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ベッド・アンド・バッドガールズ

    📘書籍『ことばの向こうに旅をして』より試し読みをお届けします。

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    「どうして……どうして全部壊すの!?」

     彼女は叫んだ。大麻を吸った。カリフォルニアでのことだった。

     叫んだ彼女のほんとの名前は、ここに書いたらまずいと思う。彼女はトルコ人だ。トルコ語の名前を持っている。その名前が日本語でも馴染み深い響きだったので、わたしは、彼女にこう言った。

    「わあ、×××さんっておっしゃるんですね! ×××さんって、日本でもよくある名前ですよ。わたしの小学校の時の同級生と同じ名前! 日本語だと、○○という意味です。トルコ語ではどういう意味ですか?」

     ×××さんは笑った。くすぐったそうに笑った。×××さんは、B&B……ベッド・アンド・ブレックファストという簡易宿泊所を自宅でやっている。そしてわたしはその宿泊客だった。カリフォルニアの「SUNSHINE!!」という感じの太陽を浴びて、小麦色の×××さんは、よく笑う人だった。

    「ふふふ。ごめんなさい。ふふっ。意味はないの。あだ名だから。私が小さい時に、お父さんが私につけたあだ名だから、それを日本から来たあなたに呼ばれると、ふふっ、それに日本語で意味があるんだって言われると、なんだか、近いような遠いような、不思議な気持ち。おもしろい。ふふふ!」

     正直、ドキドキした。

    「ごめんなさい。馴れ馴れしいようでしたら、ご本名でお呼びしますけど」
    「No, No, OK。ふふふ!」

     ×××さんはわたしを、ベッドルームに通してくれた。

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     ANGEL!! という感じの部屋だった。
     部屋中にふわふわの白いラグ、壁は空色で、ベッドも真っ白ふわふわ。窓には羽根つきドリームキャッチャーと、「ANGEL」の文字が飾られている。高層階。ベッドに座り、窓を見ると、雲に乗ってカリフォルニアの空に浮かんでいるかのようだった。窓の前に立つ×××さんも、天使みたいにまぶしかった。

    「なんでも言ってね! 私たち歳も近いし、女の子同士だし。仲良くしてね。明日とか、遊びに行かない? ビーチまで車出すよ」
    「ありがとう! えっと、トルコ語では『メルハバ』だっけ?」
    「あはは! それ、『こんにちは』だよ!」
    「あ、えへへ」

     トルコ語でありがとうを「メルハバ」っていうんだと、わたしは思っていた。上野公園でトルコアイスを売っているトルコ人のおっちゃんからそう聞いた気がしたのだ。メルハバ、おっちゃん。

    「お誘い、サンキュー! だけどわたし、仕事しないといけなくて……」
    「へえ! なんの仕事?」

     ×××さんが目を輝かせた。

    「文筆家なの。カリフォルニアには取材で来てる」
    「COOL!」
    「うん、でも、家でも執筆するかもしれないから、部屋に引きこもってて感じ悪かったらごめんね」
    「えっ、家で仕事できるの!?」
    「うん、インターネットが繋がってればどこでも」
    「COOL!」

     そう言いつつも、×××さんは、悲しい目をしたようだった。わたしは見逃さなかったけれど、思い込みかもしれない、それに長旅で疲れてるので、シャワーを浴びて寝たかった。

    「明日の仕事に備えて寝なきゃ。ごめんね、バスルーム借りていい?」
    「うん! こっちよ。シャンプーとか、なんでも使って」
    「メルハバ! ×××」
    「ふふふ!」
    「あっ、また『こんにちは』って言っちゃったぁ」
    「いいの、いいの。アサコがメルハバって言ったら、それは、ありがとう、なんだって思うことにするね」

     ふふふ!

     ×××のシャンプーは、ザクロと蜂蜜の香り、と、書かれていた。

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     次の日。
     ×××の声で目が覚めた。
     ふわふわのベッドで、わたしの髪からザクロと蜂蜜の香りがして、×××は隣の部屋で、おそらくトルコ語であると思しき異国語を話していて、ふわふわ、甘い気持ちになった。

     飛んでイスタンブール
     光る砂漠でロール

     昭和の歌、庄野真代さんの「飛んでイスタンブール」が頭の中に流れた。手鏡を取り出し、寝癖を整えて、ちゃんと身ぎれいにしてからわたしはリビングに、カリフォルニア滞在中は×××と共用することになるリビングに立った。

    「メルハバ、×××!」
    「Ahh, Asako, Merhaba !」

     ×××が言った。トルコ語で言った。iPadを手にしていた。男が映っていた。

     彼氏か!?
     彼氏なのか!?

