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羽田と成田を間違えたけど間に合った話

    「羽田 成田 間違えた」

    これで検索していらした方、お気持ちお察しします。
    めっちゃ焦るのわかります。まずは、深呼吸してください。
    どうすればいいか、最初に手短にまとめます。

    ●すぐ路線検索。最速で何時につくか確認
    ●到着がチェックイン締め切り時刻を切りそうなら、航空会社に電話するか、航空会社カウンターに行く。変更できないか、どうするのが最善か、アドバイスをもらう
    ●本来の空港に急ぐ場合、羽田〜成田を最も速く移動できる手段はタクシー。渋滞なければだいたい1時間ちょい、27000円くらいで行ける
    ●移動中にWEBチェックインができるなら済ませる。ターミナル、ゲートの位置を、空港公式サイトの地図で確認しておく
    ●預け入れ荷物がないなら、カウンターに寄らずゲート直行できる可能性がある。航空会社に「WEBチェックインしたんですけど、ゲート直行でいいですか?」って聞いてみる。
    ●落ち着く。八つ当たりしない。人を急かさない。羽田と成田を間違えた人を、旅行・交通業界の人はこれまでも見て来ており、仕事として助けてくれるので、運を天とプロに任せる。もしかして飛行機が遅れるかもしれないし、おかげで何か素敵な出会いがあるかもしれない。人生、トラブルが素敵な偶然に繋がることはいくらでもある。

    以上です。幸運を祈るぜ。グッドラック。

    ここからは、今まさに羽田と成田を間違えて「うわあ間に合うかなあ」と思いながら移動している人が車内で気を紛らすための経験談です。

    リアルです。実際わたしは今から1時間ちょい前に羽田と成田を間違えており、うわあああああああ〜と思って検索したら「羽田と成田を間違える人は実在するのか?」とかいう記事が出て来て「こっこでええええええええす!!」ってなり、しかしギリ間に合って、「間に合った話を聞かせてくれる人がいたら移動中どんなに気持ちが楽だったか」と思い、これを搭乗ゲート前で書いているところです。

    (やさしい)

    ってことで、時系列でいきたいと思います。

    ●出発2時間ちょい前 羽田に到着

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    余裕やん、と思いながらeチケットを出した。
    Narita
    って書いてあった。
    え?
    ってなった。

    Narita ? Naritaって、成田?まじで?うわ、まじかー、ってなりながらホームに降り立った。とりあえずベンチに座る。スマホを取り出し、地図アプリを起動して、羽田空港から成田空港への移動時間を調べた。

    1時間30分。

    つまり出発30分前に空港着。

    終わりやん?

    ってなった。みすみす帰るのはくやしいので、とりあえず航空会社カウンターに行ってみることにした。

    ●出発2時間前 航空会社カウンター

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    「台北行きですか?」
    にこにこした空港スタッフさんが声をかけてくれる。
    「そうです、けど……」
    わたしはeチケット控えを出して、言葉を探す。超恥ずかしい。なんて言えばいいんだろう。ってかなんで首都圏の空港、成田と羽田と両方作ったんだろう。なんでまとめてくれなかったんだろう一個に。まとめられなかったにしてもなんで両方「○田」にしたんだろう。似すぎじゃん。仲良しかよ。片方成田なら、もう片方もう余計なこと言わずに、名前、「羽」。これでいいじゃん。「羽空港」。これでよかったじゃん。めっちゃ飛びそうだったじゃん。ってかそもそもなんで確認しなかったんだろう、自分は。そこや。そこやぞ。そういうとこやぞお前。そういうとこちゃんとしないからこうやってまんまと、
    「羽田を成田と間違えました。」
    ってなっとるんやぞ。
    「あー……」
    空港スタッフさんはeチケット控えを見て、
    「2時間後。成田ですね。間に合うかもしれません。リムジンバスの時間を見て、適当なものがなければ電車の方が早いです」
    はげましてくれた。

    わあ!

    「バスどこからですか!?」
    「2階到着階でございます」
    「ありがとうございます!!」

    めっちゃ走って、それから、えっ、なんで走ってんの?と思った。

    さっき地図アプリで見たら無理だったじゃん?

    でもなんか足が止まらなかった。希望が。希望がこの先に待っているかもしれない!あっ成田行きのバスちょうどある!聞いてみよ!

