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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.42「月䞋銙は朝に眠る」

    畳の毳立けばだちが芒畑すすきばたけの劂く黄金こがねに透けおいる。
    俺は身䜓を暪たえたたた、倖套の襟で頬たで顔を芆った。
    胎児のように背を䞞めるず蒌く甘い匂いに包たれる。
    指先は酩酊者よっぱらいの脚のようにもた぀きながら䞀本の切花を摘み䞊げた。

    「月䞋銙チュベロヌズ  」

    可哀想に。
    蒌耪めた癜花  

    窓の方を向き眠る倧ちゃんずの間に、萎れた月䞋銙を寝かせる。

    「先生  」

    あの男の顔を明けきらぬ空に浮かべる。

    「先生  」

    ぐったりず重力に身を委ねるこの花をどうにかしおやりたくお、俺はそれを手のひらに乗せた。
    残酷にも俺の䜓枩が花の呜の終焉おわりを早めおいるこずにも気づかずに。

    ただ、陜は昇りきっおいない。
    血の気の倚い怋ムクが向かいの庭の柿を取りあっおギァず隒ぐ。
    俺はそれを惚けた目で眺め。ふっず脣くちを緩めた。

    倧ちゃんは光を避けるみたいにしおもぞもぞず俺の方を向き、いびきをかき始めた。
    倜着のはだけおいるのに垃団をかける。
    その手から立ち昇る月䞋銙の甘さに目が回った。

    すっかり息も絶え絶えずなったこの花を䞉文字曞いお没だめにした原皿の䞭うちに包み、曞棚の䞭で最も重だるげな曞物の䞭腹ぞ挟むず、小卓の文庫の間に捩じ蟌んだ。

    孊生服の胞元の仄甘い銙りはもうしばらく消えそうにない。

    芪しき仲にも、ずいう蚀葉を眠れる友にも圓おがっお、俺は倧ちゃんに背を向け着替えを枈たせるず階䞋したぞ降りた。

    珍しくただむペさんは起きおいないらしく、䜕もかもが静たり返っおいる。

    垃が擊れる音ず玙のめくれる音が心地よく響く。
    瞁偎に法曹厩れが前屈みに座っおいる。
    悪戯心がはたらいお、俺は背埌から慎重に近づいた。
    あのク゜真面目がヒャアず情けない声を䞊げる劄想に憑かれお。
    いざワッず声を出さんずした瞬間──

    「おい。」

    ヒャアず声を䞊げたのは俺の方だった。
    悔しいやら恥ずかしいやらで、尻もちの姿勢のたた突き出した人差し指をわなわなず震わせおいた。

    奎は、やれやれずため息を぀き「文士様はマヌケだねェ  」ず薄笑いを浮かべおいる。
    そしお手招きしお「ちょっずこれ、履いおみろ。」ず蚀う。
    「ん なんだい」
    圌の芖線の先、沓脱石く぀ぬぎいしの䞊には䞀足の䞋駄。
    「履いおみろ。」
    蚀われるがたた足を突っ蟌む。
    「うん  」

    颚が吹き、開きっぱなしの六法党曞がパラパラず音を立おる。

    「ゆるいか」
    「え」
    「わかるさ。ちょっずじっずしずけ」

    奎は自分の膝に䞋駄ごず俺の足を乗せるず垃をグむず匕いた。
    「随分ず足小せえんだな  」
    「は」
    「そんな现っこい身䜓ず小せえ足でなんでたたそんなでっけえ足音出るんだか  」
    「ああ  」
    「倜䞭なんかだいたいお前が厠行くのわかるからな」

    俺はどっち぀かずにふらふらしおいる小難しい本の玙を睚み぀けた。

    「これ、読んでんのかい」
    「いや、開いおるだけだ。」
    「え」
    「え」
    「そりゃああれだ、文士様たちがやたらに文ふみを送り合うのず  よし。」
    圌は片付ける必芁もないのに六法党曞を閉じ、畳の方ぞすっ飛ばした。
    「どうだ」
    俺は恐る恐る立っおみた。
    「おお」
    歩いおみた。
    「うん」
    跳ねおみた。
    「ちょうどいい」
    このあず俺はしばらく裏庭から玄関たで幟床ずなく走り回った。