    「アサコ、ごめんね、うるさかった? よく眠れた?」

     ×××はマジ天使だった。iPadに映る男は、正直、スターリンに似ていた。

    「ううん。大丈夫、よく寝たよ。×××は?」
    「よかった! 私もよく寝た〜。今ね、パパとスカイプしてたの!」

     パパか!!
     ええ子やな!!

     ×××は画面に向き直り、トルコ語でパパに何か言った。私にはわからなかったが、パパは愉快そうに笑った。たぶんだけど、スターリンの名前は「ヨシフ」だったと思う。ヨシフ・スターリン。「ヨシフ」もなんとなく日本語っぽくない? そして、顔がスターリンっぽいおじさん、日本にもたまにいるよね? 岡田眞澄さんとか。ソビエト、トルコ、そしてニッポン。ざっくり言えば我々、東洋の民。

    「Asako !!」
    「はっ、はい!」

     パパが私を呼んだ。思わず日本語で答えてしまった。

    「Merhaba〜〜!」
    「あ、メルハバ〜」
    「HAHAHAHAHAHA !!」

     パパは爆笑し、×××に何か言った。×××も笑った。私に通訳した。

    「パパにね、アサコが私を×××って呼ぶんだ〜、って言ったの。日本にも×××って名前の女の子がいるんだって。そしたらパパ、笑ってる! うふふ」

     どんだけええ子やねん。泣きたくなった。

     その夜。わたしはマジで泣いていた。
     働いて帰った私に、×××は、トルコ人の女友達を三人も紹介してくれた。うち一人は、なんと、さっきトルコからアメリカに到着したばかりだという。その子が持ってきてくれた、ロクムという透き通るもちもちのお菓子と、甘い薔薇水にピスタチオの歯ごたえと蜂蜜が絡み合う焼き菓子、それに、ブルグル、という、炊いた挽き割り小麦と、揚げポテトにサワークリームとひき肉ソースをかけた無性に美味しい料理とをわたしに振舞ってくれた。トルコの音楽が流れていた。

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    「アサコ、今朝はありがとう。パパね、アサコがメルハバって言ったのを見て、アサコがわたしを×××って呼んだのを見て、久しぶりにあんなに笑ってくれたんだ。本当に、久しぶり。パパの、あんな顔……」
     ×××は涙ぐんで笑った。他の三人は、あまり英語ができないみたいだった。×××がわたしに英語で話す間、何やらトルコ語で話し合っていたが、わたしにはわからなかった。たまに×××が、英語でわたしに言ったことをトルコ語で友達に言い直していた。

    「わたしたちね、スポーツのチームだったんだ」
     ここで、スポーツ、としか書けないことが悔しい。が、わたしが書いたせいで×××の身に何かあるということがないよう、ここからの話は、ぼかしながら書こうと思う。×××は、こんな話をしてくれた。

    「期待されてたの。親も夢を応援してくれた。トルコで、女の子が、スポーツで身を立てるなんて、途方も無い夢よ。だけどわたしたちは戦うことに決めた。そして、負けたんだ。アスリートとしてじゃなくて、民族として……。
     アサコ、今ね。今、トルコで大学を出て、就職したとして、いくら稼げると思う? 月1000ドルかな。でね、部屋がいくらすると思う? 月1500ドル。暮らしていけないよ。どうしてこんなことになったと思う? シリア難民だよ。シリア難民が押し寄せてきたの。だから人が多すぎて、不動産の価格が高騰する。難民は生きるのに必死で、安い賃金でも必死に働くから、賃金は下がっていく。それでついに、トルコ人の仕事や部屋までなくなってしまったの。スポーツどころじゃないよね。頑張ってきたのに……。
     でも私、夢をあきらめたくない。だから私、チームメンバーとアメリカに来たの。アサコは自分でビジネスをしてるんでしょ? 私もビジネスオーナーになるつもり。子どもたちにスポーツを教えて、いつかは自分のジムを持って、それでね、私たち、トルコに残した家族を助けるんだ。私を産んでくれたママを。私に×××って名前をくれたパパを」

