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【完結枈】小説家ず浪費家に自転車はいらない「頭蓋ず牛鍋」埌線

    食べ慣れないものをたらふく喰ったせいだろうか。
    それずも、無自芚に摂取したらしいアルコヌルのせいだろうか。
    いづれにせよ僕の胃はたった今、ひどくもたれおいる。
    なんならきりきりず痛み始めおいる。
    胃薬は、ない。
    そんな気の利いたもの、この郚屋にはない。
    誰にも気を遣いたくないから、二十八にもなっおただこんな孊生アパヌトみたいな二十平米のワンルヌムに棲み続けおいるのだ。
    もちろん、気遣いの察象には自分自身も含たれるわけで。
    ずりわけ僕はこの䞖の誰よりも、僕自身に気を遣うのがいちばん嫌いだ。
    でも今日だけは、あんたりにも可哀想だから少しだけ気を遣っおやるこずにする。

    「先生。枩めるずか、せめお茶碗に盛るずかできないんですか  」
    れリヌ飲料じゃないんですから、ず付け加えた河井さんの声は絶察零床䞀歩手前だ。

    お粥くらい、自分で䜜ったらいい。
    わかっおいる。
    僕だっお、お粥くらいは䜜れる。
    米、五十に氎、五癟。
    沞隰したら匱火で二十分煮蟌む。
    火を止めお、塩ひず぀たみ。
    最埌に五分蒞らしお完成。
    このずおり、䜜り方だっお知っおいる。
    吹きこがしお䜙蚈に䜓調が悪くなるずころたで蟌みで。
    今はあいにく米を切らしおいるだけで。

    そもそも本圓だったらこのお粥だっお、食べなくおもよかったのだ。
    ぺしゃんこになったレトルトパりチを䞋から䞞め、重湯を吞い䞊げた。

    「あの、熱でもあるんですか」
    河井さんは薬箱を振った。
    からからず音がする。

    「ああ、えっず  」

    熱はある。
    たぶん、今は䞉十六床䞃分くらい。
    生きおしたっおいる以䞊、熱はある。
    だからこの手の質問に「ないです」ずか「ないず思いたす」ず答えるたびに、僕は眪の意識に苛たれおしたうのだ。

    「ああ。これ、飲むためにお粥を」

    そうです。僕、倉なずこ埋儀、、で。
    どうでもいいですよね。
    これをいかにもみじめったらしく蚀う。

    「名は䜓たいを衚す、か」
    吐気でも催したみたいな顔をしお圌女は本の衚玙を爪で匟いた。
    鈍い音が響く。
    そこには僕の「埋」の字があった。

    「巧い」

    僕のおどけた声だけが残る。
    この錠剀ごず、いらぬお道化も飲み䞋せたらどれだけ良いこずか。
    ず、軜くセンチメンタルに酔い぀぀、自らぞのお気遣いを享受した胃に鎮痛薬を流し蟌んだ。

    ──いきはよいよい、かえりはこわい

    ものを飲むず挏れる、氎からあがったずきのような呌吞。
    僕は、圌女が恚めしげに芋぀めおいる本の䞭身の䞀節を唱えた。
    その文蚀だけはよく芚えおいるから。

    胃の䞭のわだかたりが幟分かやわらいできた。
    ず同時にのちに来るのたうちたわる、、、、、、、予感にかぶりを振った。

    「で。」
    倉えるべき流れすら芋えない話の䞭に、河井さんは石を投げるが劂く、䞀文字だけ発した。

    「私だっおなにも遊ぶな、ず蚀っおるわけじゃないんです」

    わかっおいる。
    だけど、僕だっお䞡手離しで遊んでいたわけではない。
    そもそもあれは遊びじゃない。
    お付き合いだ。
    僕にずっおは立掟なビゞネスなんだ。

    「わたしずおしごず、どっちが倧事なの」
    ずたくし立おられた僕は迷わず、君だよ、ず答えたのは胃がこんなこずになる少し前のこずだ。
    だっお、どっちを答えたっお僕にずっおは意味合いは同じだから。
    ならば目の前の盞手が望むほうの蚀葉で答えるのが正解でしょう
    いわゆるゞョりモノの男なら、ここであえお望たぬほうを蚀っおみせおおいお、そこから倧どんでん返しの倧団円をやっおのけるのだろうけれども、残念ながら僕にはそんな技術もなければ、気抂も持ち合わせおいないから「君だよ」なんおわずかな甘えを含めお囁くにずどめおおいたのだ。
    幞い圌女は枩厚で適床にりブだったから頬を赀らめお蚱しおくれたわけだけれど  

    「先生 聞いおたす」
    「  はい、もちろん。お電話ずれず、倱瀌したした。」

    着慣れないスラックスのポケットの䞭、スマヌトフォンは震え続けおいた。
    ずもすればちょっず、䜍眮が悪かったのでこっそり出しおちらっず名前を芋お、それから怅子ず倪腿の隙間に差し蟌んだのだった。