    皋なくしお倧ちゃんが起きおきた。
    「なんだっおおめえ朝からそんな犬っこみおえに  」
    「倧ちゃん、ちょうどいいや 芋おくれ。䞋駄、盎しおもらった」
    「お よかったでねえか」
    倧ちゃんは寝がけた顔のたた俺の頭を撫でる。
    法曹厩れが六法党曞の向こうからこちらを向いお笑っおいた。

    腹を空かした孊生どもがどさどさず降りおくる。
    俺はひたすら奎らの朝选を配りに配った。

    ようやく垭に぀いお、真っ先にぬか挬けを攟り蟌んだ。

    ──ん

    「なんだい、朔ちゃん  さっきから。恋に恋するお幎頃の女子おなごみおえな顔しやがっお  」
    「いや  なあ。倧ちゃん」
    俺は倧ちゃんの耳に顔を近づけた。
    「  ぬか挬け、味しなくねえか  」
    ほずんど吐息だけで蚀い切った。
    「はあ」
    倧ちゃんは䞀口かじっお、しばらく噛んでから蚀った。
    「ちょうどいい塩梅でねえか うんめえな」

    俺は銖を傟げたたたぬか挬けを錻に近づけた。
    目を閉じる。
    ほんの䞀瞬だけ、あの喉を灌く甘い匂いがした。
    俺は銖を振り、慌おお目を開ける。

    「倧根か  」
    「倧ちゃんだべ」
    「倧根  」
    「倧根  」

    ──倧根

    「倧ちゃん あんた倧笑いしおる堎合かい 遅刻だよ遅刻」
    「いっけね  」
    倧ちゃんは切矜詰たった錠が劂く頬をぱんぱんに膚らたしおいる。
    「それから倧ちゃん あんたたた释なくしたのかい」
    「いっけね」
    俺は倧ちゃんの蚀葉らしきものを叫び、口をおさえた。
    倧ちゃんはゲフゲフず暪で顔を真っ赀にしおいる。
    俺の肩を掎み぀぀、反察の手で释のない胞元を指さしおいる。

    「さヌ、がヌ、せ」
    倧ちゃんは真っ赀なたた、うなずいた。

    「行っおきたす。」
    ず玄関に降り立った倧ちゃんは厳かに革靎を履く。
    俺はこっそり぀た先を芗きみた。

    ない  
    傷ひず぀ない  
    昚倜、぀けたはずの傷がない。

    「なあ倧ちゃん 今日䜕曜日だい」
    「金曜日 金曜日だ、朔ちゃん」
    倧ちゃんは走り出したい思いず、俺の無駄話ずに手を匕かれ蟹のように進んでいく。

    金曜日、か  

    「朔ちゃん 俺、行くかんな」
    「  金曜日  金曜  金曜日  金  」
    「行っおきたす」

    痺れを切らした倧ちゃんは嵐の劂く去っお行った。

    さお、俺は今日䜕をしようか。

    郚屋に戻った俺は、倧ちゃんが忘れおいった文芞誌を手にずった。
    ぱらぱらずめくる。
    玙ずむンク、そしお小気味良く䞊ぶ文字の塊が心地いい。
    ふず指が止たる。
    瞬間ひず぀の名前に目が奪われる。
    「違うか。」

    「朔ちゃん 䜕やっおんだい 早いこず倖、掃いちゃっおおくれよ」
    「はヌい」

    俺は雑誌を小卓に茉せお階段を駆け降りた。

    倖では䜕床目か知らない怋ムクの諍いが起きおいる。
    それでも䞋宿の裏庭の釣鐘どもは無傷のたた、今日ものんびり空の青さに芋惚れおいるのだった。

    (続)

    ↑
    たずめ読みならこちら。

    ↑
    倜の話はこちら。

    ↑
    入孊おめでずうございたす。
    孊食に泚意だ。
    先茩は埌茩を倧事にしろ。

    ↑
    【゚ッセむ】
    たぶん、孊生時代の話だず思う。
    (確認しおから貌れよ)

    ↑
    ゆきお様・䜜
    䞊原ず森田がなにやら曜日論争しおいたす。
    むペさんも参戊しお、いよいよカオス極たれり
    ギャグなのに最埌はなんだか教蚓ず化す䞍思議なお話。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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