     言葉がなかった。わたしは大きく息を吸い、他の三人のほうを見た。わたしと三人の間に共通言語はなかったが、何かが伝わったようだった。×××の友達は、ファイティングポーズをとって、勝ち気に笑った。今日ついたばかりだという子は、涙ぐむ×××を優しく見つめていた。

    「シリア難民を……憎いと思う?」
     恐る恐る聞いた。
    「うーん……」
    「仕事を、家を、取られたと思う?」
    「……少し、思ったよ。正直に言って。家族と離れるのはつらかった。夢を絶たれるのは、つらかった。でもさ、それでさ、今は私たちが難民だもんね。今度は私たちがアメリカ人に、仕事を取られた、家を取られた、って、思われるのかもしれないよ。自分がこの立場になってみてわかった。みんな、生きてるだけだよ。生きるのに必死なだけなんだよ」

     ×××はブルグルをひとくち、食べた。

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    「ライフ・イズ・シンプル! 食べて、眠って、進むだけだよ」

     Eat, Sleep, Keep going.
     そのシンプルな英語は、英語をあまり話せない他の三人にも伝わったようだった。うち一人が、自分はイスラム教徒だ、と自己紹介してくれた。彼女は、「アメリカのモスクに行っても英語がわからないが、信仰はモスクではなく、心の中にこそあるものだ」と言った。英語がわからなくても、9.11後のアメリカでイスラム教徒として迫害されたとしても、自分は、自分のやり方で、自分の胸の内でアッラーに祈るのだ、と、×××を通して彼女はわたしにトルコ語で言った。一神教と多神教の違いはあれど、「信仰は心の中にこそある」、そんなような言葉を、日本神道でも聞いたような気がしたのだった。

     それから毎晩、トルコ人四人と日本人のわたし一人の夜が続いた。ぶっちゃけ、B&Bの規約からすれば完全に違反だった。規約の上では×××一人がB&Bに住んでわたしを泊めるということになっていたのに、他に三人もトルコ人を泊めて毎晩トルコ語で大騒ぎされると、単純にうるさいし、原稿が進まないし、何より、寂しかった。自分だけトルコ語がわからないのだもの。「メルハバ」は「こんにちは」なのに、「ありがとう」だと思っちゃうくらいわからないのだもの。
     だけれど、彼女たちの境遇を思うと、わたしには文句が言えなかった。飛行機用の耳栓を部屋でもして、なんとか仕事し、睡眠をとった。ある夜など、「メルハバ!」と言いながら帰ってきたわたしの声が、トルコ人四人の笑い声となんらかの爆笑動画(トルコ語)にかき消されてしまった。わたしは気配を消し、自室にこもった。わたしだけが孤立していった。×××のシャンプーをもらうのはやめた。

     ザクロと蜂蜜の甘い匂いは、消えてしまった。

     やがて自室にこもるのにも限界がきた。けれども、ここはカリフォルニアだ。カフェで仕事をしようとコーヒー一杯もらっただけで6ドルもする。しかもチップもかかる。長居する客を追い出すためにWiFiは2時間で切れる仕組みだし、MONEY MONEY MONEY ! という感じなのでわたしはさまよった。仕事できる場所を求めて。

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     泊めてもらっている集合住宅の敷地内を歩き回ると、なんと、ジムを見つけた。そして簡単なコーヒーラウンジと、「モーニングコーヒー無料、WiFiあり」の張り紙も見つけた。やった〜。わたしは喜んで、フロントの人に声をかけた。

    「こんにちは。ここに泊まっているのですが……」
    「泊まってる? 何号室に? そこの方とどういうご関係ですか?」

     やべえ雰囲気を感じた。でも、WiFiが欲しかった。

    「いや、あの、ステイしてて……WiFi使いたいんですけど、OK?」
    「WiFiはご勝手に。これがパスワードです。でも、ジムとコーヒーラウンジの鍵は、泊まっている部屋の契約者を通して請求してください」

