
「新しいおもしろい」より「知ってるおもしろい」が強い。異世界テンプレはなぜなくならないのか|AI時代の創作メモ(#創作論 #Web小説 #なろう #カクヨム #文章術 #小説の書き方 #note #エッセイ #書籍化 #生成AI #画像生成AI)
「テンプレ作品」という言葉に、良いイメージを持っていないという人は比較的多いと思います。
これだけ異世界であふれていたら無理もありません。
同じような設定、同じようなキャラクター、同じような展開。
「新しいものを考えられないからテンプレを使っている」と見られることもありますし、あふれる異世界の中で選ばれるために、「まったく新しい物語を書かなければ」とプレッシャーを感じている書き手の方も多いと思います。
ここはよく間違えられるポイントです。
あふれる異世界。
そして、同じ設定、キャラ、展開にはちゃんと意味がありますし、「まったく新しい物語」が求められているわけでもありません。
こんにちは。こんばんは。
普段はラノベを書いている「うら表紙」と申します。
結論から言ってしまえば、
異世界テンプレは、物語を理解するための認知コストを圧縮し、読者さんを報酬(カタルシス)まで早く到達させる優れた仕組みです。
たとえば、完全なオリジナルファンタジーを読む場合、読者さんは最初にその世界を学習しなければなりません。
ロード・オブ・ザ・リングもハリーポッターもエルデンリング(ゲーム)も面白いですが、あの世界観をゼロベースで文字から理解しろと言われたら、ちょっと読書のハードルが上がりますよね。
しかも、新しい要素が出てくるたびに読者さんにとっては「知らないこと」が増えていきます。
そういうのは、仕事帰りに何も考えずに読み始める小説としてはちょっと選びにくい。
ところが、異世界テンプレで「主人公は冒険者ギルドへ向かった」と書かれていたらどうでしょう。
異世界作品を読み慣れた読者さんなら、それだけでかなりの情報を補完できます。
・受付がある。
・冒険者登録ができる。
・依頼が掲示されている。
・冒険者にはランクがある。
・魔物を討伐すると報酬がもらえる。
・素材の買い取りもしてくれる。
・魔力測定もあるかもしれない。
つまり作者と読者の間に、「異世界ファンタジーなら、だいたいこういう世界ですよね」という共有データが存在しているわけです。
他にも、テンプレが圧縮しているのは、世界設定だけではありません。
たとえば「聖女」が登場する。
読者さんは、その人物について何も知らない段階でも、治癒、神聖さ、教会、特別な力、高い社会的価値といった情報をある程度予測できます。
つまりテンプレは、人物理解まで圧縮します。
さらに「追放された」と書かれれば、展開まで圧縮できます。
追放された主人公には、実は価値がある。
主人公を追放した側は、その価値を理解していない。
やがて主人公は別の場所で評価される。
追放した側は困窮する。
そして「あいつを追い出すんじゃなかった」と後悔する。
「追放ざまぁ」という型を知っている読者さんは、この先にどんな種類の快感が用意されているのかを読む前から予測できます。
ここまで来ると、テンプレが省略しているものは「説明」だけではありません。
読者さんが物語を理解するために必要な判断そのものを省略しています。
登場した瞬間に役割がある程度わかるため、読者さんは「この人は何者なのだろう」「どちらが正しいのだろう」と毎回ゼロから考えなくて済みます。
そして最終的には、読んだ時に得られる報酬まで予告できます。
「追放ざまぁ」とわかれば、
「自分を評価しなかった人間が後悔する」
という報酬を期待できます。
「溺愛」なら、
「特別な存在から無条件に求められる」
という報酬が期待できます。
こんな風にテンプレは、
世界理解→人物理解→展開理解→道徳判断→報酬予測という、本来なら読者さんが作品を読みながら一つずつ処理するものを、まとめて圧縮しているのです。
作者はこのことをわかって書いていますし、読者さんも「得たい報酬」を確実に探すために予測可能な作品を選びます。
つまり、異世界テンプレは双方にとってwin-winなのです。
作者は前提を長くしなくて済むから、カタルシスまでの展開を最短距離で提供できる。
読者さんは読み始めてすぐカタルシスを感じることができる。
カレーを注文した人は、「もしかしたらパスタが出てくるかもしれない」という意外性を求めているわけではありません。
カレーが食べたいからカレーを注文します。
そのうえで、チキンカレーなのか、バターチキンなのか、カツカレーなのかという違いを楽しみます。
テンプレ作品はこれと同じです。
「追放ざまぁ」を選んだ読者は、ざまぁになることは知っている。
知りたいのは、どうやってそこへ到達するのか、という部分です。
結果が予測できるからこそ、過程をものすごく楽しめるのです。
ここが、「異世界テンプレ」であふれているにも関わらず、異世界作品の勢いが落ちないポイントです。
完全に未知の作品は、新しいものがたくさんあります。
しかし新しいということは、その分だけ学習しなければならないことも多いということです。
それは言い換えれば「認知負荷が高い」となります。
そこで強くなるのが、
「95%は知っている。でも5%だけ知らない。」という状態です。
世界の読み方は知っている。
キャラクターの役割も知っている。
物語がどこへ向かうのかも知っている。
どんな報酬を受け取れるのかも知っている。
でも、5%だけは知らない要素がある。
意外性でもいいし、キャラ設定でもいいし、展開でもいいし、世界観でもいい。
「ほんのちょっとだけ違う」というところに、読者さんが認知負荷をかけずに楽しめる要素が隠れているのです。
書いている側からすると、
作品があふれるほど、「他の人と違うものを書かなければ読んでもらえない」と考えたくなります。
しかし、違いを増やせば増やすほど読者さんにとって価値が高くなるとは限りません。
テンプレとは、ありふれた物語をつくるための型ではありません。
読者さんと作者の間ですでに共有されている膨大な情報を再利用することで、説明、理解、判断に必要な時間を短縮し、読者さんを欲しい感情まで早く運ぶための仕組みです。
だから「95%は知っている。でも5%だけ新しい」という作品が成立します。
そして、異世界転生において作者の個性は、世界観全体や物語のフォーマットを変えることで発揮されるものではありません。
残りの5%で発揮されるものなのです。
なろう系小説の思想設計に興味がある方は、こちらも▼おすすめです。
あとがき:
「95%テンプレでいい」なんて書くと、「読者をバカにしているのか‼」と怒る人もいるかもしれませんが、昭和の時代劇しかり、平成の二時間サスペンスしかり。テンプレ作品というのは私たちの「何も考えずになんか楽しみてぇー」という欲求を満たし続けてきた歴史があります。ただその楽しみ方の「型」が令和の時代には「異世界転生」になったというだけの話です。だから、異世界転生版水戸黄門、異世界転生版赤い霊柩車になれればたぶん、勝てるんですよね……。「そうそう、こういうのでいいんだよ」そんな作品に私もなりたい(笑)
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