    「すみません!何時に成田につきますか!?」
    「●時●分ごろですねー(※離陸15分前)」
    「ありがとうございましたー!!」

    速攻Uターンした。

    ●ふたたび空港カウンター


    「こちらは変更不可能な航空券でして……」
    キーボードを叩いて、空港スタッフさんは言った。
    「次の成田発台北行きの飛行機も、満席のためご搭乗いただけません」
    ダブルパンチであった。
    「本日、次の羽田発のお席をご用意する場合、20万円からです」
    トリプルパンチであった。

    「ど、どうすればいいですかね?お姉さんだったらどうしますか!?」
    何か困ったことがあってお店の人とかに聞くときわたしはいつも「あなたならどうする」って聞く。「わたしはどうすればいいですか」っていうとその人はお客さんであるこちらの行動の責任を取らないといけなくなっちゃうので、答えにくいのだ。だから「ご自分だったらどうなさいますか」って聞き方が一番いいと思っている。家電で迷ったときも、病院で複数の治療法を提示されたときも、羽田と成田を間違えたときも。

    「そうですね……」
    空港スタッフさんはサッと時計を見て、
    「急ぐと思います。あきらめないで!」
    スーパー決め台詞を放った。

    かっこよかった。

    「ありがとうございます!急ぎます!」
    「40分前までなら間に合います(※)。タクシーは2階から、おそらく2万円少々かと思われます」
    走り出しかけたわたしに、空港スタッフさんは的確に情報をくれる。
    「お気をつけて、お急ぎください」

    (注※個人の経験です。40分前までなら間に合う、とは限りません)

    ●出発2時間前を切ったところ タクシー乗り場

    お急いでいた。お気をつけて、お急いでいた。幸い荷物はリュックひとつ。タクシー乗り場にすんなり着いた。スーツ姿のベテラン風運転手さんが、ピカピカのクラウンの横に立っている。

    「あの!羽田から成田まで……」
    言いかけた瞬間、ベテラン運転手さんが後部ドアに手をかけた。
    「1時間で行けると思いますか!?」
    「頑張りますよ。2万は超えちゃいますけど、それでもよければ」
    「飛行機変えると20万なんです!お願いします!」
    わたしを乗せ、自分も乗り込み、運転手さんは「シャッ」とシートベルトを締める。ベテランであった。まじ、ベテランであった。車はスッと加速した。2種免許所持者のスムーズなアクセルであった。

    「もしかしてこうやって、羽田と成田を間違えちゃうお客さん、よく乗せます?」
    運転手さんの判断があまりに早かったので、思わずそう聞いた。「羽田から成田」って言った瞬間後部ドアに手をかけてたもんな。
    「いやぁ〜……」
    運転手さんは言葉を探すと、
    「めったにないですね」
    探した割には刺さる表現で言った。どこまでも無駄のない人だった。

    運転手さんの運転はマジで無駄がなく、無駄口もなく、そのさまがあまりにもプロい運転手さんだったので、わたしは静かにしなきゃいけない気がして黙った。プロゴルファーとか、棋士とか、そういう人が試合に臨むようにその人は運転していた。

    そわそわしてスマホをいじる。

    「羽田 成田 間違えた」

    検索をするといっぱい記事が出てきた。わたしだけじゃない。安心した。けど、よく読むとだいたいこんな記事だった。

    「羽田と成田を間違える人は本当に存在するのか」
    珍獣かよ。
    「3ヶ月に一回くらいですかね」
    四季かよ。美しい四季かよ。
    「本当に間違える人がいるんですか?」
    なんでYahoo!知恵袋に聞くんだよ。

    見れば見るほど凹むので、凹みふくらます記事を書こうと思った。間に合ったよって記事を書きたいな。同じような境遇の人が安心できる記事を書きたいな。だからハッピーエンドになるといいな。ちゃんと間に合うといいな。

    ちゃんと間に合うためには?

    ●1時間30分前 東京都/千葉県境突破後(ちょっとかっこいい言い方)

    ちゃんと間に合うためには。ちゃんと間に合うためにはもとからちゃんと確認して、思い込みで行動せず、成田に行っていればよかったんだけど。そういう性格じゃないから無理。こういうことあるから。ね。でもこういうことない人はどうしてるか。確認ができる人なんだよね〜。すごいな〜。尊敬しちゃうな〜。

    ということで、確認ができる人になるべくわたしは確認をした。

    ・この後どうすればいいのか
    ・WEBチェックインができるか
    ・WEBチェックインができたらそのままゲート直行でいいのか
    ・ゲート直行するには空港内のどのルートが早いのか

    これらを、空港公式サイトへのアクセス、および航空会社のお問い合わせ窓口への電話で厳重に確認した。確認したら確認できた。すごい。確認ってできるんだね。確認するとできるんだ。すごいな〜。

    車の窓の外に、成田行きリムジンバスが見えた。数十分前、わたしが駆け寄ったあのバスだった。

    「わあ、バス追い抜きましたね。あのバス乗ろうとしてたんですよ、わたし」
    「そうですか。あのバスに乗っていたら間に合わなかったでしょうね」
    「なんか人生の分かれ道を見た気分です」
    「今日はたまたま日曜日で、昼過ぎの時間帯ですから、空いています。間に合わせますんでね」
    ベテラン運転手さんはまっすぐに前を向いたまま言った。
    「ま、あまり飛ばしすぎると、会社に怒られちゃうんですけどね」
    わたしはタクシーによく置いてある、あの「お客様のご意見をお待ちしております」みたいなハガキ、いわゆるエコーカードを手に取った。人生で初めてのことだった。たぶんだいたいクレームしか書かれないんであろうこの青色のハガキに、めちゃくちゃぎっしり感謝の気持ちを書いてこの人のタクシー会社に送ろう。そう思った。