     モーニングコーヒー無料!!(WiFiあり)(席あり)

     それでわたしはついつい、ことの顛末を×××に話してしまったというわけだ。

     で、叫ばれた。

    「どうして……どうして! こんなにしてあげたのに、どうして、どうして全部壊すのよ!!」
    「落ち着いて。ねえ、落ち着いてよ。コーヒーラウンジの鍵くださいって言っただけだよ。で、いろいろ聞かれたから英語わかんないふりしといたし、ここの部屋番号も×××の名前も出してないよ。どうしたのよ?」
    「すぐバレるよ!」
    「何がバレるのよ?」
    「ロビーは監視カメラだらけ。管理員があなたをこっそりつけてきて、この部屋がバレたかもしれない。もうおしまい。おしまいよ!アサコのせいで!!ああああああああ!!」

     ×××はバルコニーに飛び出た。
     飛び降りか!?

    「待って! ×××!」

     鍵を閉められた。

    「×××! ×××!」

     必死で名を呼んだ。パパからの名を呼んだ。パパが待ってるよ。国で待ってるよ。死んじゃダメだよ。そう言いたかったが、それを伝えるトルコ語はわたしにはできないし、英語でも白々しい気がした。ただ、×××、×××、と名を呼んだ。
     ×××の口元に、ぽう、と、オレンジの小さい明かりが灯った。
     彼女が大麻のジョイントに火をつけたのだった。

     大麻が部屋に転がってるなあ、とは、思っていた。が、思いっきりヘンプ柄のプラスチックケースに入ったそれを、わたしはバレてヤバいものだとは思わなかった。ヒッピーパラダイス・カリフォルニアでは、大麻はとっくに合法化されているし、むしろデカデカと「大麻ありま〜す!」って看板が出されている。あれがバレて捕まるとでも思ってるのだろうか?

    「What’s happening ? I don’t understand. That’s not illegal here(何なの?意味わかんない。大麻はここでは合法じゃん)」

     信仰は心にあり、と言っていたイスラム教徒の女の子に、わたしは言った。極力シンプルな英語を選んで言った。彼女は困ったように笑って、「OK、OK」と言った。そして、たどたどしい英語で話し始めた。

    「That, smoke, not illegal. But B&B here, we need pay money money money. We, no money. B&B, illegal.」

     けむり、違法じゃない。でもここでB&Bするの、違法。B&Bするには私たち、お金、お金、お金、払わないといけない。でも私たち、お金ない。だから、B&B、違法……。

     ようするにわたしは、安さに惹かれて、知らないうちに無届けの違法民泊に泊まっていたのだった。ベッド・アンド・ブレックファスト、どころか、ベッド・アンド・バッドガールズだったのだった。

     だけれども……だけれども、一体何が、何がいけないっていうんだろうか?

     トルコに生まれて夢を追い、夢破れてまた国を追われ、それでもアメリカに来て仲間を呼び寄せてまた新たな夢に挑もうとしている、国に残っている家族を安心させようとしている、この子が、この×××が一体なぜ、こんなにも追い込まれなくてはならないのだろうか。何がいけないっていうんだろうか。
     ×××は大麻を吸う。カリフォルニアでも2018年まで大麻は違法だった。
     わたしは同性愛について調査・執筆をしている。同性愛を違法とする国は今でもある。
     仲間と家族とともに必死で生きようとしている×××が、カリフォルニアで部屋を借り、家賃を払い、わたしを泊めて、それでささやかな(本当にささやかな額の)お金をもうけようとしている、なんとかビジネスを起こそうとしている、そんな×××から、大家さんがさらにお金を取ろうとすることのほうが、わたしの感覚では、よほどBADであるように思えた。資本主義的搾取であるように思えた。大国アメリカの、決して豊かとは言えないトルコからの搾取であるように思えた。シリアには、トランプ政権下のアメリカもミサイル攻撃を加えている。×××のパパは今でも、トルコで低賃金で働いているという。蟹工船が海をゆく。お金、お金、お金。小林多喜二を殺した特高警察は、信じていたに違いない。自分たちこそがジャスティスであると。

     JUSTICE !!
     正義のヒーローはいつも強くて、正義のパンチで悪役を殺す。

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    「ビーチに行くよ! ボーイハントに行くよ!」
     キャ〜〜〜〜!!
     トルコのバッドガールズたちが、わたしをオープンカーに詰め込む。
    「ちょっと、わたしボーイには興味ないんだけど!」
    「ヤッてみなくちゃわかんなくない?」
    「ヤッたよ!」
    「ヤッたの!?」
     キャ〜〜〜〜!!
    「NO GOODだったの? BOYはNO GOODなの!?」
    「だっておっぱいがないじゃん。NO BOOBS、NO GOODだよ」
     キャ〜〜〜〜!!

