとエシェゾーも、歴史を遡れば、「上」と「下」という地形によって理解されていた時代があった。
そして、この「下」という言葉が面白い。
なぜなら、実際にグラン・エシェゾーに立って感じた「緩やかさ」とつながってくるからだ。

「下」にあるのに、なぜグラン・クリュなのか
グラン・エシェゾーは約9.06ヘクタール。
東向きで、標高は約250メートル。斜面の勾配はわずか3〜4%しかない。
地形的には、石垣を挟んで隣接するクロ・ド・ヴージョの上部とよく似ている。
一方、エシェゾーは約36.27ヘクタールと、その約4倍の広さを持つ。
そして標高は約230メートルから300メートルを超えるところまで広がり、中腹では勾配が約13%に達する。
つまり、現在「Grands=偉大な」という印象を与えるグラン・エシェゾーの方が、実は地形はずっと穏やかなのだ。
急斜面だから偉大なのではない。
「Grands Echézeaux」の Grands を単純に「偉大なエシェゾー」と理解するだけでは、この土地の歴史は見えてこないのが面白いところ。
では、何が違うのだろう。
その答えのひとつが、足元にある。
約1億7500万年前の石灰岩
グラン・エシェゾーの地質は、ジュラ紀、約1億7500万年前に遡る。
表土は粘土石灰質。
その下には、バジョシアンの石灰岩の岩盤が横たわる。
そして重要なのは、グラン・エシェゾーが比較的均質な地質を持っていることだ。
約9ヘクタールの畑が、標高約250メートルの穏やかな地形の上にまとまり、粘土石灰質土壌とバジョシアン石灰岩という共通した基盤を持つ。
これに対して、隣のエシェゾーはまったく違う。

エシェゾーは「モザイク」
エシェゾーは、グラン・エシェゾーのようなひとつのまとまった地形ではない。
標高差が大きく、クリマによって斜面の位置も変わる。
地質も、バジョシアンの泥灰岩、石灰岩由来の礫、赤いシルト、黄色い泥灰岩などが入り交じる。
上部では土壌の深さが70〜80センチに達する場所もある。
ブルゴーニュワイン委員会が表現するように、まさに「複雑なモザイク」だ。
整理すると、二つのグラン・クリュの違いが見えてくる。
グラン・エシェゾー
約9ha/標高約250m/勾配3〜4%/比較的均質な粘土石灰質土壌+バジョシアン石灰岩。
エシェゾー
約36ha/標高約230〜300m超/中腹で約13%/クリマごとに異なる複雑な地形と土壌。
隣り合い、同じ「エシェゾー」の名を持ちながら、地下の世界は同じではない。
DRCはグラン・エシェゾーの約4割を所有
そして、この畑を語るうえで欠かせないのが、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)。
DRCはグラン・エシェゾーに約3.5ヘクタールを所有している。
クリマ全体が約9ヘクタールだから、約4割という大きな割合だ。
DRCは隣のエシェゾーにも大きな区画を所有している。
同じ造り手が、隣り合う二つのグラン・クリュからワインを造る。
だからこそ、エシェゾーとグラン・エシェゾーの違いを考えることは、ブルゴーニュの「クリマ」とは何なのかを考えることにもつながる。

DRCはこの約9haのグラン・クリュの大きな部分を所有する。
ワインに現れる違い
エシェゾーとグラン・エシェゾーには、若いうちはバラ、スミレ、フレッシュなチェリーなどが現れ、熟成するとスパイス、森の下草、プルーン、ムスク、革、キノコなどの複雑な香りへと発展していく。
タンニンにはしなやかさがありながら、緻密な質感と密度を持ち、数年の熟成によってその真価を現していく。
ただし、エシェゾーの場合、約36ヘクタールの中に複雑な地形と土壌が存在するため、「エシェゾーとはこういう味」とひとつに括るのは難しい。
一方のグラン・エシェゾーは約9ヘクタール。
地形も地質も、よりまとまりがある。
この違いを知ってからワインを飲むと、同じ「エシェゾー」という名前が付いていても、その背景にある土地の構造がまったく違って見えてくる。

2026年のブドウは、悪くないよと語っていた。
2026年、農道で出会った収穫
この日、私はグラン・エシェゾーについて調べようと思って農道を走っていたわけではない。
たまたま通っただけだった。
そして、その道脇でDRCが2026年のブドウを収穫していた。
そこで車を止め、畑を眺めた。
世界的に有名なDRCの収穫よりも、私の目に残ったのは、むしろその足元だった。
こんなに緩やかな畑なのか。
その小さな疑問から調べ始めると、「Eschezeaux bas」という300年前の名前が現れ、そのさらに下から約1億7500万年前の石灰岩が現れた。
ブルゴーニュの面白さは、こういうところにあるのかもしれない。
何気なく見ていた一枚の畑にも、地上には人間が積み重ねてきた数百年の歴史があり、その地下には、人間の時間とは比較にならないほど長い地球の歴史がある。
グラン・エシェゾーは、急斜面だから偉大なのではない。
その静かな地形の下に何があるのか。
そこまで見て初めて、この畑の本当の姿が少しだけ見えてくる。