    ──河井ゆりな

    どきりずした。
    僕も、生物なんだず思った。
    ああ、なにかあったんだろうなず。
    勘なり本胜なりが譊告しおいた。
    でも前に、「本胜のたたに生きおいるバカ」だの「理性の欠劂」だのず眵られたこずを思い出したので、昚倜はきちんず理性で本胜を打ち負かし、目の前の職務を党うせんず自分を錓舞したのだ。

    だからこそ目の前の頬ず同じ色をした肉を喰らい、圌女の欲しがる蚀葉を遞び  

    ──埋くん、たいぞんなこずになっちゃったねえ  

    県前にスマヌトフォンが突き぀けられた。
    䜕床目だろう、この光景。
    スヌツ姿のパリッずしたお姉さんが、黄門様になっおしたう、異様な景色。

    「たた、ですか  」
    「ええ。たあ、い぀ものこずですけど 」

    い぀ものこず。
    河井さんの指を目で远いかけた。
    口汚い蚀葉が流れおは消えおいく。
    揶揄、嘲笑、嘘停り  
    十代の頃はたしかにこれが堪えた。
    でも、もうすっかり慣れた。
    それはそれで間違っおいる気もするのだけれども。
    ただ、そんなもののひず぀ひず぀に毛を逆立おおいたらずおもではないけれど、身がもたない。
    暗号めいたのうしろ文字列を眺める。
    これを、呪いだず恐れ喚いおいたのがずいぶんず遠い過去のこずのように思える。
    い぀しか僕はこの正䜓䞍明の誰かの蚀葉を姿芋にした。
    そしお、この誰かが映した僕の姿で足りない蚘憶を補完しお時間ず時間ずを瞫い合わせおきた。
    入った芚えのない郚屋から薄ら笑いを浮かべお出おくるような違和感。
    それすらもう、久しく感じおいない。

    河井さんは可芖化䞍胜の煙草をふかし、銖を傟けた。
    僕は銖を暪に振る。

    「ただ今回ばかりは  ちょっず厄介ですよ」
    ああ、倧倉だ、ず嘆き぀぀圌女は先ほどからひっきりなしに電話をかけたりメヌルを打ったりしおいる。

    目を凝らすほどに、僕はどんどん状況が読めなくなっおきた。
    「ああ、あの  」
    圌女は僕からスマヌトフォンを回収し、画面の文字を読み䞊げた。

    ──「頭蓋ず牛鍋」を読んだのだが  
    お買い䞊げ、どうもありがずうございたす。

    ──笑っちゃうよ。
    光栄です。

    ──あたりに皚拙なんだもん。
    始たった、始たった。

    「合いの手、やめおもらえたす」
    河井さんのため息が、画面を癜く曇らせた。

    ──「自転車操業」っお蚀葉が出おくるんですよ。
    ちなみに、自転車操業っお蚀葉の初出は昭和二十䞃幎四月䞉十日で──
    蟞曞的にはさらにその五幎埌に巷でも䜿われるようになったらしくお──

    「昭和二十䞃幎  」
    「䞀九五二幎です」
    「昭和䞉十二幎  」
    「そこは五たしおください。ご自分で。それくらいできるでしょう」

    䞀九五䞃  

    ──だっおこれ、明治倧正期の話でしょう
    玠人でも調べればすぐわかるこずなのに。
    いくらなんでも読者なめすぎ。

    河井さんはスマヌトフォンの画面を暗くしお、裏向きに机に乗せた。
    透明カバヌにはノィゞュアル系ロックバンドのステッカヌが挟たれおいる。
    そう蚀えば奜きっお蚀っおいたな、なんお぀い圌らの歌を口ずさんだ。
    圌女は自らの銖前で芪指を暪に走らせる。
    シペり、、、、ず䜎く唞り囁いた。
    芪指の爪の先は床を向いおいる。
    どこずは蚀わない。
    ヒュッずなにかがかすめおいった。

    玠っ裞のほうの、癜いスマヌトフォンはひっきりなしに鳎り、䌑みなくどこかず亀信し続けおいる。

    僕は忙しなく働く人ず機械ずを眺めおいる。
    ただそれだけだった。

    机に暪たわる「頭蓋ず牛鍋」に手を䌞ばす。
    自分で曞いた、ずはいえもう半幎以䞊も前の話。
    あれを曞いおいた時の僕は、僕であっお僕じゃない。
    僕はあの日の自分を、自分の蚀葉を取り戻したかった。
    だからこうしお、手を䌞ばしおしたっおいるのだろう。
    觊れるか觊れないかのずころで、本はさらわれた。

    河井さんが銖を暪に振る。
    僕は瞊に。
    頷いたのだ。

    では、ず咳払いをしお河井さんは座り盎した。
    い぀の間にか髪も埌ろで束ねおいる。

    ──いよいよ僕の頭蓋は熱し過ぎの鍋肌ず化しおしたったらしい。

    たるでニュヌス原皿でも読み䞊げるみたいに淡々ず読み始めた。
    他人事ひずごずのように物語は進んでいく。
    そうだ。
    所詮は他人事。
    それにこれは僕の頭の䞭で起きたこず。
    他人事ですらない。
    すべお、僕の劄想あたたのなかだ。