     トルコ語の音楽でバッドガールズが踊る。絶対、わざとおっぱい揺らしてる。
     インシャラー!
     インシャラー!
     アッラーの御心のままに。
     だけれどそのアッラーの御心がいかにあるかということは、このハートに、自分自身の御心の中に。

    「アサコ、ごめんね。不安で、不安で、お金がなくて、昨日は感情があふれだしちゃったんだ。私、NOT COOLだったね。でも今日はいっぱい遊ぼ。バカなこといっぱいしよう。ふふふ」
     四人のバッドガールズがトルコ語で歌う。わたしもよくわからないけど適当に踊る。ベーコンチーズ味のクッキーを食べる。いかにもアメリカ人が考えそうなことだ。バッファローのジャーキーをむしる。ユニコーンが乗ったカップケーキを食べる。わたしたちは、ロクムを食べつくしてしまった。四人がまたトルコに帰り、ベーコンチーズ味のクッキーじゃなくってロクムを食べられる日は、スポーツを続けられる日は、いつのことになるのだろうか。

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     海が見える。
     バッドガールズたちが走り出す。
     何かしらトルコ語で叫んでは、爆笑している。

    「ねえ、なんて言ってるのよ!」

     英語を話さない三人は、ただ笑っている。唯一英語ができる×××をわたしの方に押し出して、何か言わせようとしている。×××はわたしに向き直り、海を背にして、

    「SEX!」

     と言った。
     彼女のバッドガールな一面を、パパは、見たことがないに違いなかった。

     そんな話だ。
     そんな、バッドガールたちの話だ。
     わたしは、バッドガールたちの身の上話を信じて、B&B仲介会社には通報しないことに決めた。

     全部、作り話かもしれないけれど。それでも。

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    📘書籍『ことばの向こうに旅をして』

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    こちらのエピソード「ベッド・アンド・バッドガールズ」も収録された、旅と言語と異文化交流のエッセイが、産業編集センターより刊行されます。

    『ことばの向こうに旅をして』
    https://www.shc.co.jp/book/16395

    ●目次
    はじめに
    ★羽田と成田を間違えたけど間に合った話

    ・第1章「ありがとう」
    カムウンのスープ(台湾、ベトナム、ポンフー島)
    ★ヘルシンキに来るつもりはなかった(フィンランド)
    これ、チュセヨ(韓国、ソウル)
    イラストコラム「いろんな言語の“ありがとう”」

    ・第2章「あいしてる」
    アムール・ノアール(フランス、パリ、ジャズバー)
    ソドムの交わる十字路で(イギリス、ロンドン、レズビアンバー)
    合法の銃、適法のキス(アメリカ、某所、レズビアンバー)
    つまずっとたべる、いひひ、あはは!(日本、インド料理店)
    スイス百年旅行(スイス、ヌーシャテル)
    イラストコラム「いろんな言語の“あいしてる”」

    ・第3章「つながりたい」
    女性マッサージ師にしてくださいと申し上げたはずだが?(タイ)
    ★べッド・アンド・バッドガールズ(アメリカ、トルコ)
    バブリー・ピートの手作り新聞(とある島の繁華街)
    裸の彼の草のかんむり(サイパン)
    ワイラカは本当にいたんだ(ニュージーランド、ファカタネ)
    白鳥が臨終の際に歌う美しい歌.詩人の絶筆.(ギリシャ、イカリア島)
    イラストコラム「いろんな言語の“ねこを呼ぶ言葉”」

    おわりに
    (★印はnoteで読めます。それ以外は、本だけの書き下ろしです)

    楽しんでいただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします🙏


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