
社会福祉士の価値は、誰が上げるものなのか。
これまで「社会福祉士の価値を上げるために。」というテーマで、社会福祉士の専門性や、支援のあり方について考えてきました。
最終回となる今回は、社会福祉士の価値を高めるために、私たち自身に何ができるのかを考えたいと思います。
○「専門性がある」だけでは、伝わらない
弁護士や税理士などの専門職は、社会の中で専門家として認識されています。もちろん、業務独占資格であることだけが、その社会的評価を生み出しているわけではありません。法律による役割の明確化や、専門家を必要とする仕組みなど、さまざまな背景があります。
一方、社会福祉士は名称独占資格であり、相談援助などの業務は、資格を持たない人も担うことができます。
そのため、社会福祉士が専門的な知識や技術を用いて支援していても、「社会福祉士だからこそできたこと」が見えにくい場合があります。
では、どうすればよいのでしょうか。
私は、まず自分たちの実践を振り返り、何を考え、なぜその方法を選び、どのような根拠に基づいて支援したのかを言葉にすることが必要だと考えています。
「本人のために支援した」「関係機関と調整した」という説明だけでは、専門性は十分に伝わりません。その判断の背景にある知識や理論、倫理的な視点まで説明することで、日々の実践にある専門性が見えてくるのではないでしょうか。
○実践を言葉にし、研究し、発信する
医療の分野では、研究によって得られた知見を診療に生かし、現場で生まれた疑問を研究につなげる取り組みが行われています。
社会福祉士にも、同じような循環が必要だと思います。
日々の実践の中には、既存の理論だけでは説明しきれない経験や、これまでとは異なる援助の可能性が隠れているかもしれません。
例えば、本人が言葉で意思を表現することが難しいとき、どのような情報から本人の思いを理解しようとするのか。本人の強みをどのように見いだし、生活環境の調整につなげるのか。
こうした実践を振り返り、既存の理論と照らし合わせ、事例研究や実践論文として発信していく。そこから新たな援助技術や理論が生まれ、他の社会福祉士の実践にも生かされていく。
もちろん、一つの事例だけで援助方法の有効性を証明できるわけではありません。実践を記述し、検討し、他の事例や研究と照らし合わせながら、知見を積み重ねていくことが大切です。
実践を研究につなげ、研究で得られた知見を再び実践に生かす。
この循環を、研究者だけでなく、現場で働く社会福祉士も担っていく必要があるのではないでしょうか。
○まずは、職場で実践を振り返る機会をつくりませんか
実践報告や研究論文と聞くと、少しハードルが高く感じるかもしれません。しかし、最初から学会発表や論文執筆を目指す必要はないと思います。
まずは、職場で実践を振り返り、互いに学び合う時間をつくることから始めてみてはどうでしょうか。
例えば、次のようなテーマが考えられます。
* 特別養護老人ホーム:「家に帰りたい本人と、介護負担を感じる家族の意見が食い違うとき、どのように双方の思いを理解し、支援方針を考えたか」
* 障害福祉施設・就労支援:「就労を目指す利用者のエンパワーメントを、どのような段階を踏んで進めたか」
* 児童福祉:「子どもの意向と保護者の意向が異なるとき、子どもの権利を踏まえてどのように支援を組み立てたか」
* 生活困窮者支援:「支援を拒否する人との関係をどのように築き、本人が必要な支援につながるまでを支えたか」
大切なのは、単に「こんなケースがありました」と報告することではありません。
「何に悩んだのか」「どのように考えたのか」「なぜその方法を選んだのか」「結果として何が変わり、何が課題として残ったのか」を整理することです。
うまくいった実践だけでなく、思うような結果につながらなかった実践も、振り返る価値があります。判断の根拠や見落としていた視点を検討することで、次の支援に生かせる学びが得られるからです。
また、事例を共有するときは、本人や家族が特定されないよう情報を適切に加工し、所属組織のルールや守秘義務に十分配慮する必要があります。本人の尊厳や意思を大切にすることは、実践を振り返る場でも変わりません。
まずは10分15分からでも。大げさに報告文を作るのではなく、ただ「こんな理由で支援した」などと語り、それに共感し、同僚の新たな気づきを分かち合う時間。それからでいいと思います。
○実践報告は、誰のために行うのか
実践報告を行うメリットは、発表者自身の学びだけではありません。
支援に悩んでいる職員にとっては、同じような課題に直面したときの参考になります。経験豊富な職員の判断や工夫を知ることで、自分一人では気づかなかった支援の選択肢が見えてくるかもしれません。
また、うまくいった実践の背景を共有すれば、個人の経験にとどまっていた知識や技術を、組織全体で活用できる可能性があります。
その積み重ねは、職員の育成だけでなく、組織全体の支援の質を高めることにもつながります。
そして、実践を言葉にして共有することは、社会福祉士の専門性を明らかにすることでもあります。
普段は当たり前のように行っている意思決定支援、権利擁護、環境調整、関係機関との連携。その一つひとつについて、なぜ必要なのか、どのような知識や技術に基づいているのかを説明できれば、社会福祉士が担っている役割を他者にも伝えやすくなります。
職場での小さな振り返りが、やがて実践報告になり、論文や研究につながるかもしれません。
だからこそ、個人の努力に任せるだけでなく、組織として実践報告や振り返りの機会を設けることも大切だと思います。
○個人の経験を、社会福祉士全体の財産にする
優れた実践をしていても、その経験が個人の中だけにとどまれば、他の人が学ぶ機会は限られます。
実践を言葉にして同僚と共有する。事例検討会で議論する。実践報告や論文として発信する。研修や職能団体の活動を通じて、他の社会福祉士と学び合う。
こうした積み重ねによって、個人の経験を専門職全体の知識へと育てていくことができます。
さらに、実践から得られた知見を検討し、新たな援助技術や理論の発展につなげていくことも必要です。
社会福祉士の価値を高めるためには、資格制度や職場の評価制度を見直すことも必要かもしれません。しかし、制度を変えることだけを求めるのではなく、私たち自身が専門性を磨き、その価値を示すことも欠かせないと思います。
社会福祉士会の会員の学会報告や実践研究、実践論文などがとても参考になります。
○社会福祉士の価値を高めるのは、私たち自身
自分の実践を振り返り、専門性を磨く。実践を言葉にし、研究し、発信する。そこから得られた知見を共有し、新たな援助技術や理論の発展につなげていく。
その一つひとつが、社会福祉士という専門職への理解と信頼を育てていくのではないでしょうか。
社会福祉士の価値を高めることは、肩書きや待遇だけを高めることではありません。私たちが行っている支援の価値を明らかにし、その価値が社会に必要とされ、適切に評価される仕組みをつくることだと考えています。
まずは、職場で実践を振り返る時間をつくることから。
そして、その学びを組織の外へと発信し、社会福祉士全体の財産にしていくことから。
このシリーズを通じて、私自身も、社会福祉士として何を実践し、その根拠をどのように伝えていくのかを考え続けたいと思います。
社会福祉士の価値は、誰かが上げてくれるものなのか。
その問いを、私たち一人ひとりが自分自身に向けることから、始めていきたいと思います。
これまで、シリーズとして第1回から第5回まで書いてきました。この記事を見た方はぜひ第1回からもご覧ください。
なお、あくまでもこの記事は個人的な意見であり、所属している意見ではありませんのでご理解ください。