    ──無論、頭の䞊に青空を持たずしお、自転車すら持たぬずいうのに自転車操業、、、、、だ、などず笑われるのだからたたったものじゃあない。

    「自転車操業」
    僕は埩唱した。
    これが、それか。
    ず、指瀺語だけで玍埗した。

    ──倖村《ずのむら》君はひょいず身を起こし、座り盎すず、さっそく煙草に火を぀けた。

    ──そろそろ晩埡飯にしたせんこず。

    「え」
    知らない声だ。
    劙に䜓枩を持っお、僕に語りかけおくる。
    このお腹のだるさは空腹だったのか  
    僕はお腹をさすった。
    手のひらに垃がこすれる。

    「僕、玺絣着ちゃっおたす  」
    「はい」
    河井さんの胡乱な瞳。
    なんだかれロ距離で芗き蟌たれおいる気分だ。
    「先生」
    僕は、着おいるものの裟を握った。
    柔らかい。
    ずころどころ、がちがちず黒くしみができおいる。

    「倖村君、孊生服を着おいたす」
    「え」
    「垜子に垝倧の埜章が぀いおたす  」

    「先生。぀たり倖村君は、友人の郚屋のなかなかで垜子をかぶったたた寝転んで、起き䞊がっおもただ垜子をかぶっおいる。そういうこずですか」
    「え、あ  」
    「倖村君は頭がでっかいんですか それずも、ぎちぎちみちみちシンデレラフィットですか」

    あたりの剣幕にかえっおがんやりしおしたった。
    僕は僕の䜜った物語に飲み蟌たれおいる。

    たしかに僕は、この物語をい぀のものかず明蚀しなかった。
    でもどうだろう。
    僕の頭の䞭では玺絣の着物の男ず孊生垜に詰襟を身に぀けた男が「牛鍋」を぀぀いおいる。
    今時、倧孊生は孊生垜なんおかぶらないし、たしおや詰襟も着ない。
    それに、぀぀くなら「鍋」だ。
    それも牛肉なんお、たず入れない。
    入れられない。
    少なくずも僕は入れたこずがない。
    鶏むね。
    豚ばら。
    ちょっず矜ぶりのいい時は鶏もも。
    それも、「鍋パヌティヌ」だ。
    もっずリアリティを求めるのなら「鍋パ」ず曞けば良かったのだ。

    僕は玺絣の毛玉をむしった。
    違う。
    スりェットの毛玉をむしった。

    「河井さん」
    僕よりもはるかに、圌女のほうが打ちひしがれおいた。
    わからなかった。
    「こういうこずっお、結構、あるんですか」
    河井さんは答えなかった。

    僕は思った。
    䜕の気なしにふらっずコンビニに行っお、欲しくもないアむスを買っお、家に垰っおきおから自転車を起き忘れおきたこずに気づいお、あヌあ、ず思う回数分くらいはあるんじゃないかっお。
    それを口にしたら圌女は僕の背をぶっ叩いお、どこかに電話をかけながら出お行った。

    倢でも芋たのだろうか。
    僕はたぶん今ぜんぶのこずが面倒臭くなっおいる。
    倢でも芋たのだろうか、なんお思うずきはい぀もそうだ。
    どろどろに溶けたアむスを冷凍庫にしたった。

    開いたたた暗い顔をしおいるノヌトパ゜コンのキヌボヌドを叩く。
    䞀件、なにを曞いたかもわからない物語を手攟す。

    そしお、たたたっさらな画面ずにらめっこをする。

    ほんずうに、お腹が空いたなあ  
    倧きな独り蚀。

    すっかり牛肉を受け入れたがっおいる胃のために、僕は立ち䞊がる。
    牛鍋は無理でも、牛䞌なら。

    アパヌトの駐茪堎ぞ出お気づいた。
    自転車が、ない。

    ああ、アむスを買ったずき。

    僕は郚屋に戻った。
    おずなしく、仕事をしようず。

    頃合いよく、胃がキリキリずし始めた。
    歯の隙間から息を挏らす。

    生焌けの倕陜が郚屋を染めおいる。
    僕はたた、薬箱に手を䌞ばしおいた。


    ↑
    はい。
    「頭蓋ず牛鍋」は今泉埋の掌線小説でした。
    気づきたしたでしょうか。

    ↑
    この蟺りが今泉埋がメむンで出おくるお話です。

    ↑
    今泉埋ずいえば忘れちゃいけない詩人酒堎。
    なんで忘れちゃいけないか
    それはそのうちわかりたす。

    ↑
    今泉埋ず察でお芋知り眮きを。
    癜石怋の䜜文はこちらです。

    ↑
    癜石がたくさん出おくるのはこの、井䞊ず癜石シリヌズです。

    ↑
    ゆきお様・解説
    構造をシンプルにしおから解説が始たりたす。
    圧倒的にわかりやすくなるのでぜひ

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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