    ●出発50分前 空港着


    「ありがとうございます!ありがとうございます!ほんと、会社に感謝状書きますね!ありがとうございます!」
    代金は27000円ちょいだった。痛い出費だけど、惜しくはなかった。こんなプロの仕事を見せてもらえるなら喜んで払うぜと思った。プロい運転手さんはニヤッとした。
    「いやあ、いいんですよお客さん。『スピード全開でブッ飛ばしてくれてありがとうございました』なんて書かれた日にゃあ、弱るからねえ、ハハハ」
    ジョークを言いながらもクレジットカード読み取り機を操る手つきは的確だった。
    「お忘れ物のないように」
    パッと後部ドアが開いた。最後の最後まで完璧な人だった。
    世界は、仕事で、できている!
    缶コーヒーかなんかの広告コピーが思い浮かんだ。
    「本当にありがとうございました!」
    ゲートへと走った。脳内になんか爽やかなエンディングテーマが流れるほど、完璧なゴールだった。

    ●間に合いました


    ってことで、間に合いました。間に合ったんだけど、わたしの確認不足でいろんな人の仕事を余計に増やしてしまったことは確かなので、せめて感謝してお金を払いたいと思います。いやしかしすごい。世の中いろんなプロがいっぱいいる。すごい。かっこいいな。みんな。

    みんな確認を怠らず、準備がきちんとできて、寝坊せず遅刻せずカッキリと社会を回しているのだと思うと、そういうことが全然できない自分はなんてクズなのだろうと思ってしまうのですが、しかし人には、できることとできないことがある。できることを磨き、できないことはできないなりの解決法を考えるしかないですね。

    できない自分はできないなりに、「できない」と思っている人へ向けて、「できないのはあなただけじゃないよ」「なんとかすればなんとかなるよ」「なんとかならなくてもそれはまた別の素敵な偶然につながっていたりするかもしれないよ。未来にはまだ想像もつかないようなことがあるし、過去の出来事の意味は振り返るとわかることがあるよ」「たぶんね」ということを書いてみようと思い、書きました。

    もしあなたが、わたしと同じように羽田と成田を間違えた人であったのなら、その経験がまたいいネタになりますように。そしてあなたが、わたしと違って羽田と成田を間違えたりなんかしない人であるならば、こんなネタを読んでくださって、ありがとうございました。

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    後日談……なんと、本になりました

    こちらの『羽田と成田を間違えたけど間に合った話』。プロフェッショナルな皆さんと、読んでくださった皆さんのおかげで、なんと、このエピソードも含む旅と言語のエッセイ本として刊行させていただくことになりました。

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    『ことばの向こうに旅をして』
    https://www.shc.co.jp/book/16395

    ●目次
    はじめに
    ★羽田と成田を間違えたけど間に合った話

    ・第1章「ありがとう」
    カムウンのスープ(台湾、ベトナム、ポンフー島)
    ★ヘルシンキに来るつもりはなかった(フィンランド)
    これ、チュセヨ(韓国、ソウル)
    イラストコラム「いろんな言語の“ありがとう”」

    ・第2章「あいしてる」
    アムール・ノアール(フランス、パリ、ジャズバー)
    ソドムの交わる十字路で(イギリス、ロンドン、レズビアンバー)
    合法の銃、適法のキス(アメリカ、某所、レズビアンバー)
    つまずっとたべる、いひひ、あはは!(日本、インド料理店)
    スイス百年旅行(スイス、ヌーシャテル)
    イラストコラム「いろんな言語の“あいしてる”」

    ・第3章「つながりたい」
    女性マッサージ師にしてくださいと申し上げたはずだが?(タイ)
    ★べッド・アンド・バッドガールズ(アメリカ、トルコ)
    バブリー・ピートの手作り新聞(とある島の繁華街)
    裸の彼の草のかんむり(サイパン)
    ワイラカは本当にいたんだ(ニュージーランド、ファカタネ)
    白鳥が臨終の際に歌う美しい歌.詩人の絶筆.(ギリシャ、イカリア島)
    イラストコラム「いろんな言語の“ねこを呼ぶ言葉”」

    おわりに
    (★印はnoteで読めます。それ以外は、本だけの書き下ろしです)


    たとえカタコトでも相手の言葉を使ってみようとした、旅と言語と異文化交流のエッセイです。羽田と成田を間違えた人間ではありますが、文章のプロフェッショナルとしてなんとか頑張っていきたいと思います。楽しんでいただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします🙏


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